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32 事件04
「おい、人数揃ってんだろうな?」
「問題ない、四人いる」
「ならいい。行くぞ」
くぐもった男たちの声を聞くと、雪游は目を開けた。目を開けても視界は真っ黒いのは仕方がない、何しろ頭から麻袋を被せられていた。おまけに後ろ手に縛られているし、足首も縛られていて猿轡までされている。
やはりあの男たちが酒に何か入れていたのだ。
だから前回は記憶がなくなるほど酔っ払ってしまった。冰淵が飲まなかったのは、何かを察していたのか、強くはないせいか。けれど結果的にそのお陰で助かったのだろう。
自分が酒に弱いせいではないと安心したが、かといって状況が良くなるわけではない。今回は念のため少しだけ本当に飲み、あとは飲んだフリをして寝入ったことにした。
読み通りといえば読み通りの状況ではある。
問題は、どこに連れて行かれて何をされるか。
冰淵の金華猫も雪游の金華猫もこの状況はわかっているし、冰淵に連絡も行っているはず。すっかり安心しているわけではないが、なんとかなるという確信だけはあった。
「本当に信じられない……」
翌朝朝食を食べながら紫焔から聞き出した話や昨日男たちから聞いた話を整理していたが、考えるほどに耳を覆いたくなる話だった。
「そりゃあ確かに花魄は無害だし、見ている分には小さな美女だけど……人為的に作り出すために人を自殺させるなんて」
憤りは握った拳に表れたが、振り下ろす先が見つからない。紫焔は苦笑し、短い溜息を吐いた。
「それで商売してるんだから、まさに血も涙もないってやつだなァ」
「人道に悖る」
短い言葉だが、冰淵もそれなりに思うところはあるのだろう。傍目には表情が動かないのでわかりづらいが。
「氾って商人、最近羽振りがいいって聞いたけど……人間が良くないっていうのは、そのへんが滲み出てたんだろうな……」
「そちらは洪が相手をしているのだろう?」
「ああ」
「劉どのの依頼主はそちらか」
「そうだ。あの爺さん、独自の調査で氾が怪しいってところまでは突き止めたらしい。だが証拠が見当たらず、氾が犯人だとするなら絶対に人を使ってるに違いないし怪しい術も使うのではないかと思って、たまたま店を訪れた我に依頼した。そういうわけだ」
「たまたまねえ……」
嘘くさい、と思ったが、これこそ確証があるわけではない。溜息を吐くと、改めて紫焔を真っ直ぐ見つめた。
「紫焔、急ぎの用がないなら、鄒家に来ないか? この件、半分くらいは紫焔に片付けてもらったようなものだから、お礼がしたい」
「礼? そりゃこっちこそだ。特に囮と待ち伏せは我ひとりでは手が足りなかった」
「じゃあ、慰労を兼ねて。このまま何もせずに帰したんじゃ、オレたちが渢雪総領に叱られる」
「ふぅん……」
紫焔は無遠慮に雪游と冰淵の顔をじろじろと交互に見たが、何かを納得したように小さく頷く。
「まあ、いいだろう。急ぐ用事は何もない。美味い食事と宿を用意してくれるというのなら、それに甘えるまでだ」
出発は朝食後にすると決めると、宿で身支度を整えた。
「……ッつ……」
馬車の振動でしたたかに床に頭を打ってしまい、うっかり声を出すのを堪えた。ずいぶん悪路を行くものだ。
寝かされているのは馬車の荷台の中なのだろうと思うが、先ほどから何度か床に頭をぶつけている。これだけぶつけても他の者たちが起きないことが、いっそ不思議だった。
「もう向こうは待ってるんだろ?」
「ああ。早くしろって言っても、限度があらァ。道が悪いし、連中の目が覚めるほうが厄介だろうよ」
道中、男たちの言葉数は多くない。あまり情報が得られないが、頭目格の男が目的地にいて、そこで雪游ら四人によからぬことをしようとしていることはわかる。
「っ……」
唐突に馬車が止まった。男たちが別の男たちと何かやりとりをし、荷台へ乗り込んでくると雪游を担ぎ上げる。
無言で歩き始めると、だんだんとそこがどこなのかわかり始めてきた。
風が木々を揺らしているからだろう、葉のさざめきが聞こえる。足許は坂になっているのだろう、登っている感覚がある。そうして、あたりに薄らと漂う瘴気や陰気。
ここはもしかして白平山か。
にわかに緊張が高まる。
雪游の距離感が正しければ、男たちはあの自殺現場を通り過ぎている。さらに山の奥へと向かっているようだ。
四半刻が経った。
男たちの足音に、がさがさと草をかき分けるような音が混ざる。道がない場所へ行っているのか。
