夏の想いは春に咲く~年下くんに絆されて愛されます~

オジカヅキ・オボロ

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 真剣に問題を解く葵の横顔は、長い前髪が邪魔しているものの、造形は綺麗だ。横から見た時にわかる長い睫毛も、男性的な力強さはないが、なよなよしいというわけでもない。芯の通ったしなやかさと言おうか。
 遊園地で間近に見た瞳や容貌はやはり強さが秘められていたと思う。何をされたのかは、なるべく思い出さないようにしているし、あれ以来なにもないから特に追及することもしなかった。
 綺麗なものは嫌いではない。絢斗の周りを囲んできた多くの女友達も、思えば綺麗な子が多かったように思う。
 あまり気にしてきたことはなかったし、絢斗自身は特定の女の子を特別扱いするようなことはしてこなかったのだが、そういう振る舞いをする子もいなかったわけではない。全員まとめて「オトモダチ」だ。ふたりで会うことはなるべくしないし、全員を同じように扱う。
 絢斗に特別扱いされたいらしい子はいたし、他の女の子に悋気を起こす子もいたから、そういうものを窘めることはあっても無用の争いは好まなかったので、諍いを起こす子とは距離を置いたし、女の子同士の確執にはなるべく深入りすることもしなかった。
 和至は絢斗の周りを取り囲む女の子たちに頓着することなく、絢斗を連れてどこでも遊びに行った、いわば悪友だ。
 ナンパこそ絢斗が好まないので自らすることはなかったが、自分たちからしなくても声をかけられるのはしょっちゅうだった。和至も見た目はキリッとした男前だし、うるさいが話はうまい。遊び目的なら好まれるタイプだったのだろう。
 口が巧いのは昔からだが、口数の多さは閉口する部分がある。和至の口は一長一短だ。友人が多いのは、明るい性質で性格も悪くないお陰だろうけれど。
「……あの」
「うん? わからないところでもあった?」
「いえ、……あんまり見られていると、やりにくいんですが」
「え?」
 少しばかり呆けた顔をしたかもしれない。何の話かわからなかった。
 葵が、怪訝そうな目を絢斗に向ける。
「見てたでしょう、ずっと。僕を」
「……あ」
 思わず手のひらで口許を覆う。昔のことを思い出している間、ずっと葵を見つめていたらしい。
 途中まで意識を持って葵を見ていたが、まさか見つめ続けていたとは。
「……その、……ごめん」
「いえ、謝ってもらうほどのことでもないんですが……何かおかしなものでも付いていましたか?」
「いや、全然。綺麗な顔をしてるなって見てただけだから」
「は?」
「あ」
 再びの失言。ちらりと葵を窺えば、怪訝な顔をしていた。それはそうだろう。唐突にもほどがある。
「……夕食の支度をするよ。今日は生姜焼きとおあげの味噌汁。仕込みからオレがやってるから、咲子さんほどの出来ではないかもしれないけど」
 誤魔化したい一心で食事の話をする。二十時になるから、あながち的外れな話でもない。
「あ、……はい。お願いします」
 作ってもらう身で贅沢は言わないので大丈夫です、といつものように葵が言うのを聞きながら、そそくさと厨房へ引っ込む。
「……失敗した……」
 気付かれるほど見つめているなんて。
 相手が女の子だったらなんとでも言い訳ができたに違いないが、葵は男で、だから下手な言い訳はおかしいわけで――つまり言い訳を失敗してしまった。
「あんまり気にしないでいてくれるといいんだけどなぁ……」
 勉強第一だから大丈夫かな。そうだといいな。観覧車での出来事をあえて忘れ、願望を交えながら祈り、タレに漬け込んだ豚肉とスライスしたタマネギを炒め始めた。
 切ったり炒めたり温め直したりするだけだから、時間がかかるわけではない。
 肉を多めに盛るのは、若い男がふたりもいて肉の量が少しで済むわけがないと咲子が言った通りにしてのこと。実際にその言葉が当たっているかどうかはともかく、絢斗はもちろん、葵が食事を残したことは一度もなかった。
「はぁ……」
 意識しないということを意識するのは難しい。
 葵にどういうつもりがあったのかわからない以上、そこをつつくのは藪蛇でしかないだろう。できれば何事もなく過ごしたいし、葵の受験の邪魔になるのは避けたい。
 本番の試験では、一点の失点が大きな差になってしまうことは理解しているから、失点の理由になってしまうのは避けたかった。なにしろその後の人生がかかっている。絢斗自身はふらふらしているけれど、目標を持っている人間の邪魔はしたくなかった。
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