鋼なるドラーガ・ノート ~S級パーティーから超絶無能の烙印を押されて追放される賢者、今更やめてくれと言われてももう遅い~

月江堂

文字の大きさ
111 / 211

無駄な事

しおりを挟む
 れ、恋愛相談!?

 自動人形オートマタのターニー君の口から出たのは思いもよらない言葉だった。

 え? まさか? そういうこと? どうしましょう、私。ターニー君は確かに美少年だけど、私お人形さんと恋愛ごっこをするつもりなんて……それに、付き合うなら絶対私よりも年上で、背の高いイケメンじゃないと。あ、でもいくらイケメンでも登場するたびに全裸になる様なニンジャだけは絶対に嫌だけど。
 ついでに言うなら口を開けば人の身体的特徴ばっかりあげつらう嫌味なクソ賢者も絶対ダメだけど。

「相談するなら本人のいない今しかないと思いまして……」

 んだよ私じゃねーのか。まあいいや。ふ~ん、ほんで?

「お美しいクオスさんとマッピさんなら、きっと恋愛経験も豊富だろうと……」

 なかなかいいこと言うじゃない。さすが美少年ね。お姉さんに何でも相談してごらんなさい。

「正直言って、この気持ちが恋なのかどうか、自分でもまだよく分からないのですが……」

 そのセリフに私の脳裏には全身タトゥーのホモ魔導師の姿が浮かんだ。いや、故人を悪く言う気はないんだけど。とりあえずアンセさんがいない時でよかったわ。あの人がいたら何でもホモにされるから。

「僕は……クラリス様の事をお慕いしているのです……」

 え? クラリスさんを? 私とクオスさんは同時に腕組みをして首を傾げ、考え込む。

 「お慕いしている」……う~ん、それは二人の態度を見ていればなんとなく予想はついたんだけど、それって「恋」とかじゃなくて「主従関係」とかの延長なのでは? というのが正直な感想だ。

 私はちらりと横を見る。クオスさんと目が合った。おそらく彼女も私と同じことを思ったのだろう。

「マッピさん、これは……」

「そうですね……」

 二人はこくりと頷き、それからクオスさんの方がターニー君に語り掛ける。

「ターニー君、あなたのそれは、おそらく『恋』じゃないわ」

「でも! クラリス様の事を思うと胸が苦しくなって……」

 反論したい気持ちも分かる。でもそれは多分思い込みなんだ。もし本当にそう感じているのなら、クラリスさんが「そういうように」プログラムしたからなんだと思う。

「それはね、『性欲』よ」

 おほーい!! クオスさん!? そうじゃねーよ!!

 いたいけな美少年にナニ吹き込んでくれちゃってるんですか!! 性欲が強すぎてダンジョンと合体しちゃうクオスさんと一緒にしないで下さいよ!!

「こう……クラリス先生の事を思うとおへその下辺りがむずむずしてきて、最終的にはアレでしょ? 白い膿が出るでしょう? それは、間違いなく性欲よ」

「いえ、全然そんなもの出ませんしむずむずもしませんが」

 この人アレだな、いまいちオートマタってものがなんだかよく分かってないな。

「そんなはずないわ。オート股っていうくらいですもん。さぞかし旺盛な股を持っているに違いないわ」

 分かってるのかどうか微妙なラインだなあ……

 てかまあ、それが性欲なのか恋なのか、それは別に今どうでもいいんですわ。

「で、ターニー君の相談ってなんなの?」

 クオスさんとはなんだか話がかみ合いそうにないので、私は直接ターニー君に尋ねることにした。彼はどうやらここに来てもまだ自分の言いたいことがまとまっていないのか、しばらく俯いて考え込んでいたが、やがてゆっくりと語りだした。

「僕は……『完全なる人間』を作ることを目指してクラリス様が作ったゴーレムの一種です。
 ですが……まだまだ僕は、クラリス様が望む物には遠く及ばない」

 う~ん、確かにクラリスさんのターニー君への態度はいまいち……塩対応って奴だったなあ。「感情があるように見せかけてるだけだ」とか「自分がそうプログラムしたからだ」とか、納得いっていないようだった。

「あの方がプログラムしたように動く、のでは足りないのです。それ以上のことができないと」

「それ以上って、おならで国歌を歌ったりとか、腹話術でバ行とマ行を言えるようになったりとか?」

 確かに「それ以上」ではあるけど多分そんなことは求めてないと思いますよ、クオスさん。この人なんか、エルフの森で人の世界から隔絶された場所で育ったせいかちょっとピントがズレてるな。

