10 / 13
*10 止められない
しおりを挟む
夕暮れ時を外で時間をつぶすのに、薄手のロングカーディガンではそろそろ寒い季節になってきた。道行くサラリーマンはスーツ姿に変わりはないが、OLらしい女性たちは薄手のコートや厚めのカーディガンを羽織っているのが目に付く。
類は歩道の柵に尻を預け、目の前の古ぼけたビルの玄関を見つめていた。
誰かが出てくるたびにハッとするが、ぼやけた顔は目的の人物ではなくて息を吐く。ビルの上、四階あたりを見上げる。時間は十八時をとうに回っていて、気が付いたらあたりは真っ暗だ。
(……忙しい、かな)
そういえば目的の相手──山斗の仕事スケジュールを知らない。いくつかの雑誌も担当していることは知っているが、そっちの締め切りが詰まっていたら、最悪深夜か朝になることも考えられた。
けれど、類にはこの方法しか浮かばなかったからこの場から動くことができない。メールは何通か送ったし、珍しくも自分から出版社に電話もかけてみたが、山斗と連絡が取れることはなかった。
それなら、待ち伏せをして直接会うしか方法がない。短絡的だと自覚はあったが、たとえ時間がかかっても、これなら確実に会えるはずだ。
腕時計をちらりと確認する。十九時。ぐぅ、と腹が空腹を訴えてきたが、今ここを離れるわけにもいかない。いい子だからおとなしくしておいて、と自分の腹を撫で、また視線をビルの玄関へと戻した。
しばらくぼんやりとして、また誰かビルから出てくる。その人物の顔を見て、反射的に柵から腰を上げた。山斗だ。はっきりと彼の顔がわかった。
「氷室、くん」
何気なく振り向いたらしい山斗が、類を見ると驚きに変わる。
「……月城さん」
「よかった」
ほっと息を吐く。山斗が口を開いて何かを言いかけたが、遮るように「ぐぅぅぅ」と腹が鳴る。
「…………何か食べましょうか」
苦笑した山斗は、以前の山斗と同じに見える。それでも何か変わったのだろうか。
移動した先は、出版社の近くにあったファミレスだ。夕食時のせいか少しだけ待たされた。あちらこちらで様々な話が飛び交って賑やかな店内に圧迫感を感じたが、なんとか気を散らして焼き魚の定食を食べる。山斗は和風ハンバーグ定食だった。
食べ終わるまで無言で、どことなく緊張感があったが、食後のお茶を飲むと胃が満たされたせいか、空気が緩んだ気がした。
(どう、話せばいいんだろう)
会わなければいけない、と強く思った。
けれど実際会ってみると、何をどこから話せばいいのか。迷っていると、口を開いたのは山斗だった。
「どうしたんですか、今日は」
「……会って、話がしたいと思ったんだ」
「話?」
「そう。ずっと、考えてた。君のこと」
「俺の……?」
意外そうな山斗にこくりと頷く。
「氷室くんがあの時言ったみたいに、君が本当に……今まで僕が好きになった動物たちと一緒なのかどうか、って」
「……一緒でしょう?」
「正直、まだよくわからない」
ぎゅ、と膝に置いた手を握る。
「……あの時、君に抱きしめられてから……ずっとドキドキしていて。今思い出すだけでもやっぱりドキドキするし、……また、抱きしめてほしいって思ってる」
「月城さん……」
「こういうのが君と同じ気持ちなのか、今の僕にはわからないけれど……でも、今まで犬や、猫や、動物たちにはこんなこと思わなかったんだ。それじゃダメなのかな。君に会えないのも、素っ気なくされるのも……つらいんだ」
以前と同じようにとはいかないのだろう、とは類にもわかる。山斗が言ったのは、今までの関係を変える言葉だ。
けれど関係が変わっても同じように会いたい。傍にいたい。いてほしい。
山斗が自分の世話を焼いてくれるから、面倒を見てくれるからではなくて。いてくれることが嬉しかった。落ち着くから。
そんなことを他人に思うのは初めてで、どう言えばいいのかわからないし、結局は山斗の心次第だともわかっている。けれど伝えたいと思った。山斗に抱きしめられてあんな風に言われたけれど、イヤではなかったのだと。
「動物は……犬や猫は好きだけれど、君が僕のことを好きだと言って抱きしめてくれた時は、もっと嬉しかったんだ。……それじゃ、ダメかな……」
なにしろ類は今まで誰かと積極的に関わろうとしてこなかった。だから感覚はどこかズレていることは充分考えられた。今までの自分を悔やむことはないにせよ、伝えられる限りのことは伝えたい。
伝わるだろうか。
すがるように山斗を見つめる。彼は驚いた表情をした後、真剣に類の言葉を聞いてくれていた。類が口を閉じると、周囲の喧噪がまた二人の間に横たわる。
(ダメかな……)
