転生先の環境が気に入らないから6回チェンジしたらヤクザが来たでござるの巻

月江堂

文字の大きさ
33 / 53
第五章 純日本風ファンタジー

詐欺師の手口

しおりを挟む
「まあ……今回は……俺も悪かったと思ってる」

 ベアリスは口を開かず、頬を膨らませたまま瞳に涙を溜めている。俺に裏切られたことが相当ショックだったようだ。

 しかしまさか女神の方から強制チェンジができるとは思わなかった。まあ、こいつが転移させてるんだから当たり前っちゃあ当たり前なんだけど。

「……ふぅ……もういいです。こっちも反省するところはあったと思いますし」

 しかしこのいたたまれない空気。俺は正直もうここに戻ってくるつもりなかったからあんな流れになったんだけど、完全に針のむしろだ。

「……どんな世界がいいです? ケンジさん」

 ベアリスは神の束を手に取り、ソファに沈み込みながら俺に訊ねた。え、まさか? とうとう俺の意見をちゃんと聞いてくれる気になったのか?

「ケンジさん、ちょっとこっち」

 そう言ってベアリスは俺の手首を掴んでぐい、と引っ張り、ソファに引き込んだ。

 わかりづらい方もいるかもしれないので説明しよう、今現在俺と、ベアリスは、一人用のソファに二人で身を寄せ合って座っている、というかほとんど寝転んでいるのだ。

「ちょっ、え? ちょっっ……ベアリスさん?」

 えっ? 寄り添うってこういう?

「ん~、どれがいいですかねぇ……?」

 ほんの5センチくらい先にベアリスの顔がある。彼女の鼻息が俺の首筋にかかる。めっちゃいい匂い。何だろうこの子、花の蜜だけ吸って生きてるのかな? コオロギ食ってたような気もするけど。

「あ、これなんかどうです? ケンジさん好みじゃないかなあ」

 そう言って資料を指さしてくるものの、全く頭に入ってこない。なんかこれ、アレじゃないか? もう……式場選んでるカップルじゃないのか?

「な、なうえく、その、俺が元々いた世界に似た環境がいいんらけど、なあ……」

 ろれつが回らないほど緊張してる。しかし希望はしっかり伝えなければ。

 常識的な世界に、常識的な人々。倫理観のしっかりした道徳に、整備された法律。やっぱり日本が一番だよ。

「じゃあ、この辺りかなあ……人気の異世界だから、席が埋まってるかもしれないですけど……」

 喋るたびにベアリスの吐息が俺の鼻先をくすぐる。

 もうたまらん。これ、最後まで行っちゃっていいんじゃないのかな。

「ベアリ……」

 俺が辛抱たまらず抱き着こうとするとベアリスはそれから避けるように上半身を起こした。くそ、勘づかれたか?

 しかしベアリスはデスクの上にあったラップトップPCをカチカチと操作する。全然気づかなかった。パソコンなんてあったのか。
 まあ今時パソコンなんて島根県にすらあるからな。天上界にあっても不思議はない。

「あ~……やっぱり予約でいっぱいですね……」

 予約?

「あ、待ってください? 前にチェック入れてたキャンセル待ちが……」

 ホテルの予約かな?

「え、どうなの? 空きができそうなの?」

 我ながら何言ってるんだ俺は。

「んん~、プランによってはねじ込めるかもしれませんねえ」

 あ、ホテルの予約だこれ。

「新規はちょっと埋まってますけど『空き』ができたとこには『入れ替わり』で入れそうだったんで、キャンセル待ちでチェック入れてたんですよね……」

 『空き』? 『キャンセル待ち』? 『入れ替わり』? どういうこと? その世界で誰かが死んだら入れ替わりで入れるかもってこと?

「あ、その前にさあ、その世界って環境はどうなの? もういい加減倫理観ゴミクズな世界はこりごりなんだけど」

 奴隷やら差別やら人肉食やら、あんな思いはもう二度としたくない。もちろんドラゴンカーセックスもいやだ。

「そうそう、そこなんですよ」

 ベアリスはカチカチとマウスをクリックする。

「かなりですね、ケンジさんが元居た世界に環境が似てて、価値観? ですか? そう言うのも近いと思いますよ。ただ、戸籍制度がしっかりしてる地域なんで、キャンセル待ちって形しか取れなかったんですけど……」

「ああ、それと、欲を言うならまたその、なんだろうね……かわいい……なんかエルフとかさ、そういうのもいたりするのかな~? なんて……ヘヘ」

「好きですねぇ……いひひ、もちろん綺麗どころのかわいいエルフもいる世界ですよ」

 にやりと笑ってベアリスが答えた。もう、なかなか分かってるじゃない。

 ベアリスは何かに驚いてモニターに顔を近づける。何か困ったことでもあったんだろうか。

「やった! キャンセルで空きが出来てます! 奇跡ですよ!!」

 奇跡なのか?

 正直それがいい事なのか悪い事なのか。いまいち俺は判断がつかない。

「ちょ、ちょっと待って、なんかまた罠があるんじゃないだろうな」

 それが何なのかは分からない。分からないが、なんとなく怪しい感じはする。今までのパターンだと……たとえば新石器時代はあったから、逆に科学が発達しすぎてて俺の知識も力も何の役にも立たない世界とか……

「この『枠』は法治主義が行き届いてて安定した国ですから、いつもはすぐ埋まっちゃうんですよね……こんないい『枠』はもう、二度とあかないかも……」

 二度と、だと!?

「ちょっと……その、一旦保留にして、考える時間を……」

「保留はいいですけど、『枠』を押さえておけるわけじゃないですからね? こうしてる今にも、もう枠が埋まっちゃうかも……」

 や、やめて。こういう焦らされるの嫌なんだよ。時間を。考える時間を!

「まあ、ケンジさんが嫌だって言うなら仕方ないですけど……」

「い、嫌とは言ってないだろ! ただ、考える時間が欲しくて……」

「まあ仕方ないですね。今回は縁がなかったという事で」

「転生します!!」

「おりゃあ!」

 俺は、光に包まれた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜

具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです 転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!? 肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!? その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。 そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。 前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、 「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。 「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」 己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、 結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──! 「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」 でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……! アホの子が無自覚に世界を救う、 価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...