「違います。『もっと人間らしくなるにはどうしたらいいか』を教えて欲しいんです」

 「人間らしく」って、なんだろ? ターニー君十分人間らしいと思うんだけどな。う~ん……

「た、たとえばさ。ターニー君はプログラムされたことを越えて人間らしく振舞おうと『努力してる』わけじゃん?  『人間らしく』っていうのがどういうのかは分からないけどさ、プログラムされたことを黙々とこなす他のゴーレムとはもうこの時点で違うと思うんだよね。そう思った時点で、きっとターニー君はすでに特別な存在、つまりヴェルタースオリジナル……」
「詩的な表現ですが、そんな慰めでは僕の問題解決にはなりません」

 くっ、一刀両断か。

「そ、そのね……? どういうのが人間らしいのかは分からないけど、クラリス先生に好かれたいならね、そのぅ……率直にそう言って愛を伝えればいいんじゃないのかな?」

「人が他人に愛情を示すのはそれに足る利益があるからです。それは金だったり、愛情だったり、安心感だったり、様々ですが、そのための手段として僕は『人間らしく』なりたいんです。何ももたらさずに愛情だけ欲しいとか口あけてエサが放り込まれるのを待ってる雛じゃないんですから」

 クオスさんも撃沈。「取り付く島もない」っていうのはこういうのを言うんだろうな。

「そ、そういうところが人間らしくないんですよ……」

 お、クオスさんの反撃だ。

「いいですか? ターニー君は全てを合理的に、計算づくで考えるところがあります。でもね、人間ってそうじゃないんですよ。むしろそういうものとは別の物、『無駄なもの』こそが人間を形作っているんです」

 おお! なんか格好いいこと言いだしたぞ。ターニー君も聞き入っている。ちょっとだけ溜飲が下がる。

「大昔、人は狩りをし、木の実を採取してその日ぐらしをして生きていました。そのころは人と獣の間にそう違いはありませんでした」

 そう言いながらクオスさんは両手を広げ、天を仰ぎ、椅子から立ち上がりながら語りだす。どうやらクオスさん渾身の演説が始まるらしい。なんだか私も楽しくなってきた。

「やがて人は農業を身に着け、食料の保存ができるようになり、そのリソースを『生きること』以外に使えるようになりました。つまり『暇』になったんです」

 暇……かぁ……まあ、言わんとすることは分かるけども。「暇」なのが人間ってこと? なんとも言い難い結論だなあ……

「人間は合理的な判断のみで行動しなくてよくなり、『無駄』なことを楽しめるようになったんです。
 つまり、人間とそれ以外のものを分けている物というのは、愛だとか言葉だとか、道具を使うだとか、そんな他の動物にでもできることではなく、実は『無駄』なんです。
 私が思うに、クラリス先生が言う『完璧な人間』とは、今のターニー君のように無駄を排除するんじゃなく、むしろ無駄を持つようになることなのでは?」

「無駄……たとえば……?」

 なんとも微妙な持論だと思うんだけど、しかしターニー君はこの言葉にいたく感動したようでさらに突っ込んで質問し始めた。

「た……たとえば、その……ダンジョンの壁にちん〇んを突っ込んでみる、とか」

 あちゃ~……最近自分がやった事の中で一番無駄だったことを思い浮かべてそれを正直に口に出しちゃったな。

「ダンジョンの壁にちん〇んを突っ込むとクラリス様に喜ばれる……?」

「……それは、クラリス先生の性癖によると思う」

 この話自体が無駄な気がしてきた。
しおりを挟む
感想 69

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。 ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!? 俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。 第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。 「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」 信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。 賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。 様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する! 異世界ざわつき転生譚、ここに開幕! ※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。 ※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ
ファンタジー
相和義輝(あいわよしき)は新たな魔王として現代から召喚される。 だがその世界は、世界の殆どを支配した人類が、僅かに残る魔族を滅ぼす戦いを始めていた。 無為に死に逝く人間達、荒廃する自然……こんな無駄な争いは止めなければいけない。だが人類にもまた、戦うべき理由と、戦いを止められない事情があった。 人類を会話のテーブルまで引っ張り出すには、結局戦争に勝利するしかない。 だが魔王として用意された力は、死を予感する力と全ての文字と言葉を理解する力のみ。 自分一人の力で戦う事は出来ないが、強力な魔人や個性豊かな魔族たちの力を借りて戦う事を決意する。 殺戮の果てに、互いが共存する未来があると信じて。

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~

北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。 実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。 そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。 グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・ しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。 これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。

腐った伯爵家を捨てて 戦姫の副団長はじめます~溢れる魔力とホムンクルス貸しますか? 高いですよ?~

薄味メロン
ファンタジー
領地には魔物が溢れ、没落を待つばかり。 【伯爵家に逆らった罪で、共に滅びろ】 そんな未来を回避するために、悪役だった男が奮闘する物語。

処理中です...