出逢えた幸せ

ずーちゃ

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第三章:身体と愛と涙味の……

(22)

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 みっきーのお母さんが作ったというクリームシチューは、野菜とお肉がたっぷり入っていて熱々で、すごく美味しくて身体の芯からあったまる。

「すっごい美味しいね」

「意外でしょ?」

 みっきーに訊かれて、俺はスプーンに掬ったシチューをフーフーと息を吹きかけて冷ましながら、上目遣いにみっきーを見上げた。

「何が?」

「うちの母親、普通の家庭料理を毎日作って、時々こうして持ってきてくれるの」

「ああー、そう言われてみれば、意外かも……」

 金持ちの奥様って、専属のコックとかがいて、食事の時は長細いテーブルで白いナフキンとか膝にのせてさ、メイドとかもいて、家事なんかしないってイメージ?

「うちの両親、恋愛結婚なんだよ」

「え? それって変わってる事?」

「いや、会社の事とかもあって、見合いでって事が多いんだけど、父親はそういうのが嫌で母と駆け落ちとかしたそうだよ」

「へえ、やるね! お父さん」

「それで、なんだかんだあって結局結婚を許してもらったんだけど。だから俺の母親は普通に家事や子育てをしてさ、もう三十路の息子のところに、作った料理を時々届けたりするんだよね。何歳になっても子供は子供らしいよ」

 ――へ?

「俺は多分、父親に似てて、家の為に好きでもない人と結婚するタイプじゃないんだよね」

 ――うん、みっきーはそういうタイプじゃないよね……。いや、その前に……

「だから、家の仕事は継がないって言うのを、じーちゃんは怒っているだろうけど、両親は反対してないんだよ。まぁ、そのせいで勇樹が苦労してるのも事実で……」

 ――ん、そうなんだ。でもそれよりも、俺が気になるのは……

「勇樹が俺の事を、いい加減だって怒るのもその辺りの理由だとは思う」

 ――なるほど! それでなのか。……うん、いや、それよりも、俺、ちょっと聞きたい事が……。

「だからさ、さっき言った事……、」

 ――うん、さっき言った事、気になるっ。

「俺に付いてきて、一生一緒にいてくれる? って、今すぐじゃなくて、もっと未来の事だけど、冗談で言ったんじゃないからね」

「うん、分かった。それより、三十路って? みっきー30歳なの?」

「……へ?」

 みっきーの動きが一瞬止まった。その後、掌を額に当てて「うーん」と項垂れた。

「あのね、俺……今、真面目にプロポーズしたつもりなんだけど……」

 上目遣いで俺を見るみっきーが、なんだか可愛くて、それがちょっと面白くて、俺は笑いが込み上げるのを我慢できなくて……。

「くっ、くっ、」

 口を押さえた手の隙間から、笑い声が零れてしまう。

「もーー、なおぉー。いいよもう、分かったよ。俺は30歳! 悪かったな、おじさんで!」

 いつも飄々としているみっきーの拗ねてる姿がちょっと意外だったりする。

 俺が堪え切れずに大笑いすると、みっきーも一緒になって、大きな口を開けて笑いだした。

「いや、おじさんじゃないよ、若いよ、みっきーは、あははは」

「もー、笑いすぎだよ、直」

 その後も二人で顔を見合わせて、またお互い大声で笑って……。

 茶化してしまったけど……本当はみっきーの真面目な告白も、俺の胸にはちゃんと響いてる。
 
 ――だけど、俺……今は、やっぱり……。

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