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40 劉紫焔と白寒澤01
数日後のある日、雪游は紫焔の部屋を訪れていた。街に買い出しに出た者が紫焔宛ての手紙を受け取り、それを雪游が受け取って届けにきたのだ。
雪游の前で早速と開封して読み始めた紫焔は、難しい顔になっていく。その表情は、何か良くない報せなのだろうと思えた。手紙を畳むと文机に置いて雪游を見つめてくる。
「……だいぶ世話になったが、そろそろ出て行く頃合いになったようだ」
「手紙は呼び出しか依頼か何か?」
「呼び出し、だな。白寒澤を覚えているか?」
「もちろん。白蛇の仙獣の方だろう? 白くて綺麗だった」
「まあ見た目はな……。あいつからの手紙だ」
手紙の内容はどういう内容だったのだろう。好奇心だけはあるが、聞いてもいいか悩んでしまう。けれど紫焔は勿体ぶらずに教えてくれた。
「今あいつは目的があって各地を転々としているが、地方で発見があったらしくてな」
「発見」
「そう。我にとってはもともと借りもある相手だし寒澤のほうも因縁があるしで、茫鴞の件の後に別行動で探してた。それが見付かったというわけだ」
「なるほど……?」
じっと紫焔を見つめる。紫焔が嘘をついている様子はない、が、まだ何かあるような気がする。相手、というからには人なり道士なり仙獣なのだろうとわかるのだが、そこまでだ。
言いにくいことなのだろうか。それとも別の理由があるのか。はたしてどういう訊き方をすれば紫焔が教えてくれるのかと悩んでいると、雪游の後ろから問いが投げられた。
「新昌の事件に関係があることなのだろう」
振り返ると冰淵がいた。いつもと同じ、涼しい顔で。
「あんたもいいところで来るな……見張ってたのか?」
「違う。劉どのへの手紙を持ってきた」
「手紙? なんだ……?」
二通目の手紙も寒澤からだったようだ。一通目を開いた時よりよほど慌てて開けると、読んでいくうちに表情が変わっていったのが面白い。読み終わった今は、うわあ、とでも言いたいような嫌そうな顔になっている。
「寒澤さまはなんて言ってきたんだ?」
「…………」
「読んでいいのか?」
紫焔が無言で差し出した手紙を開く。冰淵も雪游の背後から覗き込んでいた。紫焔は何も言わないから、ふたりで読んでいいものなのだろう。
「ええと……? 『追伸。もしおまえがまだあのふたりの近くにいるなら、懸念を解消してふたりとも連れてくること。戦力になる』……? あのふたりって、オレたちのことか?」
「劉どの、懸念とは?」
「仲がいいのは結構だが、ふたり一緒に質問してくるな。結論から言うぞ」
「うん」
紫焔は一度、溜息を吐いた。それから雪游と冰淵を交互に見、口を開く。
「さっき言った因縁の相手と戦うにあたり、おまえたちの力を借りたい。が、そのためにはふたつ、条件がある」
「条件って?」
「ひとつは……おまえたち、封じの合奏はできるか?」
これは冰淵が答えてくれた。
「合奏をしたことはないが、単独でなら弾ける」
「じゃあ合奏できるようにしてくれ。合奏のほうが効力が強いからな。もうひとつは……」
今度は雪游をじっと見つめてきた。そして、やや声をひそめる。
「雪游。おまえの金華猫を、いつでも窮奇になれるようにすること」
「えっ」
「……窮奇の力を借りたいほどの相手だと?」
「そういうことだ」
冰淵の見る者を凍てつかせるような視線をものともせず、紫焔は大きく頷く。
「どういう相手なんだよ」
「龍生九子。とある竜が生んだ九人の子。どの子どもも、親である竜と同じにはなれなかった。それを負い目に思っている子どももいる」
聞いたことがある話だ。雪游はすぐに思い出せた。
「それでも、ただの仙獣よりよほど強大な仙力があるって聞いたことがある」
「ああ、それも正解だ。そして、八匹の子たちはおおむね穏やかな性質をしている」
強大な力を持つ八匹が穏やかなら安心、とは言い切れない雰囲気を感じる。
「もう一匹は……?」
「残忍で、狡猾。人を殺すことを楽しむところがある。睚眦……寒澤のすぐ下の弟だ」
「えっ……えええええ?!」
寒澤は穏やかそうだった。兄弟がいるとは思わなかったが、竜の子で下の弟が凶暴だなんて――それはたしかに探し出したいし、野放しにもしておけそうにない。
紫焔は声をひそめて雪游を一喝する。
「声が大きい!」
「ご、ごめん!」
慌てて口を両手で抑えて黙る。他に誰か来たら、何の話をしていたか誤魔化すのに一苦労しそうだ。とはいえ紫焔と冰淵がいれば、たいていの者を言いくるめることに苦労はしそうにないが。
だがそういう時に限って、やってくるのは苦労しそうな相手だったりする。
雪游の前で早速と開封して読み始めた紫焔は、難しい顔になっていく。その表情は、何か良くない報せなのだろうと思えた。手紙を畳むと文机に置いて雪游を見つめてくる。
「……だいぶ世話になったが、そろそろ出て行く頃合いになったようだ」
「手紙は呼び出しか依頼か何か?」
「呼び出し、だな。白寒澤を覚えているか?」
「もちろん。白蛇の仙獣の方だろう? 白くて綺麗だった」
「まあ見た目はな……。あいつからの手紙だ」
手紙の内容はどういう内容だったのだろう。好奇心だけはあるが、聞いてもいいか悩んでしまう。けれど紫焔は勿体ぶらずに教えてくれた。
「今あいつは目的があって各地を転々としているが、地方で発見があったらしくてな」
「発見」
「そう。我にとってはもともと借りもある相手だし寒澤のほうも因縁があるしで、茫鴞の件の後に別行動で探してた。それが見付かったというわけだ」
「なるほど……?」
じっと紫焔を見つめる。紫焔が嘘をついている様子はない、が、まだ何かあるような気がする。相手、というからには人なり道士なり仙獣なのだろうとわかるのだが、そこまでだ。
言いにくいことなのだろうか。それとも別の理由があるのか。はたしてどういう訊き方をすれば紫焔が教えてくれるのかと悩んでいると、雪游の後ろから問いが投げられた。
「新昌の事件に関係があることなのだろう」
振り返ると冰淵がいた。いつもと同じ、涼しい顔で。
「あんたもいいところで来るな……見張ってたのか?」
「違う。劉どのへの手紙を持ってきた」
「手紙? なんだ……?」
二通目の手紙も寒澤からだったようだ。一通目を開いた時よりよほど慌てて開けると、読んでいくうちに表情が変わっていったのが面白い。読み終わった今は、うわあ、とでも言いたいような嫌そうな顔になっている。
「寒澤さまはなんて言ってきたんだ?」
「…………」
「読んでいいのか?」
紫焔が無言で差し出した手紙を開く。冰淵も雪游の背後から覗き込んでいた。紫焔は何も言わないから、ふたりで読んでいいものなのだろう。
「ええと……? 『追伸。もしおまえがまだあのふたりの近くにいるなら、懸念を解消してふたりとも連れてくること。戦力になる』……? あのふたりって、オレたちのことか?」
「劉どの、懸念とは?」
「仲がいいのは結構だが、ふたり一緒に質問してくるな。結論から言うぞ」
「うん」
紫焔は一度、溜息を吐いた。それから雪游と冰淵を交互に見、口を開く。
「さっき言った因縁の相手と戦うにあたり、おまえたちの力を借りたい。が、そのためにはふたつ、条件がある」
「条件って?」
「ひとつは……おまえたち、封じの合奏はできるか?」
これは冰淵が答えてくれた。
「合奏をしたことはないが、単独でなら弾ける」
「じゃあ合奏できるようにしてくれ。合奏のほうが効力が強いからな。もうひとつは……」
今度は雪游をじっと見つめてきた。そして、やや声をひそめる。
「雪游。おまえの金華猫を、いつでも窮奇になれるようにすること」
「えっ」
「……窮奇の力を借りたいほどの相手だと?」
「そういうことだ」
冰淵の見る者を凍てつかせるような視線をものともせず、紫焔は大きく頷く。
「どういう相手なんだよ」
「龍生九子。とある竜が生んだ九人の子。どの子どもも、親である竜と同じにはなれなかった。それを負い目に思っている子どももいる」
聞いたことがある話だ。雪游はすぐに思い出せた。
「それでも、ただの仙獣よりよほど強大な仙力があるって聞いたことがある」
「ああ、それも正解だ。そして、八匹の子たちはおおむね穏やかな性質をしている」
強大な力を持つ八匹が穏やかなら安心、とは言い切れない雰囲気を感じる。
「もう一匹は……?」
「残忍で、狡猾。人を殺すことを楽しむところがある。睚眦……寒澤のすぐ下の弟だ」
「えっ……えええええ?!」
寒澤は穏やかそうだった。兄弟がいるとは思わなかったが、竜の子で下の弟が凶暴だなんて――それはたしかに探し出したいし、野放しにもしておけそうにない。
紫焔は声をひそめて雪游を一喝する。
「声が大きい!」
「ご、ごめん!」
慌てて口を両手で抑えて黙る。他に誰か来たら、何の話をしていたか誤魔化すのに一苦労しそうだ。とはいえ紫焔と冰淵がいれば、たいていの者を言いくるめることに苦労はしそうにないが。
だがそういう時に限って、やってくるのは苦労しそうな相手だったりする。
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