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新婚浮かれモード
72.安楽のワルツⅢ
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真紘と重盛がギルドに報告しに戻ると、既に数名の冒険者が待ち構えていた。自分達もとんぼ返りで闇市の摘発に加勢しようと考えていたが、想定以上の人員が動いているため、出番はなさそうだった。
モントリーヴォがギルド長に朝の会話を報告したところ、あの二人ならば恐らく闇市もすぐに見つけてくるだろうとギルド長が人員を手配していたらしい。
軽い口約束をしたつもりが、ここまで期待を寄せられているとは思わず、真紘は冷や汗をかいた。
闇市から回収してきた金を渡すために経理課に向かうと、内勤とは思えない屈強な若い男性二人に出迎えられた。
男性二人掛かりでも持ちきれない量だったため、結局金庫を何往復もさせることになってしまった。
受け渡しが済んだところで、経理課の扉がドンドンドンと叩かれた。
息を切らして飛び込んで来た二十歳前後の女性はケイナ・アンブルと名乗った。
若草色の三つ編みと薄い眉、全体的にくすんだ色合いのワンピースはケイナのシルエットをぼんやりとさせていたが、こちらを真っすぐ見上げる青い瞳は朝の連続ドラマの主人公のような求心力があった。
「救世主様方、お忙しいところ恐縮ですが、少しだけお話させていただいてもよろしいですか?」
「はい。何かお困りごとでも?」
「私は以前、ベレッタ家で働いていたのですが、ブランシュお嬢様の事で……。ですが、ここではちょっと……」
仕事中とはいえ、滅多にお目にかかれない救世主達と、昨晩運び込まれたベレッタ家の人間に仕えていた者の会話となれば気になって当然だ。
ペンの音や紙を捲る音が一斉に止み、経理課はシンと静まり返った。
「分かりました。回収してきたお金は全て預けましたので、どこか別の場所に移動しましょう。どこがいいかな――」
「ならば私の執務室を使ってください。終わったら鍵は彼女に預けていただいて」
後ろから声を掛けて来たのはモントリーヴォだった。
「おわっ、モントリーヴォ先生まだいたん⁉ 目の下のくまやばいよ。早く帰んな!」
「ええ、夜通し働いていたのでもう帰ります。お二人に闇市の話をした責任を感じていたので、早いお戻りで安心しました。一言お礼を申し上げたくて。違法な薬物には検死の際にも随分悩まされましたから。ありがとうございました。改めて御礼申し上げます」
「いえ、こちらもモントリーヴォ先生のおかげでブランシュさんを殺害した人物を絞り込むことができました。ありがとうございます」
「なんと、それは大収穫でしたね。寝て起きる頃には犯人が捕まっていることを願っています。では、ケイナ、お二人をご案内してあげて。私は先に帰るわね」
「はい、先生。お気を付けて」
「貴女も。無茶なことはしないように」
モントリーヴォはケイナの肩を叩いて去っていった。
「えっと、ケイナちゃんと先生はどういう関係?」
重盛の問いかけに対し、ケイナは眉を下げて少し照れたような顔をした。
「師であり、歳の離れた姉のような人、でしょうか。立ち話もなんですから、ルイス先生の執務室へどうぞ」
二人はケイナの後に続く。
長い廊下の途中で「モントリーヴォ先生ってルイスって名前なんだな」と重盛は真紘に耳打ちした。
今朝と同じソファーに腰を下ろす。
ケイナは慣れた手つきで紅茶を淹れた。空になったシュガーポットを見て、ため息をつきながら棚から袋を取り出し、さっと角砂糖の補充までしている。
重盛は中身の詰まった花柄の器を受け取ると、トポトポと角砂糖を三つティーカップに落とした。
ストレート派の真紘は何も入れず、紅茶の香りを楽しんだ後、一口ずつ味わうようにして飲んだ。
キリキリ痛む胃がじんわりと温まる。
闇市に潜入した際は使命感でアドレナリンが出ていたためか、今になって疲労感がどっと肩に圧し掛かって来た。
「お時間をいただきありがとうございます。早速ですがお話聞いていただけますか?」
「勿論です。聞かせてください」
コクンと意を決したように頷くと、ケイナはモントリーヴォの元で働き始めた経緯を説明し始めた。
地方の子爵家の四女として生まれたケイナはベレッタ家の家庭教師として王都へやってきた。家庭教師とは名ばかりで、殆どメイドと同じ扱いを受けていた。
数年間働いたある日のこと、ベレッタ家のお抱え神官とブランシュの逢瀬を目撃した。
神官はいつもカソックを着用していて、いつも厳しい表情を浮かべている人だった。そんな彼がブランシュにだけ人が変わったかのような柔和な笑みを見せていたのだから大変驚いた。
しかし、その頃にはバロン家とのクルーズトレインの共同事業は着実に進んでおり、ボトルルフとの婚約はほぼ確定だと噂されていたため、ケイナは頭を抱えた。
箱入り娘のブランシュは純粋で、幼かった。
教えられた事はなんでも素直に聞き入れる、可愛らしい人。一方で心のない人間からすれば鴨が葱を背負って来るようなもので、常に周囲が目を光らせていた。
まさか内部にブランシュをたぶらかす人間がいようとは、さらにそれが神に仕える神官だなんて誰も想定していなかった。
『彼とは真剣に愛し合っているの。どうか貴女にだけは応援してほしい。私は身分を捨て、生まれ変わって、彼と世界を見て回りたい。賢い彼の言う通りにしていればきっと上手くいくわ』
家庭教師とはいえ、共に育ってきた妹のような存在であるブランシュの願いに、ケイナは首を横に振ることはできなかった。
クルーズトレインのプレオープンの日程が決まった頃、事件は起きた。
ベレッタ家の奥方の一番のお気に入りの指輪が消えたのだ。
窃盗騒ぎはこれが初めてのことではなく、これまでも何度か発生していた。
内部犯の線がいよいよ濃厚になりピリつく雰囲気の中、使用人は勿論のこと、当主、長男、次男、長女のブランシュ、次女、そしてケイナも必死に探した。
もう屋敷には塵一つ落ちていないと諦めかけた時、広い庭の隅にある花壇の中からハンカチに包まれた状態で指輪が見つかった。
問題は使用されていたハンカチがケイナの物だったことだ。
弁解の余地もなく、ケイナは身の覚えのない窃盗の罪を着せられ、屋敷を追い出された。
窃盗犯としてギルドに突き出されなかったのは、以前体調不良で倒れたブランシュを魔法で救ったことがあったからだと、使用人仲間から聞かされた。
