鄒家道士恋物語 憧れていた師兄に溺愛されていました?!~恋の自覚は体から~

オジカヅキ・オボロ

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23 交談会03

 宴もたけなわとなってくれば、宴が始まる前よりずっと、様々な道家が酒を持って挨拶にやってくる。
 そこにあるのは、鄒家と縁を繋ぎたいだとか、自分の子どもに鄒家の私塾に通わせたいだとか、厄介事の解決を頼みたいだとか、様々な理由だ。
 そうして総領である渢雪は彼らが小さな杯に注ぐ酒を断らず、幾杯も飲み干す。

「総領、あんなに飲んで大丈夫……?」

 十杯くらいまでは数えていたが、あまりに色々な人物がやってくるので数えられなくなってきた。座は汐柳が替わってくれたから、隣には冰淵がいる。

「大丈夫。杯はそのために小さいし、兄上は強い。成人してからずっと、どんなに飲んでも誰も酔ったところを見たことがない」
「そんなに……?」

 鄒家では酒が饗されることは多くない。むしろ少ないほうかもしれない。それなのに酒が強いとは、どこで鍛えたのだろう。

義姉上あねうえが強い。その血だ」
「先代さまの奥方さまが?」

 反対側から寄越された汐柳の言葉に驚いて彼を見ると、普段冰淵以上に表情を動かさない彼にしては珍しく、口許には苦笑が滲んでいた。

「あの方が一抱えほどもあるかめを二桁空けても、酔い潰れたところは見たことがない。おそらく、誰も」
「……そんなに……」

 女性ながらの酒豪を母に持っていれば、たしかに子である渢雪もその血を受け継いでいる可能性はある。もしかしたら冰淵だって。
 ちらりと冰淵を見るが、冰淵に注がれるはずの酒も大半は渢雪が引き受けていることには気付かなかった。

「雪游」
「はい、総領」
「冰淵を部屋まで連れて行ってくれないか」
「師兄を?」

 どうして、という疑問は、表情に出たのだろう。渢雪は苦笑する。

「……冰淵は私より酒に弱い」
「あ……」

 ということは、すでに冰淵は酔っているということだろうか。隣を見ると、冰淵はいつもの様子に思える。せいぜい目許と耳が薄ら染まっているくらいだろうか。
 それなのに酔っているのか。

「酔い潰れる前にね。頼むよ」
「はい。……行きましょう、師兄」

 こくりと頷く冰淵は、常と変わらないように見える。立ち上がり、雪游を伴って宛がわれた部屋へと向かう。
 途中、董顕甫とうけんほと数名の者と出くわした。
 こちらに気付くと、露骨に嫌な顔をする。雪游も嫌な顔をしたかったが、一緒にいるのが冰淵だけなので堪えておくことにした。

「これは鄒家冬君すうけのふゆのきみ、もう下がられるのですか」

 顕甫はお付きの者と思しきふたりに両脇から支えられているように見える。ずいぶん酒を飲んだのだろう。おそらく、成人の祝いだとかなんとか他家から言われ、杯に注がれ続けたに違いない。一緒にいる若者たちは数年先に成人した者たちだろうが、顕甫と似たり寄ったりだ。
 自分も礼儀上断らずに飲みはしたが、そんなに強い酒でもないのにここまで酔えるのもすごい、とある意味で感心してしまう。

「冰淵師兄は私の体を気遣って、共に下がってくれるだけです」

 顕甫と一緒にいるのが八仙家のうち、りく家とふう家、よう家の子弟たちだと気付いていたので言葉遣いは表向きのものにしておく。
 無視したいところだったが、冰淵が足を止めてしまったので仕方がない。

「冰淵さまは師弟思いであられる」
「では、われらから冰淵さまの師弟への祝いの杯は受け取ってもらえるだろうか」

 このやろう、と言いたかったのをなんとかして歯の裏に留め、彼らがこれ見よがしに掲げる小さな酒壺をひったくる。

「お……?」
「これはこれは、成人したての雛鳥どのが水と間違えておられるのでは?」
「うるさい、黙れ」
「な」
「なに?」

 短い言葉で一蹴して、酒瓶を引ったくるとそのまま口を付けて一気に飲み干した。宴会で出されている酒と変わらない酒だ。こんなもので酔っ払うものか。
 酒瓶をひっくり返し、すっかり飲み干したことを見せつけてやると、ふっと鼻で笑う。

「この程度の酒で酔えるとは、安くて良いですね。……師兄、行きましょう」

 呆然とする顕甫たちを残して促してその場を立ち去ろうとしたが、冰淵は彼らをそれぞれ見つめると、傍に寄った。

「? なに……」

 警戒した彼らが身じろぎする前に、それぞれの頭をひと撫でしていく。それから小さく頷いて、誰より呆然とする雪游を促して部屋のほうへと足を向けた。

 どういうことだろう。

 何故冰淵は彼らの頭を撫でたのか。
 そうしてふたりは、冰淵に宛がわれた部屋ではなく雪游に宛がわれた部屋にいた。

「兄さま、もしかしてものすごく酔ってる……?」

 冰淵の部屋はそちらではないと散々言ったにも関わらず、頑なに雪游の部屋に入ろうとした。だから諦めて自分の部屋へ冰淵を招き入れたのだ。
 普段理性的な冰淵らしくない。どちらかと言えば子どもっぽい気がした。それも酔っているせいなのだろうか。思っているよりずっと酔っ払ってしまっているということなのだろうか。
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