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21 考えて
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それから一週間程度で覚悟が決まるはずもなかったが、三十一日は葵の入学式用のスーツを見繕い、ついでに絢斗の春物のコートや、葵のトップスなどを見繕った。
途中や最後にカフェまで入ったし、ギリギリ学割が使えるからという理由で映画を立て続けに二本も観たから、他人からはおそらくそう見えなくても、ちょっとしたデートの雰囲気はあった。意識するとぎこちなくなるので、なるべく意識の外に追いやったけれど。
そうして夜は葵があまり行ったことがないというのでチェーン系のファミレスで食べ、葵の住むマンションへとふたりで並んで歩いている。現在時刻は二十三時前。
「オレ、普段はアニメとかマンガとか観ないけど、今日観たやつはすごかったなあ。人気あるっていうのも、頷ける」
画面の美しさ、キャラクターたちの個性、立場、心情、対する敵の行動理念、スタンス。それぞれの対立の仕方、構成のまとまりがまったく飽きない作りになっていたし、初見を置いて行かないわかりやすさもポイントが高かった。
友情は熱かったし、泣けるシーンも作られていて、思わず涙ぐんでしまった。
「真柄さんオススメのほうも、楽しかったですよ。他のお客さんもけっこう笑ってましたし……僕も、腹筋が痛くなるくらいでした」
もうひとつの映画は、何年か前にヒットしたハリウッド映画の続編で、迫力としては映画館で観るのが良いが、友人たちと盛り上がるなら家でわいわい楽しみながら観るほうがいいような、娯楽映画だ。これは映画館で笑いを堪えられないという前評判通りだった。きっと客席の誰も、笑いを堪えられなかったに違いない。
葵の部屋に上がり込むと、リビングのラグに直接腰を下ろす。荷物は脇に置いた。すぐに葵がペットボトルのお茶を出してくれる。
「ありがと」
「どういたしまして。……いいんですか、こんな時間にウチにいて」
「……そういうこと言わない」
まだ、悩んでいる。
けれど、葵の気持ちを受け入れた以上、というのもあるし、このことで付き合うのを解消するかと問われれば、それも違うと思う。
だとすれば、単に怖気付いているだけだ。言い訳が欲しいのかもしれないが、後押しが欲しいのを葵に押し付けるのは間違っている。
「だから思い切ってここまできたわけなんだけど――なんで笑ってるの」
「いえ……だって、真柄さんかわいくて……」
俯いて笑いを堪えているようだが、肩が震えていて台無しだ。
「はぁ……わかりました。とりあえず、お風呂入ってきて下さい。もう温かくなってると思うので」
「お風呂?」
今? と疑問が湧くが、なんだかんだと言いくるめられてしまった。
「……なんだったんだろう……」
勢いに負けて湯船に浸かっている。ボディソープもシャンプーも、無香料かサボンだった。なんとなく葵らしいと思ってしまう。
「……似合いそうなのをプレゼントしてもいいのかな」
呟き、風呂から上がる。タオルだけでなくパジャマまで用意していてくれたらしいので、ありがたく借りることにした。
「葵くん、上がったよ」
「水、良かったら飲んでください。出しといたので」
「ありがとう」
「それから」
「?」
「飲んだら、ペットボトルは持っていっていいので、寝室のほうへ行っててください。僕わりとお風呂短いので、あまり待たせないようにしますが」
「リビングじゃなく?」
「じゃなく。これから何をされるかを考えて、覚悟を決めておいてください。イヤなら帰ってしまう選択肢もありますよ」
じゃあ入ってきますね、とにこやかに言いおき、呆然とする絢斗を残して言ってしまう。
顔が熱くなるのを感じる。だが今はどうしようもできない。
「おまえ……おまえ、それは」
ずるいだろ。
赤に染まった呟きは浴室まで届かなかった。
途中や最後にカフェまで入ったし、ギリギリ学割が使えるからという理由で映画を立て続けに二本も観たから、他人からはおそらくそう見えなくても、ちょっとしたデートの雰囲気はあった。意識するとぎこちなくなるので、なるべく意識の外に追いやったけれど。
そうして夜は葵があまり行ったことがないというのでチェーン系のファミレスで食べ、葵の住むマンションへとふたりで並んで歩いている。現在時刻は二十三時前。
「オレ、普段はアニメとかマンガとか観ないけど、今日観たやつはすごかったなあ。人気あるっていうのも、頷ける」
画面の美しさ、キャラクターたちの個性、立場、心情、対する敵の行動理念、スタンス。それぞれの対立の仕方、構成のまとまりがまったく飽きない作りになっていたし、初見を置いて行かないわかりやすさもポイントが高かった。
友情は熱かったし、泣けるシーンも作られていて、思わず涙ぐんでしまった。
「真柄さんオススメのほうも、楽しかったですよ。他のお客さんもけっこう笑ってましたし……僕も、腹筋が痛くなるくらいでした」
もうひとつの映画は、何年か前にヒットしたハリウッド映画の続編で、迫力としては映画館で観るのが良いが、友人たちと盛り上がるなら家でわいわい楽しみながら観るほうがいいような、娯楽映画だ。これは映画館で笑いを堪えられないという前評判通りだった。きっと客席の誰も、笑いを堪えられなかったに違いない。
葵の部屋に上がり込むと、リビングのラグに直接腰を下ろす。荷物は脇に置いた。すぐに葵がペットボトルのお茶を出してくれる。
「ありがと」
「どういたしまして。……いいんですか、こんな時間にウチにいて」
「……そういうこと言わない」
まだ、悩んでいる。
けれど、葵の気持ちを受け入れた以上、というのもあるし、このことで付き合うのを解消するかと問われれば、それも違うと思う。
だとすれば、単に怖気付いているだけだ。言い訳が欲しいのかもしれないが、後押しが欲しいのを葵に押し付けるのは間違っている。
「だから思い切ってここまできたわけなんだけど――なんで笑ってるの」
「いえ……だって、真柄さんかわいくて……」
俯いて笑いを堪えているようだが、肩が震えていて台無しだ。
「はぁ……わかりました。とりあえず、お風呂入ってきて下さい。もう温かくなってると思うので」
「お風呂?」
今? と疑問が湧くが、なんだかんだと言いくるめられてしまった。
「……なんだったんだろう……」
勢いに負けて湯船に浸かっている。ボディソープもシャンプーも、無香料かサボンだった。なんとなく葵らしいと思ってしまう。
「……似合いそうなのをプレゼントしてもいいのかな」
呟き、風呂から上がる。タオルだけでなくパジャマまで用意していてくれたらしいので、ありがたく借りることにした。
「葵くん、上がったよ」
「水、良かったら飲んでください。出しといたので」
「ありがとう」
「それから」
「?」
「飲んだら、ペットボトルは持っていっていいので、寝室のほうへ行っててください。僕わりとお風呂短いので、あまり待たせないようにしますが」
「リビングじゃなく?」
「じゃなく。これから何をされるかを考えて、覚悟を決めておいてください。イヤなら帰ってしまう選択肢もありますよ」
じゃあ入ってきますね、とにこやかに言いおき、呆然とする絢斗を残して言ってしまう。
顔が熱くなるのを感じる。だが今はどうしようもできない。
「おまえ……おまえ、それは」
ずるいだろ。
赤に染まった呟きは浴室まで届かなかった。
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