118 / 351
第四章:想う心と○○な味の……
(16)
しおりを挟む
東側の角部屋を目指して全速力で走って行って、ドアの前で何度も深呼吸。
インターホンを押そうと、伸ばした指が震えている。
――マジで俺、乙女過ぎるっ。
それでもドキドキする心臓を、どうする事もできないんだから仕方ない。止めるわけにいかないし!
意を決して、インターホンのボタンを押す。
――ピーンポーン……って、音だけが聞こえてきて、部屋の中からは物音一つしない。
部屋の灯り消えていたもんな。
もう一度押してみる。……が、結果は同じ事。
――うん、これは想定内。
終電まで待つと決めたんだ。それまでは待つ。もしも、今夜会えなくても、また来ればいい。
玄関前が、少し奥まった余裕のあるスペースで、角部屋と言うこともあって人目も避けられる。
廊下の手摺壁も、途中までがコンクリートで上部分がガラスで出来ていて、しゃがんでいれば、ある程度の風は避ける事ができる。
それでも、もうすぐ2月というこの時期だ。しかも夜ともなれば気温も低い。いくら手摺壁があると言っても、ここは12階。時折強い風が、手摺壁を越えて吹き込んでくる。
「耳が千切れそう……」
首にグルグルに巻いたマフラーで耳を隠して、冷え切った指先にはぁーっと息を吹きかけても、あまり効果はなかった。
「手袋が欲しいな……」
ハーフ丈のコートのポケットに手を突っ込んでも、少しも温まらなかった。
時間が経つにつれ、さっきまで浮かれていた気持ちに、少しずつ不安の色が混ざってくる。
――彼女と一緒に帰ってきたらどうしよう。
もう俺の事なんか忘れてるかもしれないのに、ここで待ってたら迷惑じゃないだろうか。
もしかしたら、忘れられている以前に、嫌われてしまっているかもしれないのに……。
透さんに自分の気持ちを伝える以前に、冷たい目で見られてしまったら……。
いや、俺のことを見てくれるなら、たとえ冷たくされても怒っていてもいい。
それより不安なのは、俺のことなんて目にも留めてくれずに、無視されたらどうしよう……っていう事。
考え出したらきりがなく、どんどん気持ちが落ちていってしまう。
それは、冷たい冬の風に体温を奪われていくのとリンクしていた。
**
「遅いなぁ、透さん……」
携帯で時間を確認すると、終電まであと30分。
固まってしまった膝を伸ばして、壁に寄りかかりながら立ち上がる。
――今夜は、諦めるか……。
もしかしたら、彼女とどっかに行った……とか、余計な事を考える頭をブンブンと横に振る。
――また来ればいい。
一生会えないわけじゃない、会おうと思えば会えるんだから。そう自分に言い聞かせるしかなかった。
**
駅までの道のりは、行きと帰りでは随分足取りが違う。自分でもそれが分かって苦笑した。
――俺ってホント単純……ただ留守だっただけなのに……。
勝手に行って、留守だからって勝手に落ち込んで、ホントに馬鹿だな。
重い足取りでも、なんとか終電に間に合って、乗り込んだ電車の窓から見える街の灯り。
行きと同じ風景なのに、なんだか寂しい。
終電に乗っている人達も、心なしか疲れた顔をして、それぞれの駅で降りて行く。
透さんのマンションへ向かう時は心地良く感じた冷たい冬の空気も、今は心まで凍てつかせる。
寒くて、寂しい――――
インターホンを押そうと、伸ばした指が震えている。
――マジで俺、乙女過ぎるっ。
それでもドキドキする心臓を、どうする事もできないんだから仕方ない。止めるわけにいかないし!
