9 / 48
09 張り込み
夜陰に乗じ、自殺者が出た現場が見渡せる場所に身を潜めた。冰淵とは別の場所にいるのは、別々の角度のほうが互いを補助しあえるからだ。
前回から数日経っているから、今日明日あたり、縊鬼が出る可能性は高い。
狙いは外していない、はず。
今回の依頼が初めてだし、今まで座学でしか学んでいないことも多いけれど、今までの経験を活かせるだけの場数は踏んでいるつもりだ。
鬼狩りに関しては、十五を超えた歳から参加が始まる。各門戸単位で、年長の者が年少の者を率い、山に溜まる鬼や妖物を退治する行事だ。年長者一名に対し、数名の年少者が学ぶ。当然、年少者も成人する時のために日頃の学びの成果を出す場となる。
自分は冰淵に率いられることが多かった。
分家でも筆頭家の者だから特別扱いと言われたこともあるが、実際その通りだったかもしれないし、理由はきっとそれだけではないはずだと思いたい。
「……!」
がさ、と落ち葉を踏みしめる音がした。自然の音ではない。
雪游が目を凝らし、音がしたほうへ眇めた視線を投げる。
来た。
六人だ。女が四、男が二。
夢遊病にでもかかったように彼・彼女らの足許はふらついて覚束ないし、かろうじて開かれた目は虚ろだ。彼らの背後に、黒い影のようなものが見える。
縄はすでに木にかけられていた。人の頭より少し高い位置にあるそれらへ、彼らがそれぞれ手を伸ばすと――雪游は霊符を素早く投げ、飛ばした。彼らの背中に一枚ずつ貼り付く。
その途端、彼らはこれ以上ないくらい口を大きく上げて天を向き、何かを吐き出した!
「出たな!」
小声で呟き、手のひらを握りしめる。だが、ここで終わりではない。
黒い影がどこかへ飛び去ろうとする。その後を追いかけて走った。少し先を雪游の従陰、使役する金華猫という妖猫が先導してくれる。彼らは尾に炎のような明かりを灯すことができるし、猫科の陰獣だから夜目が利くため、こういう時に助かる。
道士の格下、方士でも扱える下級の妖物だが、雪游は気に入っていた。
「……どこまで行くんだ……?」
実態がないものを相手に追いかけるのは、木々をかき分け、落ち葉で脚を滑らしそうになりながら追いかけているから分が悪い。けれど金華猫のお陰で見失わずに済んでいる。
「……ん?」
不意に、どこからともなく歌声が聞こえた気がした。だが、誰が陽も沈んだ昏い山の中で歌うと言うのか。――妖物に決まっている。
(竦斯……? なんだってこんなところに……?)
人を見ると歌いだし、踊る妖物。竦斯が歌ったということは、どこかからか雪游の姿を見たということになる。歌い踊るだけなので竦斯自体は害はない妖物だ。
かといって安心はできない。
思っていると、低くて長い吼え声が聞こえた。雪游の進む先、岩場の向こうだ。金華猫が振り返っている。終着点らしい。
「……うわっ」
そこにいたのは、朱面狒々だった。その姿は赤ら顔に一丈(約三メートル)ほどの身の丈、六尺(約一八〇センチメートル)はありそうな腕の長さ。今はその手に縊鬼を掴み、頭から貪っている。
「あいつ、縊鬼を食ってどうする……あっ?」
六体の縊鬼を食べきったところで、朱面狒々の体が少し大きくなった。食べて、自身の養分にしたということか。
いや、今は考えてる場合ではない。
ふっと息を吐いて自身の気を落ち着けると、袂から符と筆を取り出す。筆もただの筆ではなく霊符を書くための筆で、墨などなくとも書けた。
二枚を投げると、腰に佩いた細身の剣を抜く。岩を蹴って朱面狒々に斬りかかった。
