出逢えた幸せ

ずーちゃ

文字の大きさ
上 下
192 / 351
Extra2:Moonlight scandal

(16)

しおりを挟む
「そんなところで、いったい何をしているの?」

 お母さんはそう言いながら、思いっきり怪訝そうな表情で、俺のことをじろじろ見てる!

 透さんがドアに凭れていたから、ドアスコープから見られていたという事は、ないと思うんだけど……。

 さっきまでしていた行為で火が点きかけていた身体は、まだ余韻で火照っていて、俺は堪らずにその視線から逃れるように目を逸らした。

「篠崎家の長男が、ご近所の目もあるのにこんなところで……」

 続けられた言葉に、心臓がドキッと跳ねた。

 ――やっぱり見られてた?

「ちょっと、話をしていただけですよ」

 透さんが、お母さんの視線を遮るように、さりげなく俺を背後に隠してくれる。

「美絵さんをあまりお待たせしてはいけないので、すぐ出掛ける準備をしますから」
 
 透さんはそう言って、俺の方を振り返る。
 
「ごめんね、直くん。送ってあげられないけど……」

 申し訳なさそうに謝ってから俺にだけ聞こえるように、「後で必ず連絡するから。週末のこと決めよう」と、耳元に囁いた。

 ドキッとして見上げれば、優しい瞳で見つめ返される。

 俺は『うん』と、声には出さずに頷いた。

 透さんは、俺にニコッと微笑みかけてから、お母さんの方へ向き直る。

「じゃあ、部屋に戻りましょう」

 先にお母さんを部屋の中に入るように促して、透さんもその後へ続いた。

 そしてドアを閉めながら「週末は……」と言いかけて、俺に視線を合わせる。

 『週末は……』の後に続く言葉を、透さんは声に出さずに口だけ動かして伝えてきて、最後に悪戯っぽく微笑んでみせる。

 俺は、透さんが何を言ったのかすぐに分かって、一瞬で顔どころか耳まで熱くなってしまった。

 パタンとドアが閉じられてから、そっと火照った頬を両手で触ってみる。

「……あつい」
 
 顔の火照りが治まるまで、動けそうにない。

 エレベーターで誰かと乗り合わせてしまったら、恥ずかし過ぎるくらい顔が熱いから。
 
 “週末は……”の後、透さんが口パクした言葉は、

『いっぱいセックスしようね』
 
 ――まったく! 何を言ってんだよ、透さんは。

 俺は、火照った顔を手でパタパタと扇ぎながら、エレベーターへと向かう。

 透さんて、普段はクールで、そんな事を言いそうにもないのに、こうやって時々不意打ちで俺をドギマギさせる。

 お母さんの急な訪問で、透さんとゆっくりできる時間は無くなってしまっけど、さっきの不意打ちと週末の約束が楽しみ過ぎて、嫌な思いをした事も薄らいでいく。

 一人ぼっちの帰り道も、不思議と足取りは重くなかった。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

足音

BL / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:12

能力1のテイマー、加護を三つも授かっていました。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:10,289pt お気に入り:2,216

仲良しな天然双子は、王族に転生しても仲良しで最強です♪

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:248pt お気に入り:305

MISERABLE SINNERS

BL / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:18

聖女召喚に巻き添え異世界転移~だれもかれもが納得すると思うなよっ!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,136pt お気に入り:846

処理中です...