犯罪者扱いのまま実家には戻れない。
ケイナは路頭に迷い、冒険者の登録をしようと魔法適正試験を受けていたところ、偶然居合わせたモントリーヴォに拾われた。
モントリーヴォは今までよく一人で生活していたな、と感心してしまうほど生活能力が皆無だった。
ケイナは取り急ぎ衣食住の保障と、生きていく力が欲しい。
モントリーヴォは検死を専門とする神官を目指す弟子と家事を手伝ってくれる人手が欲しい。
二人が手を取り合うのに時間は必要なかった。
今でも交流のあるベレッタ家の使用人仲間から再びブランシュが倒れたと聞いたのは年末のことだった。
度重なるブランシュの体調不良もあり、お抱え神官はベレッタ家を辞めたと聞いてさらに驚いた。
ところが昨晩、その男は亡くなったブランシュと共にギルドに現れた。
辞めても尚、彼はブランシュの事を愛していたのだろう、と安心もした。
知己である者の検死は慣れた自分でも辛い事だから先に帰るように、とモントリーヴォに指示され、ケイナは先に帰宅した。
早朝に検死終わりのモントリーヴォから昨晩の話を聞くまでは、ブランシュと神官の愛を信じていたのだ――。
ケイナのワンピースの腰あたりには何度もきつく握ったような跡が残っている。
真紘は俯く彼女に訊ねた。
「モントリーヴォ先生はなんと」
「神官様から、祈りを捧げるためブランシュ様と二人にさせてくれないかと懇願されたようなのですが、検死前にご遺体に触れられては困るので断ったと」
「ご英断ですね。ギルド神官の鑑だ」
「ええ、少し変わった方ですが、そんなルイス先生の誰に対しても動じない強さと、ご遺体に対する誠実さをとても尊敬しています。ところが、神官様はならば朝まで待つからと仰られたようで……」
真紘と重盛は顔を見合わせた。
探しに行こうとしていた人物がまだこのギルド内にいる可能性が高いと知り、重盛は「俺らってやっぱり強運じゃね?」と鼻を鳴らした。
「ルイス先生もずっと渋られていたようなのですが、恋人の最期だから十分だけでも一緒にいさせてほしいと。でも本当にそう思っていたのはお嬢様だけだったのかもしれません。だって、遺品が霊安室にないと知ってすぐに退出したと……」
「もしかしてイヤリングだけないのもモントリーヴォ先生から聞いた? 大丈夫だよ。真紘ちゃんと俺でちゃんと回収してきたから、手元にある。押収品の扱いになっちゃうからベレッタ家に返せるのはもう少し後かもだけど」
「ありがとうございます。押収品は私の方から係りの物に渡しておきますね」
重盛は巾着をテーブルに置いた。
宝石が戻って来ても三人の表情は暗いままだった。
チッチッチ――。
真紘の腕時計の針音が部屋に響く。
「ケイナさんのおかげで、ブランシュさんの体調不良の原因も、昨晩の犯人も、全て結びつきました」
「やはり、やはりそうなのですね……。あの方がお嬢様を。私が、私が、聖魔法を使える使用人は私だけだったのに! お嬢様の側を離れなければっ……」
「だからこそあなたが冤罪のターゲットにされたのかもしれません。きっと犯人にとってあなたは脅威だったんですよ。それに僕も同じです。ブランシュさんが倒れた時点で蘇生すべきでした。昨晩も同じような事を言いましたよ……。本当に呆れるほど愚かだ、僕も――キルタ神官も」
回復魔法の使い手達に、重盛は子供に言い聞かせるように優しく説いた。
「もし後悔とか反省で涙が出そうなら、今後出会う困ってる人を全力で救ってあげてよ。そっちのがきっと幸せになる人が増える。魔法がほとんど使えない俺に言われても説得力ない?」
「いいや、重盛の言う通りだ。君の前向きさはどんな魔法より僕に力をくれるよ。世界一の魔法使いだ……」
俯いていた真紘は顔を上げた。
その翡翠の瞳には、慈愛とまだ溶け切っていない哀しみが混ざり合い静かに燃えていた。
仕事に戻っていったケイナと別れ、真紘と重盛は保管庫へ向かうため長い廊下を行く。
王都のギルドは地図を見ても迷う者が続出するほど広く、目的の部屋が端にあると軽い散歩ほどの距離がある。役所も併設されているので、警察署と役所が一緒になっているようなものだ。
「なあ、真紘ちゃん。犯人、まだ保管庫にいると思う?」
ブーツの踵をカツカツと鳴らしながら歩く真紘に重盛は問いかけた。
「検死の際に回収されたドレスや装飾品は一旦保管庫で管理されるはずだから、まだこの建物内にいると思うよ」
「部屋の前には警備員もいるよな? そんな簡単に入れる?」
「ケイナさんの話からするとキルタ神官は以前ベレッタ家のお抱え神官をやっていて、クルーズトレインに同行させるほど当主から信頼されている。リーベ神官ほどの権力がないにしても、ベレッタ家から頼まれたと言えば警備員は怯んじゃうかもね。しかもカソックを着用している。誰でも油断するよ……」
「カソックを着てたらなんかダメなん?」
「絶対に駄目」と真紘は答えた。
「神官は神に仕える人でしょう。地球でも同じような犯罪があったけど、警察官の制服を着ている人間は犯罪を取り締まる側だ。それが相手を油断させ、隙を生むために悪用される形で人の命が奪われたとなれば、今後、誠実に働いている人にまで疑惑の目が向くよ。大袈裟と言われるかもしれないけど、秩序の崩壊に繋がりかねない」
「そうだな。確かに俺もカソックを着ている神父が悪事を働くわけがないって思い込んでたかも」
「僕もだよ。だからブランシュさんも周りも騙されたんだろうね。素直な人だったとケイナさんも言っていたし、何度も倒れたのはそれこそ予行練習だったんじゃないかな。ブランシュさんにとっては昨日のパーティーが本番だったのかも」
「キルタ神官にとっては本当に死んじゃう量を見極めてたってこと?」
「途中で死んでも構わないと思っていたんじゃないか。ブランシュさんの体調不良に責任を感じてなんて建前で、本当はベレッタ家で盗みを働きすぎたからお抱え神官も辞めたんじゃない?」
「さ、最悪じゃん……。あんまりだろ、そんなの……」
真紘は重盛の背中をあやすように叩いて、僕もそう思う、と眉間に皺を寄せた。
「まあ、これは僕の推測でしかないけど、キルタ神官と恋に落ちたブランシュさんはベレッタ家を出て彼と二人で暮らしたかった。だけど、ブランシュさんには婚約者がいる。家出のように飛び出して行っては、ダブルビー社の仲も拗れ、事業が中断してしまう可能性がある。そこで思いついたのが、自身の死の偽装だった。つまり仮死状態。あの場で倒れたら診断するのはキルタ神官だし、遺体は病死した他の誰かとすり替えればどうにでもなるとでも言われたのかな」
