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第五章 純日本風ファンタジー
詐欺師の手口
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「まあ……今回は……俺も悪かったと思ってる」
ベアリスは口を開かず、頬を膨らませたまま瞳に涙を溜めている。俺に裏切られたことが相当ショックだったようだ。
しかしまさか女神の方から強制チェンジができるとは思わなかった。まあ、こいつが転移させてるんだから当たり前っちゃあ当たり前なんだけど。
「……ふぅ……もういいです。こっちも反省するところはあったと思いますし」
しかしこのいたたまれない空気。俺は正直もうここに戻ってくるつもりなかったからあんな流れになったんだけど、完全に針のむしろだ。
「……どんな世界がいいです? ケンジさん」
ベアリスは神の束を手に取り、ソファに沈み込みながら俺に訊ねた。え、まさか? とうとう俺の意見をちゃんと聞いてくれる気になったのか?
「ケンジさん、ちょっとこっち」
そう言ってベアリスは俺の手首を掴んでぐい、と引っ張り、ソファに引き込んだ。
わかりづらい方もいるかもしれないので説明しよう、今現在俺と、ベアリスは、一人用のソファに二人で身を寄せ合って座っている、というかほとんど寝転んでいるのだ。
「ちょっ、え? ちょっっ……ベアリスさん?」
えっ? 寄り添うってこういう?
「ん~、どれがいいですかねぇ……?」
ほんの5センチくらい先にベアリスの顔がある。彼女の鼻息が俺の首筋にかかる。めっちゃいい匂い。何だろうこの子、花の蜜だけ吸って生きてるのかな? コオロギ食ってたような気もするけど。
「あ、これなんかどうです? ケンジさん好みじゃないかなあ」
そう言って資料を指さしてくるものの、全く頭に入ってこない。なんかこれ、アレじゃないか? もう……式場選んでるカップルじゃないのか?
「な、なうえく、その、俺が元々いた世界に似た環境がいいんらけど、なあ……」
ろれつが回らないほど緊張してる。しかし希望はしっかり伝えなければ。
常識的な世界に、常識的な人々。倫理観のしっかりした道徳に、整備された法律。やっぱり日本が一番だよ。
「じゃあ、この辺りかなあ……人気の異世界だから、席が埋まってるかもしれないですけど……」
喋るたびにベアリスの吐息が俺の鼻先をくすぐる。
もうたまらん。これ、最後まで行っちゃっていいんじゃないのかな。
「ベアリ……」
俺が辛抱たまらず抱き着こうとするとベアリスはそれから避けるように上半身を起こした。くそ、勘づかれたか?
しかしベアリスはデスクの上にあったラップトップPCをカチカチと操作する。全然気づかなかった。パソコンなんてあったのか。
まあ今時パソコンなんて島根県にすらあるからな。天上界にあっても不思議はない。
「あ~……やっぱり予約でいっぱいですね……」
予約?
「あ、待ってください? 前にチェック入れてたキャンセル待ちが……」
ホテルの予約かな?
「え、どうなの? 空きができそうなの?」
我ながら何言ってるんだ俺は。
「んん~、プランによってはねじ込めるかもしれませんねえ」
あ、ホテルの予約だこれ。
「新規はちょっと埋まってますけど『空き』ができたとこには『入れ替わり』で入れそうだったんで、キャンセル待ちでチェック入れてたんですよね……」
『空き』? 『キャンセル待ち』? 『入れ替わり』? どういうこと? その世界で誰かが死んだら入れ替わりで入れるかもってこと?