少しの沈黙の間も緊張する。緊張というのも、初めて体験したかもしれない。山斗といると初めて経験することばかりだ、と頭の隅で思った。テーブルの上で、組んだ手をぎゅっと握る。
「……、……」
山斗が小さく何か言った気がした。顔を上げる。戸惑っているような、嬉しそうにも見えるような、はにかんでいるような、困っているような、複雑な表情をしていた。
「……ダメじゃ、ないです」
「ほんとう?」
「むしろ、嬉しいというか……、あの、お願いがあるんですが」
山斗の明るい茶の瞳が、まっすぐに類を見つめる。急に改まって、どうしたんだろう。
「なにかな」
「今すぐ……抱きしめたいんですけど、ここでするわけにもいかないんで」
場所を変えてもいいですか。
照れたように言う山斗を、どんな動物よりかわいいと思った。
もちろん答えはひとつしかない。
ベッドにはゆっくりと押し倒された。
見下ろしてくる山斗の表情は熱っぽくもあり、据わっているようでもあり。たとえるなら獣の雄っぽい、と表現すれば近いか。
カーディガンを剥がれ、シャツのボタンを外され、はだけられて。素肌を見られているだけなのに、妙に落ち着かない。
「……細い、ですね」
「そうかな」
「ええ。……ちゃんと食べてくださいね」
心配している言葉なのに、食べられるのではないかと錯覚する。黒の眼の奥に、炎が灯っている気がした。
顔が間近に寄せられた、と思うとくちびるが重なる。啄むような、優しい触れ合い。
「ん……、ふ……」
「……月城さん……」
キスの合間にやわらかく呼ばれ、徐々に深くなるそれをうっとりと受ける。こんなに気持ちよくなるなんて、知らなかった。
歯の隙間から潜り込んでくる舌が、縮こまっていた類の舌に絡んでくる。どう応えればいいのかわからなかったが、舌を舌で舐め返したり、上顎を撫でられるように舐められた時には未知の感覚に震え、思わずしがみついた。
(溶かされる、みたい……)
普段はひんやりとした素肌に山斗が触れてくる部分からも熱が染み、泥のように溶かされてしまうのではないかと思った。
部屋も徐々に湿度を帯び、ふたつの荒い呼吸だけが満ちていく。肌寒い季節なのに、肌も徐々に汗ばんできた。はだけていただけの上着はいつの間にかすべて脱がされていたが、触れ合っていれば寒くはない。
「は……、ぁ……」
くちびるがほどかれると、惜しむようにもう一度触れるだけの口付けが与えられる。今度は顎から首筋、鎖骨を甘噛みした口は胸へと下りた。
淡く色付いたところに口付けされると、舌がその部分を舐める。柔らかく、ぬめった感触に肌が震えた。
「……ん……」
小さな声が鼻に抜ける。
何度も舐められて吸われると、次第にそこがしこりを帯び、粒になる。そうなるとよけいに過敏に舌やくちびるの感触を感じた。
(そんな、ところで……)
自分でいじったこともないようなところを触れられるのは、なんだかおかしな感覚だ。くすぐったいような、むず痒いような。
「ふ……、……」
「……ん……っ、あっ?」
ひくりと体が跳ねたのは、山斗の手がズボンの上から股間を撫でたからだ。
「氷室、くん……っ」
「直接触って、いいですか。……俺のも、一緒に」
「ええ……?」
触るとはどこを、とは、今触ったそこを、なのだろう。まごついていると頬に口付けされた。
「気持ちよくできると……思うんですが」
見つめてくる瞳には強い意志がある。それに山斗が触りたいと言うなら、類に拒む言い訳はなかった。
「ん……わかった」
こくりと頷けば、下着ごとズボンが脱がされる。普段人目に晒したことのない肌は生白く、ありていに言えば恥ずかしい。
そこを隠すように立てた膝に、山斗の手がかかる。
「ひ、氷室くん?」
「脚……軽く、開いてください」
「ええ……と、……こう……?」
羞恥心を押し隠し、ほんのわずか脚を開いた。それだけでも羞恥がわき上がるというのに、山斗は膝に手をかけるとさらに開き、体を割り入らせてきたのだ。
「え……、あ、あの」
「このほうが、触りやすいと思ったので」
そんな言い訳を寄越す山斗は、すっかり獣めいた表情だ。欲のままに動いている。そう感じるのは怖くもあるし好奇心もあった。
(威嚇……とは違うから)
飢えた肉食の動物の前に餌を差し出したら、きっともっと食い荒らされる。けれどその一歩手前のような錯覚。
屈んでくれた山斗の顔が近い。
「しがみついてくれても、いいです」
肌が近いほうが安心できる気がする。気遣いに頷くと、山斗の首から背へ両腕を回した。
「……あ……っ」
ひくんと背が跳ねる。性器に根本から触れられ、ゆっくりと手のひらで擦られた。
自分でもあまり触ることはない。つまり触られ慣れていないそこを他人の手で触れられるなんて当然初めてだ。
