鋼なるドラーガ・ノート ~S級パーティーから超絶無能の烙印を押されて追放される賢者、今更やめてくれと言われてももう遅い~

月江堂

文字の大きさ
91 / 211

沙羅曼蛇

しおりを挟む
 ブオン、ブオオンと、二輪の乗り物から凄まじい爆音、どこからか分からないけれどパラリラパラリラとラッパのような音も聞こえる。

 やがて周りを走っていたたくさんの二輪の乗り物はその場に停止し、爆音も小さくなった。しかしアンセさんとゾラを中心に、私たち全員を囲んだ精霊達はずっと睨みをきかせたままだ。周囲では何の音かは分からないけれどドッドッドッドッド……という爆発音、そしてたまに思い出したかのようにブオオンという轟音が聞こえる。

「なんだ……何を召喚しやがった……こんな精霊見たことねえぞ」

 ゾラも困惑した表情を浮かべて周囲を見渡している。

 精霊たちは皆金属製の二輪の乗り物に乗っていて、そして白いコートのような服を着ている。その背中には大きく刺繍された文字、『沙羅曼蛇サラマンダー』。どういうこと? なんて書いてあるの? なんか読めない文字だ。

「ッシ乗ってんじゃねッゾッオラァァァ!!」

『オオオアアアアアア!!』

 アンセさんが大声で何かを言うと周りの精霊たちもそれに呼応するように大声を上げた。

『スッゾコルァァァァァ!!』

『ビビッテンジャネッゾルアアァァァ!!』

 アンセさんに限って言えば正直今に始まったことじゃないんだけれど、相変わらず何を言ってるのか全く分からない。精霊語とか、なんかそんな感じのアレなんだろうか。

 よく分からないけれど、これだけの炎の精霊で一斉に攻撃を仕掛けたらさすがの七聖鍵のゾラといえどもただでは済まないんじゃないだろうか。

 そんなことを考えているとアンセさんがゾラに正対し、大きく両足を広げて膝を軽く曲げ、両膝の上にそれぞれ手を置いた。いよいよ召喚魔法による攻撃の発動か。

沙羅曼蛇サラマンダー特攻隊長アンセ・クレイマー、バリバリ気合入ってんで夜露死苦ヨロシクァァァァ!!」
『ヨロシクァァァァ!!』

 なんなのこれ。

 魔法を発動するのかと思ったら、ただの自己紹介? なのかどうかもよく分からないけど、アンセさんが声を張り上げるとそれに呼応するように精霊たちが大声を上げ、また爆音が鳴り響く。凄い音だ。

「なんなんだこりゃ……いったい何のつもりだ!?」

 戸惑いながらもゾラがアンセさんに尋ねるけど、しかしアンセさんはそれに答える気配は全くない。

『ッテンジャネッゾコルアァァァ!!』

 なんだろこれ。恐い。とにかく恐い。よく分からない恐さだ。

「チッ、訳の分からん魔法を使いやがって! 一撃で決めてやる!!」

 言うが早いかゾラは一気に距離を詰めて攻撃態勢に入る。その大きく振りかぶった右の拳には蒼白い炎が纏われている。カルナ=カルアを一撃で灰にした魔力、直撃を受けたらまずい!!

「来いやオルァァァァ!!」

 しかしアンセさんはまるでそれを受けたり躱そうとする姿勢を見せない。両足を大きく開いて立ったまま、不動の構えだ。

「オラアアァァ!!」

 ゾラの拳がアンセさんを捉える。アンセさんはその拳の直撃を受けきって、大きくのけ反ったけど、しかし堪えている。あれを食らって平気なの!? 魔法障壁とかでダメージを軽減してるんだろうか。

「気合足んねッゾコラアアァァ!!」

 今度はアンセさんの番か、アンセさんの拳にも炎が燃え上がる。助走をつけてゾラとの距離を一気に詰め、殴りかかる。

 アンセさんに触発されてか、ゾラの方も拳を躱さない。顔面でアンセさんの拳を受けてる! 欠けた歯が宙を舞い、鮮血が土を染める。ゾラも大きくのけ反ったけど、やはり何とか踏みとどまり、ニヤリと笑って見せた。

「そんなもんかアンセ!!」

 ぼたぼたと血を滴らせながらもゾラが強がる。

 なんだかよく分からないけれど、どうやらフービエさんとの戦いの時と同じようにターン制の戦いのようだ。今度は再びゾラが拳に魔力を纏い、アンセさんに殴りかかる。

 やはり同じようにアンセさんはそれを受けることも躱すこともなく顔面で受け、鮮血が舞い散る。

「っかねえぞコルァァァ!!」
『オオオオオォォ!!』

 アンセさんが何か叫ぶとまた精霊たちが大声で気合を入れる。

 その後も同じように交互に殴り合っているんだけれど……何だろうな、こう……気合と根性の世界ね。というか、召喚された精霊たちは……何もしてないようにしか見えないんだけど、なんなんだろうこれ。


― 精霊召喚サマンエレメンツ 沙羅曼蛇サラマンダー

― 伝説的な火の精霊サラマンダーを中心とする暴走族「沙羅曼蛇」を呼び出す召喚魔法。

― 精霊達は術者と敵を取り囲むように陣取り、素手喧嘩一対一ステゴロタイマンの状況を断りづらい雰囲気を作り、さらに戦う術者を応援し、気合を入れてくれる。

― 召喚時に爆音を伴うため、夜間の召喚には近所迷惑などに細心の注意を払う必要がある。


 互角の戦いを繰り広げてるアンセさんとゾラだけれど、さすがに分が悪い。そりゃそうだ。なんせ敵は当代最強の魔術師と言われる七聖鍵の“狂犬”ゾラ。それと正面から殴り合いで決着をつけるなんて正気の沙汰じゃない。しかも女性なのに!!

