鄒家道士恋物語 憧れていた師兄に溺愛されていました?!~恋の自覚は体から~

オジカヅキ・オボロ

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04 危機

「……難しいなぁ……」

 次の日、雪游と冰淵は早朝から白平山を目指した。飛べばすぐだが、あえて歩いているのは、歩きながら昨夜までに手に入れた情報をまとめたいからだ。

「どの村と街でも亡くなった人の共通点は、夜に……家の者たちが寝静まった頃に姿を消して、白平山はくびょうざんで首を吊って亡くなっている。場合によっては同じ木に複数の人が吊ってるってことかな……」

 片腕を組み、片手は口許に当て、首を捻る。

「ていうことは、原因はひとつで、その原因が何人もの人を死なせてきた……?」
「その原因とは?」

 隣で静かに話を聞いていた冰淵が挟んできた問いに、雪游はますます難しい顔をした。

「なにがしかの怪異、妖怪の類である……と考えられる、かな」

 ただの人間が、誰にも姿や手がかりを残さず何十人もの人たちを自殺に見せかけて殺した、と考えるのは難しい。多大な労力がかかる代わり、得られるものがないからだ。今までの件で物盗りがあったという話も聞かない。だから間違いなく怪異妖怪の類のせいだが、こういう事件を起こす怪異妖怪が何だったか、雪游は思い出すのに苦労していた。

 方士から道士に昇格する時に、多くの事物を習う。その中のひとつに、この世界に存在する怪異妖怪悪鬼など、様々な異形のモノたちについての授業もあった。かなり多くのモノたちについて学んだと思うが、それだけに思い出すのは一苦労だ。

 冰淵は答えを教えてはくれない。これは雪游に与えられた依頼だからだ。

 そうして、首を捻っているうちに白平山に着く。躊躇うことなく山道へと足を踏み入れた。
 そういえば、山に入って六丁とは、山の中でもずいぶん浅いところで見付かったものだ。雪游の感覚なら、もっと山奥で、誰にも見つからないようにする。人里に近いところで死ぬこと、死なせることに、意味はあるのだろうか。

「うわ……気が澱んでる……」

 白平山に入ることが周辺の住人に好まれない理由がわかった気がする。鬱々とした空気は、健康な者でもおかしな気を起こしてしまいそうだ。人里近いのに、どれだけ鬼狩りがされていないのだろう。
 隣をちらりと伺えば、冰淵の表情もほんのわずか厳しい。

「雪游。気付いたことは?」
「え? ええと……」

 周りを見回せば、いくつかの木に残った縄が生々しい跡を見せている。不自然なまでに静かで、風に擦れる葉擦れの音しか聞こえない。鳥がいないのだ。

「この空気に耐えられる鳥がいるとすれば怪鳥だろうけど……あと、気が澱んでるのに(いわゆる幽霊)の気配がないのが気になる」

 正解、とでもいうように冰淵が頷いてくれる。続きを促された気がしたのは、それを踏まえてこれからどうするのかを答えねばならないからだ。
 考え込みかけた時、視界の端で何かが動いた。

「ん?」

 そちらを向けば、木の陰からやけに小さな――手のひらに載せられるほどの大きさの女が、ふたりを窺っていた。

「あれは……あ、おい!」

 雪游が近付こうとした気配を察したのか、小人の女はくるりと背を向けて走り出した。

「待てって! 別に取って食ったりしないから!」
「雪游」
「ちょっと行ってきます!」

 振り返らずに駆け出す。手がかりかもしれないものを、みすみす逃す手はない。
 あの場をうろうろしても、進展はないだろう。それよりは、怪でもなんでも事情を知っていそうな者を捕まえて話を聞くのがいいに決まっている。
 小人は森、山の奥へ奥へと逃げているようだ。
 追い付きそうになると小人は猛烈な勢いで距離を開けてしまう。

「す、すばしっこいな……! 別に、危害は加えないって……、……?」

 不意に、くらい気配を感じて走る脚を緩め、止まる。周囲を見回した。

「……なんだ……?」

 自殺現場から離れて、陰気は遠ざかったはずだ。
 だが、今は自殺現場よりもっと強い陰の気が近くにあると感じる。

「この山……もしかして、相当な癖山クセやまか……?」

 さっきの現場といい、ここといい、もしかしたらもっと奥にはまだ陰気いんきが溜まった陰場いんばがあるかもしれない。
 自分ひとりでどうにかできるだろうか。依頼内容の範囲で監督の先輩に手を借りるのは禁じ手だ。それなら依頼外になればいいのかもしれないが、これが依頼内なのか依頼外なのか、判断がつきかねる。

 判断できないならひとりでやるしかない。悩みつつ、まずはこの場をどうにかしようと、心を落ち着かせる。場の浄化は道士になる前も何度も行ったことがあるからできることだ。それからその場に生えている木々に符を貼り、場を囲むようにした。
 それから場の中央らしきところへ立つと、ぱん、と手を打つ。術の発動を促す動作。

「……えっ?」

 途端、黒い気配が符の外側から湧き上がる。この場の陰気が可愛く思えるほどの量。

「う、わ……ッ」

 符の結界を圧倒的な圧力で破壊しようと、津波のような陰気が押し寄せる。襲いかかる巨大な陰気に、腕で頭を庇ったが、それが何の救いになるのかはわからなかった。
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