出逢えた幸せ

ずーちゃ

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Extra3:幸せのいろどり ―透side―

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 細めた目尻に柔和なしわをつくり、穏やかな眼差しで俺を見つめている。

「なんだい? 話って」

「会社を……辞めようと思っています」

 俺の言った言葉に眉ひとつ動かさずに、「理由は?」と訊く。

「坂上工務店と父さんの会社は今年提携を結んで、ゆくゆくは合併も考えていて、これからもっと規模を広げていくつもりなんでしょう?」

 父は、穏やかな表情を崩すこともなく、ただ黙って小さく、うん、と頷いた。

「ある程度決められた既製的な家を、大量生産のようにキツい工期で仕上げていくことよりも、俺は……、もっと心の篭った家づくりをしたい。それが夢だったことを思い出したんです」

 俺の話終わるのを黙って最後まで訊いていた父が目を細め、俺を見つめた。

 反対される事は覚悟していた。だけど、その瞳は意外にも穏やかだ。そしてゆっくりと柔らかい口調で俺に問いかけてくる。

「辞めてどうするつもりだ? うちの社に戻ろうと考えているのか?」

「……いいえ」

 それでは、今までと何も変わらない。

「神谷さんの設計事務所で雇ってもらおうと思っています」

「……神谷くん、か」

 神谷さんのことを思い浮かべているのか、父は俺から視線を外して遠くを見つめている。

 父が神谷さんのことをどう思っているのかは、俺の知るところではないし、もし反対されても、もう俺の気持ちは決まっている。

 それとは別に、もうひとつ言わなければいけない事を、父の返事を待たずに続けた。

「なので……美絵さんとの婚約は、解消したいのです」

 俺の言葉に、父はにやりと口角をあげた。

「……やっと反抗期か」

「……え?」

「28年間、透の我侭ひとつ聞いたことがない気がしていたがね」

 俺は、そんなつもりはなかったけれど……。

 一旦、言葉を区切った父が、椅子の肘掛に肘を置き、頬杖をついてこちらを見上げた。

「……好きに、すればいい」

 そう言われるとは、全然予想していなかった俺は、驚きで予め用意していた言葉が全部吹っ飛んでしまった。

「私は一度だって、透に会社を継いでほしいなんて、言った覚えはないしね」

「……」

 それは……確かにそうだったかもしれない。

 あまりにも当然のように歩いてきた道だったから、今、父に言われるまでそれに気が付かなかった自分に呆れてしまう。

「だけど、一つだけ言っておく」

 驚きを隠せなくて言葉に詰まっている俺に、父はさっきまでと違い、力のある眼差しを向けた。

「美絵さんのことは、自分でケジメをつけなさい。必ず結婚すると美絵さんに言ったそうじゃないか」

 ――それは……あの夜、俺が言った言葉に間違いなかった。

 もうそれを父は知っているのだから、隠したり誤魔化したりする必要もなく、俺は真っ直ぐに父の目を見つめて、これからやろうと思っている事を伝えた。

「……はい、分かっています。明日大阪に行って、美絵さんにお会いして話をします。それから辞表も出して来ようと思っています」
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