「あ、その前にさあ、その世界って環境はどうなの? もういい加減倫理観ゴミクズな世界はこりごりなんだけど」
奴隷やら差別やら人肉食やら、あんな思いはもう二度としたくない。もちろんドラゴンカーセックスもいやだ。
「そうそう、そこなんですよ」
ベアリスはカチカチとマウスをクリックする。
「かなりですね、ケンジさんが元居た世界に環境が似てて、価値観? ですか? そう言うのも近いと思いますよ。ただ、戸籍制度がしっかりしてる地域なんで、キャンセル待ちって形しか取れなかったんですけど……」
「ああ、それと、欲を言うならまたその、なんだろうね……かわいい……なんかエルフとかさ、そういうのもいたりするのかな~? なんて……ヘヘ」
「好きですねぇ……いひひ、もちろん綺麗どころのかわいいエルフもいる世界ですよ」
にやりと笑ってベアリスが答えた。もう、なかなか分かってるじゃない。
ベアリスは何かに驚いてモニターに顔を近づける。何か困ったことでもあったんだろうか。
「やった! キャンセルで空きが出来てます! 奇跡ですよ!!」
奇跡なのか?
正直それがいい事なのか悪い事なのか。いまいち俺は判断がつかない。
「ちょ、ちょっと待って、なんかまた罠があるんじゃないだろうな」
それが何なのかは分からない。分からないが、なんとなく怪しい感じはする。今までのパターンだと……たとえば新石器時代はあったから、逆に科学が発達しすぎてて俺の知識も力も何の役にも立たない世界とか……
「この『枠』は法治主義が行き届いてて安定した国ですから、いつもはすぐ埋まっちゃうんですよね……こんないい『枠』はもう、二度とあかないかも……」
二度と、だと!?
「ちょっと……その、一旦保留にして、考える時間を……」
「保留はいいですけど、『枠』を押さえておけるわけじゃないですからね? こうしてる今にも、もう枠が埋まっちゃうかも……」
や、やめて。こういう焦らされるの嫌なんだよ。時間を。考える時間を!
「まあ、ケンジさんが嫌だって言うなら仕方ないですけど……」
「い、嫌とは言ってないだろ! ただ、考える時間が欲しくて……」
「まあ仕方ないですね。今回は縁がなかったという事で」
「転生します!!」
「おりゃあ!」
俺は、光に包まれた。
ベアリスは口を開かず、頬を膨らませたまま瞳に涙を溜めている。俺に裏切られたことが相当ショックだったようだ。
しかしまさか女神の方から強制チェンジができるとは思わなかった。まあ、こいつが転移させてるんだから当たり前っちゃあ当たり前なんだけど。
「……ふぅ……もういいです。こっちも反省するところはあったと思いますし」
しかしこのいたたまれない空気。俺は正直もうここに戻ってくるつもりなかったからあんな流れになったんだけど、完全に針のむしろだ。
「……どんな世界がいいです? ケンジさん」
ベアリスは神の束を手に取り、ソファに沈み込みながら俺に訊ねた。え、まさか? とうとう俺の意見をちゃんと聞いてくれる気になったのか?
「ケンジさん、ちょっとこっち」
そう言ってベアリスは俺の手首を掴んでぐい、と引っ張り、ソファに引き込んだ。
わかりづらい方もいるかもしれないので説明しよう、今現在俺と、ベアリスは、一人用のソファに二人で身を寄せ合って座っている、というかほとんど寝転んでいるのだ。
「ちょっ、え? ちょっっ……ベアリスさん?」
えっ? 寄り添うってこういう?
「ん~、どれがいいですかねぇ……?」
ほんの5センチくらい先にベアリスの顔がある。彼女の鼻息が俺の首筋にかかる。めっちゃいい匂い。何だろうこの子、花の蜜だけ吸って生きてるのかな? コオロギ食ってたような気もするけど。
「あ、これなんかどうです? ケンジさん好みじゃないかなあ」
そう言って資料を指さしてくるものの、全く頭に入ってこない。なんかこれ、アレじゃないか? もう……式場選んでるカップルじゃないのか?
