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ムカ着火ファイヤー
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「アカシックレコードを、手に入れている?」
思わず私はドラーガさんの言葉を反芻する。
元々ガスタルデッロが野風の笛を手に入れようとしているのはアカシックレコードを手に入れるためであることは知っていたし、タイミング的には「そう」であってもおかしくはない。
いや、実際に野風の笛を置き去りにして異次元世界に移動していたのだからそう考えるのも自然な流れではあるのだが。
しかし私には今の流れのどこからドラーガさんがそう判断したのかがよく分からなかった。
「いずれ分かる。それより今は逃げる準備をしろ。もう……」
彼はちらりとガスタルデッロを見る。
「手遅れかもしれんが」
ドラーガさんが小さくそう呟いたのを私は聞き逃さなかった。彼の見ている世界は、私達とはいったいどれほど違っているのだろう。その時、イリスウーフさんがガスタルデッロとアルグスさんの間に割って入った。
「待ってください!」
両手を広げて、一触即発だった二人の衝突を阻んだのだ。
「望む物はもう手に入れたのでしょう! これ以上……」
ドッと、音がした。
アルグスさんですら反応できなかった。
私達がそれに気づいたのはイリスウーフさんの背中からこちら側へ顔をのぞかせる剣の切っ先が見えたからだ。
「イリスウーフ! マッピ、回復を!!」
「ハイ!!」
よろけて後ろに崩れ落ちるイリスウーフさんをドラーガさんが受け止めてすぐに私に指示を出した。内臓は傷ついているみたいだけれど、即死じゃなければ私の回復魔法があれば助けることは出来る。
「ガスタルデッロ、お前の相手はこの僕だ」
怒りを声ににじませながら、しかし努めて冷静にアルグスさんがガスタルデッロの前に立ちはだかり、そして奴に聞こえないよう、私達だけに小さく声をかける。
「僕が時間稼ぎをする。戦闘が始まったら逃げるんだ……」
「アルグス、私も戦うわ!」
「アルグスさん、援護します!」
しかしアンセさんとクオスさんは納得がいかないようで反論する。私も、全員で力を合わせれば倒せない相手ではないと思うけれど……ガスタルデッロの能力は今のところその巨大な両手剣と、そして戦闘には不向きな次元移動能力だけなんだから。
でも……気になるところが全くないわけではない。
さっきのイリスウーフさんを串刺しにした攻撃。イチェマルクさんみたいに「神速」と言えるほどの早業ではなかったと思う。でも、アルグスさんは全く反応できていなかった。完全に虚を突かれた、という感じだった。二人は正対していたにもかかわらずだ。
「分かった……だが遠距離からの攻撃が通じなかったらすぐに逃げろ。その時間は稼ぐ」
その、ガスタルデッロの持つ一種の「異様さ」に気付いているのはどうやらアルグスさんとドラーガさんだけのようなのだが。
「行くぞ!」
先に仕掛けたのはアルグスさんだった。
低い軌道で、今までよりは直線的にトルトゥーガを投擲する。それと同時に身を低くして突進し、左右両方向からの挟撃。
さっきガスタルデッロはトルトゥーガを地面に縫い留めたけど、今度はチェーンの途中を軽く押さえて軌道を変え、あやとりのようにそれを操作し、そしてなんとトルトゥーガをアルグスさん自身に向かわせた。
「なにっ!?」
何とか踏みとどまってアルグスさんはそれを紙一重で躱す。
「リネアロッソ!!」
後ろに控えていたアンセさんが赤い炎の矢を三連続で放つ。
しかしまだ動きを止めていないトルトゥーガのチェーンを剣の切っ先でぐい、と引っ張ると盾の起動はさらに変わり、炎の矢三発全ての軌道上を通って一気に消し飛ばしてしまった。
あまりに想定外の躱し方にアンセさんも硬直してしまっている。
今の一連の動きは偶然? それとも全て計算ずくで? 過不足なく動いて全ての攻撃を無効化したガスタルデッロの動きがとても偶然とは思えないけれど、しかしだからと言って計算してこんな動きが人間に出来るとは思えない。
アルグスさんはすぐにトルトゥーガを手元に引き戻す。その隙をカバーするようにクオスさんが矢を放ったが、しかしガスタルデッロはそれを十字剣で叩き落した。
「なっ……」
通常であれば直線的に飛来する矢は攻撃される側から見れば小さな点でしかなく、躱すどころか視認することすらままならない。
盾があれば何とか身を守ることもできるかもしれないけれど、それを剣で叩き落すなど噂や伝説ですら聞いたことのない芸当だ。
