鄒家道士恋物語 憧れていた師兄に溺愛されていました?!~恋の自覚は体から~

オジカヅキ・オボロ

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46 艶めく夜01

 鄒家ではささやかながら宴が設けられた。

 出席者は総領の渢雪、双子の叔父の汐柳、冰淵、雪游、紫焔、寒澤の六人だった。それぞれ今回の事件のことや寒澤の話などで盛り上がり、気付けば戌の刻になろうとしていた。
 お開きになり、それぞれが部屋へと引き上げる。そうして屋敷が静まった頃を見計らい、雪游は部屋を抜け出す。
 冰淵の部屋を訪れる。

「兄さま、雪游です」
「入りなさい」
「はい……わ?!」

 入ってすぐに抱き上げられてしまった。
 ベッドまで横抱きされ、そのまま冰淵は牀に座り、膝にのせた雪游を放す気配がない。

「兄さま? 何かあった?」

 冰淵がこんな風に雪游を抱きしめて離さないことは、幼少時代を含めても多くはない。

「……無事に終わって、良かった」
「うん」
「おまえが暁東の術にかかった時には、どうなるかと……外から解除するには暁東に解除させるか倒すしかなかったが、おまえが自力で術を破って出てきた時にはホッとした。……道士としても成長しているのだな」
「…………」

 もしかして、術を破った時に雪游を呼ぶ冰淵の声が焦って聞こえたのは、本当に焦っていたということだろうか。とても普段は落ち着き払っている冰淵らしくない。
 心配をかけてしまったのは、とても申し訳ない。成長していると言われたのはうれしかったが、まだまだ力が足りない。冰淵を心配させてしまうようでは。

「兄さまに心配かけないように、もっと鍛練を頑張るよ」
「違う」

 強い語調で否定され、抱きしめられる。

「……心配はする。おまえが道士として未熟だからというわけではない」

 抱きしめてくれる腕に、いっそう力が入る。

「おまえだから心配した。……成長は、素直に嬉しく思う」
「それって」

 好きでいてくれているから、ということでいいのだろうか。
 額とこめかみに口付けられた。

「おまえは私の中で他の誰より特別な位置にいる。だから当然だ」

 じわじわと嬉しさが胸に広がる。こんなことで好かれていることを実感するのは、罪深いだろうか。

「オレも、兄さまは特別だから。だから、あれが偽物だってわかったよ」
「それも腹立たしい」
「え?」

 言葉には苛立ちが混ざっている気がした。普段冷静な冰淵らしくない。

「暁東は、おまえが最も信頼する人間によって惑わせ、演奏を止めさせようという目的で幻覚の術を使ったのだろうと思うが……その術で私が選ばれたのはともかく、私が雪游の邪魔をすると雪游に一瞬でも思わせたことが腹立たしい」

 冰淵の眉間には薄らと皺が寄っている。よほど腹を立てているようで、そんな冰淵を見るのは滅多にないから――嬉しいと思ってしまう。いけないことだとはわかっているのだけれど。

「でも、だから兄さまじゃないってすぐにわかったんだよ。兄さまはああいう時、絶対に使命や仕事を忘れたりしないから。……オレも、ああいう時には兄さまの邪魔をしたり惑わせたりしないって思っててくれるといいんだけど」
「おまえが私の邪魔をしたことは一度もない」
「そうかな……」

 きっぱり言い切られると照れてしまう。
 それは欲目が過ぎないだろうか。今はともかく、幼少期の記憶がないほど小さかった頃には冰淵が読む本の上に寝転がったり、髪紐を引っ張ったり、書写をしていれば気を引くためにワガママを言ったりしていたという親の証言を思い出す。それらは間違いなく冰淵の邪魔をしていたことになるだろう。

 まさか冰淵が覚えていないなどということはありえない。冰淵が自分のことを好きでいてくれるという事実を差し引いても、多大な欲目ではないか。

 けれど、信じてくれるなら嬉しい。

 顔が緩みそうになるのをなんとか我慢していると、冰淵の指にそっと上向かされた。作り物のように美しい顔に見惚れるより先に、くちびるが重ねられた。

「ン……」

 何度も啄まれ、緩んだくちびるの隙間を舌が舐める。くちびるの裏側や歯列をなぞられるのは催促されているようで、おそるおそると歯を開けば、すぐに舌を差し込まれた。
 口付けに夢中になっていると、夜衣を乱されて肌を撫でられた。

「……ァ……」

 冰淵の、少し体温の低い手や指は、口付けで火照り始めた体には心地よい。何より、彼の体温が少しずつ温んでいくのは嬉しかった。
 乱された袷から肌を撫でられ、撫でられたところへ口付けされる。噛まれるような、吸い付かれるような感覚があり、すぐに離れると肌にひとつふたつと小さな朱の花が散っていく。所有か行為の記憶を刻んでいるようで、ほのかに興奮が増した。

「あ……っ」

 脚の付け根、鼠径部を指先や爪で撫でられると肌がひくひくと震えてしまう。気持ちよさと、その延長の期待。悟られたくないのに、体は熱を帯びていると勃ち上がる性器でバレているに違いなかった。
 冰淵の膝に横抱きされていれば逃げることは難しいが、ついむずがるように身じろいでしまう。そのたびに頬やこめかみに口付けられているのは、あやされているよう。それでも体がびくついてしまうのは仕方がないと思ってほしい。

「っあ、……いっしょ、やだ……ッ」

 熱に触れられるのと同時、後ろを慣らされるのは羞恥と同時、快感が強い。悦楽に溺れてしまう感覚はまだ慣れないし、乱れてしまうのは何を口走るとも知れない。はしたないとでも思われてしまったら消え入りたいどころではない。
 冰淵は目許に口付けをくれる。そうして優しく囁いてくれた。
「大丈夫、しがみついていて構わない。……腰を浮かして」
 どういうわけか冰淵にそんな風に言われると、いつもその通りにしてしまう。膝を立てて正面から抱きついてしまえば、腰を引き寄せられて、前にも後ろにも触られやすくなってしまうのに。
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