鄒家道士恋物語 憧れていた師兄に溺愛されていました?!~恋の自覚は体から~

オジカヅキ・オボロ

文字の大きさ
34 / 48

34 鄒家にて01

「それで? おれに話とは?」

 客間の一室で寛ぐ紫焔は、まるでこの部屋に何十日も住み込んでいるように馴染んでいた。
 雪游が来る直前まで占いをしていたという紫焔は、卜占うらないの道具を巾着にしまって雑な仕草で袖にしまう。
 雪游は紫焔と同じく円座に座るが、ここに至って怖気づいてもいた。いつもなら、どんな些細なことでも双子の師兄に尋ねていた。けれどこの問題だけは双子を頼るのは憚られる。もちろん他の者たちにもだ。だから紫焔を頼りに来た。
 右手で左手を握り、思い切って口を開く。

「紫焔は今まで、好きな人はいたのか?」
「藪から棒だな。……いなくはない。長く生きているからな」
「……好きって、どんな気持ちなんだ?」

 初心らしい質問だと我ながら思うし、笑われるのではないかと思っていた。けれど予想外に、紫焔は笑わずに答えてくれる。

「人によって変わる。……幸せな気持ちにも、苦しい気持ちにもなるな。相手のことを欲しかったり、自分だけのものにしたいと願ったり、触れたいとか触れられたいとか……要するに、欲が出る」
「欲……」
「だから、相手が別の人間と仲良くしていると嫉妬してしまう。けれど相手は別に自分のものではないから、その嫉妬はお門違いだ。わかっているから煩悶するし懊悩する」
「…………」

 それは覚えがある。
 嫉妬してしまった相手が悪いわけでもないから、自己嫌悪にまで陥った。迷いがちに口を開く。

「……尊敬してる人、なんだけど。その……ある出来事をきっかけに、変に意識してしまって」
「うん」
「今までは特になんとも思わなかった仕草とか、態度とか……そういうことにもいちいち胸がどきどきして、苦しくなったり、嬉しくなったり、恥ずかしくもなって。でも触っても欲しいし、触りたいし……こういうことって、恋なら普通にあるものなのか?」

「そうだな、あるにはある。順番が少し違っただけだ」
「順番?」
「最初は気持ちのほうから惹かれる。そして心を通わせ合い、気持ちを通じ合わせてから体を合わせるものだ。その順番が狂ったから、気持ちと感情が相手のことを好きだという本能のようなものに追い付いてないんだろう」
「……オレ、何も言ってないよな?」

 なんだか紫焔に見透かされたようなことを言われ、怪訝に思いつつ問いかける。紫焔は涼しい顔で肩を竦めた。

「もちろん。我の当てずっぽうだ」
「……ならいいけど」
「で、小僧は誰かに恋をしている、と」
「…………」

 紫焔相手に認めるのは癪だったが、素直に頷いた。紫焔が手を伸ばして頭を撫でてくるのをなんとか追い払おうとしたが、結局撫でられてしまった。子どものようで不本意だ。

「自覚できるようになっただけ、めでたい話じゃねぇか」
「そう……?」
「無自覚はどうしようもないが、自分の変化に気付けるのは道士としてもいいことだ。周囲のちょっとした異変にも気付きやすくなれるだろうからな」

「……道士って、不便だなって思ったこと、ない?」
「不便? まあ……なくはないが。小僧はどんなことが不便だと思う?」
「…………跡継ぎとか」

 言いにくいことを言うと、紫焔は苦笑した。まるでそれは当たり前のことだと言わんばかりに。

「そりゃ普通の家にだって起こる問題だ。だがおまえのところの本家はふたりいるし、先代も健在だろう? 分家にしても、おまえには兄貴がいるんだろう」
「そうだけど……なんていうか、そういう人たちの相手が同性だと、子どもも出来ないわけだし」

 誰を想っているのかバレている。どうしてバレたのかと思ったが、今は堪えた。

「……例えばの話だが、鄒家の双子には縁談はないのか?」
「縁談? 今は地仙への昇仙しょうせん鍛練が忙しくて断ってるって聞いたけど」
「なるほど、体のいい断り文句だな……。だが多分、おまえのその悩みに関しては杞憂に終わる」
「え? なんでだ?」
「韓湘子は何も言ってないのか?」
「韓老師? なんで?」

 どうしてそこで湘子の名前が出てくるのか、さっぱりわからない。首を傾げると、紫焔は顎を撫でた。

「あいつの得意のひとつが卜占だからな……何も言ってないのか。じゃあ我が言うわけにもいかんが、鄒家の本家は途絶えることはないから安心しろ」

 安心しろと言われてすぐに安心できるなら、雪游の悩みは悩みでなかったに違いない。

「……オレが絶世の美女だったら悩まなかったんだけどな……」

 はぁ、と深い溜息を吐くと、紫焔に今度は声を出して笑われた。

道侶どうりょ仙侶せんりょは必ずしも異性でなければならんという規は天上天下、過去にもどこにもないぞ」
「そう……だけど」
「おまえの想い人はきっと、多分、すごく頑固だ。一度心に決めたことをそう簡単に覆すような真似もしないはずだから、安心するといい。……なあ、冰淵どの」
「えっ?!」

 最後に自分ではなく扉のほうに声を投げた紫焔に驚き、反射的に右手を振り向けば、冰淵が扉を開けるところだった。いつもと変わらない顔で入ってくる。
感想 0

あなたにおすすめの小説

大学一軍イケメンにいちご狩りに誘われた陰キャの俺、なぜかいちごじゃなくて俺が喰われたんだが(?)

