モノノケダンスフロア

渋谷滄溟

文字の大きさ
2 / 16
モノノケダンスフロアへようこそ

第二話 乙女とクラブオーナーが出会う前に

しおりを挟む
 私、四辻茉莉はモノノケが見える側として生まれた。それをモノノケと言うのか分からなかったが、赤子の私の周りでは常に気味の悪い妖怪達が見えていた。目が付いた巨大な毛玉ややけに頭の長いお爺さん。大半はそこにいるだけである。ただそこにいて、私をじっと見てまたぼうっとするかどこかに行くか。他の人には見えないと分からなかった私は両親に何もない場所を指さしては「あれは誰?」と聞いていた。

 両親は理解のある人達であった。見えない何かを追いかける私を、個性的な子と一蹴して愛してくれた。性質の悪いモノノケに追いかけられたり、悪夢を見させられたりしたら寺に頼んでお祓いもしてくれた。モノノケに怯える私の傍に、落ち着くまで寄り添ってくれた。しかし世の中は両親のように優しくない。

 幼稚園に入園したときから、私の悪評は立ち始めた。幻覚が見える頭のおかしな子。変な子。先生も同級生も皆、裏では私のことをボロクソに噂にした。
 
友達は少しはいたかもしれない。小学校のときに。皆、私と仲良くなりたがっていたが、真横にいる“トイレの花子さん”を指さして「この子も仲間に入れてあげよう。」と言えば蜘蛛の子を散らすように去っていった。それからというものの、私は中学までは狂人と格付けされ、完全孤立した。母は好きな子どころか友人さえいない私を心配したが、同級生にモノノケによる被害が出ない方がマシだった。
 
誰とも喋らず、話しかけてもらえず、モノノケから目を背け続ける日々。父はそんな私のために、“茶々丸”と名付けた柴犬を誕生日プレゼントにくれた。私は可愛くて、「狂人」などとは言わない茶々丸が大好きになった。それから私はずっと茶々丸と一緒にいた。この子と両親と一緒なら化け物だらけの世界でもやっていける、そう思っていた。高校生までは。

 中学三年の秋、両親が交通事故で亡くなった。潰れた車体を見ると即死だったらしい。私を塾まで迎えに来る夜道の途中であった。理由は不明だが、崖沿いでハンドルを切ってガードレールを突き破り、車ごと転落してしまったと。そう警察から聞かされたときは、目の前が真っ白になった。私のせいで親類縁者とも不仲だった四辻家は、娘だけの家族葬となった。

 葬式のあと、私は親戚からの僅かな送金で茶々丸と生きていくことになった。せめてこの子がいてくれただけでも、そう思えたのは束の間だ。

 悲劇から何とか高校入学を果たした一か月後に、茶々丸は散歩中に突っ込んできた軽トラックに轢き殺された。運転手は何かが飛び出してきてハンドルを切ったと供述した。事故当時、茶々丸は心なしか私を押し飛ばして、庇っていたように見えた。喧しい野次馬の中心で、私は千切れたリードをただ見つめるしかなかった。

 茶々丸がいなくなった、お父さんもお母さんもいない。私は独りぼっちになった。学校にも理解者はいない。私の周りにいるのは醜いモノノケ達だけ。下校中に電信柱の上で蠢くそれを見て、こいつらがいなければ独りにならずに済んだのかなとふと思った。そうしたら、モノノケがいるこの世界から逃げたくなったのだ。そこで目についたのが町にそびえ立つ廃墟ビルだ。

 今夜、この命を終えよう。覚悟した私はビルの階段を上り、その屋上の縁まで歩む。そして踏み出したのだ。心のどこかで、私を見捨てず拾ってくれる神様がいることを祈って。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

離婚すると夫に告げる

tartan321
恋愛
タイトル通りです

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

【1話完結】あなたの恋人は毎夜わたしのベッドで寝てますよ。

ariya
ファンタジー
ソフィア・ラテットは、婚約者アレックスから疎まれていた。 彼の傍らには、いつも愛らしい恋人リリアンヌ。 婚約者の立場として注意しても、アレックスは聞く耳を持たない。 そして迎えた学園卒業パーティー。 ソフィアは公衆の面前で婚約破棄を言い渡される。 ガッツポーズを決めるリリアンヌ。 そのままアレックスに飛び込むかと思いきや―― 彼女が抱きついた先は、ソフィアだった。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

処理中です...