鋼なるドラーガ・ノート ~S級パーティーから超絶無能の烙印を押されて追放される賢者、今更やめてくれと言われてももう遅い~

月江堂

文字の大きさ
77 / 211

なんとなく釈然としない

しおりを挟む
「お腹がすきました……」

「…………」

 声の主は、イリスウーフさんだった。

 おばあちゃんご飯ならさっき食べたばっかりでしょ。三百年も石化してたから満腹中枢ぶっ壊れちゃったのかな?

「お前この非常事態にいきなり何言いだすんだ」

 珍しくドラーガさんが正論を口にする。私とドラーガさんの意見が合う事なんてなかなかないよ。

「そ、そうですよ、おば……イリスウーフさん。それにご飯ならさっき食べたばっかりじゃないですか。なんか……大丈夫です?」

 しかし私がそう言うとイリスウーフさんは首を左右に振った。

「あんなものでは足りないんです……私は、みんなのために戦いたいんです!」

まいったぞ……これはかなり……アレだぞ。

「ボケたのかお前」

 ああ言っちゃった。でも確かに、意味不明だし、話の前後が繋がっていない。

「ドラゴニュートには半竜化する能力があります。その力を使えば私も戦うことができます」

 んん? まあ……それはいいんだけど、「お腹が空いた」っていうのは……?

「ですが、半竜化には膨大な魔力を消費します。石化から解けて、私の身体は慢性的に魔力不測の状態が続いているんです。まずはその魔力枯渇状態を克服しなければなりません」

「お前の言ってること分かりづれえんだよ、何が言いてえんだよ」

 まあ確かに回りくどくてちょっと分かりづらい。

「つまり、『オラ、腹が減って力が出ねえ』状態なのです」

 分かりやすすぎる。

 しかし幸いにも天文館一階の食堂の店員は非戦闘員なので全員この建物に残っている。私は二人をとりあえずテーブルにつかせて、魔物の襲撃という事態におろおろしているだけの食堂の店員に事情を伝えてオーダーを取りに来てもらった。

「すいません、こんな時だというのに……」

「いえ、それで少しでも戦う人たちの力になれるんでしたら、私達も協力を惜しみません」

 幸いにもウェイトレスの女の人は快く協力を申し出てくれた。協力と言ってもお金払って食事をするんだけれど。

 しかしアルグスさん達が町を守るために戦いに行っているというのに暢気に食事かあ……なんとなく後ろめたい。

「では早速オーダーを……ええと、このページと、このページと……それとこのページの食事を下さい」

「ページ単位!? そんなオーダーの仕方初めて聞いたんだけど!!」

「すいません……」

「あ、いや……謝ることは……」

「すいません、ピクルスは抜きでお願いします」

「状況分かってます!?」

 しまった、思わず本気で突っ込んでしまった。大丈夫、私は分かってる。一見一人フードファイトが始まったかのように見えるけど、これは必要な事なんだ。イリスウーフさんが戦えれば……どの程度の力があるのかは知らないけれど、きっとみんなの助けになる。そのためには食事が必要なんだ。ページ単位で頼むのには引いたけど。

「お前戦いが嫌なんじゃなかったのか?」

 料理が作られている間、テーブルに頬杖をついたドラーガさんがそう尋ねた。

 しかしそう言えばそうだ。あれだけ戦いを厭うような発言をしていたのに今回急に態度を変えたのは何故なんだろうか。

「戦いは相変わらず嫌ですよ……ただ、それが何か大切なものを守るためなら……敵を追い払うくらいなら、私にもできます」

「まっ、お手並み拝見といこうか」

 そんな会話をしていると早速最初の皿が運ばれてきた。トマトのスライスに水牛のチーズが乗った美味しそうなサラダ、チキンのソテーにオニオンスープ、牛のステーキにポークチョップのフライ。ページごと頼んだので似たような種類の料理が続々と運ばれてくる。

 普段ならよだれが出るほどに美味しそうな料理なのだが、なんにしろ私はさっき食事をしたばかりだし、こうしている今もアルグスさんが必死で戦っているのだろうな、と思うと全く食欲はわかない。

 しかしイリスウーフさんはまるで久方ぶりの食事とばかりに肉やサラダに齧り付いていく。この人こんなキャラだったのか……

 いやいや違う、別に食いしん坊キャラというわけじゃないんだ。半竜化するためにエネルギーが必要なんであって、決して腹ペコというわけではないのよ。いや腹ペコかもしれないけれど。

 しかしまあ傍目には腹ペコにしか見えないわけで。

 ……なんか、見てるだけで胸焼けしてくる光景だ。次々と料理を運んでくるウェイトレスさんもその異様ながっつき様に目を剝きながら料理を置き、そして空になった皿を回収していく。