前回から数日経っているから、今日明日あたり、縊鬼が出る可能性は高い。
狙いは外していない、はず。
今回の依頼が初めてだし、今まで座学でしか学んでいないことも多いけれど、今までの経験を活かせるだけの場数は踏んでいるつもりだ。
鬼狩りに関しては、十五を超えた歳から参加が始まる。各門戸単位で、年長の者が年少の者を率い、山に溜まる鬼や妖物を退治する行事だ。年長者一名に対し、数名の年少者が学ぶ。当然、年少者も成人する時のために日頃の学びの成果を出す場となる。
自分は冰淵に率いられることが多かった。
分家でも筆頭家の者だから特別扱いと言われたこともあるが、実際その通りだったかもしれないし、理由はきっとそれだけではないはずだと思いたい。
「……!」
がさ、と落ち葉を踏みしめる音がした。自然の音ではない。
雪游が目を凝らし、音がしたほうへ眇めた視線を投げる。
来た。
六人だ。女が四、男が二。
夢遊病にでもかかったように彼・彼女らの足許はふらついて覚束ないし、かろうじて開かれた目は虚ろだ。彼らの背後に、黒い影のようなものが見える。
縄はすでに木にかけられていた。人の頭より少し高い位置にあるそれらへ、彼らがそれぞれ手を伸ばすと――雪游は霊符を素早く投げ、飛ばした。彼らの背中に一枚ずつ貼り付く。
その途端、彼らはこれ以上ないくらい口を大きく上げて天を向き、何かを吐き出した!
「出たな!」
小声で呟き、手のひらを握りしめる。だが、ここで終わりではない。
黒い影がどこかへ飛び去ろうとする。その後を追いかけて走った。少し先を雪游の従陰、使役する金華猫という妖猫が先導してくれる。彼らは尾に炎のような明かりを灯すことができるし、猫科の陰獣だから夜目が利くため、こういう時に助かる。
道士の格下、方士でも扱える下級の妖物だが、雪游は気に入っていた。
「……どこまで行くんだ……?」
実態がないものを相手に追いかけるのは、木々をかき分け、落ち葉で脚を滑らしそうになりながら追いかけているから分が悪い。けれど金華猫のお陰で見失わずに済んでいる。
「……ん?」
不意に、どこからともなく歌声が聞こえた気がした。だが、誰が陽も沈んだ昏い山の中で歌うと言うのか。――妖物に決まっている。
(竦斯……? なんだってこんなところに……?)
人を見ると歌いだし、踊る妖物。竦斯が歌ったということは、どこかからか雪游の姿を見たということになる。歌い踊るだけなので竦斯自体は害はない妖物だ。
かといって安心はできない。
思っていると、低くて長い吼え声が聞こえた。雪游の進む先、岩場の向こうだ。金華猫が振り返っている。終着点らしい。
「……うわっ」
そこにいたのは、朱面狒々だった。その姿は赤ら顔に一丈(約三メートル)ほどの身の丈、六尺(約一八〇センチメートル)はありそうな腕の長さ。今はその手に縊鬼を掴み、頭から貪っている。
「あいつ、縊鬼を食ってどうする……あっ?」
六体の縊鬼を食べきったところで、朱面狒々の体が少し大きくなった。食べて、自身の養分にしたということか。
いや、今は考えてる場合ではない。
ふっと息を吐いて自身の気を落ち着けると、袂から符と筆を取り出す。筆もただの筆ではなく霊符を書くための筆で、墨などなくとも書けた。
二枚を投げると、腰に佩いた細身の剣を抜く。岩を蹴って朱面狒々に斬りかかった。
あなたにおすすめの小説
大学一軍イケメンにいちご狩りに誘われた陰キャの俺、なぜかいちごじゃなくて俺が喰われたんだが(?)
子犬一 はぁて
BL
大学一軍イケメン×大学九軍陰キャ
喰われるなんて聞いてないんだが(?)
