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37 想い02
そういった話もあり、双子のことは第一印象から好きだったのだろうなとはわかる。それからもずっと好きで、ずっと慕ってきた。あんな道士になりたいと憧れもしているし、ひとりの人間としても尊敬している。
今にして思えば「双子のうちどちらを選ぶか」という場面で冰淵を選ぶことは多かった気がするし、冰淵に選ばれることも多かった。鬼狩りの引率がわかりやすい。
従陰のことを差し引いても、冰淵はよく見てくれていたと思う。
――それなのに。
「……全然、気付かなかった」
「気付かれないようにしていたから、当然だろう」
年上で、人間としても人格者で通っていて、道士としてもずっと格上の人だ。そんな人が本気で隠すなら外からはわかりようがなかったし、まだまだ未熟な雪游が自分で気付く機会はない。
雪游が偶然の出来事で自分の気持ちに気付かなければ、ありえなかった。冰淵が言ってくれなければわからなかった。
「そうかもしれないけど。……自分で気付けたら、オレだってちょっとは成長してるってことになるだろう?」
自惚れだ、と思うのが先だろうが、そこは黙っておく。
冰淵は氷の華が溶けて清らかな水を垂らすように微笑んだ。
「そうかもしれない。……だが、無理だ。墓の中まで持っていくつもりだった」
「墓まで……」
冰淵がそう決意していたのなら、そうなっていたのだろう。
けれど仙人になってしまえば寿命は人よりずっと長いものになる。その間もずっと、雪游への想いをひとりで抱えたままでいるつもりだったのか。
「じゃあ、言ってくれれば良かった。……いや、もう言ってくれたからいいんだけど……オレのことでもあるんだから、今度からオレのことで何かあったら言ってほしいし……教えてほしい」
自分のことだから知りたい。
身を乗り出して間近で秀麗な顔を覗き込みながら言えば、冰淵は浅く頷いてくれた。
「……今度からはそうしよう」
「絶対だからね」
「ああ」
再度頷いてくれたことにホッとすると、冰淵に顔を寄せられ、口付けられてしまった。
「もっとしても?」
「う……うん」
じわじわと顔が赤くなってきている気がする。慣れていないせいか、それともこんなことをしそうにない冰淵がしてくれることの、羞恥にも似た背徳感のせいか。あるいはどちらのせいでもあるか。
抱きしめられると、膝の上で横抱きにされた。なんだか子どもの頃のようで、気恥ずかしい。けれど冰淵が近いから、そこは嬉しかった。つい肩のあたりにもたれてしまう。
左手で背を支えられ、頬から首筋、それから袷から手が忍び込み、鎖骨や胸許を撫でられる。冰淵の滑らかな手のひらの感触は心地よい。小さい頃はよく頭や頬を撫でられたが、入浴以外でこんなに肌に触れられたことはない。
そうして、長じてから肌を見せたことがないことに気付いた。もちろん冰淵の肌、体も見たことがない。――あの時を除いて。
抱きしめられた時に、思ったよりずっと体に厚みがあって逞しいことはわかっている。
けれどそれを目で見るのは話が違ってきて、だから結局、自分の肌や体であろうと冰淵の肌や体であろうと、見て、見られるのはとんでもなく恥ずかしいのではないか。
そう思うのに、見たいとも触れたいとも、触れられたいとも思ってしまう。
「……兄さまにも、触っていい……?」
「ああ。触って」
一番に触れたくなるのは、やはり誰より綺麗な顔だ。子どもの頃は抱き上げられるたびに触れていたと思うが、十も過ぎれば鄒家の双子にそんなことが許されないと理解できるもの。
とはいえその頃は、『兄さまたち』に気軽に触れられなくなったことが不満でしかなかったのだけれど。
冰淵の下衣の袷を寛げる。肌は日焼けを知らない色で、滑らかさは極上の宝玉のようだ。自分などよりよほど美しく、肌の下の筋は無駄なく張られている。
指の腹や手のひらで触れるだけでなく、自然と胸へ口付けた。頭を撫でられると、胸だけでなく肩、腰、腹筋にも何かを確かめるように触れる。
どう触れば、冰淵が触れてくれたように触れられるのだろう。
「……雪游」
「っ、はい」
慌てて顔を上げると、額に口付けされた。
「触れたくなってしまった。……いいだろうか」
そんな風な要望をされるとは思わなかった。けれど冰淵がそうしたいと言うのなら、自分の答えはひとつだけだ。冰淵に触れられるのは、何よりずっと嬉しいから。
「……うん」
浅く頷くと、頬へ口付けがひとつ。乱れた袷からまた手が差し込まれ、大きく撫でられる。頬をひと舐めした冰淵のくちびるは、今度は口の端、そしてくちびるを舐めた。迷ったのは一瞬で、自分からも舌をそっと出すと冰淵の薄いくちびるをぺろりと舐める。
それが引き金になったようで、舌を舌で舐められ、引っ込めれば追いかけられて口中をまさぐられる。