 テーブルいっぱいに並べられた料理を見てさすがのドラーガさんも呆れ顔だ。

「なんちゅう燃費の悪い奴らだ……そりゃ人間と戦争にもなるわ……」

「すいません……」

「別に謝れってんじゃ……」

「すいません、店員さん。これと同じ料理、あと三皿下さい」

「まだ食うのかよ!!」

 ううむ、ドラーガさんがツッコミ役に回っている……これは相当だぞ。

 しかし他に客がいないこともあって、注文した料理は次々と運ばれてくる。そして次々とイリスウーフさんの口の中に放り込まれていく。なんか、食事風景を見ているというよりはちょっと変わったデザインのゴミ箱に料理がどんどん捨てられていってるみたいだ。

 いやしかしイリスウーフさんもきっと努力しているんだ。少しでも早くアルグスさん達を助けるために急いで食事をしてくれているんだ。

「ふぅ……」

 そうこうしているうちに全ての料理がイリスウーフさんの胃の中に収まった。いったいこの細い体のどこに入ったんだろう? しかし、それはともかくこれでアルグスさん達を助けに行ける。

「じゃあ、イリスウーフさん、早くアルグスさん達を追いかけましょう! 外の状況も知りたいし……」

「待って下さい」

 何だろう? 半竜化するために何かほかに準備が必要なんだろうか。

「食休みです」

「おいぃ!!」

 っと、思わず乙女にあるまじき大声を出してしまった。

 ツッコんではしまったが……確かにイリスウーフさんのいう事は正しい。戦ってる最中にゴミ箱よろしく胃の中に放り込んだ物を吐き出されでもしたらたまったもんじゃない。
 それに食べたからってすぐにそれがエネルギーに変わるわけじゃないしね。

 しかしまあ……なんだろう。この人こんな図太いキャラだったのか。なんかちょっと幻滅してきた。

 それにしてももどかしい。

 食休みってどれくらいとればいいんだろう。

「マッピさん……これで食事はとれましたが、さすがに三百年ぶりの半竜化、体が思い通りに動くかどうか……」

 そんなことをいまさら言われてもなあ……

「マッピさん、もしよろしければ肩を揉んで、体をほぐしてもらえますか?」

 なんだとこの女。

 ……とはいうものの。

 とはいうもののだ。

 まあ一理ある。正直今の私にできることは何もないし、それで生き残る確率が少しでも上がるならやるに越したことはない。私は席から立ち上がり、ダストボックスの肩を揉み始めた。

 どれくらい揉んでいただろうか。ほんの数分なのか、数十分なのか。とにかくもどかしい気持ちでいっぱいの私にはそれはとても長く感じられていたが、イリスウーフさんが急に声をあげた。

「しまった! 忘れていました!」

「ど、どうしたんですか、イリスウーフさん!」

「こんなに食事をたくさん頼んだのに、食後のデザートを頼んでいませんでした!」


 なんだかなあ……

 こう、なんだろう?

 なんだろうなあ……ホントになんなんだろう。釈然としない。
しおりを挟む
感想 69

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。 ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!? 俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。 第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。 「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」 信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。 賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。 様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する! 異世界ざわつき転生譚、ここに開幕! ※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。 ※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~

aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」 勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......? お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?

この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ
ファンタジー
相和義輝(あいわよしき)は新たな魔王として現代から召喚される。 だがその世界は、世界の殆どを支配した人類が、僅かに残る魔族を滅ぼす戦いを始めていた。 無為に死に逝く人間達、荒廃する自然……こんな無駄な争いは止めなければいけない。だが人類にもまた、戦うべき理由と、戦いを止められない事情があった。 人類を会話のテーブルまで引っ張り出すには、結局戦争に勝利するしかない。 だが魔王として用意された力は、死を予感する力と全ての文字と言葉を理解する力のみ。 自分一人の力で戦う事は出来ないが、強力な魔人や個性豊かな魔族たちの力を借りて戦う事を決意する。 殺戮の果てに、互いが共存する未来があると信じて。

巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった

ノラクラ
ファンタジー
俺、霧島悠斗は筋金入りの陰キャ高校生。 学校が終わったら即帰宅して、ゲームライフを満喫するのが至福の時間――のはずだった。 だがある日の帰り道、玄関前で学園トップスターたちの修羅場に遭遇してしまう。 暴君・赤城獅童、王子様系イケメン・天条院義孝、清楚系美少女・柊奏、その親友・羽里友莉。 よりによって学園の顔ぶれが勢ぞろいして大口論!? ……陰キャ代表の俺に混ざる理由なんて一ミリもない。見なかったことにしてゲームしに帰りたい! そう願った矢先――空気が変わり、街に巨大な魔法陣が出現。 赤城たちは光に呑まれ、異世界へと召喚されてしまった。 「お~、異世界召喚ね。ラノベあるあるだな」 そう、他人事のように見送った俺だったが……。 直後、俺の足元にも魔法陣が浮かび上がる。 「ちょ、待て待て待て! 俺は陰キャだぞ!? 勇者じゃないんだぞ!?」 ――かくして、ゲームライフを愛する陰キャ高校生の異世界行きが始まる。

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

処理中です...