腰も背も緊張していたが、宥めるような優しさで何度も擦られていくうち、息が乱れ始めた。
「っぁ、……ぁ、ん……っ」
聞いたこともないような声が漏れる。口をつぐもうとしてもできない。
「ふ、ぁ、あ……ッあっ」
「気持ちいいですか……?」
「ん……きもち、いい……」
どこか恍惚とした声。
性器の裏側を撫でられ、手のひらを亀頭に押し付けられて擦られれば、ひっきりなしに声をあげてしまう。
与えられる感覚に夢中になっていると、不意に性器へ熱いモノが押し付けられた。何かと思って山斗を見上げると、頬に口付けされる。
「……俺も、悦くなりたい、です」
そういえば先ほど『一緒に』と言われたのだった。たしかに自分ばかり悦くなっているのは不公平だろう。
いいですか、と問われるとこくこくと頷いた。熱が山斗のモノだとは気付いていた。
「ぁ、あぁ……、ん……」
「ふ……、ぅ……」
山斗は熱をふたつ掴んだまま、腰を揺らして擦りつけ、手でも擦ってくる。
(あつ、い……)
熱が腰から回って全身を侵していくようだ。ぐるぐると巡り、わけがわからなくなっていく。その感覚が恐ろしくもある。
最後に自分で抜いたのはどれくらい前だろう。思い出すことができないしそのせいかもしれないが、今までの自慰より確実に悦い。だから自然と腰が揺れてしまうのも仕方ないと思いたい。
「あ、ッあぁ……っ」
先端をまとめてぐりぐりといじられるのに弱い。山斗の手がなめらかに動いていることには気付いたが、それが互いの先走りによるものだとまでは気が回らない。
(氷室くん、も……悦いのかな……)
そろりと山斗の顔を窺う。
「……っ」
息を呑んだ。
熱を灯した眼は類が山斗を見ていることに気付くと獰猛になり、噛みつくどころか食いちぎられるのではないかと思うくらい眼差しが強い。目許が赤く染まっているのは興奮のせいだろうか。
(そんな顔、するんだ……)
背筋をぞくりと何かが走る。途端、快楽が強くなった。
「あっ、あ、ひむろ、くん……っ」
「すみません、も……」
抑えられない、と言うより早く、山斗が性器を責める手が強さを増す。ぐちぐちと卑猥な音と、細切れの声が部屋を満たし、
「ッあ、もお……っあ、あああぁ……ッ!」
びくんと腰が跳ねる。熱を吐き出す感覚。
「ぅ、あ……っ」
山斗も低く呻き、びくりと体を震わせる。互いの腹が濡れる感覚に、ふたりとも達したのだとぼんやり気付く。
荒い呼吸を整えようとしていると、片腕で山斗に抱きしめられる。彼もずいぶん呼吸が乱れていた。
「……そんな顔して、どうしたの」
少しずつ呼吸が収まって、腕の力が緩むと互いの顔が見られるようになった。
じっと類を見下ろしている山斗は、呼吸が乱れているせいだけではなく、どこか苦しそうに見える。
何か我慢していることがある。そう思わせるような表情。
山斗は一瞬何かを言い掛けたが一度つぐんで顔を逸らし、そうして少ししてからまた類を見つめた。
「あの……」
「うん?」
類は歩道の柵に尻を預け、目の前の古ぼけたビルの玄関を見つめていた。
誰かが出てくるたびにハッとするが、ぼやけた顔は目的の人物ではなくて息を吐く。ビルの上、四階あたりを見上げる。時間は十八時をとうに回っていて、気が付いたらあたりは真っ暗だ。
(……忙しい、かな)
そういえば目的の相手──山斗の仕事スケジュールを知らない。いくつかの雑誌も担当していることは知っているが、そっちの締め切りが詰まっていたら、最悪深夜か朝になることも考えられた。
けれど、類にはこの方法しか浮かばなかったからこの場から動くことができない。メールは何通か送ったし、珍しくも自分から出版社に電話もかけてみたが、山斗と連絡が取れることはなかった。
それなら、待ち伏せをして直接会うしか方法がない。短絡的だと自覚はあったが、たとえ時間がかかっても、これなら確実に会えるはずだ。
腕時計をちらりと確認する。十九時。ぐぅ、と腹が空腹を訴えてきたが、今ここを離れるわけにもいかない。いい子だからおとなしくしておいて、と自分の腹を撫で、また視線をビルの玄関へと戻した。
しばらくぼんやりとして、また誰かビルから出てくる。その人物の顔を見て、反射的に柵から腰を上げた。山斗だ。はっきりと彼の顔がわかった。
「氷室、くん」
何気なく振り向いたらしい山斗が、類を見ると驚きに変わる。
「……月城さん」
「よかった」
ほっと息を吐く。山斗が口を開いて何かを言いかけたが、遮るように「ぐぅぅぅ」と腹が鳴る。
「…………何か食べましょうか」
苦笑した山斗は、以前の山斗と同じに見える。それでも何か変わったのだろうか。