それをこのガスタルデッロは眉一つ動かさずにやってのけたのだ。
信じられない。こんな実力を隠し持っていたというの? 技術だけで説明できる範囲を遥かに超越している。まるで攻撃がどのタイミングでどこに来るかを全て知っているかのような攻防だった。
互いに攻撃の手を緩めて私達はにらみ合いの状態になった。一対六の多勢に無勢だが、今の動きを見る限り全く「勝つビジョン」が見えない。せめてアンセさんの魔力が万全で飽和攻撃を遠くから食らわせられるなら目がまだあるのかもしれないけど。
「どうした? 猛攻撃はお終いか?」
ガスタルデッロは静かにそういった。余裕の笑みを浮かべたりはしていない。
ただただ、穏やかな表情。全てを見透かすような。
「……なぜ、イリスウーフを斬った」
アルグスさんが問いかける。
そうだ。
イリスウーフさんは攻撃の意思を見せてはいなかった。二人の戦いを止めようとしたというのに。
望む物をガスタルデッロが手に入れたというのなら、もう戦う必要はない筈なのに、なぜ。
「くだらん……」
ガスタルデッロは剣を杖のように地面に剣先を突き刺して、悲しそうな目で応える。
「貴様が望む世界など来はしないのに、何故もがく? くだらん平和など求めるなら、私が永遠に戦わなくてよくしてやろうとしただけだ」
まだ立ち上がれないでいるイリスウーフさんは悲しそうに目を伏せる。
「こやつらもそうだ」
そう言ってガスタルデッロは目にもとまらぬ速さで周囲に剣を振った。
全く黙視することは出来なかったけれど、周囲にいた騎士や市民の首が跳び、頸動脈が切断され、血を噴き出した。
八尺近い巨躯と、長大な両手剣。たしかにリーチが長いのは容易に想像できるが、彼の周りに信じられないほどの巨大な血の花が咲いた。
「やめろ!!」
「こうなってみなければ争いも止められぬ愚か者どもだ。そして今はそれを悔いて、死を望んでいる。
この際だ、みな滅びる命、私が全て刈り取ってやろう」
「そんなことは、僕がさせない」
先ほどまでは疲労の色が濃かったアルグスさんの表情。しかし今は力に満ち溢れている。強くガスタルデッロを睨んだ。
「無駄だ。もうすぐこの町は炎に飲まれる」
そのガスタルデッロの言葉と共にずずん、と、大地が揺れた。
「なんだ、何が……?」
ドラーガさんが辺りを見回す。
今のは地震?
「み、見て! ドラーガ!!」
イリスウーフさんの声。私は彼女が指さした方向を見て、その景色に唖然とした。
ムカフ島の山頂が、もくもくと煙を吐き出していたのだ。
思わず私はドラーガさんの言葉を反芻する。
元々ガスタルデッロが野風の笛を手に入れようとしているのはアカシックレコードを手に入れるためであることは知っていたし、タイミング的には「そう」であってもおかしくはない。
いや、実際に野風の笛を置き去りにして異次元世界に移動していたのだからそう考えるのも自然な流れではあるのだが。
しかし私には今の流れのどこからドラーガさんがそう判断したのかがよく分からなかった。
「いずれ分かる。それより今は逃げる準備をしろ。もう……」
彼はちらりとガスタルデッロを見る。
「手遅れかもしれんが」
ドラーガさんが小さくそう呟いたのを私は聞き逃さなかった。彼の見ている世界は、私達とはいったいどれほど違っているのだろう。その時、イリスウーフさんがガスタルデッロとアルグスさんの間に割って入った。
「待ってください!」
両手を広げて、一触即発だった二人の衝突を阻んだのだ。
「望む物はもう手に入れたのでしょう! これ以上……」
ドッと、音がした。
アルグスさんですら反応できなかった。
私達がそれに気づいたのはイリスウーフさんの背中からこちら側へ顔をのぞかせる剣の切っ先が見えたからだ。
「イリスウーフ! マッピ、回復を!!」
「ハイ!!」
よろけて後ろに崩れ落ちるイリスウーフさんをドラーガさんが受け止めてすぐに私に指示を出した。内臓は傷ついているみたいだけれど、即死じゃなければ私の回復魔法があれば助けることは出来る。
「ガスタルデッロ、お前の相手はこの僕だ」
怒りを声ににじませながら、しかし努めて冷静にアルグスさんがガスタルデッロの前に立ちはだかり、そして奴に聞こえないよう、私達だけに小さく声をかける。
「僕が時間稼ぎをする。戦闘が始まったら逃げるんだ……」
「アルグス、私も戦うわ!」
「アルグスさん、援護します!」
しかしアンセさんとクオスさんは納得がいかないようで反論する。私も、全員で力を合わせれば倒せない相手ではないと思うけれど……ガスタルデッロの能力は今のところその巨大な両手剣と、そして戦闘には不向きな次元移動能力だけなんだから。