「死の偽装をそそのかしたのはキルタ神官っぽくね? 実際に毒を調達してきたのはあいつだし」
「そうかもね。冷静な状態で考えればこんな綻びだらけの計画、実行しようなんて思えないだろうけど、恋は盲目ってことだったのかな。生まれ変わって彼と二人で世界を見たい、は言葉通り一度本当に死んで生まれ変わるつもりだったんだよ」
「ほお、半年前まで辞書で恋とか愛について調べてそうなやつだったのに、人の恋愛を推察できるほどになったとはねぇ」
ツンツンと脇腹を突かれて真紘は身を捩った。
「恋や愛を教えたのは君でしょう? まさか自分がスピード結婚するとは思っていなかったし、盲目と言われたらイエスと答えるしかないよ。僕も重盛から『超美味いから毒キノコ入りの新作コロッケ食べてみ、死なないから大丈夫~』とか言われたら多分食べちゃうと思う。ブランシュさんもそうかなって思っただけ」
「そんなもん食うなよ!」と焦ったように叫んだ重盛だが、口元は若干緩み、尻尾も揺れていた。
「そうだよね……。そんなもん食うなって思うよね。それくらいブランシュさんにとっては信じられる、信じたい愛だったのかもね」
「だからって殺す必要ないだろ。無言で王都を出て行けば良かったじゃん」
「神官という職種は手放したくなかったんじゃないかな。闇市のマスターも高給取りって言ってたくらいだしね。それにブランシュさんの口を封じれば、結婚詐欺や窃盗の容疑で追われることもなくなる。秘密の交際だったわけだし」
「でもケイナさんは知ってたよ」
「だからこの世に完全犯罪なんて存在しないんだよ」
冷たくなった手の先が重盛の大きな手に包まれる。
一人の女性の人生と恋の終わりがただただ悲しく、どうか安らかに、と祈らずにはいられなかった。
保管庫の前にいるはずの警備員がいない。
重盛がそっとドアを開けると部屋の中は灯りが燈っていて明るかった。
白い壁に囲まれた空間は他の部屋よりも天井が高くて肌寒い。
部屋に入ると額から血を流した警備員がいたため、真紘は治療を施した。警備員を扉の付近に移動させると、部屋の奥からカタン、と音がした。
「おいおい、交渉する間もなく警備員を殴り飛ばしたってわけ? マジで見た目と職権をフル活用してんじゃん」
そうだねと頷くと、真紘は懐から杖を取り出し、音がした方へ進んだ。
重盛は後ろに続いてわざとらしく靴音を鳴らす。パンツのポケットに手を入れたまま笑みを浮かべている彼をちらりと横目で見ると、ばちっと目が合い、お得意のウインクが飛んで来た。
部屋の隅で息を殺す気配がする。
魔力は恐怖に怯え、歪な形でボロボロと溢れていた。
真紘はこれではどっちが悪役か分からないな、とどこか冷静な感想すら抱いた。
「こんにちは。キルタ神官。徹夜でお疲れではないですか」
部屋の角には大きな袋を抱え、カタカタと震えるキルタ神官がいた。
袋の膨らみは彼の強欲さの表れ。ブランシュのティアラとネックレス以外にも事件の押収物など金目の物を盗んで王都を後にするつもりだったのだろう。
神に仕える者とは思えぬ欲深さに吐き気すら覚えた。
真紘にとって、時の神は姉の姿をしている。
曲がったことの大嫌いなあの姉がこんなにも狡猾な犯行を許すとは到底思えない。
何よりパーティー会場で、真紘の慰めの言葉に対し、キルタは神官として果報者だと肩を震わせ涙を零していた。
あの震えと涙は、真紘がブランシュは亡くなっているというキルタの言葉を信じ、回復魔法を使われなかったことに対する喜びと嘲笑だったのだと今なら理解できる。
今も尚、この場を切り抜けようとキルタは神官らしい穏やかな笑みをなんとか張り付けて、脱出の機会を伺っている。
「こ、これは志水様、松永様。こんな場所にどうなさいました? 私は鎮魂の祈りを捧げ終わったので、ブランシュ様の遺品をベレッタ家にお届けしようかと思いまして――」
「もう止めましょうキルタさん。今頃闇市も摘発されています。イヤリングは僕達が回収して来ました。ティアラとネックレス、それから袋の中の物を全て返してください」
すっと右手を差し出すと、キルタはネジが外れた機械のように肩を大きく揺らしながら下品な笑い声を上げた。
「あーあ。そっかぁ。もう終わりだな。偽りの愛で一喜一憂する世間知らずな女に、聖魔法がちょろっと使える程度のモブ女、目の前で殺人が起きているにも気づかずぽやぽやしてるマヌケな救世主様。バカばっかりで今回も余裕だと思ったんだけどなァ」
キルタは欲望が染み付いた赤いストラを首から抜き取り、この色もクソ嫌いだったと吐き捨て床に落とした。
真紘は隣から突き刺さるギラギラとした視線を浴び、ため息をついた。
「重盛、こっち見すぎ……」
「俺めちゃくちゃ怒ってる。あいつの事ボコボコにしてないだけ褒められていいと思う」
「それは……そうだね。重盛君は我慢できて大人でとてもえらいです。お願いなんでも一個だけ聞いてあげるからちょっと考えておいて」
真紘が眉をハの字にして笑うと、重盛の怒りで逆立っていたトゲトゲとした毛は表情と共に柔らかくなった。
こっそりと逃げ出そうとしたキルタの両手を後ろ手に縛り、両足もひとまとめにして、芋虫のように転がった彼を見下ろす。
「クソがああ!! 離せやッ!」
「え~真紘ちゃんは待てって言われて大人しく待ってるやつ見た事ある?」
「ないよ。キルタさん、これからいくつか質問をするので正直に答えてください」
「正直に答えたら見逃してくれるのか」
この機においてもまだ許しを乞うのか、と呆れてものが言えない。
無言で冷めた表情の真紘を見上げたキルタは震える声で、わかった、と頷いた。
「あなたはブランシュさんの事を愛していましたか?」
真紘の質問に重盛はそれを一番に聞くのは彼らしいと思った。
これはどうやって殺したとか今まで何を盗んでどこに売ったとかを聞くような取り調べではない。
あくまで真紘はブランシュの人生に寄り添って事件を終わらせようとしているのだ。
「ああ! 愛していたさ。良い金づるだった。たんまり稼がせてもらった。はっは!」
「そう、ですか……」
一縷の望みを捨てきれない自身の甘さが苦みに変わる。真紘はふうっと短い息を吐いて天井を見上げた。
そんな哀愁を一蹴するようにキルタは語り続ける。
「ブランシュには屋敷の宝の場所や誰がどこで何をしているとか、情報をたんまり横流ししてもらった。本人は未来の旦那に自分の家の事を教えているつもりだったようだが、無理な話だ。最終的に駆け落ちしたいだの面倒な事を言い出したから、夢見たまま永遠に眠ってもらったんだよ」
