信念の弁証法

WOOPマン

文字の大きさ
上 下
51 / 61
3.結末

3-1

しおりを挟む
ある日、デヴは王城から手紙を受け取り、呼び出されることが告げられた。その手紙には具体的な理由は書かれていなかったが、彼は何か重大な出来事が待っていることを感じ取った。

王は後継者が後を継ぎ、敵対していたバラモンの長老アーヤも高齢で既に亡くなっていた。

しかし、胸に淡い不安を抱きながらも、毛髪でできた服を着た。デヴは決断を固め、王城へと向かっていく。彼はロカーヤタの教義を信奉し、バラモン達による誅殺の可能性を覚悟していた。それでも、彼の心には強い信念が宿っていた。

足早に城門をくぐり、デヴは城内へと進んでいく。城内は活気に満ち、権力者たちの姿が行き交う。しかし、彼の心は静かであり、自らの目的を追い求める覚悟が心の奥底に深く刻まれていた。

一歩一歩、彼は城内の通路を進みながら、過去の記憶が心によみがえった。特に、師であり友であったダーラに毒薬を渡した日のことが鮮明に思い出される。あの時の決断は苦渋の選択であり、彼の心には未だに深い傷を残していた。

しかし、彼は過去の出来事にとらわれず、前に進む決意を胸に秘めていた。彼は自らが信じる教義と理念を守るために、権力と対峙しなければならないのだと自覚していた。

やがて、デヴは王の居殿へと辿り着く。緊張が心を揺さぶるが、彼は深呼吸をして自分を落ち着かせた。

王やバラモンたちの姿が目の前に現れる。彼らの表情は厳粛であり、彼の登城に何らかの重大な意味があることを感じ取った。

王の声が響く。

「我が問いに答えて欲しい」

王の姿が目に飛び込んできた。代替わりしてまだ若い王だったが、既に十分な威厳があり、マガダ王国の象徴としての役割を果たしていた。王は微笑みながらデヴに声をかけた。

「よく来てくれた。聞くところによると、君はローカヤタの一番の高僧で様々な説に明るいということだが、それでどんな考えを持っているのか教えてくれ」

デヴは王を真っ直ぐに見つめた。あの時とは何もかもが違っていた。デヴは、正しいと思うことをこの宮廷で大声で語るべき時がきたと悟った。

「王よ、お聞きください。ローカヤタの教義によって、生け贄が社会に与える影響について語りたいと思います。生け贄には意味がないばかりか、生命を犠牲にするだけで害悪しかありません。神々がいるとして、どうして彼らに捧げ物が必要でしょうか?本当の生け贄の目的は違うのです」

王の目が少し見開かれた。デヴの言葉は王は驚かされた。

「生け贄の目的は暴力、欲望、好奇です。人々が欲望をもって相争う。その時、秘儀という妄想で姿を隠し、哀れな犠牲獣に全員で暴力を振るい、娯楽を与えて争いを避けるのです」

王は考え込むようにデヴの言葉を受け入れ、じっと聞いた。

「私は新たな時代が訪れたことを感じています。王様の知恵と優しさがこの王国を変える力となり得るのです。ローカヤタの教義だけでなく、新しい考え方を取り入れ、秘密で暴力を隠して振るう世界ではなく、慈愛を持って生命を尊重する世界を築くことができるのです」

王は、過去の王位争いやバラモン達の対立、醜い政治闘争を思い出した。

「デヴよ、君の言葉に心を打たれた。君の持つ知恵と洞察力がこの王国に新たな風を吹き込むことを信じよう。私も変わり、平和と慈愛の世界を実現するために努力しようと思う」

デヴの胸には感激と喜びが満ち溢れた。彼が語るローカヤタの教義は、新しい時代への架け橋となり、王との対話が新たな未来を築くきっかけとなって、マガダ王国は変革の道を歩み出した。
しおりを挟む

処理中です...