「問題ない、四人いる」
「ならいい。行くぞ」
くぐもった男たちの声を聞くと、雪游は目を開けた。目を開けても視界は真っ黒いのは仕方がない、何しろ頭から麻袋を被せられていた。おまけに後ろ手に縛られているし、足首も縛られていて猿轡までされている。
やはりあの男たちが酒に何か入れていたのだ。
だから前回は記憶がなくなるほど酔っ払ってしまった。冰淵が飲まなかったのは、何かを察していたのか、強くはないせいか。けれど結果的にそのお陰で助かったのだろう。
自分が酒に弱いせいではないと安心したが、かといって状況が良くなるわけではない。今回は念のため少しだけ本当に飲み、あとは飲んだフリをして寝入ったことにした。
読み通りといえば読み通りの状況ではある。
問題は、どこに連れて行かれて何をされるか。
冰淵の金華猫も雪游の金華猫もこの状況はわかっているし、冰淵に連絡も行っているはず。すっかり安心しているわけではないが、なんとかなるという確信だけはあった。
「本当に信じられない……」
翌朝朝食を食べながら紫焔から聞き出した話や昨日男たちから聞いた話を整理していたが、考えるほどに耳を覆いたくなる話だった。
「そりゃあ確かに花魄は無害だし、見ている分には小さな美女だけど……人為的に作り出すために人を自殺させるなんて」
憤りは握った拳に表れたが、振り下ろす先が見つからない。紫焔は苦笑し、短い溜息を吐いた。
「それで商売してるんだから、まさに血も涙もないってやつだなァ」
「人道に悖る」
短い言葉だが、冰淵もそれなりに思うところはあるのだろう。傍目には表情が動かないのでわかりづらいが。
「氾って商人、最近羽振りがいいって聞いたけど……人間が良くないっていうのは、そのへんが滲み出てたんだろうな……」
「そちらは洪が相手をしているのだろう?」
「ああ」
「劉どのの依頼主はそちらか」
「そうだ。あの爺さん、独自の調査で氾が怪しいってところまでは突き止めたらしい。だが証拠が見当たらず、氾が犯人だとするなら絶対に人を使ってるに違いないし怪しい術も使うのではないかと思って、たまたま店を訪れた我に依頼した。そういうわけだ」
「たまたまねえ……」
嘘くさい、と思ったが、これこそ確証があるわけではない。溜息を吐くと、改めて紫焔を真っ直ぐ見つめた。
「紫焔、急ぎの用がないなら、鄒家に来ないか? この件、半分くらいは紫焔に片付けてもらったようなものだから、お礼がしたい」
「礼? そりゃこっちこそだ。特に囮と待ち伏せは我ひとりでは手が足りなかった」
「じゃあ、慰労を兼ねて。このまま何もせずに帰したんじゃ、オレたちが渢雪総領に叱られる」
「ふぅん……」
紫焔は無遠慮に雪游と冰淵の顔をじろじろと交互に見たが、何かを納得したように小さく頷く。
「まあ、いいだろう。急ぐ用事は何もない。美味い食事と宿を用意してくれるというのなら、それに甘えるまでだ」
出発は朝食後にすると決めると、宿で身支度を整えた。
「……ッつ……」
馬車の振動でしたたかに床に頭を打ってしまい、うっかり声を出すのを堪えた。ずいぶん悪路を行くものだ。
寝かされているのは馬車の荷台の中なのだろうと思うが、先ほどから何度か床に頭をぶつけている。これだけぶつけても他の者たちが起きないことが、いっそ不思議だった。
「もう向こうは待ってるんだろ?」
「ああ。早くしろって言っても、限度があらァ。道が悪いし、連中の目が覚めるほうが厄介だろうよ」
道中、男たちの言葉数は多くない。あまり情報が得られないが、頭目格の男が目的地にいて、そこで雪游ら四人によからぬことをしようとしていることはわかる。
「っ……」
唐突に馬車が止まった。男たちが別の男たちと何かやりとりをし、荷台へ乗り込んでくると雪游を担ぎ上げる。
無言で歩き始めると、だんだんとそこがどこなのかわかり始めてきた。
風が木々を揺らしているからだろう、葉のさざめきが聞こえる。足許は坂になっているのだろう、登っている感覚がある。そうして、あたりに薄らと漂う瘴気や陰気。
ここはもしかして白平山か。
にわかに緊張が高まる。
雪游の距離感が正しければ、男たちはあの自殺現場を通り過ぎている。さらに山の奥へと向かっているようだ。
四半刻が経った。
男たちの足音に、がさがさと草をかき分けるような音が混ざる。道がない場所へ行っているのか。
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