俺はただ、
いちご狩りに誘われただけだが。
なのに──
誘ってきた大学一軍イケメンの海皇(21)に
なぜか俺が捕まって食われる展開に?
ちょっと待てい。
意味がわからないんだが!
いちご狩りから始まる
ケンカップルいちゃらぶBL
※大人描写のある話はタイトルに『※』あり
バツイチ上司が、地味な僕を特別扱いしてくる
衣草 薫
BL
理性的でクールなバツイチ上司・桐原恒一は、過去の失敗から、もう誰も必要としないと決めて生きてきた。
男が好きだという事実を隠し、「期待しなければ傷つかない」と思い込んできた部下・葉山直。
すれ違いと誤解の果てに、直が職場を去ろうとしたとき、恒一は初めて“追いかける”ことを選ぶ。
選ばれないと信じてきた直と、逃げないと決めた恒一。
二人の距離が近づくことで、直は「ここにいていい」と思える場所を見つけていく。
元ノンケ上司×自己肯定感低め部下の社会人BL。※ハッピーエンド保証。
俺は夜、社長の猫になる
衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。
ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。
言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。
タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。
けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。
【完結】男の後輩に告白されたオレと、様子のおかしくなった幼なじみの話
須宮りんこ
BL
【あらすじ】
高校三年生の椿叶太には女子からモテまくりの幼なじみ・五十嵐青がいる。
二人は顔を合わせば絡む仲ではあるものの、叶太にとって青は生意気な幼なじみでしかない。
そんなある日、叶太は北村という一つ下の後輩・北村から告白される。
青いわく友達目線で見ても北村はいい奴らしい。しかも青とは違い、素直で礼儀正しい北村に叶太は好感を持つ。北村の希望もあって、まずは普通の先輩後輩として付き合いをはじめることに。
けれど叶太が北村に告白されたことを知った青の様子が、その日からおかしくなって――?
※本編完結済み。後日談連載中。
中年冒険者、年下美青年騎士に番認定されたことで全てを告白するはめになったこと
mayo
BL
王宮騎士(24)×Cランク冒険者(36)
低ランク冒険者であるカイは18年前この世界にやって来た異邦人だ。
諸々あって、現在は雑用専門冒険者として貧乏ながら穏やかな生活を送っている。
冒険者ランクがDからCにあがり、隣国の公女様が街にやってきた日、突然現れた美青年騎士に声をかけられて、攫われた。
その後、カイを〝番〟だと主張する美青年騎士のせいで今まで何をしていたのかを文官の前で語ることを強要される。
語らなければ罪に問われると言われ、カイは渋々語ることにしたのだった、生まれてから36年間の出来事を。
次男は愛される
那野ユーリ
BL
ゴージャス美形の長男×自称平凡な次男
佐奈が小学三年の時に父親の再婚で出来た二人の兄弟。美しすぎる兄弟に挟まれながらも、佐奈は家族に愛され育つ。そんな佐奈が禁断の恋に悩む。
素敵すぎる表紙は〝fum☆様〟から頂きました♡
無断転載は厳禁です。
【タイトル横の※印は性描写が入ります。18歳未満の方の閲覧はご遠慮下さい。】
12月末にこちらの作品は非公開といたします。ご了承くださいませ。
近況ボードをご覧下さい。
借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます
なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。
そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。
「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」
脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……!
高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!?
借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。
冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!?
短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。
俺の幼馴染が陽キャのくせに重すぎる!
佐倉海斗
BL
十七歳の高校三年生の春、少年、葉山葵は恋をしていた。
相手は幼馴染の杉田律だ。
……この恋は障害が多すぎる。
律は高校で一番の人気者だった。その為、今日も律の周りには大勢の生徒が集まっている。人見知りで人混みが苦手な葵は、幼馴染だからとその中に入っていくことができず、友人二人と昨日見たばかりのアニメの話で盛り上がっていた。
※三人称の全年齢BLです※