鋼なるドラーガ・ノート ~S級パーティーから超絶無能の烙印を押されて追放される賢者、今更やめてくれと言われてももう遅い~

月江堂

文字の大きさ
69 / 211

淫紋のゾラ

しおりを挟む
「今までごたごたしていて、一つだけ言い忘れていたことがある。冒険者の基本的な心構えだ」

 朝日も少しずつその顔を覗かせ、空を蒼白く染めている。その中でキラキラ美しい金髪を輝かせながらアルグスさんがそう話しだした。

「家に帰るまでが冒険です。ダンジョンを出たからと言って決して油断してはいけません」

 なるほど。

「話は済んだか? じゃあ俺と戦え、勇者アルグス。タイマンでも全員一度でもいいぞ」

 アルグスさんを挟んで3メートルほど向こうに立っているのは、爽やかなアルグスさんとは対照的に全身に複雑怪奇でおどろおどろしい模様のタトゥーを入れた白髪の若い男。

「セゴーの奴にまたダンジョンに向かったって聞いてこの辺をうろうろしてて正解だったぜ。今度こそ逃がさねえぞ」

 狂犬ゾラ。

「お前ヒマなのか」

 ドラーガさんの不躾な一言。でも正直言って私も同じ気持ちだ。クラリスさんの話じゃアルテグラはなにやら用事があってここにはいないはずって話だったけど、この人は何もなかったんだな。

 まあ正直私が七聖鍵のリーダーだったとしても「狂犬」とか言われてる人に重要な仕事を申し付けようとは思わないけど。

 とにかく。

 その“狂犬”ゾラが私達の目の前に立ちふさがっていて帰れないのだ。早く帰って体洗いたいのに。全員うんざり顔である。対するゾラは上機嫌。あれからそう時も置かずして目的の勇者アルグスに出会えたんだからそれもそうか。

「フン、この間はうまくいなされて逃げられちまったがな、後からよくよく考えてみればあの時の俺はどうかしていた。ドラーガ、てめえの口車に上手く乗せられちまったぜ」

ちっ、気づいたか。

「さっき四天王のカルナ=カルアとビルギッタが必死で逃げていくのが見えたから『もしかして』と思ったんだ。さすがは勇者アルグスってところだな。四天王如きは問題じゃねーか」

「いや、あれは僕じゃなくてクオスが……」

 そう言ってアルグスさんはクオスさんの方に視線を送る。

「なに? この間は戦闘要員じゃねえとか言ってやがってくせに、いったいどうやってあいつらを追い払ったんだ?」

(ちん〇んで追い払いましたとは言えない……)

 クオスさんは黙して語らず。私もそれは少し気になってはいた。何であの時四天王は急に逃げ出してしまったんだろう? しかし彼女が話さないのでドラーガさんが会話に割り込んできた。

「やれやれ、本当に暇人なんだな。こっちゃダンジョン帰りで疲れてるっつーのに」

 うそつけ、あんた今回何もしてないでしょーが。通路に挟まってただけじゃん。

「まっ、暇人でもなきゃこんな全身にみっちりタトゥーなんて彫らんか」

「別に暇だから彫ったわけじゃねーぞ。これはそれぞれが魔法陣の役割を果たしてる。詠唱を大幅に簡略化できる優れものさ!」

 なんかこの二人妙に仲がいいな。傍若無人同士気が合うんだろうか。お友達ってことで今回も見逃してくれないかな。ドラーガさんはゾラに危険性を感じていないのか、近くでまじまじとタトゥーを眺めている。

「お前、このへその下に描いてあるタトゥーさ……」

「あん?」

「淫紋じゃね?」

 …………

 ……いんも……なんて?

「おまっ、言うに事欠いて……!! 言っていいことと悪い事が……淫紋!?」

 突如として激怒したゾラは即座にドラーガさんを殴りつけようとしたが、慌てて自分の下腹部を見て、そして顔を青くした。この人自分に彫られてるタトゥー把握してないのかな。


― 淫紋いんもん

― 性的な意図や意味を持って主に女性の下腹部に彫られるタトゥー、紋章や魔法陣の一種であり、子宮や卵管、卵巣をかたどった意匠となっていることが多い。

― 効果としては淫らな気持ちにさせる、快感を増幅させるなど一意でなく、効果の発動も永続的なものであったり何かがスイッチとなって起動したりなどやはり一定でなく、今後の研究が期待される分野である。


 ……た、確かに、なんかおへその下あたりにハートマークから蔓が両側に生えたような意匠がある。他のタトゥーと混じってかなり判別しづらいけれど、確かに淫紋だ。

「淫紋じゃねーわボケ!!」

 今度は顔を真っ赤にして大声で叫ぶ。

「いいか!? おまっ……普通さ! 男が下腹部に淫紋わざわざ刻むと思うか!?」

 女も刻まないと思いますけど。

「お前普通じゃねーじゃん」

「いや普通じゃねーよ!?  普通じゃねーけどさ!! 俺の『普通じゃない』はそういう『普通じゃない』じゃねーから! 戦いが好きとか、スリルを味わうのが好きとかであって! そういう、あの、アレだ、淫らとかのアレじゃねーから!! 狂犬……」
「ふひゅっ……フヒヒヒヒヒ……」