罪悪感の欠片もないような態度のキルタは至極面倒そうな顔をした。
「仮死状態の薬量もずっと調整していましたね。別に放って置いても死に至ったのではないですか。それでも彼女に毒針を刺したのは何故ですか」
「そんなの確実に殺すために決まっているだろ。俺の狙いはあくまで病死だったが、盗みを働きすぎたんで、もう王都にはいられなくなった。さっきも言ったが、聖魔法が使えるモブがあの会場にいたらまた生き返っちまうかもしれねぇ。針はこの服でも懐に忍ばせやすい上に、一番に容体を確認するのは神官である俺だから刺すのは容易だった。ヒッヒッ、でも良かったよな、あいつもウエディングドレスを身に纏い、俺に愛されていると勘違いしたまま死んでいったんだ。あるはずのない俺との外の世界でのお花畑生活を夢見てなァ!」
穏やかな表情のまま亡くなったブランシュは、確かに明るい未来に想いを馳せていたのかもしれないが、殺人を正当化する理由にはならない。
キルタは壊れた人形のように不気味な笑い声を上げる。そして自身の功績を語るかのように今までの数々の犯行についても自供し始めた。
彼にとってそれは自供ではなく、自身以外の人間は皆愚かだという主張のようなものだった。
聞くに堪えない武勇伝に、重盛は片足をタンタンと鳴らしてキルタの言葉を遮った。
「ああ、もういいって。神官って言っても一人の人間だもんな。表面上の記号がどんなに立派なもんでも、お前、中身は最低だよ」
「は? 私は一握りしかいないレッドカラーの神官だぞ。その辺の神官とは格が違うんだよ」
「いいえ。貴方は聖魔法を使えるだけと馬鹿にしていた見習いの女性の足元にも及びませんよ」
「てかさ、拘束されて身動き取れないのになんでそんな強気なの? 超ダサいんだけど」
「はんっ、目の前で行われた犯行に気が付かない節穴に何を言われても」
「確かに僕達は貴方の悪意に気付かず、ブランシュさんを救うことができませんでしたが、それで貴方の罪が帳消しになることはありませんよ。それにどうしても比較対象が欲しいのであれば、頂点を目指すべきでは? 慢心は成長の妨げにしかなりませんよ。僕の知る限りリーベ神官ほどの聖魔法の使い手はいないと思います。白いストラは神官の最上位の証ですよね?」
「わはっ、自分のこと棚上げすんかよ」
「僕が得意なのは物を創ることで、この世界基準の魔法であれば風と水魔法が得意かなってくらいだから。聖魔法は気合でどうにかしてる。こう、痛いの痛いの飛んでけ~って」
「え、何それ可愛い。あ、待って。心臓ぎゅっとした、痛いかも、恋煩いかも! 今すぐ魔法かけて」
「本当にお馬鹿さんなんだから。それは不治の病なので無理だし、治ったら困るよ……」
「おわああ! 今の見た見た? だぁ~ダメだ、やっぱ見んな。真紘ちゃん超可愛い!」
ひゃーと声を上げながら抱き着いてきた重盛を受け止めると、真紘は足元で転がっているキルタを見た。
麻耶と野木に注意されていたにも関わらず、完全に二人の世界に入っていた。
すぐに話が脱線するのも悪い癖だなと頬を掻く。
しかし、キルタは別の人物の事で頭がいっぱいになっているようであった。
「貴様ら、誰にこの俺が劣っていると……リーベなど、あんなやつ、酒豪で煙草も吸うような生臭神官に俺が……劣っているわけがないだろう!! あの男、俺になんて言ったと思う? あいつが試験官というのも気にくわないのに『基礎から学んで出直してきてください』だと、この俺にッ!」
堰を切ったようにキルタは目を見開き、歯をむき出しにして唾を飛ばした。
先ほどの真紘と重盛の会話など耳に入らないほどリーベ神官に憎悪を抱いていたようだった。
重盛は手を広げて肩を上げた。
「別に神官だからって酒も煙草も禁止されてないんだからよくね? てか窃盗に殺人もやらかしてるあんたが言うことじゃねーだろ」
「うるさい。うるさいうるさいうるさいうるさい!! 王付きの神官がそんなに偉いのか! ちょっとの魔力量の差だろうが! 技術や才能は俺の方が断然上なのに、なぜ……っ!!」
「基礎ってさ、魔力量とか技術とかそういう事じゃないんじゃないの。そんなの生活魔法くらいしか使えない俺にも分かるよ。心構えの問題だろ」
図星を突かれたキルタは金切り声で叫んだ。
「うううるさあああああいッ消えろおお! お前らまとめて消えろ!」
靴に忍ばせていた杖を取り出し、キルタは室内にも関わらず火を放った、と思われたが室内は先ほどと変わらぬまま、色褪せたにおいがするだけだった。
「……消えた? 火は、なんだ、呪文を間違えたのか……」
真っ赤な強欲の炎は幻のように瞬いて消えた。
当然真紘が呪文も唱えずに消したのだが、キルタには理解できず、頭を抱え壊れたラジオのように俺は、俺は、と繰り返すだけになってしまった。
強すぎる自己愛と傲りが招いた身の破滅。
自分は誰よりも優れている、私は彼から愛されている、聖職者に悪人はいない――。
最悪の形でそれぞれの思い込みが重なった結果の末路は、酷く後味の悪いものだった。
真紘と重盛が聴取を終えた頃にはすっかり夜になっていた。
帰り道の途中で麻耶とヴァンサン夫妻に連絡を入れると、皆ブランシュが死んだのは真紘のせいではないと言った。
自宅に戻り、夕食を済ませ、風呂にも入った、と思う。
気付いた時には真紘はベッドの上にいた。
布団をかけられ、腹の上には重盛の手が乗っている。
トントン、トントン――。
眠りに誘うようなリズムは、真紘の涙腺を刺激した。
ぐっと堪えると慣れた手つきで抱き寄せられた。
羽毛布団の端がカサカサと首元を掠める。
「みんな優しいんだよ、何もできなかったのに」
「それは真紘ちゃんがみんなに優しいからじゃね? 何もできなかったじゃないだろ。悪い奴らを捕まえる手助けもしたし、逃げる前に犯人も捕まえた。これから悲しい思いをする人が減った」
「そうかもしれないけど、僕がブランシュさんを蘇生していれば助かった。傲慢かもしれないけど、あの場で救えたのは僕だけだった。目の前にいる人も救いたかったよ……」
「そうだなぁ。ケイナちゃんも同じこと言ってたけど、彼女が自分を責めるのを見てどう思った?」
「分かってる……。でも終わってから何度も考えちゃうんだ。僕が自分を責めても失われた命が戻ることはないのに、心配をかけるだけなのに、苦しいよ……」
