鄒家道士恋物語 憧れていた師兄に溺愛されていました?!~恋の自覚は体から~

オジカヅキ・オボロ

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26 交談会06

「……とはいえ、山は広いなぁ……」

 今回各道家・仙家から成人した者は七名。七名が山のあちこちに散らばり、打ち上がる花火を合図に鬼狩りを始める。制限時間は一刻(約二時間)だ。

癖山くせやまだから、白平山はくびょうざんに近い感じかな……とすると、やっぱり目指すは山奥か」

 白平山は裾野が広かったが、彭山は少し進んだだけで険峻になっていく。もちろん空行仙で山奥を目指すこともできるが、今回は空行仙は使用不可だと言われていた。
 何も奥深くにだけ僵屍きょうしや鬼霊や妖物がいるとは限らない、とはたしかにそうなのだろうとは思うが、鬼狩りというより新米道士に山の浄化を任せる腹づもりがあるのではないかとも思える。
 木々の上からでは地形がわかりづらいが、かといって地を歩くから地形がわかるかと言われると、決してそうではない。

「そりゃいいところは見せたいけど……」

 日中だから、活動している僵屍や鬼霊は少ない。という常識通りにはいかなかった。
 上空や山の外からでは察知できなかった陰気や瘴気が、あちこちに澱んでいる。細かなものまで祓っていては体力がいくらあっても足りなくなるから、大きなものだけ祓うことにした。
 必然、陰気や瘴気に惹かれ集まるものたちの相手をすることになる。

「白紙の符をたくさんもらえたのは良かったけど」

 武器としての愛剣は腰に差してある。符もあるし、楽器もあった。
 それにしても、自分があちらこちらと移動して戦うのでは効率が悪すぎる。もう少し効率的かつ楽にできる方法を考えたほうがいいのではないだろうか。

「……試してみるか」

 昔、書庫で読んだ楽譜の中に『召鬼音しょうきおん』という譜があった。妖物たちを歩いて探し回るよりは、向こうから来てもらうほうが手っ取り早い。来た妖物たちは、低級であれば罠符に集まって松明の火に焼かれる虫のように滅するだろうし、中級の妖物が来れば直接対決すればいい。
 安直な作戦ではあるが、悪くないのではないか。
 もちろん危なくなれば後で説教されるのは間違いないだろうが。

「ええと……音の届く範囲が召鬼の範囲だから」

 得意の楽器は、鈴以外に二胡もある。今使うのは二胡にしようと決めて、取り出すと草の上に片膝を立てて座り込む。楽器は外で使ったこともあるから、おおよそ音が届く範囲は把握している。
 弦の調整をすると、一音を鳴らす。二胡の機嫌は悪くないようだ。

「…………」

 低く、高く、伸びやかに音がいくつかあたりへ広がる。弾いたのはごく短い旋律だったが、雪游は手を止めるとすぐに楽器をしまった。
 木々や空気がざわざわとしている。
 陰の気が集まってくる気配。

「……これくらいならなんとかなるか……」

 己の能力を過小評価も過大評価もせずに頷くと、符に術式を書き、周囲へ撒く。まずは小物を片付け、その間に符を潜り抜けたものを狩る。
 術は僵屍程度なら殲滅できる。
 問題は中級以上の魔物や妖怪の類だが、中の上以上に遭遇しないことを祈りたい。

「……来たな」

 早速、彷徨える僵屍たちが五体やってくる。これは符に焼かれて消えた。続けての数体も焼かれると、符を追加して撒いた。

「ん?」

 木々がざわめく。風の音ではない。音のしたほうを見上げれば、三体ほどの猿がいる。だが普通の猿より体格は大きく――瞳孔のない目が赤い。
 当然、妖怪の類だ。
 名を玃猿かくえんと言い、その習性は人間の女を攫って犯す。麓のほうまで出てくれば当然被害が出るわけで、ここで倒すに限る。

「こいつは……たしか下の中だったか」

 それなら撒いた符で対応できる。
 だが、そのうちの体格の良い一体だけが、かろうじてという感じで残った。首領格のようだ。
 けれどこれの相手も容易い。
 符で半ば以上消耗しているのだから、易々と斬り倒せた。

「……そろそろ半刻かな」

 できればもう少し大物を倒したいところだ。場所を移動すべきだろうか。
 思っていると、少し離れたところから男の悲鳴が聞こえた。

「こんなところに一般人が来るわけがないけど……」

 聞いてしまった以上、無視するわけにはいかない。声がしたほうへ駆け出した。
 仮に自分と同じ新米道士なら、雪游が手助けしなくても張番の者たちが手助けはしてくれるに違いないが、それならそれを見届けなければ後味が悪い。
 それに、もし雪游の『召鬼音』でやってきた妖魔鬼怪の類なら、雪游に責任がないとは言えないからだ。

「くっ……この……!」

 若い男は見たことがあるような出で立ちで、相対しているのは翼のある大蛇・化蛇かだと、狼ほどの大きさもある狸のような化け物・かんだ。今彼が攻撃を防いだのは讙だが、頭上から化蛇が襲いかかろうとしている。
 斬りかかるより速い。
 判断して二胡を爪弾いた。
 化蛇が雪游を見る。二音、三音と鳴らし、男から距離を取ったところで演奏の合間に符を投げ、剣で斬りかかった。

「……硬い!」

 鱗は金属でできているかのようで、特別な金属で作られている霊剣でもほんの僅かしか傷を付けられない。
 こんな時はどうするか。
 蛇の体当たりを躱すと二胡を袖へしまい、代わりに鈴を取り出した。
 しゃん、しゃん、と清浄な音を少しずつ響かせていく。化蛇は初めは音を気にせず雪游へ食らいつこうとしたり長い尾を鞭のようにしならせて打ってきたが、鈴の音が響くにつれ不快になってきたのか、身をくねらせる。
 化蛇がのたうつように地に転がると、雪游は再度手にした剣で今度はもがいている化蛇の口中から頭へと剣を貫かせる。

「ガ……ガが……」

 頭をもたげたのは反撃のためだったかもしれない。けれどすぐに力なく頭は地に倒れ、ビクビクと震えた体はやがて痙攣を止めた。
 倒したことを確認すると、男のほうを振り返る。

「おい、そっちは……」

 大丈夫か、と言いたかったが、讙相手に多少手こずっているようだ。
 このまま苦戦すれば消耗するのは青年のほうだろう。けれど彼の獲物を横取りする気まではない。
 仕方ないなと呟き、一枚の符を讙の足許へと飛ばす。動きを鈍らせる符だ。

「うおおおおおお!」

 青年の剣の一撃が、ようやく讙の首を斬る。絶命の声もなく讙が死んだのを見ると、彼は地に腰を落とした。腰が抜けたのかもしれない。戦いの中で抜けなかっただけ立派なものだろう。
 放心した青年がこちらのことに気付く前にと、雪游は急いでその場を後にした。
 彼がこちらに気付くと非常に面倒だ。何故なら彼は董顕甫だったから――。
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