鄒家道士恋物語 憧れていた師兄に溺愛されていました?!~恋の自覚は体から~

オジカヅキ・オボロ

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39 想い04

 眠い目をこすりながら体を起こす。大きく伸びをして溜息を吐くと、すぐにここがどこかを思い出してしまった。顔が、耳まで熱くなった気がする。
 ここで昨晩何があったかを思い出しかけ、顔を手で覆って牀で悶えていると、気付いたらしい冰淵が来てくれた。

「起きたか?」
「う、うん」

 優しい声音で問われると、こくこくと頷くしかできない。今まっすぐ冰淵を見つめ返すのは恥ずかしかった。

「支度、するね」

 恥ずかしさを隠すように言うと、体を起こして牀から降りる。
 起床時刻から大幅に遅れてはいないはずだ。冰淵が早いのはいつも通りだが、本当に眠っているのか疑問に思う時もある。
 水桶は用意されていた。顔や歯を磨いた後、髪を結おうと櫛で梳かして、ふと。

「……あれ? オレの髪紐……」

 いつも使っている夕焼け色の髪を括る細い組紐が見当たらない。寝相が悪くて牀の上掛けの下にでもなっているのだろうか。
 あちこちとめくってみるが、やはりそこには何もない。
 困った、と、支度を終えて小上がりで書を読んでいる冰淵を振り返る。

「兄さま、オレの……髪、」

 オレの髪紐がどこに行ったか知らない?
 訊きたかったのに、口が止まってしまった。
 その紐は、何故か冰淵の髪を結っていたのだ。

「……卓に紐を置いている。使いなさい」
「う、ん」

 冰淵は特に何か言ってこない。ぎこちなく頷くと、小卓へ視線を移す。そこにあるのは、瑠璃色の髪紐。――ふだん、冰淵が使っている色の。

「…………」

 冰淵が使いなさいと言うからにはこれを使っていい。頭ではわかっていても、理解が追い付かない。

 鄒家の髪を結う組紐は、想いが通じた相手と交換するもの。子どもでも知っている。

 それを交換するということは。

「…………」
「……私が結おう」

 髪紐を手にしたまま固まっている雪游のことをどう思ったのか、冰淵は文机に書を置くと雪游のほうへやって来て、椅子に座らせると丁寧な仕草で髪を梳りながら結い、仕上げに雪游から瑠璃色の髪紐を受け取って結んでしまった。

「よく似合っている」

 手のひらで頬を撫でてくれるのはくすぐったい。

「雪游」
「は、はい」
「昼間はいいが、今度は、せめてああいう時は名を呼ぶように」
「えっ」

 驚いて冰淵の顔をまじまじと見つめれば、彼はそっと長い睫毛を伏せる。

「……悪いことをしている気持ちになる」

 何のことかと考えるより先に、気付いてしまった。
 たしかに、ああいったことをするのに『兄さま』と呼んでいては、言葉だけだが子どもとしているようにも思えるかもしれない。
 冰淵の要望だから応じたくはある――できるかは別にして。

「っあ、あの、うん、そうする……」

 顔から火が出るとはこのことか。身を以て体験することになるとは思わなかった。
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