「できたとやらなきゃいけなかったは全然違うっしょ。お前優しすぎるんだよ。そんで自分から傷付きにいくんだもん。でもそういう人の善性を信じたいってもう一回踏み出せるようになったの、頼られてる気がして俺は嬉しい。だからさ、しんどいなって時はこうやってハグして」
痛いくらい抱きしめられると心が少しだけ軽くなった。
重盛のいない生活なんてもう考えられない。依存だと言われても今ならそうだと胸を張って答えてしまうだろう。
「怒った時は君を見て、悲しい時は君とハグをするの? 僕ばかり甘やかされてる」
「そんなことないって、お互い様。てか、俺なんてなんもできなかったしね。結構毎回へこむのよ。ね、抱きしめて、慰めてよ」
「大活躍だったよ。まさか一発で闇市を引き当てるとは思わなかった。重盛は勘も鋭いし運も良い、性格も良いし顔も良い」
「ぶふふっ! なぁに? 突然褒めるじゃん」
もぞもぞと体勢を変えて顔を上げると優しい眼差しに包まれた。
重盛の頬をムニムニとマッサージするように揉みながら真紘は微笑む。
「慰めてって言うから……。でも全部本当だよ」
「いひひ、サンキュー。でも一番良いのは運かもね」
「運なの?」
「好きな人から好きだって言ってもらえて、今も俺の腕の中にいるからさ」
「ふふっ、それじゃあ僕も強運だ……」
いつもの調子の重盛に包まれて真紘はいつの間にか夢の中へと誘われていった。
モントリーヴォがギルド長に朝の会話を報告したところ、あの二人ならば恐らく闇市もすぐに見つけてくるだろうとギルド長が人員を手配していたらしい。
軽い口約束をしたつもりが、ここまで期待を寄せられているとは思わず、真紘は冷や汗をかいた。
闇市から回収してきた金を渡すために経理課に向かうと、内勤とは思えない屈強な若い男性二人に出迎えられた。
男性二人掛かりでも持ちきれない量だったため、結局金庫を何往復もさせることになってしまった。
受け渡しが済んだところで、経理課の扉がドンドンドンと叩かれた。
息を切らして飛び込んで来た二十歳前後の女性はケイナ・アンブルと名乗った。
若草色の三つ編みと薄い眉、全体的にくすんだ色合いのワンピースはケイナのシルエットをぼんやりとさせていたが、こちらを真っすぐ見上げる青い瞳は朝の連続ドラマの主人公のような求心力があった。
「救世主様方、お忙しいところ恐縮ですが、少しだけお話させていただいてもよろしいですか?」
「はい。何かお困りごとでも?」
「私は以前、ベレッタ家で働いていたのですが、ブランシュお嬢様の事で……。ですが、ここではちょっと……」
仕事中とはいえ、滅多にお目にかかれない救世主達と、昨晩運び込まれたベレッタ家の人間に仕えていた者の会話となれば気になって当然だ。
ペンの音や紙を捲る音が一斉に止み、経理課はシンと静まり返った。
「分かりました。回収してきたお金は全て預けましたので、どこか別の場所に移動しましょう。どこがいいかな――」
「ならば私の執務室を使ってください。終わったら鍵は彼女に預けていただいて」
後ろから声を掛けて来たのはモントリーヴォだった。
「おわっ、モントリーヴォ先生まだいたん⁉ 目の下のくまやばいよ。早く帰んな!」
「ええ、夜通し働いていたのでもう帰ります。お二人に闇市の話をした責任を感じていたので、早いお戻りで安心しました。一言お礼を申し上げたくて。違法な薬物には検死の際にも随分悩まされましたから。ありがとうございました。改めて御礼申し上げます」
「いえ、こちらもモントリーヴォ先生のおかげでブランシュさんを殺害した人物を絞り込むことができました。ありがとうございます」
「なんと、それは大収穫でしたね。寝て起きる頃には犯人が捕まっていることを願っています。では、ケイナ、お二人をご案内してあげて。私は先に帰るわね」
「はい、先生。お気を付けて」
「貴女も。無茶なことはしないように」
モントリーヴォはケイナの肩を叩いて去っていった。
「えっと、ケイナちゃんと先生はどういう関係?」
重盛の問いかけに対し、ケイナは眉を下げて少し照れたような顔をした。
「師であり、歳の離れた姉のような人、でしょうか。立ち話もなんですから、ルイス先生の執務室へどうぞ」
二人はケイナの後に続く。
長い廊下の途中で「モントリーヴォ先生ってルイスって名前なんだな」と重盛は真紘に耳打ちした。
今朝と同じソファーに腰を下ろす。
ケイナは慣れた手つきで紅茶を淹れた。空になったシュガーポットを見て、ため息をつきながら棚から袋を取り出し、さっと角砂糖の補充までしている。
重盛は中身の詰まった花柄の器を受け取ると、トポトポと角砂糖を三つティーカップに落とした。
ストレート派の真紘は何も入れず、紅茶の香りを楽しんだ後、一口ずつ味わうようにして飲んだ。
キリキリ痛む胃がじんわりと温まる。
闇市に潜入した際は使命感でアドレナリンが出ていたためか、今になって疲労感がどっと肩に圧し掛かって来た。
「お時間をいただきありがとうございます。早速ですがお話聞いていただけますか?」
「勿論です。聞かせてください」
コクンと意を決したように頷くと、ケイナはモントリーヴォの元で働き始めた経緯を説明し始めた。
地方の子爵家の四女として生まれたケイナはベレッタ家の家庭教師として王都へやってきた。家庭教師とは名ばかりで、殆どメイドと同じ扱いを受けていた。
数年間働いたある日のこと、ベレッタ家のお抱え神官とブランシュの逢瀬を目撃した。
神官はいつもカソックを着用していて、いつも厳しい表情を浮かべている人だった。そんな彼がブランシュにだけ人が変わったかのような柔和な笑みを見せていたのだから大変驚いた。
しかし、その頃にはバロン家とのクルーズトレインの共同事業は着実に進んでおり、ボトルルフとの婚約はほぼ確定だと噂されていたため、ケイナは頭を抱えた。
箱入り娘のブランシュは純粋で、幼かった。
教えられた事はなんでも素直に聞き入れる、可愛らしい人。一方で心のない人間からすれば鴨が葱を背負って来るようなもので、常に周囲が目を光らせていた。
まさか内部にブランシュをたぶらかす人間がいようとは、さらにそれが神に仕える神官だなんて誰も想定していなかった。
『彼とは真剣に愛し合っているの。どうか貴女にだけは応援してほしい。私は身分を捨て、生まれ変わって、彼と世界を見て回りたい。賢い彼の言う通りにしていればきっと上手くいくわ』
家庭教師とはいえ、共に育ってきた妹のような存在であるブランシュの願いに、ケイナは首を横に振ることはできなかった。