「な、なうえく、その、俺が元々いた世界に似た環境がいいんらけど、なあ……」
ろれつが回らないほど緊張してる。しかし希望はしっかり伝えなければ。
常識的な世界に、常識的な人々。倫理観のしっかりした道徳に、整備された法律。やっぱり日本が一番だよ。
「じゃあ、この辺りかなあ……人気の異世界だから、席が埋まってるかもしれないですけど……」
喋るたびにベアリスの吐息が俺の鼻先をくすぐる。
もうたまらん。これ、最後まで行っちゃっていいんじゃないのかな。
「ベアリ……」
俺が辛抱たまらず抱き着こうとするとベアリスはそれから避けるように上半身を起こした。くそ、勘づかれたか?
しかしベアリスはデスクの上にあったラップトップPCをカチカチと操作する。全然気づかなかった。パソコンなんてあったのか。
まあ今時パソコンなんて島根県にすらあるからな。天上界にあっても不思議はない。
「あ~……やっぱり予約でいっぱいですね……」
予約?
「あ、待ってください? 前にチェック入れてたキャンセル待ちが……」
ホテルの予約かな?
「え、どうなの? 空きができそうなの?」
我ながら何言ってるんだ俺は。
「んん~、プランによってはねじ込めるかもしれませんねえ」
あ、ホテルの予約だこれ。
「新規はちょっと埋まってますけど『空き』ができたとこには『入れ替わり』で入れそうだったんで、キャンセル待ちでチェック入れてたんですよね……」
『空き』? 『キャンセル待ち』? 『入れ替わり』? どういうこと? その世界で誰かが死んだら入れ替わりで入れるかもってこと?
「あ、その前にさあ、その世界って環境はどうなの? もういい加減倫理観ゴミクズな世界はこりごりなんだけど」
奴隷やら差別やら人肉食やら、あんな思いはもう二度としたくない。もちろんドラゴンカーセックスもいやだ。
「そうそう、そこなんですよ」
ベアリスはカチカチとマウスをクリックする。
「かなりですね、ケンジさんが元居た世界に環境が似てて、価値観? ですか? そう言うのも近いと思いますよ。ただ、戸籍制度がしっかりしてる地域なんで、キャンセル待ちって形しか取れなかったんですけど……」
「ああ、それと、欲を言うならまたその、なんだろうね……かわいい……なんかエルフとかさ、そういうのもいたりするのかな~? なんて……ヘヘ」
「好きですねぇ……いひひ、もちろん綺麗どころのかわいいエルフもいる世界ですよ」
にやりと笑ってベアリスが答えた。もう、なかなか分かってるじゃない。
ベアリスは何かに驚いてモニターに顔を近づける。何か困ったことでもあったんだろうか。
「やった! キャンセルで空きが出来てます! 奇跡ですよ!!」
奇跡なのか?
正直それがいい事なのか悪い事なのか。いまいち俺は判断がつかない。
「ちょ、ちょっと待って、なんかまた罠があるんじゃないだろうな」
それが何なのかは分からない。分からないが、なんとなく怪しい感じはする。今までのパターンだと……たとえば新石器時代はあったから、逆に科学が発達しすぎてて俺の知識も力も何の役にも立たない世界とか……
「この『枠』は法治主義が行き届いてて安定した国ですから、いつもはすぐ埋まっちゃうんですよね……こんないい『枠』はもう、二度とあかないかも……」
二度と、だと!?
「ちょっと……その、一旦保留にして、考える時間を……」
「保留はいいですけど、『枠』を押さえておけるわけじゃないですからね? こうしてる今にも、もう枠が埋まっちゃうかも……」
や、やめて。こういう焦らされるの嫌なんだよ。時間を。考える時間を!
「まあ、ケンジさんが嫌だって言うなら仕方ないですけど……」
「い、嫌とは言ってないだろ! ただ、考える時間が欲しくて……」
「まあ仕方ないですね。今回は縁がなかったという事で」
「転生します!!」
「おりゃあ!」
俺は、光に包まれた。
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