鋼なるドラーガ・ノート ~S級パーティーから超絶無能の烙印を押されて追放される賢者、今更やめてくれと言われてももう遅い~

月江堂

文字の大きさ
79 / 211

襲撃

しおりを挟む
「本当にこれ良かったのかなあ? カルナ=カルア?」

「うるッせぇなヴァンフルフ! もう始めちまったもんだ、引っ込められねえぞ」

 カルゴシアに近い森の中、戦況を見守る魔族の四天王、カルナ=カルアに狼男のヴァンフルフ、それとダークエルフのビルギッタ。相変わらずリッチのブラックモアはいない。

「ガスタルデッロの旦那も言ってたでしょう? 『基本的にお前らは好きなようにやれ』って」

 そう言ってビルギッタは木の枝の上から戻ってきて話しかける。

 ムカフ島からは少し離れた場所。小高い丘の上から戦況を見守る三人。秋とはいえまだ暑い昼過ぎの午後、その襲撃は堂々と行われた。

 カルナ=カルア達は支配下に置いているモンスター達を総動員してカルゴシアの町に攻撃をかけた。手始めにムカフ島の詰所を守る衛兵たちを皆殺しにし、夜の闇に紛れるのではなく、日中に突然の奇襲。

 モンスター達に与えられた指示は「とにかく派手に暴れろ」、である。

「奴らは別にカルゴシアの町を守りたいわけじゃないわ。一にも二にも魔剣野風とイリスウーフ。そのどちらも手に入れられていないこの状況、何とかしてイリスウーフを奪えは交渉で優位に立てるわ」

「奴らの狙いがいまいち見えねえのが不安だがな……人間のくせに、人間の命を屁とも思ってないみてえだな……」

 向こう見ずなカルナ=カルアが珍しく不安そうに呟く。

 混乱を起こし、それを機にアルグス達からイリスウーフを奪う。彼らの立てた作戦は単純である。領主シーマンのおひざ元であるカルゴシアの町がそう簡単に落ちるとは思っていない。しかしそう簡単にモンスターが退けられるとも思っていない。

「問題はイリスウーフがどこにいるか、ね。前回みたいにこちらの意図が読まれてたらまずいわ。私はとりあえず空から偵察をしてくるわ」

 ビルギッタはそう言うと指笛を吹き、上空を旋回していた飛行生物を呼び寄せる。

 重量を感じさせる着地音と共に猛獣の如き唸り声。青黒い肌に身を包む、二本の角を備えた巨大な羽根を持つ悪魔、アークデーモン。

 その巨大な悪魔の背にビルギッタは跨り、そして空に消えて行った。そう、その恐ろし気な大悪魔アークデーモンよりもまだビルギッタの方が立場は上なのだ。

「町の方はあいつに任せる。俺達はここで状況を見守って、アルグスが現れれば『叩く』ぞ!」

 ニヤリと笑みを浮かべるカルナ=カルア。それとは対照的にヴァンフルフの顔は沈んでいた。

「本当にいいのかな……この作戦……」


――――――――――――――――


「さて、どこまで考えて動いているのやら」

 天文館の二階、小会議室で自分の前に置かれたコーヒーカップにスプーンで砂糖を入れながらガスタルデッロは呟く。

「おそらく、大したことは考えておるまい」

 一方のデュラエスは立ったまま、木窓を少し開けて外を確認してからそう言い、コーヒーを一口飲んだ。

「さっき言った通り、イリスウーフを失った焦りからこんな短絡的な作戦に出ただけだろう。おそらくもう少しすれば、空襲部隊がここにも来るだろうな」

「イリスウーフを探しにか」

 ガスタルデッロはそう応えて苦笑した。

「いかに冒険者ぼっけもんがバカの集まりでも、こんな見え見えの作戦にかかるほど間抜けではない。事実アルグスは数人の仲間を護衛につけてイリスウーフを置いて行ったしな。しかしカルナ=カルア達もそれにすぐに気づいてイリスウーフの所在を確認しに来る……バカとバカの騙し合いだ。とてもではないが関わる気にはなれん」

 そう言ってデュラエスはガスタルデッロの対面の席に座って、コーヒーの香りをゆっくりと鼻に吸い込んだ。

「別にこの闘い、どちらが勝っても我らには痛手にはならん。魔族がイリスウーフを取り戻しても元に戻るだけだし、無事にアルグス達が防衛しても現状が変わらないだけ……ああ、一つ。イリスウーフがどさくさ紛れに殺されでもしたら少し面倒か」

「それでも野風が他の者の手に渡るよりはよほどマシだな」

「その通りだ」

 デュラエスはそう答えて、内ポケットから煙草入れを取り出し、葉巻の端を齧ってブッ、とゴミ箱に吐き捨てると、ゆっくりとした手つきで落ち着いて先端を炙り、煙を口内に味わう様に溜め、吐き出す。

