音痴の俺が転移したのは歌うことが禁じられた世界だった

改 鋭一

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第八幕 奸計の古城

死亡フラグ

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「一刻城の中は、至る所に水が流れとって、巨大な迷路みたいになっとる。そやけど一般人にとってはただの迷路や。ルートさえ覚えとったら普通に戻って来れる」

 おお、なんかゲームのダンジョンみたいだな。

「それがな、歌い手が城に入ると、水の流れやら何やら勝手に動いてな、ルートが変わってまうねん。外にも出られんようなってな、どこをどう通っても最後は必ず、ある扉の前に導かれてまうんや」

「扉……ですか」

「そうや。その石の扉はな、『地獄の扉』っちゅうてな、力ずくでは開かんねん。ある方法を使うとスルスルっと開いてな、城の外につながっとるんや」

「それが唯一の出口だと?」

「そういうこっちゃ」

 ははあ、なるほど。

「ところが、城がどういう仕組みで歌い手を感知しとんのか分からんのや。黒髪か、顔立ちか、何か未知の要素か……そやけどニコ。お前がそうやってソウタの横におると、どっちが歌い手か、ワシらも分からん」

 アミが俺たちを見比べてうんうんうなずいている。アミは俺じゃなくニコが歌い手だという説の支持者だ。

「もしニコが歌い手やのうても、城は歌い手やと誤判断しよるかもしれん。そしたら同じことや。黙呪城に行かんとアカンようなる。そやから城にはワシら3人で行く。ソウタとニコはどこかで待っとけ」

「……はい」

 ニコはシュンとなってしまった。



 しかし何だかよく分からない。

「すいません。それで、その話のどこがフラグになってるんですか?」

「うん、あのな、その扉にはな、表面に絵やら言葉やら刻まれとってな、しかもそれが歌詞になっとって、『この歌を歌ってみろ』みたいに書いてあるねん」

「歌うって、歌詞だけじゃどうにもできないでしょ。メロディーはどうするのよ」

 ハルさんが突っ込む。

「それなんやけどな。その扉の前は広い空間になっとって、上からぽちゃんぽちゃん水滴が落ちきて、辺りに不思議な音が響いとってな。それがメロディーになっとるらしい」

「なっとるらしい、って……ちゃんとメロディーとして聞こえてくるの?」

「いや、ワシにはただの水音にしか聞こえんかった。それが歌い手のような音楽の才能のあるモンやとメロディーに聞こえるんやろな。キョウはすぐに歌いよった」

「ふうん、歌い手にしか分からない歌、っていうことね」

「そや。曲名は『地獄歌』とかいいよったな」

 地獄歌か……怖いな。っていうか、もっと怖いことがあるぞ。

「あの……間違ったり、音程外したりしたらどうなるんですか?」

 もしまかり間違って俺が歌うことになったら絶対に音程外すからな。訊いとかないと。

「それは知らんわ。まあ扉が開かんだけちゃうか? 突然天井が下がってくるとか城が崩れたりとかはないやろ」

 ま、歴代の歌い手はみんな歌が上手かったみたいだからなあ。音程外した奴なんていないんだろう。



「それで、その歌がどうしたっていうのよ。上手く歌えたら扉が開いて、迷路から脱出できて、それで終わり?」

「ちゃうねん、ちゃうねん」

 ナラさんは慌てて付け加えた。

「その歌は大事な歌やねん。実は、黙呪城にも『王の扉』っちゅう同じような扉があって、その地獄歌を歌わんと開かへんねん」

 ああ、なるほど。歌い手はその歌をゲットするために一刻城に入るわけか。

 あれ? でも、それだけだったら別に黙呪城に『行かなければならない』ってことはないじゃん。

「一刻城から出て、そのまま黙呪城に行かずに放っておいたらいけないんですか?」

 訊いてみた。

「それはアカンわ。歌って、扉を開けて、外に出るやろ。ほしたら扉はずっと開いたままやんか」

「開いたままじゃ何かマズいんですか?」

「もしお前が黙呪王を倒せへんかって、20年経って次の歌い手が来た時、どっから入るねん。裏口から入るんか? しかも扉が開いてまうと歌詞が見えへんようになって地獄歌は分からんままや」

「どうやったら扉が閉まるんですか?」

「それがな、黙呪城の王の扉を開けることでこっちの扉が閉まって迷路も元に戻るようになっとるねん。何や扉が連動しとるんやな」

 うわあ……面倒なシステムだな。いったい誰が考えたんだ? 黙呪王か?



「要するに、黙呪城まで行ってリセットしないと扉が開いたままで、そうなると次の歌い手が来た時にシステムが作動しない、歌が分からない、そしたら黙呪城の扉を開けられなくって困る、そういうことね」

「そういうこっちゃ。もじゃもじゃ、お前、頭ええやんか」

「はああ……次の歌い手のことなんか知るか、っていう人ならともかく、普通は黙呪城に行ってシステムをリセットするわよね。だから歌い手が城に入ったらもうその時点で黙呪城行きのフラグってわけね」

「うんうん、ワシが言いたかったんはそういうこっちゃ」

「でもその話は私もちょっとだけ聞いたことがあるわ。歌い手は大陸の各地にある歌をいくつか集めて黙呪城に行くんだとか。単なる伝説かと思ってたけど本当だったのね」

 その時、アミがぽろっと言った。

「誰かがその歌を覚えてて、次の歌い手に教えてあげたら良いんじゃないかな」

 そうだ、その通りだ。しかしナラさんが却下した。

「誰が20年も覚えとくねん」

「無理かなあ?」

「無理やわ、そんなモン。ワシかて全然覚えてへんわ。しかも黙呪城に行ったメンバーも、たいてい殺されてまうからな。なかなか次の代まで伝わらんやろ」

 そうか。この世界には五線譜というものが無いからな。

 あ、無いなら作れば良い。紙とペンはあるからな。とりあえず譜面に書いておいて、後でみんなに読み方を教えたらいいだけだ。



「とにかくな、お前ら2人は城の敷地の中にも入るな。離れた所で待っとけ」

「でもレジスタンスの人間が途中まで送ってくれるってことだったわね。城まで付いてきたらどうしましょ」

「んなモン、追い返せ追い返せ。しつこく付いて来やがったら樹にでもくくりつけといたらええねん。死にはせんやろ」

「でもその辺に蛇とか巨大ゴキとかいるんですよね? 動けないと危ないでしょ」

「ほんならお前ら2人が一緒におったらええ」

 まあ、そうでもしないとしょうがないか。



「それにしても子供たちはどうしてるのかしら」

 アミが心配そうに言う。

「ガキやからな。迷路で迷っとんにゃろ」

「城の中には危険なモンスターとかいるの?」

 ああ、それは俺も気になってたところだ。

「いや、城の周りにもおるような生き物だけや」

 それなら十分危険じゃないか!

「ああ、何やでっかいナメクジもおったな」

「ひっ!」

 山猫娘がまたドン退きしてる。

「それは何か攻撃してくるんですか?」

「ああ、何やねばねばさせてきよるけど、別に大したことない」

 いや、この人の大したことないっていうのは『キョウさんと一緒にいたら』っていうことだからな。

「せやせや、そういうたら、でっかいクモもおったわ」

 もうあんまり聞かない方が良さそうだ。いろいろ危険生物がいるっていうことで間違いない。子供たち、本当に大丈夫かな。
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