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Extra3:幸せのいろどり ―透side―
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久しぶりに訪れた落ち着いた造りのカフェレストランからは、いつもと変わらない温かい雰囲気の白熱灯の灯りが漏れている。
いつものように入り口近くの窓の前で足を止め、何気ないそぶりで窓から店内を覗く。
程よい客の数でテーブル席はほぼ埋まっているけれど、ピーク時を過ぎた店内は客の出入りも少なく、食後のデザートや飲み物を楽しみながらゆったりとしたムードを漂わせている。
ホールスタッフは何人か居るけれど、その中に直くんの姿は見つけられなかった。
やっぱり時間的にも、もうここにはいないだろう。
それは最初から予想していたことで、ただ入れ違いにならないようにと確認しにカフェに寄ってみただけだった。
だから後は迷うことなく、先を急ぐ。 ――直くんのマンションへ。
こんな時、呑んでいなければ、車ですぐに行けるのに。
逸る心を抑えながら駅へと向かう途中に、あの公園の前を通りかかる。
クリスマスイブに直くんと出逢った公園は、中を通り抜けると駅までの近道になっている。
昼間はそこそこ利用されているこの公園も、弱い街灯の灯りしかない夜は通り抜ける人もあまりいない。
公園の中を駅のある出口へ、木々に囲まれた小道の緩いカーブを進んで行くと、あの場所が見えてくる。そこは、薄暗い街灯にぼんやりと照らされた古いベンチが置いてある。
あの時、何気なくこの公園に入って、この場所を見つけた。
人々に忘れ去られたような寂しげなベンチは、ずっと色を失くしてしまっていた自分の人生に似ているように思えて……。思わず足を止めて座っていたら、君が通りかかったんだ。
俺とは対照的な明るい瞳に、俺は……視線を逸らせることが出来なかった。
その瞳に引き寄せられたのは、自然なことだった。
今、思えば……ずっと前から好きだったのだから……直くんのことを。
あの時ここで出逢って、お互いが深く考えずに流されて、そして迷路に迷い、お互いを傷つけ合ってしまったけれど……。
――『あの夜、俺が直と偶然出逢って、そうなってしまったことも、あの日透がその事を知って嫉妬したことも ――』
光樹先輩の言葉が蘇る。
『――もっとこうすれば良かったって考えて、後悔することでその先に見えてくるものがあれば良いんじゃないの?』――
本気で好きで、初めて手放したくないと思った気持ちを、気付かせてくれた。
男同士の恋愛に未来がなくて、大切に思う相手を幸せにできる保障もなくて。
いつもそこまで考えて、自分で勝手に超えてはいけない線を決めてしまっていたけれど、ちゃんと自分の気持ちを伝えなければ、何も終わらないし、何も始まらない。
いつかまた、このベンチで二人で座って、直くんと夜空を眺めることが出来たなら、どんなにいいだろう。
そんな未来の姿を想像しながらベンチの前を通り過ぎ、また駅へと足早に向かう。
――正直な気持ちを伝える為に。
いつものように入り口近くの窓の前で足を止め、何気ないそぶりで窓から店内を覗く。
程よい客の数でテーブル席はほぼ埋まっているけれど、ピーク時を過ぎた店内は客の出入りも少なく、食後のデザートや飲み物を楽しみながらゆったりとしたムードを漂わせている。
ホールスタッフは何人か居るけれど、その中に直くんの姿は見つけられなかった。
やっぱり時間的にも、もうここにはいないだろう。
それは最初から予想していたことで、ただ入れ違いにならないようにと確認しにカフェに寄ってみただけだった。
だから後は迷うことなく、先を急ぐ。 ――直くんのマンションへ。
こんな時、呑んでいなければ、車ですぐに行けるのに。
逸る心を抑えながら駅へと向かう途中に、あの公園の前を通りかかる。
クリスマスイブに直くんと出逢った公園は、中を通り抜けると駅までの近道になっている。
昼間はそこそこ利用されているこの公園も、弱い街灯の灯りしかない夜は通り抜ける人もあまりいない。
公園の中を駅のある出口へ、木々に囲まれた小道の緩いカーブを進んで行くと、あの場所が見えてくる。そこは、薄暗い街灯にぼんやりと照らされた古いベンチが置いてある。
あの時、何気なくこの公園に入って、この場所を見つけた。
人々に忘れ去られたような寂しげなベンチは、ずっと色を失くしてしまっていた自分の人生に似ているように思えて……。思わず足を止めて座っていたら、君が通りかかったんだ。
俺とは対照的な明るい瞳に、俺は……視線を逸らせることが出来なかった。
その瞳に引き寄せられたのは、自然なことだった。
今、思えば……ずっと前から好きだったのだから……直くんのことを。
あの時ここで出逢って、お互いが深く考えずに流されて、そして迷路に迷い、お互いを傷つけ合ってしまったけれど……。
――『あの夜、俺が直と偶然出逢って、そうなってしまったことも、あの日透がその事を知って嫉妬したことも ――』
光樹先輩の言葉が蘇る。
『――もっとこうすれば良かったって考えて、後悔することでその先に見えてくるものがあれば良いんじゃないの?』――
本気で好きで、初めて手放したくないと思った気持ちを、気付かせてくれた。
男同士の恋愛に未来がなくて、大切に思う相手を幸せにできる保障もなくて。
いつもそこまで考えて、自分で勝手に超えてはいけない線を決めてしまっていたけれど、ちゃんと自分の気持ちを伝えなければ、何も終わらないし、何も始まらない。
いつかまた、このベンチで二人で座って、直くんと夜空を眺めることが出来たなら、どんなにいいだろう。
そんな未来の姿を想像しながらベンチの前を通り過ぎ、また駅へと足早に向かう。
――正直な気持ちを伝える為に。
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