子犬一 はぁて
BL
大学一軍イケメン×大学九軍陰キャ 喰われるなんて聞いてないんだが(?) 俺はただ、 いちご狩りに誘われただけだが。 なのに── 誘ってきた大学一軍イケメンの海皇(21)に なぜか俺が捕まって食われる展開に? ちょっと待てい。 意味がわからないんだが! いちご狩りから始まる ケンカップルいちゃらぶBL ※大人描写のある話はタイトルに『※』あり

バツイチ上司が、地味な僕を特別扱いしてくる

衣草 薫
BL
理性的でクールなバツイチ上司・桐原恒一は、過去の失敗から、もう誰も必要としないと決めて生きてきた。 男が好きだという事実を隠し、「期待しなければ傷つかない」と思い込んできた部下・葉山直。 すれ違いと誤解の果てに、直が職場を去ろうとしたとき、恒一は初めて“追いかける”ことを選ぶ。 選ばれないと信じてきた直と、逃げないと決めた恒一。 二人の距離が近づくことで、直は「ここにいていい」と思える場所を見つけていく。 元ノンケ上司×自己肯定感低め部下の社会人BL。※ハッピーエンド保証。

俺は夜、社長の猫になる

衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。 ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。 言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。 タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。 けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。

【完結】男の後輩に告白されたオレと、様子のおかしくなった幼なじみの話

須宮りんこ
BL
【あらすじ】 高校三年生の椿叶太には女子からモテまくりの幼なじみ・五十嵐青がいる。 二人は顔を合わせば絡む仲ではあるものの、叶太にとって青は生意気な幼なじみでしかない。 そんなある日、叶太は北村という一つ下の後輩・北村から告白される。 青いわく友達目線で見ても北村はいい奴らしい。しかも青とは違い、素直で礼儀正しい北村に叶太は好感を持つ。北村の希望もあって、まずは普通の先輩後輩として付き合いをはじめることに。 けれど叶太が北村に告白されたことを知った青の様子が、その日からおかしくなって――? ※本編完結済み。後日談連載中。

男同士で番だなんてあってたまるかよ

だいたい石田
BL
石堂徹は、大学の授業中に居眠りをしていた。目覚めたら見知らぬ場所で、隣に寝ていた男にキスをされる。茫然とする徹に男は告げる。「お前は俺の番だ。」と。 ――男同士で番だなんてあってたまるかよ!!! ※R描写がメインのお話となります。 この作品は、ムーンライト、ピクシブにて別HNにて投稿しています。 毎日21時に更新されます。8話で完結します。 2019年12月18日追記 カテゴリを「恋愛」から「BL」に変更いたしました。 カテゴリを間違えてすみませんでした。 ご指摘ありがとうございました。

中年冒険者、年下美青年騎士に番認定されたことで全てを告白するはめになったこと

mayo
BL
王宮騎士(24)×Cランク冒険者(36) 低ランク冒険者であるカイは18年前この世界にやって来た異邦人だ。 諸々あって、現在は雑用専門冒険者として貧乏ながら穏やかな生活を送っている。 冒険者ランクがDからCにあがり、隣国の公女様が街にやってきた日、突然現れた美青年騎士に声をかけられて、攫われた。 その後、カイを〝番〟だと主張する美青年騎士のせいで今まで何をしていたのかを文官の前で語ることを強要される。 語らなければ罪に問われると言われ、カイは渋々語ることにしたのだった、生まれてから36年間の出来事を。

次男は愛される

那野ユーリ
BL
ゴージャス美形の長男×自称平凡な次男 佐奈が小学三年の時に父親の再婚で出来た二人の兄弟。美しすぎる兄弟に挟まれながらも、佐奈は家族に愛され育つ。そんな佐奈が禁断の恋に悩む。 素敵すぎる表紙は〝fum☆様〟から頂きました♡ 無断転載は厳禁です。 【タイトル横の※印は性描写が入ります。18歳未満の方の閲覧はご遠慮下さい。】 12月末にこちらの作品は非公開といたします。ご了承くださいませ。 近況ボードをご覧下さい。

俺の幼馴染が陽キャのくせに重すぎる!

佐倉海斗
BL
 十七歳の高校三年生の春、少年、葉山葵は恋をしていた。  相手は幼馴染の杉田律だ。  ……この恋は障害が多すぎる。  律は高校で一番の人気者だった。その為、今日も律の周りには大勢の生徒が集まっている。人見知りで人混みが苦手な葵は、幼馴染だからとその中に入っていくことができず、友人二人と昨日見たばかりのアニメの話で盛り上がっていた。 ※三人称の全年齢BLです※