鄒家道士恋物語 憧れていた師兄に溺愛されていました?!~恋の自覚は体から~

オジカヅキ・オボロ

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12 茫鴞01

「ん? どういう意味だ?」
「茫鴞は古書に四凶しきょうに次ぐほど危険度が高い妖物だと記されている。ひとりやふたりの道士では太刀打ちできず、神仙であっても数人がかりで対峙するのが上策だと」

 言われてみればそうだ。座学で学んだ記憶が蘇ってくる。
 四凶しきょうと呼ばれる妖物は、饕餮とうてつ檮扤とうこつ窮奇きゅうき渾沌こんとん。どれも伝説級の妖物で、封じるにも多大な犠牲を払ったと書物には記されていた。

「白どのは仙獣だという。ならば練度は並の道士よりずっと高い、神仙と同じ。では劉どのは?」

 紫焔は自分のことを流浪の道士だと言っていた。師は行方知れずだとも言っていたが、どこの家にも属していないならその練度は雪游や冰淵には未知数だ。

「……あえて泰山たいざんへ昇山しない道士がいないわけではない」
「仙人になる気がないってこと?」

 泰山への昇山は、道士が地仙や天仙になるための試練を受けるために必須の登竜門だ。道士の目標は地仙天仙になることなのに、それをしないということはどういうことだろう。
 冰淵は雪游へほのかに微笑む。

「道士のまま各地を漂流するほうが、民のためになるという考え方がないわけではない。道士のままでいるというのはそれで説明がつくが……劉どのと白どのが友人だというのであれば、『いつ友人になったのか』という問題がある」

 寒澤は数百年の間、白平山の祠で鍵として眠っていたという。
 少なくとも数十年の中ではないというのなら、数百年前からの友人でなければ勘定が合わない。そうなら、ただの道士にしては長生きがすぎるし、外見も歳を取ってなさすぎる。
 冰淵の指摘と雪游の視線に、紫焔は頬から顎を撫でて苦笑した。

「鄒家の坊ちゃんは察しがいいな」
「おまえの誤魔化し方がザルなのだろう、紫焔」

 寒澤はやれやれと溜息を吐き、ぬるくなった茶を飲む。

「……鄒家の師範仙しはんせんは誰だ? 誰か暇な仙人が師になるとか言って八仙家には押しかけてるだろう」
韓湘子かんしょうし老師」
「……あいつか~~」

 紫焔が天を仰いで目蓋の上に手のひらを当て、参りきったと言わんばかりの声を上げる。
 あいつの弟子ならそりゃ優秀だ、先読みも巧い、などとぶつぶつ言っていたが、やがて肩を上下させるくらいの溜息を吐いた。

「……まあ我の身元身分に関しては一度横に置いてくれ。とにかく、我のそもそもの目的は茫鴞の再封印あるいは存在の滅却だ」
「前の時は封じるだけで精一杯」
「我もあれから一応は鍛練を積んできた」

 だから任せろ、手を引けと言っているのだろうが、鄒家の人間がそれで黙っていられるはずがなかった。

「要は、茫鴞ぼうきょうに食われなければいいだけ」

 自然に冰淵が口を挟む。その勢いを借りた。

「茫鴞を退治しなきゃ、白平山で何度でも同じことが繰り返される。瘴気や陰気も祓いたいけど、茫鴞がいるままじゃ無理だ。定期的に祓いに行っても間に合わない」
「我らは韓老師自らの楽も学んでいる」
「鄒家に来た依頼の完全な達成をしたい」
「…………」

 紫焔が何か言いたげに寒澤に視線を投げているが、寒澤は選択を紫焔にすっかり任せる気なのか、紫焔を見ようともしない。

「……まあ、そっちの綺麗な兄さんは地仙くらいの力はありそうだし、問題は小僧のほうか」
「小僧じゃない」
「ムキになるあたりが小僧だ。小僧は何が得意だ?」

 得意を聞かれているのは、霊符の種類なり得物のことだ。

「符は護りのほうが得意。楽器は鈴と二胡」
「鈴? 珍しいな」

 韓湘子の弟子なら笛や琴と言いそうだ、と珍しがられると、鈴を選んだ理由を言いづらい。

「……笛や琴は渢雪総領や冰淵師兄が誰より巧いから」
「何も巧くある必要はないんじゃないか?」
「それに、別の楽器のほうが合奏した時に威力が上がるって聞いたし」
「合奏……そうか、合奏できるのか……」

 それなら話が少し変わる、と紫焔が言う。思わず期待して彼を見た。

「……じゃあ、おまえたちふたりは後方支援だ。従陰を戦わせてもいいが、戦闘向きでないなら止めておけ」

 能力の高い従陰を得るのは容易いことではない。得られれば自身の仙力は上がるが、失われれば当然下がる。自分の能力をわざわざ下げたい道士も仙人もいないのだから、慎重に行動するに越したことはない。
 その後は茫鴞に対抗するための作戦を四人で練った。
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