移動した先は、出版社の近くにあったファミレスだ。夕食時のせいか少しだけ待たされた。あちらこちらで様々な話が飛び交って賑やかな店内に圧迫感を感じたが、なんとか気を散らして焼き魚の定食を食べる。山斗は和風ハンバーグ定食だった。
食べ終わるまで無言で、どことなく緊張感があったが、食後のお茶を飲むと胃が満たされたせいか、空気が緩んだ気がした。
(どう、話せばいいんだろう)
会わなければいけない、と強く思った。
けれど実際会ってみると、何をどこから話せばいいのか。迷っていると、口を開いたのは山斗だった。
「どうしたんですか、今日は」
「……会って、話がしたいと思ったんだ」
「話?」
「そう。ずっと、考えてた。君のこと」
「俺の……?」
意外そうな山斗にこくりと頷く。
「氷室くんがあの時言ったみたいに、君が本当に……今まで僕が好きになった動物たちと一緒なのかどうか、って」
「……一緒でしょう?」
「正直、まだよくわからない」
ぎゅ、と膝に置いた手を握る。
「……あの時、君に抱きしめられてから……ずっとドキドキしていて。今思い出すだけでもやっぱりドキドキするし、……また、抱きしめてほしいって思ってる」
「月城さん……」
「こういうのが君と同じ気持ちなのか、今の僕にはわからないけれど……でも、今まで犬や、猫や、動物たちにはこんなこと思わなかったんだ。それじゃダメなのかな。君に会えないのも、素っ気なくされるのも……つらいんだ」
以前と同じようにとはいかないのだろう、とは類にもわかる。山斗が言ったのは、今までの関係を変える言葉だ。
けれど関係が変わっても同じように会いたい。傍にいたい。いてほしい。
山斗が自分の世話を焼いてくれるから、面倒を見てくれるからではなくて。いてくれることが嬉しかった。落ち着くから。
そんなことを他人に思うのは初めてで、どう言えばいいのかわからないし、結局は山斗の心次第だともわかっている。けれど伝えたいと思った。山斗に抱きしめられてあんな風に言われたけれど、イヤではなかったのだと。
「動物は……犬や猫は好きだけれど、君が僕のことを好きだと言って抱きしめてくれた時は、もっと嬉しかったんだ。……それじゃ、ダメかな……」
なにしろ類は今まで誰かと積極的に関わろうとしてこなかった。だから感覚はどこかズレていることは充分考えられた。今までの自分を悔やむことはないにせよ、伝えられる限りのことは伝えたい。
伝わるだろうか。
すがるように山斗を見つめる。彼は驚いた表情をした後、真剣に類の言葉を聞いてくれていた。類が口を閉じると、周囲の喧噪がまた二人の間に横たわる。
(ダメかな……)
少しの沈黙の間も緊張する。緊張というのも、初めて体験したかもしれない。山斗といると初めて経験することばかりだ、と頭の隅で思った。テーブルの上で、組んだ手をぎゅっと握る。
「……、……」
山斗が小さく何か言った気がした。顔を上げる。戸惑っているような、嬉しそうにも見えるような、はにかんでいるような、困っているような、複雑な表情をしていた。
「……ダメじゃ、ないです」
「ほんとう?」
「むしろ、嬉しいというか……、あの、お願いがあるんですが」
山斗の明るい茶の瞳が、まっすぐに類を見つめる。急に改まって、どうしたんだろう。
「なにかな」
「今すぐ……抱きしめたいんですけど、ここでするわけにもいかないんで」
場所を変えてもいいですか。
照れたように言う山斗を、どんな動物よりかわいいと思った。
もちろん答えはひとつしかない。
ベッドにはゆっくりと押し倒された。
見下ろしてくる山斗の表情は熱っぽくもあり、据わっているようでもあり。たとえるなら獣の雄っぽい、と表現すれば近いか。
カーディガンを剥がれ、シャツのボタンを外され、はだけられて。素肌を見られているだけなのに、妙に落ち着かない。
「……細い、ですね」
「そうかな」
「ええ。……ちゃんと食べてくださいね」
心配している言葉なのに、食べられるのではないかと錯覚する。黒の眼の奥に、炎が灯っている気がした。
顔が間近に寄せられた、と思うとくちびるが重なる。啄むような、優しい触れ合い。
「ん……、ふ……」
「……月城さん……」
キスの合間にやわらかく呼ばれ、徐々に深くなるそれをうっとりと受ける。こんなに気持ちよくなるなんて、知らなかった。
歯の隙間から潜り込んでくる舌が、縮こまっていた類の舌に絡んでくる。どう応えればいいのかわからなかったが、舌を舌で舐め返したり、上顎を撫でられるように舐められた時には未知の感覚に震え、思わずしがみついた。
(溶かされる、みたい……)