「野風を奪われる危険性を考えるのなら、イリスウーフを始末する選択肢も除外するべきではないな……布石は打っておくべきかもしれん。気が進まんが、ティアグラに相談するか……」

 窓の外にはまだ戦闘音は聞こえてこない。冒険者と衛兵たちはおそらくまだ町の郊外でモンスター達を押しとどめているのだろう。しかし市民達の狂乱の悲鳴は聞こえてくる。どうやら七聖鍵は今回の騒ぎ、動く気は本当に無いようであった。


――――――――――――――――


「トルトゥーガ!!」

 気合一番、アルグスの盾が投擲されると複数のオークの首が刎ね飛ばされる。

 アルグスを先頭に、冒険者と衛兵が敵を撃ち漏らさないように町の外郭から少し引いた場所で戦闘をし、少しずつ、少しずつ敵を押し戻している。幸いにも住民たちは最初の被害が出た時点ですぐに町の中心部に避難していったため死傷者は少なかった。

 混戦の中、アルグスは思う様にトルトゥーガの投擲ができず苦戦していたが、それでも彼の戦闘力は頭一つ抜けた圧倒的なものであった。

「これがSランクの実力か……」

 モンスター達と激しい戦いをしながらも、冒険者達はアルグスのその異様な強さに目を奪われていた。

「アルグスさん、空を飛んで町に入っていくものがいます、部隊を二つに分けた方がいいかも……」
「いや、こっちも手一杯だ、後から来る騎士団に期待するしかない!  それよりも気になるのは……」

 クオスの言葉を流してアルグスは敵のモンスターの群れを見遣る。主力はゴブリンやオーク、たまにトロールやオーガが出てくると冒険者達が苦戦する程度、まだまだ本格的な戦いとは言いづらい。

 彼が気にしているのは「四天王」の存在である。戦った経験があるのは獣王ヴァンフルフだけであったが、アルグスは彼に傷一つ付けることができなかった。他の三人も同等の実力があるに違いない。

「アンセ、クオス、ここは大丈夫だ、僕が押さえる。他の場所を回って苦戦しているところがあれば助けに行ってくれ!」
「分かったわ!」

 アンセ達が離れると同時に目の前に一際巨体のオークが現れ、こん棒で殴りつけてくる。しかしアルグスはそれを精密な動きで以て盾で受ける。

 盾は回転し、こん棒を後ろに逸らし、体勢を崩したところにショートソードで一突き。体力を消耗せずに、危なげなく敵を処理していく。

(おかしい、こんなものなのか? 総力戦のように見えるが、その実全く本気の作戦には見えない。普通ならまず最大戦力を先頭にして、そのサポートにザコどもをつけるはずなのに……まるで)

 アルグスは戦いながら考え、そして考えながらモンスターどもを剣の錆にしてゆく。

(まるで何かを探っているような戦い方だ……四天王は出てこないのか!?」

「ぐわああああ!!」

 少し離れたところから衛兵の叫び声が聞こえた。続いて火だるまになった人影が飛び出し、そして地面を転がって、やがてそれは動かなくなった。

 地響きと共に民家をはるかに超える体高の巨体が現れる。

 赤いうろこのその生き物は、口の端から、寒い雪の日の朝の吐息の如く炎を漏れ出させていた。

「レッドドラゴン……」

 そしてその竜の頭の上には灰褐色の肌の、見事な角を頭部に備えた若い魔人が仁王立ちしていた。

「見つけたぜぇ、アルグス!」
しおりを挟む
感想 69

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。 ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!? 俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。 第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。 「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」 信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。 賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。 様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する! 異世界ざわつき転生譚、ここに開幕! ※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。 ※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ
ファンタジー
相和義輝(あいわよしき)は新たな魔王として現代から召喚される。 だがその世界は、世界の殆どを支配した人類が、僅かに残る魔族を滅ぼす戦いを始めていた。 無為に死に逝く人間達、荒廃する自然……こんな無駄な争いは止めなければいけない。だが人類にもまた、戦うべき理由と、戦いを止められない事情があった。 人類を会話のテーブルまで引っ張り出すには、結局戦争に勝利するしかない。 だが魔王として用意された力は、死を予感する力と全ての文字と言葉を理解する力のみ。 自分一人の力で戦う事は出来ないが、強力な魔人や個性豊かな魔族たちの力を借りて戦う事を決意する。 殺戮の果てに、互いが共存する未来があると信じて。

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~

北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。 実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。 そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。 グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・ しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。 これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。

腐った伯爵家を捨てて 戦姫の副団長はじめます~溢れる魔力とホムンクルス貸しますか? 高いですよ?~

薄味メロン
ファンタジー
領地には魔物が溢れ、没落を待つばかり。 【伯爵家に逆らった罪で、共に滅びろ】 そんな未来を回避するために、悪役だった男が奮闘する物語。

処理中です...