出逢えた幸せ

ずーちゃ

文字の大きさ
上 下
186 / 351
Extra2:Moonlight scandal

(10)

しおりを挟む
「あー、大変だよな。社会人は」
 
「そうだな」
 
 啓太の言葉に俺も頷く。

 透さんを見ていると、本当に大変そうで……。

 平日はあまり会えないから、夜にメールとか送っても、まだ仕事中だったり。
 
 ちゃんと家に帰って、寝る時間とか飯食う時間とかあるんだろうかって、心配になる。

「でもさ、俺らだって就職が決まって社会人になったら、自由になる時間とか減るんだぜ? そんな時に好きな相手に分かってもらえなかったら、どうよ?」

 啓太の話に、俺は頷く。

「……そりゃ、困るよな」
 
 胸の奥の小さな痛みに、啓太の言葉がすんなりと入ってくる。

「だからさ、透さんだって、本当は少しでも直と一緒にいたいと思ってるんじゃねえの? 一緒にいれなくて、寂しいと思ったのは、透さんも同じだってことじゃね?」

 啓太の言葉に、霧がかっていた頭の中が、すっきりと晴れて行くようだった。
 
「けいたぁー!」

 お前、ホントにいいやつだなぁーと、思わず啓太の首に抱きついた。

「ちょっ! おまっ! 何するっ?! 離れろって!」

 啓太は慌てた様子で、首に絡みつく俺の腕を無理やり引き剥がした。

「なんだよー、感謝の意味を込めたスキンシップなのに!」
 
「あっ……、暑っくるしいっちゅーの!」
 
 啓太は、本当に暑いのか、真っ赤な顔をしている。

「そんなに暑いのか。なんか飲む?」
 
 言いながら俺は、勝手知ったる何やらで、啓太の部屋の冷蔵庫を開けて、飲み物を物色する。
 
「啓太んち、冷蔵庫ん中、飲み物は冷酒しか入ってないじゃん」

 どんだけ酒豪だよ、ちょっと俺より先に二十歳になったからって。
 
「ま、いっか、冷酒呑もうか!」

 俺は、何となく胸のつっかえが取れた清々しさに、日本酒が苦手なのも忘れて冷蔵庫からよく冷えた冷酒を取り出した。
 
「あっ! 馬鹿! ダメだってば! お前、弱いくせに!」
 
 啓太が慌てて、俺の手から冷酒を奪い取って、冷蔵庫に片付ける。
 
「えー、なんでだよ? いいじゃん。今日はもう、どこにも出掛けないんだろ?」
 
「そうだけど! 直は酒呑んじゃダメなの! アイスでも食っとけ!」
 
 そう言って、何故か必死になって、アイスを俺の手に握らせる。
 
「……なんだよ、ケチ」
 
 結局……何故か俺は本日二つ目のアイスを食べるハメになった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

残業シンデレラに、王子様の溺愛を

恋愛 / 完結 24h.ポイント:853pt お気に入り:331

私の婚約者は、いつも誰かの想い人

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:77,651pt お気に入り:1,551

生徒会総選挙が事実上人気投票なのって誰得か説明してくれ

BL / 連載中 24h.ポイント:92pt お気に入り:258

片思いの相手に偽装彼女を頼まれまして

恋愛 / 完結 24h.ポイント:4,025pt お気に入り:19

お高い魔術師様は、今日も侍女に憎まれ口を叩く。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,698pt お気に入り:122

旦那様!単身赴任だけは勘弁して下さい!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:3,061pt お気に入り:182

【書籍化】その手に、すべてが堕ちるまで

BL / 連載中 24h.ポイント:603pt お気に入り:2,332

処理中です...