鄒家道士恋物語 憧れていた師兄に溺愛されていました?!~恋の自覚は体から~

オジカヅキ・オボロ

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18 韓湘子

 鄒家は道家の中でも名門八家・八仙家のうちのひとつで、一族や門弟たちは素行も品性も良く、他家の評判も良い。だから分家の子弟とは別に、他の道家から見習いとしてやってくる門弟もいた。

「雪游師兄、初任務はどんな妖物と戦ったのですか」

 無邪気に問いかけてくるのは年少の子弟で、たしか分家の分家の子弟だったはずだ。

「派手な戦いはあまりなかったかな。行き帰りで僵屍は祓ったし……ああ、朱面狒々しゅめんしょうじょうは倒したよ」

 なんとなく茫鴞のことは話にしにくくて言うのを避けた。少年たちはそのことには気付かず、瞳を輝かせて雪游を見上げる。

「朱面狒々! 猩々とどちらが大きいのですか」

 もうひとりは鄒家と交流のある道家の子弟だ。ふたりとも才気あり、勇気も同じくらい持ち合わせていて、まだ鬼狩りにも出られない年齢だからか、そういった話を好むところがある。

「今回の朱面狒々は猩々よりずっと大きかった。色んな妖物を食べてたみたいだったし……」
「妖物が妖物を食らうことがあるのですね……」
「もちろん妖物にとっての好物は妖物によって違う。人の場合もあれば獣の場合もあるから……そのあたりの実践は、もうじきおまえらも鬼狩りに参加できるようになればわかっていくだろうし、鬼狩りで下手なことをしないためにも、勉強はしないとな」
「はい!」

 頷くふたりの頭をよしよしと撫でる。この年頃の自分もこんなだっただろうか、と懐かしく思っていると、廊下の向こうから急ぎ足で別の門弟がやってきた。

「雪游師兄! 講義室のほうへ集合がかかっています」
「皆か?」
「子弟門弟問わず、皆です。韓湘子かんしょうし老師せんせいがいらっしゃいました」
「韓老師か! それは急がないとな」

 門弟ふたりの背を叩くが、決して廊下を走ることはしない。
 韓老師の授業は楽しいから、皆が大好きだ。楽しみにしているといって過言ではない。
 今日は前回の、姿形を変える術の復習だろうか。楽しみにしつつ、雪游も脚を急がせた。

「老師、ご連絡頂けましたらきちんとお迎えしましたのに」

 先頭で出迎えた渢雪が穏やかに微笑むのに、湘子は扇子をひらひらさせて笑う。
 長い黒髪を右耳の下で括り流している。長袍は肩にかけただけで袖を通していない。扇子を開いたり閉じたりするのは落ち着きのない子どものようだったが、どこか雅でもある。

「きちんとお迎えされたら抜き打ち試験にならんだろう? 鄒家の子弟や門弟たちは、その点優秀すぎるほど優秀だな」

 子弟門弟たちはちょうど、朝食を食べ終わって朝課ちょうかの講義の始まりを待とうとしている刻だった。
 韓湘子が来れば、格上の彼のやることを優先するに決まっていた。仙人の中でも最上格である天仙てんせんである彼は、誰より目上だ。当然、双子や八仙家よりも。

「今日はどんなことを?」
「授業参観気分で来たのだが……そうだな……前回のおさらいをすることにしようか」

 そう言って湘子は懐から出した白紙の紙に、さらさらと呪を書いていく。そんなに長くかからなかったのは、難しくない術符だからなのだろう。

「見本は書いたから、各自参考に。終わったら、いくつかの班に分けて実践に行くから出かける支度をすること。四班に分かれ、引率はわたし、渢雪、冰淵、汐柳せきりゅう。班ごとに符の条件は変える」

 汐柳は渢雪・冰淵の叔父で、ふたりがいない時などは総領代行をしている。生真面目だが融通が利かないわけではない。双子とは、笑った時の目許の雰囲気がよく似ていた。

「……先生はいつも唐突ですね?」
「そういうのも好きだろう? 汐柳」
「嫌いではありませんが」

 皆、口は開かないが雰囲気が一気に明るくなった。湘子の授業は座学だけの時もあるが、実践が伴われることが多い。その実践もしばしば街へ出ることがあった。
 授業は街で解散することが多く、渢雪たちも羽目を外しすぎないならと、自由行動時間をくれる。日頃は規律正しく過ごしているから、ご褒美の側面が強い。道士に成り立てとはいえまだ方士の子弟門弟たちより上の立場になる雪游も、表には出さないようにするが気持ちは彼らと同じだ。

 次の関心事は『自分の引率になるのは誰か』だ。引率の四人とも子弟門弟たちからの人気や人望は厚いが、湘子は天仙であるため、門弟たちの中には相対するのに気が引ける、緊張する者も多い。

 安定の人気は双子、とくに渢雪だ。
 穏やかで凪いだ性情、優しく慈愛すら感じる微笑みや言動には、惹かれる者が多い。その言動や性情を指して『鄒家春君すうけのはるのきみ』と密かに言われている。総領という点を引いても、憧れる者が多いのは納得だ。

「各班長の言うことをよく聞くように」

 適当としか思えない振り分け方が終わる。訓規を守っているから皆大袈裟な反応はなかったが、気合いの入った者や浮かれた者などはわかりやすかった。
 雪游は湘子の班だ。

「この霊符は、身に着けた者の外見を、他の者からは別の者に見えるようにできる。呪のこの部分を適宜変更すれば、女の姿にも老人の姿にもなれる。各自、今持てる知識を駆使して変化してみせてくれ」

 振る舞いも評定すると湘子が言う。見た目だけ変わっても仕方がないということだろうか。

「韓老師、質問してもいいですか?」
「雪游。何かな?」
「この変化の術の使い道というのは……?」
「特にない」
「…………」

 あっけらかんと言われると、二の句が継げなくなる。

「だが、こういう『何に使えるかわからない術』を覚えておくのも教養のひとつだ。基礎ひとつでも覚えられれば、別の霊符を書く時にも閃きが得られるだろう。もちろん、大前提として正しい霊符をたくさん覚えておく必要があるが」
「なるほど……」
「社会勉強を兼ねていると思え。半刻もしたら出るからな」

 期限はそこまでだ、と湘子が言い、皆慌てて机に向かった。
 試行錯誤する時間は嫌いではない。けれど期限があるとなると話は変わってくる。
 まず変化させたい姿を考え、そのためには何が必要か。

 雪游は年代をさほど変えず、容姿だけを変えることにした。雪游の見た目はようやく少年を抜けた青年。鄒家の者らしい清潔感があり、輪郭や鼻筋はすっきり通り、整っている。笑えば目尻は甘く垂れた。多くの人が好感を持つ好青年だと言える。

 自分の顔は少なくとも双子のような美の塊というわけではない。それでも街に出れば女性たちから声をかけられることもあるから、どうせならもっと地味で冴えない男になったほうが気楽なのではないか。
 変えるなら冴えないほうに変えたほうが楽しいに決まっている。
 きっと街に出れば最終的にそこで解散することになるだろう。そうなれば渢雪も多少は自由時間を設けてくれるはずだ。変わった姿で街を散策するのも、いつもと違った景色が見られるだろう。
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