普段はひんやりとした素肌に山斗が触れてくる部分からも熱が染み、泥のように溶かされてしまうのではないかと思った。
部屋も徐々に湿度を帯び、ふたつの荒い呼吸だけが満ちていく。肌寒い季節なのに、肌も徐々に汗ばんできた。はだけていただけの上着はいつの間にかすべて脱がされていたが、触れ合っていれば寒くはない。
「は……、ぁ……」
くちびるがほどかれると、惜しむようにもう一度触れるだけの口付けが与えられる。今度は顎から首筋、鎖骨を甘噛みした口は胸へと下りた。
淡く色付いたところに口付けされると、舌がその部分を舐める。柔らかく、ぬめった感触に肌が震えた。
「……ん……」
小さな声が鼻に抜ける。
何度も舐められて吸われると、次第にそこがしこりを帯び、粒になる。そうなるとよけいに過敏に舌やくちびるの感触を感じた。
(そんな、ところで……)
自分でいじったこともないようなところを触れられるのは、なんだかおかしな感覚だ。くすぐったいような、むず痒いような。
「ふ……、……」
「……ん……っ、あっ?」
ひくりと体が跳ねたのは、山斗の手がズボンの上から股間を撫でたからだ。
「氷室、くん……っ」
「直接触って、いいですか。……俺のも、一緒に」
「ええ……?」
触るとはどこを、とは、今触ったそこを、なのだろう。まごついていると頬に口付けされた。
「気持ちよくできると……思うんですが」
見つめてくる瞳には強い意志がある。それに山斗が触りたいと言うなら、類に拒む言い訳はなかった。
「ん……わかった」
こくりと頷けば、下着ごとズボンが脱がされる。普段人目に晒したことのない肌は生白く、ありていに言えば恥ずかしい。
そこを隠すように立てた膝に、山斗の手がかかる。
「ひ、氷室くん?」
「脚……軽く、開いてください」
「ええ……と、……こう……?」
羞恥心を押し隠し、ほんのわずか脚を開いた。それだけでも羞恥がわき上がるというのに、山斗は膝に手をかけるとさらに開き、体を割り入らせてきたのだ。
「え……、あ、あの」
「このほうが、触りやすいと思ったので」
そんな言い訳を寄越す山斗は、すっかり獣めいた表情だ。欲のままに動いている。そう感じるのは怖くもあるし好奇心もあった。
(威嚇……とは違うから)
飢えた肉食の動物の前に餌を差し出したら、きっともっと食い荒らされる。けれどその一歩手前のような錯覚。
屈んでくれた山斗の顔が近い。
「しがみついてくれても、いいです」
肌が近いほうが安心できる気がする。気遣いに頷くと、山斗の首から背へ両腕を回した。
「……あ……っ」
ひくんと背が跳ねる。性器に根本から触れられ、ゆっくりと手のひらで擦られた。
自分でもあまり触ることはない。つまり触られ慣れていないそこを他人の手で触れられるなんて当然初めてだ。
腰も背も緊張していたが、宥めるような優しさで何度も擦られていくうち、息が乱れ始めた。
「っぁ、……ぁ、ん……っ」
聞いたこともないような声が漏れる。口をつぐもうとしてもできない。
「ふ、ぁ、あ……ッあっ」
「気持ちいいですか……?」
「ん……きもち、いい……」
どこか恍惚とした声。
性器の裏側を撫でられ、手のひらを亀頭に押し付けられて擦られれば、ひっきりなしに声をあげてしまう。
与えられる感覚に夢中になっていると、不意に性器へ熱いモノが押し付けられた。何かと思って山斗を見上げると、頬に口付けされる。
「……俺も、悦くなりたい、です」
そういえば先ほど『一緒に』と言われたのだった。たしかに自分ばかり悦くなっているのは不公平だろう。
いいですか、と問われるとこくこくと頷いた。熱が山斗のモノだとは気付いていた。
「ぁ、あぁ……、ん……」
「ふ……、ぅ……」
山斗は熱をふたつ掴んだまま、腰を揺らして擦りつけ、手でも擦ってくる。
(あつ、い……)
熱が腰から回って全身を侵していくようだ。ぐるぐると巡り、わけがわからなくなっていく。その感覚が恐ろしくもある。
最後に自分で抜いたのはどれくらい前だろう。思い出すことができないしそのせいかもしれないが、今までの自慰より確実に悦い。だから自然と腰が揺れてしまうのも仕方ないと思いたい。
「あ、ッあぁ……っ」
先端をまとめてぐりぐりといじられるのに弱い。山斗の手がなめらかに動いていることには気付いたが、それが互いの先走りによるものだとまでは気が回らない。
(氷室くん、も……悦いのかな……)
そろりと山斗の顔を窺う。
「……っ」
息を呑んだ。
熱を灯した眼は類が山斗を見ていることに気付くと獰猛になり、噛みつくどころか食いちぎられるのではないかと思うくらい眼差しが強い。目許が赤く染まっているのは興奮のせいだろうか。
(そんな顔、するんだ……)