 その時ゾラの言葉を遮ってドラーガさんの方から笑い声が聞こえた。しかしドラーガさんは笑ってはいない。

「お前の方こそ腹になんか隠してんだろ!? 見せてみろ!! お前も淫も……クラリス!?」

 やっぱ淫紋なんじゃん。

「ふひ、ふひひひ……み、見つかっちゃった……じ、実は、ずっと前から、わ、私も気になってた。やっぱり淫紋だったんだソレ」

 笑いを押さえきれなかったクラリスさんか。裏切りがバレちゃったけど、なんか今淫紋祭りでそれどころじゃない雰囲気。

「淫紋じゃねぇーって言ってんだろうが!! これはあれだ! 破壊の力を行使する俺の魔力とバランスをとるために……その、命の象徴というか、しきゅ……そういうもので、それをその、彫ることで、かろうじて俺の力を抑え込んで……」

 やっぱ淫紋なんじゃん。

「お前何?  本当は女の子になりたかったの?」
「なんでそうな……」

 とうとうブチ切れたゾラがドラーガさんに殴りかかろうとするところを、アンセさんが止めた。

「ちょっと待って! そういうことなの!?」

 そういうことってどういうことだ。

「アルグスにこだわってたのって……そういう……えっ? 『戦う』って……ベッドの上で……?」

「なんでそうなるんだよ!! 性に多感な少年かお前は!? もしくはセクハラおやじか!!」

「あっいいのよ! 大丈夫! 大丈夫だから!! 分かってるから!!」

「大丈夫じゃねーよ! っていうか大丈夫なんだよ!! あと多分お前何も分かってねーから!!」

 大分興奮してるなあ、ゾラさん。

「ホント大丈夫だから。私そういうの理解あるタイプだから!!
 っていうかむしろ二人の恋を応援するタイプだから!」

「恋じゃねーって言ってんだろうがあ!!」
「僕も勝手に応援しないで欲しいんだけど」

「まだ自分の気持ちに戸惑っていて、それが恋だと気づいていない、ってことですか」

 クオスさんが的確なアシストを決める。さすが経験者は違うなあ……

「狂犬でホモで淫紋彫っててストーカーって、お前ちょっと属性盛りすぎじゃないか?」

「ホモでも淫紋でもねーって……」

「じゃあなんでさっきからお腹隠してんだよ」

 ドラーガさんの冷静なツッコミによってゾラは黙り込んでしまった。これどういう流れなんだろう。このテンションで戦うつもりなんだろうか。お腹隠しながら? もう帰れば?

 ゾラが何もしゃべらないからか、ドラーガさんは私の方に寄ってきて耳打ちをした。

「今、多分淫紋が光ってるんだと思う……」
「プフッ」
「光ってねーわ!!!! よく見ろ!!」

 涙目でゾラが両手を広げてお腹を見せると、ドラーガさんは今度は彼のお腹を指さして解説を始める。

「いいか? このハートマークみたいのが子宮で左右に伸びてるのが卵管……」
「見るなあああああぁぁ!!」

 再びお腹を隠す。忙しい人だなあ。

「もういい!! お前らホント……ッ!! ホント覚えとけよ!!」

 そう叫んでゾラは泣きながら走り去っていった。

「何しに来たんだあの人……」
しおりを挟む
感想 69

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。 ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!? 俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。 第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。 「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」 信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。 賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。 様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する! 異世界ざわつき転生譚、ここに開幕! ※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。 ※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ
ファンタジー
相和義輝(あいわよしき)は新たな魔王として現代から召喚される。 だがその世界は、世界の殆どを支配した人類が、僅かに残る魔族を滅ぼす戦いを始めていた。 無為に死に逝く人間達、荒廃する自然……こんな無駄な争いは止めなければいけない。だが人類にもまた、戦うべき理由と、戦いを止められない事情があった。 人類を会話のテーブルまで引っ張り出すには、結局戦争に勝利するしかない。 だが魔王として用意された力は、死を予感する力と全ての文字と言葉を理解する力のみ。 自分一人の力で戦う事は出来ないが、強力な魔人や個性豊かな魔族たちの力を借りて戦う事を決意する。 殺戮の果てに、互いが共存する未来があると信じて。

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~

北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。 実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。 そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。 グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・ しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。 これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。

腐った伯爵家を捨てて 戦姫の副団長はじめます~溢れる魔力とホムンクルス貸しますか? 高いですよ?~

薄味メロン
ファンタジー
領地には魔物が溢れ、没落を待つばかり。 【伯爵家に逆らった罪で、共に滅びろ】 そんな未来を回避するために、悪役だった男が奮闘する物語。

処理中です...