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婚約して6年が達ちました
いつか旦那様になる人だから
しおりを挟むその婚約者はと言うと、コロリと転がった巻き貝のような物体をつまみ上げ、直立不動の体勢で顔を上に見上げ摘まんだ物体を赤く色づいた唇を開き、その中に押し込んだ。
「んっ、っ…… 」
苦しそうな声が、その喉から発せられる。
其れすら色気を孕んでいる所が、周りの人々を赤面させる要因だとは、彼は露ほどにも思わないだろう。
朔夜は、事もあろうに封じた何かを飲み込んだのだ。
上を向いて飲み込んだのは、飲み込みにくい逸れを潤滑に飲み込む為なのであろう。
苦しそうに飲み込んだ後、朔夜は、はっと息を吐いた。
何事も無かったようにふにゃっと笑ってサクラの元に戻って来る彼は、さっきまでの妖艶な麗人では無く、何処か尻尾を振っているわんこのように見える。
心なしか耳までの見えるような気がするのはきっと気のせいだと思う。
うん、絶対気のせいだ。
と、サクラは思った。
「はあっ、終わったよ。紫苑、あいつ随分喰われてたみたいだから病院手配して。それから親子さんにも連絡して。命に別状はないから。但し、入院は余儀なくされると思うと伝えてくれ」
『あい解った』
紫苑は朔夜の言葉に頷いて答えた。
そしてスタスタと男の元まで行き、むんずと制服の詰め襟を掴むとずるずると引き摺って行った。
病院に行くにしても、随分な扱い方だと思う。
朔夜の顔色が紙のように白い。
サクラは、朔夜の事が気になって仕方が無かった。
「朔夜様、大丈夫ですか? 」
「…………、サクラ、様はいらないから…… 」
「いいえっ、駄目ですっ。朔夜さんはゆくゆくは私の旦那様になる人ですもの。今から訓練です」
そう言って息巻くサクラが、朔夜の制服を掴んではにかむ。
その姿が非常に可愛い。
きっと誰が見てもそう思う筈だ。
だから、美貌の麗人と揶揄される朔夜でさえ、頬を染めるほどサクラが可愛く思えた。
と、まあ異形が退治されて此処までが約一、二分程なのだが、今の極まで沈黙を守っていた彼女がとうとう言葉を発した。
「何で……、何なのよ、一体、貴方は何!? 」
そう言って朔夜を指差したのは、サクラの親友神野 由衣だった。
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