背筋をぞくりと何かが走る。途端、快楽が強くなった。
「あっ、あ、ひむろ、くん……っ」
「すみません、も……」
抑えられない、と言うより早く、山斗が性器を責める手が強さを増す。ぐちぐちと卑猥な音と、細切れの声が部屋を満たし、
「ッあ、もお……っあ、あああぁ……ッ!」
びくんと腰が跳ねる。熱を吐き出す感覚。
「ぅ、あ……っ」
山斗も低く呻き、びくりと体を震わせる。互いの腹が濡れる感覚に、ふたりとも達したのだとぼんやり気付く。
荒い呼吸を整えようとしていると、片腕で山斗に抱きしめられる。彼もずいぶん呼吸が乱れていた。
「……そんな顔して、どうしたの」
少しずつ呼吸が収まって、腕の力が緩むと互いの顔が見られるようになった。
じっと類を見下ろしている山斗は、呼吸が乱れているせいだけではなく、どこか苦しそうに見える。
何か我慢していることがある。そう思わせるような表情。
山斗は一瞬何かを言い掛けたが一度つぐんで顔を逸らし、そうして少ししてからまた類を見つめた。
「あの……」
「うん?」
4
あなたにおすすめの小説
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】
紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※番外編を公開しました(2024.10.21)
生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?
灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。
オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。
ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー
獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。
そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。
だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。
話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。
そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。
みたいな、大学篇と、その後の社会人編。
BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!!
※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました!
※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました!
旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」
捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~
水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。
死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!?
「こんなところで寝られるか!」
極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く!
ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。
すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……?
「……貴様、私を堕落させる気か」
(※いいえ、ただ快適に寝たいだけです)
殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。
捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!
【本編完結】最強魔導騎士は、騎士団長に頭を撫でて欲しい【番外編あり】
ゆらり
BL
帝国の侵略から国境を守る、レゲムアーク皇国第一魔導騎士団の駐屯地に派遣された、新人の魔導騎士ネウクレア。