 ぐらりと体の軸が揺れ、アンセさんがよろめく。もう体力の限界なんだ。

『気合い入れろッルァアァァァ!!』

 巨大な二足歩行をするトカゲ、多分サラマンダーだと思うんだけど、リーダー格の精霊の大声で何とか踏みとどまった。あ、危ないところだ。

「ペッ」

 ゾラが口から血の塊を吐き出す。ベチャリという粘性の水音がした。

「……やるじゃねえか。正直ウィッチ如きがここまでやるとは思わなかったぜ」

 二人とも顔がボコボコに腫れて、焦げ跡があり、それは闘いの終焉が近い事を示していた。これ以上やると、本当にどちらかが死んでしまう。いや、今のダメージの度合いを考えるとおそらく死んでしまうのは、アンセさんの方……でも、とてもじゃないけれど止められるような気迫じゃない。

「気合入れろコルルァァァ!!」

 アンセさんの拳がゾラを打ち抜く。ゾラは二歩、三歩と後ずさりしたがそれを耐えた。

「大分……消耗してんじゃねえのか、こんなもんか? これ以上やれば、てめえ、死んゾ?」

 ゾラの言うとおりだ、このままじゃ本当にアンセさん死んじゃう。でもアンセさんは……

「来いやオルアァァァ!!」

 なんかアンセさんの方がよっぽど狂犬っぽいな。どちらにしろ精霊たちに囲まれて、アンセさんも退く気がないこの状況でとても止められるような空気じゃない。

「望み通りキメてやんぜ!!」

 ゾラの拳に一際大きな炎が宿る。これで決着をつけるつもりだ。

「オオオオオアアァァ!!」

 強烈な爆音とともにゾラの一撃。アンセさんは大きくのけ反り、後ずさり、ああ、もう、倒れ……私は慌てて彼女の方に駆け寄ろうとしたけど、その時ひときわ大きな叫び声が聞こえた。

「気合入れろアンセエェェェェェ!!」

 これは、アルグスさんの声! 完全に立ったまま意識を失って、灯の消えていたアンセさんの瞳に再び強い意思の光が灯り、すんでのところで踏みとどまる。

「なんだと……!? いったいどこにそんな力が残って……たかが声援で、戦えるはずが……」

 ゾラの表情が困惑に歪む。アンセさんはさっきのゾラと同じように、口の中の血を吐き捨ててから言葉を発する。

 その表情はいつもと全く違う。ボコボコに腫れた顔、いたるところにある裂傷、焼けただれた皮膚、苦しそうな息。そのどこにも、いつもの優雅で美しい「出来る女」の面影はない。それでも、私はその力強い瞳を美しいと思った。

「仲間だもんで!!」

 そう言うと構えを取る。拳に宿るのは今までよりもさらに大きな炎。最後の力を振り絞るつもりだ。

「気合入れろッルァァァ!!」
「来いやアァァァ!!」

 アンセさんの声にゾラが答える。最後の一撃だ。

 気合の叫び声と共にアンセさんの拳がゾラの顔面を捉え、とうとう魔法障壁の許容を越えたのか、吹き飛ばされながらゾラは燃え上がった。
しおりを挟む
感想 69

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。 ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!? 俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。 第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。 「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」 信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。 賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。 様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する! 異世界ざわつき転生譚、ここに開幕! ※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。 ※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ
ファンタジー
相和義輝(あいわよしき)は新たな魔王として現代から召喚される。 だがその世界は、世界の殆どを支配した人類が、僅かに残る魔族を滅ぼす戦いを始めていた。 無為に死に逝く人間達、荒廃する自然……こんな無駄な争いは止めなければいけない。だが人類にもまた、戦うべき理由と、戦いを止められない事情があった。 人類を会話のテーブルまで引っ張り出すには、結局戦争に勝利するしかない。 だが魔王として用意された力は、死を予感する力と全ての文字と言葉を理解する力のみ。 自分一人の力で戦う事は出来ないが、強力な魔人や個性豊かな魔族たちの力を借りて戦う事を決意する。 殺戮の果てに、互いが共存する未来があると信じて。

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~

北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。 実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。 そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。 グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・ しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。 これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。

腐った伯爵家を捨てて 戦姫の副団長はじめます~溢れる魔力とホムンクルス貸しますか? 高いですよ?~

薄味メロン
ファンタジー
領地には魔物が溢れ、没落を待つばかり。 【伯爵家に逆らった罪で、共に滅びろ】 そんな未来を回避するために、悪役だった男が奮闘する物語。

処理中です...