転生先の環境が気に入らないから6回チェンジしたらヤクザが来たでござるの巻

月江堂

文字の大きさ
36 / 53
第五章 純日本風ファンタジー

しおりを挟む
「で? これはどういうこと?」

「どう……と、言われても……」

 俺とベアリスは選挙カーをとっ捕まえて中に入ってた浅黒い肌のイケメン長身の男を引きずり下ろした。

 とりあえず人も集まってきたし、かなり込み入った話になることが予想されるので、俺はその立候補していた男……カルナ=カルアとベアリスと一緒にファミリーレストラン『ロイヤルハント』で昼食を取りながら話を聞いているところである。

「まず……今回、角は?」

「人間に角が生えてるわけないだろう……」

 まあそりゃそうだが。しかしよりによって今回もカルアミルクがこの世界に転生しているとは。ホントにこいつの転生は偶然なのか? しかしベアリスも実際『知らない』と言うんだからそれを信じるしかない。

 ちらりと彼女の方を見たが、大喜びで食後のパフェを食べている。まあ、普段コオロギの素揚げとか食ってるからな。日本の食事は美味しかろう。

「で、お前はいったい何してんだよ?」

「何って……見て分からんのか?」

 カルナ=カルアは大仰に両手を広げて見せる。グレーのスーツに肩からタスキをかけている。タスキには大きく『カルナ=カルア』の文字。

 まあ……選挙活動だよな……普通に考えれば。

「そういうことを聞いてんじゃねえんだよ。なんで選挙活動なんかしてんのか、ってことだよ!」

 そう。まさに、何故魔族がこの日本で選挙活動をしているのか、ということだ。一体何を企んでいるのか。もしや今回の転生は偶然じゃなくて邪神に派遣されてきた……とか?

「なんでもなにも……俺民自党の現職国会議員なんだけど?」

 なんだと。

「今回衆院解散が決まったから選挙活動してるだけだけど……そんなに変なことしたか? 俺……」

 まず名前が変だ。というかこんな変な名前の国会議員がいたのか。完全にノーマークだった。

「名前についてはしょうがないだろ。俺、両親が海外から帰化してるから。でも生まれも育ちも越谷の生粋の日本人だぞ」

 俺の知らん間に埼玉県がこんなカオスなことになっていたとは。

「んじゃなに? 今回別に魔王の四天王とかじゃないわけ?」

「四天王……四天王か……」

 カルアミルクは少し考え込む。

「学生の頃少しやんちゃしてたからな……『越谷の四天王』と呼ばれたことはある」 

 越谷四天王……

「ああ、美味しかった!」

 カラン、とパフェ用の長スプーンをグラスに入れる音がした。やっとベアリスの食事が終わったか。

「お友達とのお話は終わりましたか? ケンジさん」

 友達じゃないが。というかカルアミルクがかなり困惑している。まあ、そりゃ気になるわな。この女なんやねん、と。

「ガイジンやん、この女……どこの子なん?」

 お前が言うか。確かに戸籍は日本人だろうけども。

「ケンジさん、この人民自党なんですよね? じゃあとりあえずこいつを血祭りに上げましょう!」
「オッケー、ファイア……」
「ちょちょちょちょっ、待って待って待って!!」

 右手のひらをカルアミルクに向けて魔力を練り始めたところを、慌ててカルアミルクが止める。なんだよ、いつもの定例行事がこなせないだろう。しかし一応俺は手を下げて奴の言い分を聞くことにした。

「なんなん……? どこの子なん? どっかおかしいんちゃう、自分ら……」

 生粋の埼玉人じゃなかったのか。なんだその関西弁。

「ちょっ、ほんま冷静になってな?」

 そう言ってカルアミルクは天井を指さす。

「あ……防犯カメラ」

「分かるやろ……? ここ日本やぞ? ファンタジーちゃうぞ?」

 いかんな、俺もちょっと異世界に毒されてたわ。なんかカルアミルクの顔見るとファイアボール撃たなきゃいけないような気がしちゃうんだよな。今回角が無くて良かった。角があったら多分条件反射的にファイアボール撃ってたわ。