クルーズトレインのプレオープンの日程が決まった頃、事件は起きた。
ベレッタ家の奥方の一番のお気に入りの指輪が消えたのだ。
窃盗騒ぎはこれが初めてのことではなく、これまでも何度か発生していた。
内部犯の線がいよいよ濃厚になりピリつく雰囲気の中、使用人は勿論のこと、当主、長男、次男、長女のブランシュ、次女、そしてケイナも必死に探した。
もう屋敷には塵一つ落ちていないと諦めかけた時、広い庭の隅にある花壇の中からハンカチに包まれた状態で指輪が見つかった。
問題は使用されていたハンカチがケイナの物だったことだ。
弁解の余地もなく、ケイナは身の覚えのない窃盗の罪を着せられ、屋敷を追い出された。
窃盗犯としてギルドに突き出されなかったのは、以前体調不良で倒れたブランシュを魔法で救ったことがあったからだと、使用人仲間から聞かされた。
犯罪者扱いのまま実家には戻れない。
ケイナは路頭に迷い、冒険者の登録をしようと魔法適正試験を受けていたところ、偶然居合わせたモントリーヴォに拾われた。
モントリーヴォは今までよく一人で生活していたな、と感心してしまうほど生活能力が皆無だった。
ケイナは取り急ぎ衣食住の保障と、生きていく力が欲しい。
モントリーヴォは検死を専門とする神官を目指す弟子と家事を手伝ってくれる人手が欲しい。
二人が手を取り合うのに時間は必要なかった。
今でも交流のあるベレッタ家の使用人仲間から再びブランシュが倒れたと聞いたのは年末のことだった。
度重なるブランシュの体調不良もあり、お抱え神官はベレッタ家を辞めたと聞いてさらに驚いた。
ところが昨晩、その男は亡くなったブランシュと共にギルドに現れた。
辞めても尚、彼はブランシュの事を愛していたのだろう、と安心もした。
知己である者の検死は慣れた自分でも辛い事だから先に帰るように、とモントリーヴォに指示され、ケイナは先に帰宅した。
早朝に検死終わりのモントリーヴォから昨晩の話を聞くまでは、ブランシュと神官の愛を信じていたのだ――。
ケイナのワンピースの腰あたりには何度もきつく握ったような跡が残っている。
真紘は俯く彼女に訊ねた。
「モントリーヴォ先生はなんと」
「神官様から、祈りを捧げるためブランシュ様と二人にさせてくれないかと懇願されたようなのですが、検死前にご遺体に触れられては困るので断ったと」
「ご英断ですね。ギルド神官の鑑だ」
「ええ、少し変わった方ですが、そんなルイス先生の誰に対しても動じない強さと、ご遺体に対する誠実さをとても尊敬しています。ところが、神官様はならば朝まで待つからと仰られたようで……」
真紘と重盛は顔を見合わせた。
探しに行こうとしていた人物がまだこのギルド内にいる可能性が高いと知り、重盛は「俺らってやっぱり強運じゃね?」と鼻を鳴らした。
「ルイス先生もずっと渋られていたようなのですが、恋人の最期だから十分だけでも一緒にいさせてほしいと。でも本当にそう思っていたのはお嬢様だけだったのかもしれません。だって、遺品が霊安室にないと知ってすぐに退出したと……」
「もしかしてイヤリングだけないのもモントリーヴォ先生から聞いた? 大丈夫だよ。真紘ちゃんと俺でちゃんと回収してきたから、手元にある。押収品の扱いになっちゃうからベレッタ家に返せるのはもう少し後かもだけど」
「ありがとうございます。押収品は私の方から係りの物に渡しておきますね」
重盛は巾着をテーブルに置いた。
宝石が戻って来ても三人の表情は暗いままだった。
チッチッチ――。
真紘の腕時計の針音が部屋に響く。
「ケイナさんのおかげで、ブランシュさんの体調不良の原因も、昨晩の犯人も、全て結びつきました」
「やはり、やはりそうなのですね……。あの方がお嬢様を。私が、私が、聖魔法を使える使用人は私だけだったのに! お嬢様の側を離れなければっ……」
「だからこそあなたが冤罪のターゲットにされたのかもしれません。きっと犯人にとってあなたは脅威だったんですよ。それに僕も同じです。ブランシュさんが倒れた時点で蘇生すべきでした。昨晩も同じような事を言いましたよ……。本当に呆れるほど愚かだ、僕も――キルタ神官も」
回復魔法の使い手達に、重盛は子供に言い聞かせるように優しく説いた。
「もし後悔とか反省で涙が出そうなら、今後出会う困ってる人を全力で救ってあげてよ。そっちのがきっと幸せになる人が増える。魔法がほとんど使えない俺に言われても説得力ない?」
「いいや、重盛の言う通りだ。君の前向きさはどんな魔法より僕に力をくれるよ。世界一の魔法使いだ……」
俯いていた真紘は顔を上げた。
その翡翠の瞳には、慈愛とまだ溶け切っていない哀しみが混ざり合い静かに燃えていた。
仕事に戻っていったケイナと別れ、真紘と重盛は保管庫へ向かうため長い廊下を行く。
王都のギルドは地図を見ても迷う者が続出するほど広く、目的の部屋が端にあると軽い散歩ほどの距離がある。役所も併設されているので、警察署と役所が一緒になっているようなものだ。
「なあ、真紘ちゃん。犯人、まだ保管庫にいると思う?」
ブーツの踵をカツカツと鳴らしながら歩く真紘に重盛は問いかけた。
「検死の際に回収されたドレスや装飾品は一旦保管庫で管理されるはずだから、まだこの建物内にいると思うよ」
「部屋の前には警備員もいるよな? そんな簡単に入れる?」
「ケイナさんの話からするとキルタ神官は以前ベレッタ家のお抱え神官をやっていて、クルーズトレインに同行させるほど当主から信頼されている。リーベ神官ほどの権力がないにしても、ベレッタ家から頼まれたと言えば警備員は怯んじゃうかもね。しかもカソックを着用している。誰でも油断するよ……」
「カソックを着てたらなんかダメなん?」
「絶対に駄目」と真紘は答えた。
「神官は神に仕える人でしょう。地球でも同じような犯罪があったけど、警察官の制服を着ている人間は犯罪を取り締まる側だ。それが相手を油断させ、隙を生むために悪用される形で人の命が奪われたとなれば、今後、誠実に働いている人にまで疑惑の目が向くよ。大袈裟と言われるかもしれないけど、秩序の崩壊に繋がりかねない」
「そうだな。確かに俺もカソックを着ている神父が悪事を働くわけがないって思い込んでたかも」
「僕もだよ。だからブランシュさんも周りも騙されたんだろうね。素直な人だったとケイナさんも言っていたし、何度も倒れたのはそれこそ予行練習だったんじゃないかな。ブランシュさんにとっては昨日のパーティーが本番だったのかも」