でも……気になるところが全くないわけではない。
さっきのイリスウーフさんを串刺しにした攻撃。イチェマルクさんみたいに「神速」と言えるほどの早業ではなかったと思う。でも、アルグスさんは全く反応できていなかった。完全に虚を突かれた、という感じだった。二人は正対していたにもかかわらずだ。
「分かった……だが遠距離からの攻撃が通じなかったらすぐに逃げろ。その時間は稼ぐ」
その、ガスタルデッロの持つ一種の「異様さ」に気付いているのはどうやらアルグスさんとドラーガさんだけのようなのだが。
「行くぞ!」
先に仕掛けたのはアルグスさんだった。
低い軌道で、今までよりは直線的にトルトゥーガを投擲する。それと同時に身を低くして突進し、左右両方向からの挟撃。
さっきガスタルデッロはトルトゥーガを地面に縫い留めたけど、今度はチェーンの途中を軽く押さえて軌道を変え、あやとりのようにそれを操作し、そしてなんとトルトゥーガをアルグスさん自身に向かわせた。
「なにっ!?」
何とか踏みとどまってアルグスさんはそれを紙一重で躱す。
「リネアロッソ!!」
後ろに控えていたアンセさんが赤い炎の矢を三連続で放つ。
しかしまだ動きを止めていないトルトゥーガのチェーンを剣の切っ先でぐい、と引っ張ると盾の起動はさらに変わり、炎の矢三発全ての軌道上を通って一気に消し飛ばしてしまった。
あまりに想定外の躱し方にアンセさんも硬直してしまっている。
今の一連の動きは偶然? それとも全て計算ずくで? 過不足なく動いて全ての攻撃を無効化したガスタルデッロの動きがとても偶然とは思えないけれど、しかしだからと言って計算してこんな動きが人間に出来るとは思えない。
アルグスさんはすぐにトルトゥーガを手元に引き戻す。その隙をカバーするようにクオスさんが矢を放ったが、しかしガスタルデッロはそれを十字剣で叩き落した。
「なっ……」
通常であれば直線的に飛来する矢は攻撃される側から見れば小さな点でしかなく、躱すどころか視認することすらままならない。
盾があれば何とか身を守ることもできるかもしれないけれど、それを剣で叩き落すなど噂や伝説ですら聞いたことのない芸当だ。
それをこのガスタルデッロは眉一つ動かさずにやってのけたのだ。
信じられない。こんな実力を隠し持っていたというの? 技術だけで説明できる範囲を遥かに超越している。まるで攻撃がどのタイミングでどこに来るかを全て知っているかのような攻防だった。
互いに攻撃の手を緩めて私達はにらみ合いの状態になった。一対六の多勢に無勢だが、今の動きを見る限り全く「勝つビジョン」が見えない。せめてアンセさんの魔力が万全で飽和攻撃を遠くから食らわせられるなら目がまだあるのかもしれないけど。
「どうした? 猛攻撃はお終いか?」
ガスタルデッロは静かにそういった。余裕の笑みを浮かべたりはしていない。
ただただ、穏やかな表情。全てを見透かすような。
「……なぜ、イリスウーフを斬った」
アルグスさんが問いかける。
そうだ。
イリスウーフさんは攻撃の意思を見せてはいなかった。二人の戦いを止めようとしたというのに。
望む物をガスタルデッロが手に入れたというのなら、もう戦う必要はない筈なのに、なぜ。
「くだらん……」
ガスタルデッロは剣を杖のように地面に剣先を突き刺して、悲しそうな目で応える。
「貴様が望む世界など来はしないのに、何故もがく? くだらん平和など求めるなら、私が永遠に戦わなくてよくしてやろうとしただけだ」
まだ立ち上がれないでいるイリスウーフさんは悲しそうに目を伏せる。
「こやつらもそうだ」
そう言ってガスタルデッロは目にもとまらぬ速さで周囲に剣を振った。
全く黙視することは出来なかったけれど、周囲にいた騎士や市民の首が跳び、頸動脈が切断され、血を噴き出した。
八尺近い巨躯と、長大な両手剣。たしかにリーチが長いのは容易に想像できるが、彼の周りに信じられないほどの巨大な血の花が咲いた。
「やめろ!!」
「こうなってみなければ争いも止められぬ愚か者どもだ。そして今はそれを悔いて、死を望んでいる。
この際だ、みな滅びる命、私が全て刈り取ってやろう」
「そんなことは、僕がさせない」
先ほどまでは疲労の色が濃かったアルグスさんの表情。しかし今は力に満ち溢れている。強くガスタルデッロを睨んだ。
「無駄だ。もうすぐこの町は炎に飲まれる」
そのガスタルデッロの言葉と共にずずん、と、大地が揺れた。
「なんだ、何が……?」
ドラーガさんが辺りを見回す。
今のは地震?
「み、見て! ドラーガ!!」
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