鄒家道士恋物語 憧れていた師兄に溺愛されていました?!~恋の自覚は体から~

オジカヅキ・オボロ

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24 交談会04

 窓近くに敷かれた敷物、円座、小さな卓、火鉢。雪游は冰淵を円座に座らせると、慣れた手つきで茶を淹れた。

「雪游は」

 ぽつりと冰淵が呟く。

「……酒に強いのだな」
「そう、かな。酔ってる感覚は……たしかにないかもしれないけど」

 熱い湯を少し冷まし、温かい茶で満たした湯呑みを冰淵の前に置く。すぐに手に取ってくれると、ゆっくり口を付けた。その仕草のひとつひとつを見つめつつ、自分も湯呑みに口を付ける。長い指、大きな手のひらが湯呑みを持ち、テーブルに置かれるのをじっと見つめた。
 あの手や指に触れられた感触はどうだったか。思い出しそうになるのは、酔っているからだと思いたかった。

「雪游」
「はい」
「……眠ろう」
「うん、じゃあ……」

 房室へやまで送るよ。
 と言いたかったのに、冰淵に軽々と抱き上げられてしまった。

「えっ、兄さま?」
「一緒に眠ろう」
「ええっ?」

 聞き間違いかと思ったが、雪游を抱き上げた冰淵は真っ直ぐに牀へ向かい、器用なことに一度も雪游を下ろすことなく抱き込んで横になる。あまりにも流れるような動作に、そして迷いのない冰淵の行動に、頭の中は疑問符でいっぱいだ。

 渢雪の言うように、やはり冰淵は酔っているに違いない。そうでなければ彼らしからぬ行動はとらないだろう。いちいち彼のそういう言動に惑わされてしまうのは、自分が未熟だからなのか、酔っていないからなのか。根底には彼への想いがあるからに違いないのだけれど。

 抱き込まれたまま、額に口付けされた。体が硬直してしまう。

「に……兄さま……?」

 これは相当に酔っ払っている。明日冰淵がこのことを覚えているかも怪しい。
 そんな確信を抱いていると、追撃がきた。

「……っん……!?」

 上向かされた、と思うとくちびるを奪われる。
 体を離そうとしても、わずかの身じろぎも許されないのではないかと思うほど腰も背も腕が回っていてびくともしない。もちろん、大事な師兄を蹴るなどという真似などできるはずがなかった。
 その間にも冰淵の酒の味がする舌が滑り込んでくる。

「ぁ……、っう、ン……ッ」

 さすがに後で後悔するのは自分ではなく冰淵のほうだろうという理性はあった。
 だから二秒だけ葛藤した後で、なんとか片腕の自由を取り戻すと手刀を冰淵に落とす。
 普段なら絶対にまともには食らわないだろうに、この時ばかりはうまくいった。

「はぁ……」

 ほっと息を吐く。
 口付けをしたいと思ったことはあるが、それは決してこんな風にすることではない。
 酔っ払いのしたことに動揺してはいけないと思うのに、やはり心は乱れる。いけない、ダメだと思うのに、嬉しいとも思ってしまう。

「…………」

 自分ばかり冰淵の言動で心が乱れている。乱されてしまう。

「兄さまはそんなことないんだろうな……」

 いつも落ち着いて構えていて、焦ったり慌てたり苛々していたり、誰に対しても、何に対しても負の感情を表に出しているところを見たことがない。門弟を指導する時には厳しさはあるが、それは彼らや雪游のためだ。

「ずるいんじゃないかな……」

 焦るのも、慌てるのも、靄々するのも、悶々とするのも、自分ばかりだ。

「……兄さま、明日、覚えてるかな……」

 酔った勢いとはいえ、理由もなく口付けたことを。覚えていてくれればいい。少しは焦ったり、慌てたりしてくれたっていいし、そんな姿も見てみたい。

「困らせたいわけじゃないんだけど」

 崩れたところは見たいと思う。師弟失格だろうか。どんな冰淵も好きでいる、嫌いにはならないと思っているのだけれど。
 顔を上げれば冰淵の怜悧で誰より麗しく、百花にも勝る佳麗な顔がある。今は夕闇色の瞳を目蓋が隠しているが、それを少し惜しいと思うくらいには彼の瞳も好きだった。

「……あったかい」

 冰淵を冷たいと言う人間は、この温かさを知らないからそんなことが言える。優しいところもあるのだと知らないから、冷血などと陰口を叩く。
 こんなに温かいのに。
 けれど自分以外の誰も、この温かさを知らなくていいと思ってしまうから、悪口を言う人間より酷いのではないか。

 ひとり占めしたい。
 この人のすべてを。

 そんな風に思ってしまうのは、やはり己が未熟のせいか。

「……おやすみ、兄さま」

 これくらいは赦してほしいと思いつつ、くちびるにそっとくちびるを重ねた。
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