意を決して、インターホンのボタンを押す。
――ピーンポーン……って、音だけが聞こえてきて、部屋の中からは物音一つしない。
部屋の灯り消えていたもんな。
もう一度押してみる。……が、結果は同じ事。
――うん、これは想定内。
終電まで待つと決めたんだ。それまでは待つ。もしも、今夜会えなくても、また来ればいい。
玄関前が、少し奥まった余裕のあるスペースで、角部屋と言うこともあって人目も避けられる。
廊下の手摺壁も、途中までがコンクリートで上部分がガラスで出来ていて、しゃがんでいれば、ある程度の風は避ける事ができる。
それでも、もうすぐ2月というこの時期だ。しかも夜ともなれば気温も低い。いくら手摺壁があると言っても、ここは12階。時折強い風が、手摺壁を越えて吹き込んでくる。
「耳が千切れそう……」
首にグルグルに巻いたマフラーで耳を隠して、冷え切った指先にはぁーっと息を吹きかけても、あまり効果はなかった。
「手袋が欲しいな……」
ハーフ丈のコートのポケットに手を突っ込んでも、少しも温まらなかった。
時間が経つにつれ、さっきまで浮かれていた気持ちに、少しずつ不安の色が混ざってくる。
――彼女と一緒に帰ってきたらどうしよう。
もう俺の事なんか忘れてるかもしれないのに、ここで待ってたら迷惑じゃないだろうか。
もしかしたら、忘れられている以前に、嫌われてしまっているかもしれないのに……。
透さんに自分の気持ちを伝える以前に、冷たい目で見られてしまったら……。
いや、俺のことを見てくれるなら、たとえ冷たくされても怒っていてもいい。
それより不安なのは、俺のことなんて目にも留めてくれずに、無視されたらどうしよう……っていう事。
考え出したらきりがなく、どんどん気持ちが落ちていってしまう。
それは、冷たい冬の風に体温を奪われていくのとリンクしていた。
**
「遅いなぁ、透さん……」
携帯で時間を確認すると、終電まであと30分。
固まってしまった膝を伸ばして、壁に寄りかかりながら立ち上がる。
――今夜は、諦めるか……。
もしかしたら、彼女とどっかに行った……とか、余計な事を考える頭をブンブンと横に振る。
――また来ればいい。
一生会えないわけじゃない、会おうと思えば会えるんだから。そう自分に言い聞かせるしかなかった。
**
駅までの道のりは、行きと帰りでは随分足取りが違う。自分でもそれが分かって苦笑した。
――俺ってホント単純……ただ留守だっただけなのに……。
勝手に行って、留守だからって勝手に落ち込んで、ホントに馬鹿だな。
重い足取りでも、なんとか終電に間に合って、乗り込んだ電車の窓から見える街の灯り。
行きと同じ風景なのに、なんだか寂しい。
終電に乗っている人達も、心なしか疲れた顔をして、それぞれの駅で降りて行く。
透さんのマンションへ向かう時は心地良く感じた冷たい冬の空気も、今は心まで凍てつかせる。
寒くて、寂しい――――
5
あなたにおすすめの小説
【完結】 男達の性宴
蔵屋
BL
僕が通う高校の学校医望月先生に
今夜8時に来るよう、青山のホテルに
誘われた。
ホテルに来れば会場に案内すると
言われ、会場案内図を渡された。
高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を
早くも社会人扱いする両親。
僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、
東京へ飛ばして行った。
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
宵にまぎれて兎は回る
宇土為名
BL
高校3年の春、同級生の名取に告白した冬だったが名取にはあっさりと冗談だったことにされてしまう。それを否定することもなく卒業し手以来、冬は親友だった名取とは距離を置こうと一度も連絡を取らなかった。そして8年後、勤めている会社の取引先で転勤してきた名取と8年ぶりに再会を果たす。再会してすぐ名取は自身の結婚式に出席してくれと冬に頼んできた。はじめは断るつもりだった冬だが、名取の願いには弱く結局引き受けてしまう。そして式当日、幸せに溢れた雰囲気に疲れてしまった冬は式場の中庭で避難するように休憩した。いまだに思いを断ち切れていない自分の情けなさを反省していると、そこで別の式に出席している男と出会い…
鈴木さんちの家政夫
ユキヤナギ
BL
「もし家事全般を請け負ってくれるなら、家賃はいらないよ」そう言われて鈴木家の住み込み家政夫になった智樹は、雇い主の彩葉に心惹かれていく。だが彼には、一途に想い続けている相手がいた。彩葉の恋を見守るうちに、智樹は心に芽生えた大切な気持ちに気付いていく。
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。
【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】
主任補佐として、ちゃんとせなあかん──
そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。
春のすこし手前、まだ肌寒い季節。
新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。
風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。
何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。
拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。
年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。
これはまだ、恋になる“少し前”の物語。
関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。
(5月14日より連載開始)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる