30 / 48
30 事件02
次の日の夕食は川魚を皮ごとパリパリに焼いたものを中心に、野菜の炒め物やとろみのある餡のかかった炒飯がとても美味しく、雪游は機嫌良く食べていた。
「兄さんたち、よかったらこれも飲んでくれ」
突然隣の卓の五十代ほどの男たちから白い徳利が渡される。今までも雪游の食べっぷりを気に入った中年以上の男性たちから飲食物をもらったり奢られたことは何度かあったため、この時も特に不思議に思わなかった。
「これは酒?」
「果実を漬け込んだ絶品の酒だ。ただ、おれたちにはちょっと甘すぎたんだ。よかったら飲んでくれよ、お代はいいからよ」
あまり遠慮しすぎるのも、と判断して、結局受け取る。早速と杯に注いでみれば、綺麗な琥珀色だ。一口飲んでみたが、たしかに甘い。果実の風味もしっかりあった。杏子酒だろうか。
「美味しい! おじさんたち、ありがとう」
礼を言って、雪游は料理と一緒に酒を楽しんだ。
そうして、酒場から出る頃には雪游の足許はふらふらとしていて、ひとりで歩くには危ういくらいに酔っ払っていた。
「にいさまは、どうしてのまなかったの」
呂律が怪しいながらもなんとか聞き取れる言葉で雪游は冰淵に問いかける。冰淵は雪游と手を繋いでいたが、雪游があっちへフラフラこっちへフラフラと歩くので、最終的に雪游を子どもにするように抱き上げてしまった。
酔っ払っている雪游はご機嫌で冰淵の首に抱きつく。
「私まで飲んだら帰れない」
「……おいしかったの、いっしょにのんでほしかったのに……」
口調が幼くなっている自覚もない。感情も普段よりずっと素直に、それこそ子どものように現れていた。今は拗ねた子どもだ。
「天水に戻ったら」
「! やくそくだよ」
ご機嫌でぎゅうと抱きつく。
思考や判断がふわふわとしていて、心地よい。酒に弱くはないが、こんな風に楽しい気持ちになるならまた飲みたい。言えば止められるかもしれないから、内心に秘めておく。
宿の自室に着いても、冰淵の膝からどかずに抱きついたままだったのも酔いのせいだ。牀に寝転がっても冰淵が緩く抱きしめてくれていたのは、膝や牀から落ちないようにしてくれていたのだろうけれど。
「……にいさま、あのね」
「うん?」
「オレ、もしかしたら、陰気なくなってないかも……」
「何?」
気遣わしげな冰淵の夕闇色の瞳が、雪游の青空色の瞳を覗き込んでくる。間近でじっくりと見る彼の顔は、やはり誰より美しい。夕闇色の瞳も、吸い込まれてしまいそうだ。
夕暮れ時が好きなのは、街から帰ってくる時に冰淵と手を繋ぎ、日暮れを山から眺めるのが好きだった記憶のせいもあるかもしれない。ただそれも「兄さまの色だ」と思ったから、どちらが先に好きだったのか、今ではわからないのだが。
冰淵の視線が外れる。頭を撫でられた。
「大丈夫」
抱きしめて背をあやされる。嬉しいのに、不安もあった。けれど安心感から睡魔も襲ってくる。
「にいさま……」
「うん?」
「すきだから、さわってほしいのかな……」
じっと冰淵を見つめた後で、顔を近付けて、くちびるを触れ合わせる。それだけで満足すると笑み、ふぁ、と欠伸をすると冰淵に抱きつき直す。
衣越しにも伝わる体温は心地よい。何より一番安心できる場所だったから、安心感もある。
「んん……」
一度目を閉じると、開けるのはもう難しい。冰淵が何かを言った気がしたが、眠気に抗えずにそのまま意識を眠りの縁に落としてしまった。
「兄さんたち、よかったらこれも飲んでくれ」
突然隣の卓の五十代ほどの男たちから白い徳利が渡される。今までも雪游の食べっぷりを気に入った中年以上の男性たちから飲食物をもらったり奢られたことは何度かあったため、この時も特に不思議に思わなかった。
「これは酒?」
「果実を漬け込んだ絶品の酒だ。ただ、おれたちにはちょっと甘すぎたんだ。よかったら飲んでくれよ、お代はいいからよ」
あまり遠慮しすぎるのも、と判断して、結局受け取る。早速と杯に注いでみれば、綺麗な琥珀色だ。一口飲んでみたが、たしかに甘い。果実の風味もしっかりあった。杏子酒だろうか。
「美味しい! おじさんたち、ありがとう」
礼を言って、雪游は料理と一緒に酒を楽しんだ。
そうして、酒場から出る頃には雪游の足許はふらふらとしていて、ひとりで歩くには危ういくらいに酔っ払っていた。
「にいさまは、どうしてのまなかったの」
呂律が怪しいながらもなんとか聞き取れる言葉で雪游は冰淵に問いかける。冰淵は雪游と手を繋いでいたが、雪游があっちへフラフラこっちへフラフラと歩くので、最終的に雪游を子どもにするように抱き上げてしまった。
酔っ払っている雪游はご機嫌で冰淵の首に抱きつく。
「私まで飲んだら帰れない」
「……おいしかったの、いっしょにのんでほしかったのに……」
口調が幼くなっている自覚もない。感情も普段よりずっと素直に、それこそ子どものように現れていた。今は拗ねた子どもだ。
「天水に戻ったら」
「! やくそくだよ」
ご機嫌でぎゅうと抱きつく。
思考や判断がふわふわとしていて、心地よい。酒に弱くはないが、こんな風に楽しい気持ちになるならまた飲みたい。言えば止められるかもしれないから、内心に秘めておく。
宿の自室に着いても、冰淵の膝からどかずに抱きついたままだったのも酔いのせいだ。牀に寝転がっても冰淵が緩く抱きしめてくれていたのは、膝や牀から落ちないようにしてくれていたのだろうけれど。
「……にいさま、あのね」
「うん?」
「オレ、もしかしたら、陰気なくなってないかも……」
「何?」
気遣わしげな冰淵の夕闇色の瞳が、雪游の青空色の瞳を覗き込んでくる。間近でじっくりと見る彼の顔は、やはり誰より美しい。夕闇色の瞳も、吸い込まれてしまいそうだ。
夕暮れ時が好きなのは、街から帰ってくる時に冰淵と手を繋ぎ、日暮れを山から眺めるのが好きだった記憶のせいもあるかもしれない。ただそれも「兄さまの色だ」と思ったから、どちらが先に好きだったのか、今ではわからないのだが。
冰淵の視線が外れる。頭を撫でられた。
「大丈夫」
抱きしめて背をあやされる。嬉しいのに、不安もあった。けれど安心感から睡魔も襲ってくる。
「にいさま……」
「うん?」
「すきだから、さわってほしいのかな……」
じっと冰淵を見つめた後で、顔を近付けて、くちびるを触れ合わせる。それだけで満足すると笑み、ふぁ、と欠伸をすると冰淵に抱きつき直す。
衣越しにも伝わる体温は心地よい。何より一番安心できる場所だったから、安心感もある。
「んん……」
一度目を閉じると、開けるのはもう難しい。冰淵が何かを言った気がしたが、眠気に抗えずにそのまま意識を眠りの縁に落としてしまった。
あなたにおすすめの小説
大学一軍イケメンにいちご狩りに誘われた陰キャの俺、なぜかいちごじゃなくて俺が喰われたんだが(?)
子犬一 はぁて
BL
大学一軍イケメン×大学九軍陰キャ
喰われるなんて聞いてないんだが(?)
俺はただ、
いちご狩りに誘われただけだが。
なのに──
誘ってきた大学一軍イケメンの海皇(21)に
なぜか俺が捕まって食われる展開に?
ちょっと待てい。
意味がわからないんだが!
いちご狩りから始まる
ケンカップルいちゃらぶBL
※大人描写のある話はタイトルに『※』あり
バツイチ上司が、地味な僕を特別扱いしてくる
衣草 薫
BL
理性的でクールなバツイチ上司・桐原恒一は、過去の失敗から、もう誰も必要としないと決めて生きてきた。
男が好きだという事実を隠し、「期待しなければ傷つかない」と思い込んできた部下・葉山直。
すれ違いと誤解の果てに、直が職場を去ろうとしたとき、恒一は初めて“追いかける”ことを選ぶ。
選ばれないと信じてきた直と、逃げないと決めた恒一。
二人の距離が近づくことで、直は「ここにいていい」と思える場所を見つけていく。
元ノンケ上司×自己肯定感低め部下の社会人BL。※ハッピーエンド保証。
俺は夜、社長の猫になる
衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。
ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。
言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。
タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。
けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。
【完結】男の後輩に告白されたオレと、様子のおかしくなった幼なじみの話
須宮りんこ
BL
【あらすじ】
高校三年生の椿叶太には女子からモテまくりの幼なじみ・五十嵐青がいる。
二人は顔を合わせば絡む仲ではあるものの、叶太にとって青は生意気な幼なじみでしかない。
そんなある日、叶太は北村という一つ下の後輩・北村から告白される。
青いわく友達目線で見ても北村はいい奴らしい。しかも青とは違い、素直で礼儀正しい北村に叶太は好感を持つ。北村の希望もあって、まずは普通の先輩後輩として付き合いをはじめることに。
けれど叶太が北村に告白されたことを知った青の様子が、その日からおかしくなって――?
※本編完結済み。後日談連載中。
中年冒険者、年下美青年騎士に番認定されたことで全てを告白するはめになったこと
mayo
BL
王宮騎士(24)×Cランク冒険者(36)
低ランク冒険者であるカイは18年前この世界にやって来た異邦人だ。
諸々あって、現在は雑用専門冒険者として貧乏ながら穏やかな生活を送っている。
冒険者ランクがDからCにあがり、隣国の公女様が街にやってきた日、突然現れた美青年騎士に声をかけられて、攫われた。
その後、カイを〝番〟だと主張する美青年騎士のせいで今まで何をしていたのかを文官の前で語ることを強要される。
語らなければ罪に問われると言われ、カイは渋々語ることにしたのだった、生まれてから36年間の出来事を。
次男は愛される
那野ユーリ
BL
ゴージャス美形の長男×自称平凡な次男
佐奈が小学三年の時に父親の再婚で出来た二人の兄弟。美しすぎる兄弟に挟まれながらも、佐奈は家族に愛され育つ。そんな佐奈が禁断の恋に悩む。
素敵すぎる表紙は〝fum☆様〟から頂きました♡
無断転載は厳禁です。
【タイトル横の※印は性描写が入ります。18歳未満の方の閲覧はご遠慮下さい。】
12月末にこちらの作品は非公開といたします。ご了承くださいませ。
近況ボードをご覧下さい。
借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます
なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。
そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。
「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」
脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……!
高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!?
借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。
冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!?
短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。
俺の幼馴染が陽キャのくせに重すぎる!
佐倉海斗
BL
十七歳の高校三年生の春、少年、葉山葵は恋をしていた。
相手は幼馴染の杉田律だ。
……この恋は障害が多すぎる。
律は高校で一番の人気者だった。その為、今日も律の周りには大勢の生徒が集まっている。人見知りで人混みが苦手な葵は、幼馴染だからとその中に入っていくことができず、友人二人と昨日見たばかりのアニメの話で盛り上がっていた。
※三人称の全年齢BLです※