鋼なるドラーガ・ノート ~S級パーティーから超絶無能の烙印を押されて追放される賢者、今更やめてくれと言われてももう遅い~

月江堂

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三十センチくらいです

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「何やってんだよお前、壁に張り付いて……」

「何やってるんでしょうね……ホントに」

 ドラーガの問いかけに、クオスは泣きそうな顔でそう答えた。アンセが恐る恐るアルグスに問いかける。

「どういうことなの……? アルグス、『男の子の日』がくると、男性は壁に張り付いてしまうの?」

「いや、僕もこんなのは初めて見た……」

 アルグスはクオスに近づいていって耳打ちする。

「一体どうしたっていうんだ、クオス。その……はっきり言わなかった僕も悪いけど、僕はてっきり一人で一発抜いて来るのかと……なんで壁に張り付いてるんだ?」

「その……壁に、ちょうどいい具合の穴が開いていて……入れたら、なんか抜けなくなってしまって」

「入れたら……って……!! 入れたの!? 壁に!? なんで!!」

 「なんで」と言われても、なぜこんなことをしてしまったのか、当のクオスにも分からない、というのが実のところだ。えてして男というものは時に自分の冒険心を押さえられずに通常では考えられない行動をとってしまうものなのだ。男は、みな、冒険者ぼっけもんなのだ。

「ふざけてねえでさっさと行くぞ、ほら!」

「あっ、ちょっと! 引っ張らないで下さ、あいたたたたたた!!」

 彼女の腕を引っ張ったドラーガが怪訝な顔つきで尋ねる。

「痛いって……今お前どういう状態なんだ」

「どういう状態、と言われても……そうですね」

 しばし考えてからクオスは再度口を開く。

「その……ダンジョンの罠にかかってしまって、壁に挟まって、動けなくなってしまったんです」

 その言葉にドラーガは一層怪訝な顔つきをして首を傾げた。

「挟まれて……って、今お前両手も両足もフリーの状態じゃねえかよ。ナニが挟まれたんだよ」

 ナニが挟まれたのである。

「ウコチャヌプコロ……」

「ウコチャヌプコロ!?」

 イリスウーフの言葉にアンセが驚いて聞き返した。

「なんだ?  その『ウコチャヌプコロ』って?」 

「その……私達の古い言葉で、直訳すると『互いをよく知る』という意味で……つまり、なんというか」

 言い淀むイリスウーフ。しかし『ウコチャヌプコロ』の意味を知るアンセとマッピはこの言葉にようやく事態を把握したようで、しかしより一層恐怖にその顔色を染めたのだった。

「ちょっと! どういうことなのよクオス! ダンジョンとウコチャヌプコロしたってダンジョンは子供を産んだりはしないわよ!」

「そ、その……つまり、ダンジョンの事をよく知ろうとしたら、罠にはまってしまったというか……」

 責められながらクオスは涙を流した。自分が情けなくなったのか、それとも……

「どうやら私の冒険は、ここまでのようです……」

 その言葉に一同が青ざめた。

「今まで本当にありがとうございました。私はここでその短い生涯を終える運命だったんです。こんなところで斥候がリタイアしてしまって申し訳ないですが、皆さんは先に進んでください」

「何言ってるんだ! 僕は仲間を見捨てたりはしない! たとえば……そうだ、壁をくりぬいて、それごと移動すれば」

 悪夢である。アルグスはさらに問いかける。

「やってみよう、クオス、その……どのくらいの深さまで嵌ってるんだ? ……ソレは」

「三十センチくらいです」

「デカいな……」

 アルグスの額に脂汗が浮かぶ。それは即ち、そんな巨大な岩をくりぬいて移動することなどできないという諦めであり、同時に雄としての敗北の顔色である。

「アルグスさん、お願いです。私をここに置いて行ってください。それとも私に恥をかかせる気ですか!?」

 今以上の恥など存在するのか。

「そこまでの覚悟が……分かった。僕達はこの先に進む。だが目的を達成したらきっと戻ってきて君を助ける方法がないか探す。それならいいだろう?」

 この言葉にクオスは涙を流した。

「私の事は、忘れてください。仲間の足を引っ張って危険な目にさらしたとあってはエルフである私にとって末代までの恥です」

「多分クオスさんが末代だと思いますけど」

 最後にツッコミを入れたマッピの手を引いてアルグスは先に行く。彼女も納得はいっていなかったが、しかしここで一人にしてやる事こそ武士の情けなのだ。

「あっ、待って、ドラーガさんは残ってください」

「なんでだよ!」

「ドラーガなら別にいいよ」

「なんでだよ!!」


――――――――――――――――


 ダンジョンの通路にはドラーガと壁にはまったクオスだけが残された。

「意味が分からん。何でクオスが動けなくなってるのかも分からんし、俺だけ残った意味も分からん」

 結局「ウコチャヌプコロ」の意味も知らず、直前にクオスがどんな状態だったかも知らないドラーガだけが事情を把握しかねている。

「その……私が冒険者を続けていられたのはドラーガさんのおかげですし、最後にお別れの挨拶をしたかったので……」

「チッ……クオス、俺に何かできることはあるか?」

 舌打ちをしながらも、優しい言葉をかけるドラーガにクオスは頬を紅く染めた。せめて最後に、抱きしめて欲しい。そう口に出そうかどうか迷った彼女であったが、思わぬ第三者の声がかけられた。

「そ、その罠……わ、私が作ったものだから、解除、できるかも……」

 意外な第三者、それはドラーガの懐の中に残っていたクラリスであった。

「ひっ、そう言えばいたんだった、忘れてた!」

「どういうことだ? クラリス。っていうかこれどういう罠なんだ?」

「言わないで!!」

 ドラーガが尋ねると即座にクオスが言葉を遮った。さすがに愛する人の前で「ちん〇ん突っ込んだら抜けなくなる罠」とバラされたくはないようだ。

 クラリスはクオスの鬼気迫る怒号に気圧されながらも、要点を抜いて、罠の概要を説明する。

「そ、その……元々命を落とすような罠じゃない。ほとんどただの嫌がらせ、というか、ね、ネタで作ったようなもの。ま、まさか本当にかかるような非常識な人がいるとは思わなかったから……」

「すいませんね、非常識で!」

 憮然とした表情でクオスが怒りをあらわにするが、仕方あるまい。ダンジョンで壁にちん〇ん突っ込んで身動き取れなくなるようなアホに人権などないのだ。

「んで、どうすりゃ解除できんだよ」

 ドラーガの言葉にクラリスは暫く考えこむ。ちん〇んの事を言わずに、クオスにどう説明すればいいか悩んでいるのだ。

「そ、その……射せ……体内から悪しき欲望の塊を解き放って、ちんち……挟まれている体の一部が、萎え……わ、矮小化すれば、ヌルっと抜けるはず……」

「全然意味が分かんねえよ。もっと具体的に言えねえのかよ」

 ドラーガには意味が分からなかったが、しかし当然クオスには分かる。だが分かった上で彼女は渋い顔をした。

「そうは言われても、これ、ほんの数センチしか動かせないし、そんな刺激じゃとても射せ……悪しき欲望の塊を解き放つことは出来そうにないです……なにか、外部からの刺激でもあれば……」

 そこまで言ってクオスはハッとした表情になり、ドラーガの方を見た。

「ドラーガさん……!!」

「お、おう、なんだ?」

「私のおしりを触ってください」
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