「キルタ神官にとっては本当に死んじゃう量を見極めてたってこと?」
「途中で死んでも構わないと思っていたんじゃないか。ブランシュさんの体調不良に責任を感じてなんて建前で、本当はベレッタ家で盗みを働きすぎたからお抱え神官も辞めたんじゃない?」
「さ、最悪じゃん……。あんまりだろ、そんなの……」
真紘は重盛の背中をあやすように叩いて、僕もそう思う、と眉間に皺を寄せた。
「まあ、これは僕の推測でしかないけど、キルタ神官と恋に落ちたブランシュさんはベレッタ家を出て彼と二人で暮らしたかった。だけど、ブランシュさんには婚約者がいる。家出のように飛び出して行っては、ダブルビー社の仲も拗れ、事業が中断してしまう可能性がある。そこで思いついたのが、自身の死の偽装だった。つまり仮死状態。あの場で倒れたら診断するのはキルタ神官だし、遺体は病死した他の誰かとすり替えればどうにでもなるとでも言われたのかな」
「死の偽装をそそのかしたのはキルタ神官っぽくね? 実際に毒を調達してきたのはあいつだし」
「そうかもね。冷静な状態で考えればこんな綻びだらけの計画、実行しようなんて思えないだろうけど、恋は盲目ってことだったのかな。生まれ変わって彼と二人で世界を見たい、は言葉通り一度本当に死んで生まれ変わるつもりだったんだよ」
「ほお、半年前まで辞書で恋とか愛について調べてそうなやつだったのに、人の恋愛を推察できるほどになったとはねぇ」
ツンツンと脇腹を突かれて真紘は身を捩った。
「恋や愛を教えたのは君でしょう? まさか自分がスピード結婚するとは思っていなかったし、盲目と言われたらイエスと答えるしかないよ。僕も重盛から『超美味いから毒キノコ入りの新作コロッケ食べてみ、死なないから大丈夫~』とか言われたら多分食べちゃうと思う。ブランシュさんもそうかなって思っただけ」
「そんなもん食うなよ!」と焦ったように叫んだ重盛だが、口元は若干緩み、尻尾も揺れていた。
「そうだよね……。そんなもん食うなって思うよね。それくらいブランシュさんにとっては信じられる、信じたい愛だったのかもね」
「だからって殺す必要ないだろ。無言で王都を出て行けば良かったじゃん」
「神官という職種は手放したくなかったんじゃないかな。闇市のマスターも高給取りって言ってたくらいだしね。それにブランシュさんの口を封じれば、結婚詐欺や窃盗の容疑で追われることもなくなる。秘密の交際だったわけだし」
「でもケイナさんは知ってたよ」
「だからこの世に完全犯罪なんて存在しないんだよ」
冷たくなった手の先が重盛の大きな手に包まれる。
一人の女性の人生と恋の終わりがただただ悲しく、どうか安らかに、と祈らずにはいられなかった。
保管庫の前にいるはずの警備員がいない。
重盛がそっとドアを開けると部屋の中は灯りが燈っていて明るかった。
白い壁に囲まれた空間は他の部屋よりも天井が高くて肌寒い。
部屋に入ると額から血を流した警備員がいたため、真紘は治療を施した。警備員を扉の付近に移動させると、部屋の奥からカタン、と音がした。
「おいおい、交渉する間もなく警備員を殴り飛ばしたってわけ? マジで見た目と職権をフル活用してんじゃん」
そうだねと頷くと、真紘は懐から杖を取り出し、音がした方へ進んだ。
重盛は後ろに続いてわざとらしく靴音を鳴らす。パンツのポケットに手を入れたまま笑みを浮かべている彼をちらりと横目で見ると、ばちっと目が合い、お得意のウインクが飛んで来た。
部屋の隅で息を殺す気配がする。
魔力は恐怖に怯え、歪な形でボロボロと溢れていた。
真紘はこれではどっちが悪役か分からないな、とどこか冷静な感想すら抱いた。
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袋の膨らみは彼の強欲さの表れ。ブランシュのティアラとネックレス以外にも事件の押収物など金目の物を盗んで王都を後にするつもりだったのだろう。
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真紘にとって、時の神は姉の姿をしている。
曲がったことの大嫌いなあの姉がこんなにも狡猾な犯行を許すとは到底思えない。
何よりパーティー会場で、真紘の慰めの言葉に対し、キルタは神官として果報者だと肩を震わせ涙を零していた。
あの震えと涙は、真紘がブランシュは亡くなっているというキルタの言葉を信じ、回復魔法を使われなかったことに対する喜びと嘲笑だったのだと今なら理解できる。
今も尚、この場を切り抜けようとキルタは神官らしい穏やかな笑みをなんとか張り付けて、脱出の機会を伺っている。
「こ、これは志水様、松永様。こんな場所にどうなさいました? 私は鎮魂の祈りを捧げ終わったので、ブランシュ様の遺品をベレッタ家にお届けしようかと思いまして――」
「もう止めましょうキルタさん。今頃闇市も摘発されています。イヤリングは僕達が回収して来ました。ティアラとネックレス、それから袋の中の物を全て返してください」
すっと右手を差し出すと、キルタはネジが外れた機械のように肩を大きく揺らしながら下品な笑い声を上げた。
「あーあ。そっかぁ。もう終わりだな。偽りの愛で一喜一憂する世間知らずな女に、聖魔法がちょろっと使える程度のモブ女、目の前で殺人が起きているにも気づかずぽやぽやしてるマヌケな救世主様。バカばっかりで今回も余裕だと思ったんだけどなァ」
キルタは欲望が染み付いた赤いストラを首から抜き取り、この色もクソ嫌いだったと吐き捨て床に落とした。
真紘は隣から突き刺さるギラギラとした視線を浴び、ため息をついた。
「重盛、こっち見すぎ……」
「俺めちゃくちゃ怒ってる。あいつの事ボコボコにしてないだけ褒められていいと思う」
「それは……そうだね。重盛君は我慢できて大人でとてもえらいです。お願いなんでも一個だけ聞いてあげるからちょっと考えておいて」
真紘が眉をハの字にして笑うと、重盛の怒りで逆立っていたトゲトゲとした毛は表情と共に柔らかくなった。
こっそりと逃げ出そうとしたキルタの両手を後ろ手に縛り、両足もひとまとめにして、芋虫のように転がった彼を見下ろす。
「クソがああ!! 離せやッ!」
「え~真紘ちゃんは待てって言われて大人しく待ってるやつ見た事ある?」
「ないよ。キルタさん、これからいくつか質問をするので正直に答えてください」
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この機においてもまだ許しを乞うのか、と呆れてものが言えない。
