鋼なるドラーガ・ノート ~S級パーティーから超絶無能の烙印を押されて追放される賢者、今更やめてくれと言われてももう遅い~

月江堂

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無刀新陰流雌餓鬼之術

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 ギルドマスターのセゴーさんが、巨人の触手にからめとられ、その喉を通ってゆく。残された冒険者たちが弓矢や魔法で攻撃しているが、巨人はまるで意に介する様子はない。
 
「あ……あの巨人が……セゴーさん? 噓でしょ……」
 
「まあ、セゴーさんというか、実際にはセゴーさんなんですけど」
 
 ……?
 
「て、転生する前のセゴーという意味」
 
 クラリスさんが翻訳してくれた。
 
「あ、クラリスさんどうも、その節は。ところで最近うちに訪ねてきました?」
「あ、い、いや~、ちょっと用事があって……その……」
 
 だいぶマイペースだなアルテグラ。
 
 セゴーの方はと言うとセゴー(人間)をゆっくりと嚥下して、邪悪な笑みを浮かべた。
 
「ようやく……ようやく俺が、俺の元に帰ってきた。アイデンティティの確立だ……」
 
 なんかよう分からん事言ってる……大分流暢に喋るようになってきたな。
 
「どうやらセゴーさんはセゴーさんを大分恨んでいたみたいで……同じ人間が二人いるのが許せなかったんですかね? たった今自己同一性の確立ができたみたいですネ。なんだか子供の自立の瞬間を見てるみたいで感動しまス」
 
 この人の話どうしても分かりづらい……全体的に説明不足なんだよな。説明好きなのに説明不足というか……とはいえ、この人に聞いたらみんなわかるんじゃ? セゴーの事は置いておいても。
 
「あの……元の体のクオスさんって……今どうしてるんですか?」
「クオスさん? セゴーさんと一緒に館を抜け出しちゃったんで……その辺をぶらぶらしてるんじゃないですかネ?」
「そんなことより!!」
 
 私とアルテグラの会話にターニー君が割り込んできた。というか、これはクオスさんの件をまとめられるのを恐れて?
 
「クオスさんを生き返らせたいんです! 魔石さえ残ってればできるんですよね!?」
「……?」
 
 一瞬黙るアルテグラ。ターニー君も必死なのはわかるけど、説明不足だよ。
 
「あ、レプリカントの方ですね? もしかして死んじゃったんですか? 残念。せっかく念願の女性の体になれたのに……」
 
 レプリカントっていうのは……転生した後の体の事? ああ~もう! 説明不足!
 
「どうなんですか! できるんですか!?」
「あ、ああ、もちろんできますよ。魔石と、転生先のボディさえあれば」
 
 ようやく答えが得られてターニー君はセゴーの方を睨む。まさか、行くつもり?
 
「だ、ダメよ、ターニー!」
 
 当然ながらクラリスさんは彼を止める。
 
「く、クオスが生きてるのがはっきりした今、そんな事のために、き、危険は冒せない」
「そんな事って何ですか!!」
 
 うわ、喧嘩が始まった!?
 
「オリジナルが生きてるから……作り物のレプリカントは、価値がないって言うんですか!」
「こ、これは命令よ。だ、だまっていう事を聞いて!」
 
 目をつぶり、押し黙るターニー君。
 
 でも正直クラリスさんの言ってることの方が私も正しいと思う。クオスさんが生きていることが分かった以上、私達が今やるべきことはあの化け物から逃げること。そもそも、クオスさんを二人に増やしてどうするっていうの。亡くなった人の命をそんなに簡単に復活させる事は命への冒涜だと思うなあ、お姉さんは。
 
「聞きません」
 
 えっ!?
 
 そのままターニー君はクラリスさんを私に押し付けて走り出す。あの化け物のところへ。無茶だ! 殺されちゃう。
 
 セゴーはまだ冒険者と戦っている、というか、捕食している。最初に現れた時よりも体も一回り大きくなっている。
 
 ターニー君は建物の陰から陰へ、セゴーの攻撃が冒険者に向いているときの隙をついて上手く移動しているように見えたけど、触手の制空権内に入った途端一撃で打ち払われて壁に叩きつけられた。
 
「ぐうっ!!」
 
 蠢く眼窩から出ている触手がターニー君の方を向き、それから体もそちらに向きなおす。どうやら通常の視覚とは違う、何か別の感覚器を使って周囲を把握しているようだ。
 
「く……クラリスの手下、だな」
 
 ゆっくりとセゴーが近づいていく。まずい、殺されちゃう。もしくは冒険者達みたいに食われる?
 
「あ、アルテグラ、セゴーを止めて! あ、あなたが飼育してたんでしょ!」
 
「え……? まあ、そうなんですけど、私どうやら彼に嫌われてたみたいで……そうそう、クラリスさんの事も嫌ってるみたいですヨ? なんか知らないけど、転生法を生み出した人達にムカついてるみたいで」
 
 最悪じゃん! しかもターニー君がクラリスさんの傍仕えだってこともバレてるみたいだし。これは……もう……
 
「待ちなさい!!」
 
 私が出るしかないじゃない。
 
 ターニー君に注意を払っていたセゴーが、声を上げた私の方に向き直る。うう、怖い。クオスさんを運ぶときに負担になったからメイスもどこかに置いてきてしまった。まあ、そんなものが一個あったところであの化け物に勝てるとは思えないけど。
 
 クラリスさんも私の肩に乗ってセゴーに対峙する。勝算はない。ないけども……あっ、ちょっと待って!!
 
「こっち! こっちでしょうがセゴー!!」
 
 なんと、セゴーの奴こっちを無視してターニー君の方に向かおうとする。なんで!? クラリスさんに恨みがあるんじゃなかったの?
 
 と、思ったけどそうか。セゴーはクラリスさんが人形になってることを知らないんだ。んでもって急に「この人形がクラリスよ!」とか言っても残念そうな目つきで見られるだけなのが目に見えてるし。
 
 ここは……やはりドラーガさんに倣うべきか。
 
 そうだ。
 
 私はメッツァトルのパーティーの中で、加入後誰よりもドラーガさんと一緒に過ごしてきたんだ。不本意ではあるけれど一夜を共にしたこともある。町のど真ん中の路上で。
 
 相手を挑発して注意をこちらに向けさせなければ……といっても、一体どうしたらいいのか。いつもドラーガさんどうやってたっけ? ええい、ぶっつけ本番だ。
 
 私は深呼吸して、心を落ち着ける。
 
「ざ……ざぁ~こ♡」
 
「……?」
 
 よしッ!!
 
 と、とりあえず注意を引き付けることには成功したぞ! 方向性としては間違ってないはず!!
 
「ざぁこ♡ ざこ巨人♡ 前髪スカスカ♡ そんな子供相手にイキって恥ずかしくないのぉ? ダッサ~い♡♡♡」
 
「こ……」
 
 ひぃっ、こっち向いて触手がうぞうぞ動いてる。超怖い!
 
「このメスガキがぁッ!!」
 
 ……私何でこんなことやってるんだろう……なんだか涙が出そう。
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