「……ん……」
鼻にかかる声すら食べてしまおうとするように、息を継ぐ間も与えられないほどの口付けは情熱的だ。
今にして思えば「双子のうちどちらを選ぶか」という場面で冰淵を選ぶことは多かった気がするし、冰淵に選ばれることも多かった。鬼狩りの引率がわかりやすい。
従陰のことを差し引いても、冰淵はよく見てくれていたと思う。
――それなのに。
「……全然、気付かなかった」
「気付かれないようにしていたから、当然だろう」
年上で、人間としても人格者で通っていて、道士としてもずっと格上の人だ。そんな人が本気で隠すなら外からはわかりようがなかったし、まだまだ未熟な雪游が自分で気付く機会はない。
雪游が偶然の出来事で自分の気持ちに気付かなければ、ありえなかった。冰淵が言ってくれなければわからなかった。
「そうかもしれないけど。……自分で気付けたら、オレだってちょっとは成長してるってことになるだろう?」
自惚れだ、と思うのが先だろうが、そこは黙っておく。
冰淵は氷の華が溶けて清らかな水を垂らすように微笑んだ。
「そうかもしれない。……だが、無理だ。墓の中まで持っていくつもりだった」
「墓まで……」
冰淵がそう決意していたのなら、そうなっていたのだろう。
けれど仙人になってしまえば寿命は人よりずっと長いものになる。その間もずっと、雪游への想いをひとりで抱えたままでいるつもりだったのか。
「じゃあ、言ってくれれば良かった。……いや、もう言ってくれたからいいんだけど……オレのことでもあるんだから、今度からオレのことで何かあったら言ってほしいし……教えてほしい」
自分のことだから知りたい。
身を乗り出して間近で秀麗な顔を覗き込みながら言えば、冰淵は浅く頷いてくれた。
「……今度からはそうしよう」
「絶対だからね」
「ああ」
再度頷いてくれたことにホッとすると、冰淵に顔を寄せられ、口付けられてしまった。
「もっとしても?」
「う……うん」
じわじわと顔が赤くなってきている気がする。慣れていないせいか、それともこんなことをしそうにない冰淵がしてくれることの、羞恥にも似た背徳感のせいか。あるいはどちらのせいでもあるか。
抱きしめられると、膝の上で横抱きにされた。なんだか子どもの頃のようで、気恥ずかしい。けれど冰淵が近いから、そこは嬉しかった。つい肩のあたりにもたれてしまう。
左手で背を支えられ、頬から首筋、それから袷から手が忍び込み、鎖骨や胸許を撫でられる。冰淵の滑らかな手のひらの感触は心地よい。小さい頃はよく頭や頬を撫でられたが、入浴以外でこんなに肌に触れられたことはない。
そうして、長じてから肌を見せたことがないことに気付いた。もちろん冰淵の肌、体も見たことがない。――あの時を除いて。
抱きしめられた時に、思ったよりずっと体に厚みがあって逞しいことはわかっている。
けれどそれを目で見るのは話が違ってきて、だから結局、自分の肌や体であろうと冰淵の肌や体であろうと、見て、見られるのはとんでもなく恥ずかしいのではないか。
そう思うのに、見たいとも触れたいとも、触れられたいとも思ってしまう。
「……兄さまにも、触っていい……?」
「ああ。触って」
一番に触れたくなるのは、やはり誰より綺麗な顔だ。子どもの頃は抱き上げられるたびに触れていたと思うが、十も過ぎれば鄒家の双子にそんなことが許されないと理解できるもの。
とはいえその頃は、『兄さまたち』に気軽に触れられなくなったことが不満でしかなかったのだけれど。
冰淵の下衣の袷を寛げる。肌は日焼けを知らない色で、滑らかさは極上の宝玉のようだ。自分などよりよほど美しく、肌の下の筋は無駄なく張られている。
指の腹や手のひらで触れるだけでなく、自然と胸へ口付けた。頭を撫でられると、胸だけでなく肩、腰、腹筋にも何かを確かめるように触れる。
どう触れば、冰淵が触れてくれたように触れられるのだろう。
「……雪游」
「っ、はい」
慌てて顔を上げると、額に口付けされた。
「触れたくなってしまった。……いいだろうか」
そんな風な要望をされるとは思わなかった。けれど冰淵がそうしたいと言うのなら、自分の答えはひとつだけだ。冰淵に触れられるのは、何よりずっと嬉しいから。
「……うん」
浅く頷くと、頬へ口付けがひとつ。乱れた袷からまた手が差し込まれ、大きく撫でられる。頬をひと舐めした冰淵のくちびるは、今度は口の端、そしてくちびるを舐めた。迷ったのは一瞬で、自分からも舌をそっと出すと冰淵の薄いくちびるをぺろりと舐める。
それが引き金になったようで、舌を舌で舐められ、引っ込めれば追いかけられて口中をまさぐられる。
「……ん……」
鼻にかかる声すら食べてしまおうとするように、息を継ぐ間も与えられないほどの口付けは情熱的だ。
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