 ここは法治国家の日本なんだ。

 というかよくよく考えたら別にカルアミルクをここで殺す必要性自体が無いわ。スナック感覚で殺しちゃうところだった。

「まあそれはそれとしてさあ、お前なんで国会議員なんてしてんの?」

「え?」

 俺の質問にカルアミルクは疑問符を浮かべる。これは怪しいぞ。何か隠してる目的があるに違いない。

「日本を良くしたいからだけど……?」
「ダウト!!」
「ファイアボ……」
「ちょ待て待て待て待て待て!!」

 ベアリスのダウトの宣言と共に俺はファイアボールを撃とうとしたが、またカルアミルクに止められた。何だよテンポ悪いな。

「え? ガチでなんなん、自分ら? 何しにここに来たん……?」

 まおうをたおすためにきたんですけど。

「民自党が日本を良くするだなんてちゃんちゃらおかしいですね! こいつはやっぱり邪神の手先です!」

 しかしベアリスがそう宣言したことで俺は冷静になった。

 つまり、ベアリスの言うことはいつも間違ってる。だから、ここでカルアミルクを殺すのは間違いだということだ。

 カルアミルクは自分を指さしながら言う。

「いや……善良な一市民!」

 そうだ。危うく殺人犯になってしまうところだった。

「俺はな……さっきも言った通り学生時代はちょっと荒れてたんだよ。外見がこんなだからいじめられたりもしてさ……でも、親のコネから民自党の代議士の秘書の仕事にありつけて、そこで認められて議員にまでなれたんだ」 

 なんか語りだしたぞコイツ。長くなりそうなら一発ファイアボールでも撃っとくかな。

「矢部先生はこんな俺の事を受け入れてくれた。そして常に近くで仕事をしてて分かったんだ……人に尽くすために身を粉にして働くことの、尊さが……」

 なんか意外にも真面目に考えてるんだな。てっきり政権中枢にとり憑いて甘い汁でも吸おうとしてるのかと思ってた。

「まあ、そういうことなら俺は帰るわ……」
「え? 今回は燃やさないんですか?」

 ベアリスは納得していないようだが俺は席を立とうとする。しかしカルアミルクが呼び止める。

「ちょっと待って……本当に……殺さないの?」

 お前は俺の事をなんだと思ってるんだ。

「だって……魔族側にいても人間側にいても、何してても最後には俺を殺しに来るから……てっきり死神的なもんかと……お前らいったい何者なの?」

 なるほど、こいつの目からは俺はそう映っていたのか。

「勇者だ」
「女神です」

「め、女神? 何言ってんの?」

 まあそのリアクションも分からないでもないけどお前が言うか? さんざ他の世界で魔族の四天王とかやってた奴がよ。

「カルナ=カルアさん、あなたが毎回毎回酷い目にあうのは前世で邪神の手先として深い業を積んできたからです」

 ん? 唐突にベアリスが不穏な事を呟きだしたぞ。まあ言ってること自体は今までの発言と一貫性はありそうだけど。

「あなたがその『業』から解放されるには『徳』を積むしかないのです」

 なんだか知らんが猛烈に嫌な予感がしてきた。

 ベアリスはドン、とテーブルの上にデカい壺をおいた。どっから出しやがった。というか、やっぱりそういう流れか。

「この壺を買うことであなたは功徳を積み、呪われた燃え続ける運命から解放されることでしょう」

 やりやがった。この女ホンマ怖いもの知らずか。

「い、いくらですか?」

 手口に乗ってんじゃねーよカルアミルク。

「この壺を購入することでそのお金が神のもとに送られ、それだけであなたに『徳』が積まれるのです」

 『神のもと』ってお前の懐に入るだけだろうが。 

「今ならこの壺がたったの百万円!!」
「かっ、買います!!」
「そこまで!!」

 俺は慌ててベアリスの腕をひっつかんで慌てて店内から逃げるように店を後にした。

 ふう、危ない危ない。いきなりこんなところで霊感商法始めるとは。いろいろ微妙な時期だってのに怖いもの知らずか。


――――――――――――――――


街並みに沈んでいく夕日を眺めながら、俺は自分の部屋で軽く伸びをした。

 まあ、前々からそんな気はしていたものの、あいつはあいつで頑張ってるんだな。今まで敵対してばっかだったから容赦なく燃やしてきたけど、当然ながらあいつだって自分の人生を必死で生きてるんだ。

 当たり前だけど、そんな軽々しく人を燃やしちゃいけないよな。

 ふと部屋の中を見ると、ベアリスは俺の机に座って夢中でスマホをいじっている。真剣な表情で集中してる顔は……やっぱり可愛い。中身テロリストだけど。あと人のスマホ勝手にいじるな。

「ケンジさん……」

「なんだ?」

 スマホを凝視しているベアリスが声を上げた。

「カルナ=カルアさん、炎上してます」

 なんだと。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜

具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです 転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!? 肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!? その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。 そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。 前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、 「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。 「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」 己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、 結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──! 「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」 でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……! アホの子が無自覚に世界を救う、 価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...