無言で冷めた表情の真紘を見上げたキルタは震える声で、わかった、と頷いた。
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真紘の質問に重盛はそれを一番に聞くのは彼らしいと思った。
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穏やかな表情のまま亡くなったブランシュは、確かに明るい未来に想いを馳せていたのかもしれないが、殺人を正当化する理由にはならない。
キルタは壊れた人形のように不気味な笑い声を上げる。そして自身の功績を語るかのように今までの数々の犯行についても自供し始めた。
彼にとってそれは自供ではなく、自身以外の人間は皆愚かだという主張のようなものだった。
聞くに堪えない武勇伝に、重盛は片足をタンタンと鳴らしてキルタの言葉を遮った。
「ああ、もういいって。神官って言っても一人の人間だもんな。表面上の記号がどんなに立派なもんでも、お前、中身は最低だよ」
「は? 私は一握りしかいないレッドカラーの神官だぞ。その辺の神官とは格が違うんだよ」
「いいえ。貴方は聖魔法を使えるだけと馬鹿にしていた見習いの女性の足元にも及びませんよ」
「てかさ、拘束されて身動き取れないのになんでそんな強気なの? 超ダサいんだけど」
「はんっ、目の前で行われた犯行に気が付かない節穴に何を言われても」
「確かに僕達は貴方の悪意に気付かず、ブランシュさんを救うことができませんでしたが、それで貴方の罪が帳消しになることはありませんよ。それにどうしても比較対象が欲しいのであれば、頂点を目指すべきでは? 慢心は成長の妨げにしかなりませんよ。僕の知る限りリーベ神官ほどの聖魔法の使い手はいないと思います。白いストラは神官の最上位の証ですよね?」
「わはっ、自分のこと棚上げすんかよ」
「僕が得意なのは物を創ることで、この世界基準の魔法であれば風と水魔法が得意かなってくらいだから。聖魔法は気合でどうにかしてる。こう、痛いの痛いの飛んでけ~って」
「え、何それ可愛い。あ、待って。心臓ぎゅっとした、痛いかも、恋煩いかも! 今すぐ魔法かけて」
「本当にお馬鹿さんなんだから。それは不治の病なので無理だし、治ったら困るよ……」
「おわああ! 今の見た見た? だぁ~ダメだ、やっぱ見んな。真紘ちゃん超可愛い!」
ひゃーと声を上げながら抱き着いてきた重盛を受け止めると、真紘は足元で転がっているキルタを見た。
麻耶と野木に注意されていたにも関わらず、完全に二人の世界に入っていた。
すぐに話が脱線するのも悪い癖だなと頬を掻く。
しかし、キルタは別の人物の事で頭がいっぱいになっているようであった。
「貴様ら、誰にこの俺が劣っていると……リーベなど、あんなやつ、酒豪で煙草も吸うような生臭神官に俺が……劣っているわけがないだろう!! あの男、俺になんて言ったと思う? あいつが試験官というのも気にくわないのに『基礎から学んで出直してきてください』だと、この俺にッ!」
堰を切ったようにキルタは目を見開き、歯をむき出しにして唾を飛ばした。
先ほどの真紘と重盛の会話など耳に入らないほどリーベ神官に憎悪を抱いていたようだった。
重盛は手を広げて肩を上げた。
「別に神官だからって酒も煙草も禁止されてないんだからよくね? てか窃盗に殺人もやらかしてるあんたが言うことじゃねーだろ」
「うるさい。うるさいうるさいうるさいうるさい!! 王付きの神官がそんなに偉いのか! ちょっとの魔力量の差だろうが! 技術や才能は俺の方が断然上なのに、なぜ……っ!!」
「基礎ってさ、魔力量とか技術とかそういう事じゃないんじゃないの。そんなの生活魔法くらいしか使えない俺にも分かるよ。心構えの問題だろ」
図星を突かれたキルタは金切り声で叫んだ。
「うううるさあああああいッ消えろおお! お前らまとめて消えろ!」
靴に忍ばせていた杖を取り出し、キルタは室内にも関わらず火を放った、と思われたが室内は先ほどと変わらぬまま、色褪せたにおいがするだけだった。
「……消えた? 火は、なんだ、呪文を間違えたのか……」
真っ赤な強欲の炎は幻のように瞬いて消えた。
当然真紘が呪文も唱えずに消したのだが、キルタには理解できず、頭を抱え壊れたラジオのように俺は、俺は、と繰り返すだけになってしまった。
強すぎる自己愛と傲りが招いた身の破滅。
自分は誰よりも優れている、私は彼から愛されている、聖職者に悪人はいない――。
最悪の形でそれぞれの思い込みが重なった結果の末路は、酷く後味の悪いものだった。
真紘と重盛が聴取を終えた頃にはすっかり夜になっていた。
帰り道の途中で麻耶とヴァンサン夫妻に連絡を入れると、皆ブランシュが死んだのは真紘のせいではないと言った。
自宅に戻り、夕食を済ませ、風呂にも入った、と思う。
気付いた時には真紘はベッドの上にいた。
布団をかけられ、腹の上には重盛の手が乗っている。
トントン、トントン――。
眠りに誘うようなリズムは、真紘の涙腺を刺激した。
ぐっと堪えると慣れた手つきで抱き寄せられた。
羽毛布団の端がカサカサと首元を掠める。
「みんな優しいんだよ、何もできなかったのに」
「それは真紘ちゃんがみんなに優しいからじゃね? 何もできなかったじゃないだろ。悪い奴らを捕まえる手助けもしたし、逃げる前に犯人も捕まえた。これから悲しい思いをする人が減った」
「そうかもしれないけど、僕がブランシュさんを蘇生していれば助かった。傲慢かもしれないけど、あの場で救えたのは僕だけだった。目の前にいる人も救いたかったよ……」
「そうだなぁ。ケイナちゃんも同じこと言ってたけど、彼女が自分を責めるのを見てどう思った?」
「分かってる……。でも終わってから何度も考えちゃうんだ。僕が自分を責めても失われた命が戻ることはないのに、心配をかけるだけなのに、苦しいよ……」
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「運なの?」
「好きな人から好きだって言ってもらえて、今も俺の腕の中にいるからさ」
「ふふっ、それじゃあ僕も強運だ……」
いつもの調子の重盛に包まれて真紘はいつの間にか夢の中へと誘われていった。
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