着任当日に勃発した砲撃防衛戦で、彼は敵の砲撃部隊を単独で壊滅に追いやった。
凄まじい能力を持つ彼を部下として迎え入れた騎士団長セディウスは、研究機関育ちであるネウクレアの独特な言動に戸惑いながらも、全身鎧の下に隠された……どこか歪ではあるが、純粋無垢であどけない姿に触れたことで、彼に対して強い庇護欲を抱いてしまう。
撫でて、抱きしめて、甘やかしたい。
帝国との全面戦争が迫るなか、ネウクレアへの深い想いと、皇国の守護者たる騎士としての責務の間で、セディウスは葛藤する。
独身なのに父性強めな騎士団長×不憫な生い立ちで情緒薄めな甘えたがり魔導騎士+仲が良すぎる副官コンビ。
甘いだけじゃない、骨太文体でお送りする軍記物BL小説です。番外は日常エピソード中心。ややダーク・ファンタジー寄り。
※ぼかしなし、本当の意味で全年齢向け。
★お気に入りやいいね、エールをありがとうございます! お気に召しましたらぜひポチリとお願いします。凄く励みになります!
異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!
めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈
社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。
もらった能力は“全言語理解”と“回復力”!
……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈
キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん!
出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。
最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈
攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉
--------------------
※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!
経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!
中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。
無表情・無駄のない所作・隙のない資料――
完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。
けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。
イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。
毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、
凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。
「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」
戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。
けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、
どこか“計算”を感じ始めていて……?
狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ
業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!
のほほんオメガは、同期アルファの執着に気付いていませんでした
こたま
BL
オメガの品川拓海(しながわ たくみ)は、現在祖母宅で祖母と飼い猫とのほほんと暮らしている社会人のオメガだ。雇用機会均等法以来門戸の開かれたオメガ枠で某企業に就職している。同期のアルファで営業の高輪響矢(たかなわ きょうや)とは彼の営業サポートとして共に働いている。同期社会人同士のオメガバース、ハッピーエンドです。両片想い、後両想い。攻の愛が重めです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる