【完結】狐と竜の怪異専門探偵事務所~千年前に構った竜の子に現世で再会、溺愛執着されています~

オジカヅキ・オボロ

文字の大きさ
42 / 68

41 記憶1

しおりを挟む
   +++++++



 やけに空腹で目が覚めた。

「ん……ん?」

 ベッドに寝かされていたらしい。すぐに自分がどこにいるのかわからなかった。

「あー……そっか、途中で気絶しちゃったんだ……」

 つまり梓玥がここまで運んで寝かせてくれたということだろう。後で礼を言わなければ、と思って背伸びをすると、体のあちこちが悲鳴を上げるようにばきばきと音がした。枕とクッションを背もたれに、上体を起こす。

「起きた?」
「あれっ?!」

 声のほうを振り向く。
 気付かなかったが、梓玥が部屋にいたらしい。すぐにベッドサイドへやってきて、瀧の顔を見るとホッとした顔になる。

「梓玥さん……」
「お腹、空いているだろう。食事を持ってくるから」
「オレ、どれくらい気を失ってた?」

 どうにも外が暗い気がする。ベランダから飛び降りたのが夜だったのは間違いないし記憶の蓋を開けてもらった時も、朝ではなかった。
 まさか一時間か二時間で腹が鳴るということもないはずだ。もしかしたら二十時間くらい寝たままだったのか。

(それってあまりにも寝過ぎじゃないか……?)

 だが梓玥からの答えは、そんな予想を上回った。

「丸三日」
「え……っ」

 咄嗟に言葉が出ない。

(道理で……お腹がめちゃくちゃ空いてるわけだよ……)

 変に納得してしまう。

「待ってて」
「う、うん」

 部屋を出て行く梓玥を見送ると、記憶のことについて考える。蓋を開けてもらったから、夢で見た事象は自分の体験として覚えているということ。けれど夢と混ざっているようにも思う。

(オレが狐のオレを通して追体験したことも、間違いなく『オレの』体験だし記憶なんだろうけど……ちょっと他人事っぽいな。どこまで思い出したのかもわからないし)

 多分これは質問されて答えるほうが早いだろうなと思う。ひとりでいた時のことは、変わり映えがなさすぎて思い出す必要を感じない。

(後で梓玥さんに協力してもらうことにしよう。夢で見ていないことも聞かれれば、間違いなく自分の、狐の頃の記憶だな)

 そうして、以前危惧したような――狐の自分になってしまった、というような感覚がないことに気付く。大学の記憶もオカ研で体験したフィールドワークの記憶も消えていない。そのことについては心の底からホッとした。やはりどこかで自分ではない何者かになるのではないかという恐れはあったから。

(乗っ取られるとか……そういうのじゃないんだな。過去のオレから、今のオレに続いてる……みたいな感じだ。それを思うと、やっぱり狐のオレもオレなんだな)

 だから他の誰かになるわけじゃないし、記憶が上書きされるわけでもない。
 納得していると、軽いノックの後でドアが開く。

「どうした?」

 梓玥は盆を持って戻ってきた。
 盆ごと雑炊を受け取る。温かそうな湯気をたてているのは、雑炊らしい。卵や葱だけではなく、大根や白菜、人参、鶏肉まで入っている。米も具も全部くたくたに煮込まれていて、胃に優しそうだ。極端に腹の減っている今はありがたい。
 いただきますと匙で掬った米を吹き冷まして一口食べる。出汁の味が良く出ていて美味しい。

「ん……いや、ちゃんと記憶が全部オレのものになった実感がないから、きっと梓玥さんに質問してもらって答えるのがいいのかなって」
「……食べてからにしよう」
「うん」

 温かさが胃によく沁みる。

(身分のある方に作らせていいのかは、やっぱり悩むけど)

 けれど本人が瀧にやらせてくれないし、今に関しては仕方がないと言い訳が通ると思いたい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

沈黙のΩ、冷血宰相に拾われて溺愛されました

ホワイトヴァイス
BL
声を奪われ、競売にかけられたΩ《オメガ》――ノア。 落札したのは、冷血と呼ばれる宰相アルマン・ヴァルナティス。 “番契約”を偽装した取引から始まったふたりの関係は、 やがて国を揺るがす“真実”へとつながっていく。 喋れぬΩと、血を信じない宰相。 ただの契約だったはずの絆が、 互いの傷と孤独を少しずつ融かしていく。 だが、王都の夜に潜む副宰相ルシアンの影が、 彼らの「嘘」を暴こうとしていた――。 沈黙が祈りに変わるとき、 血の支配が終わりを告げ、 “番”の意味が書き換えられる。 冷血宰相×沈黙のΩ、 偽りの契約から始まる救済と革命の物語。

仮面の王子と優雅な従者

emanon
BL
国土は小さいながらも豊かな国、ライデン王国。 平和なこの国の第一王子は、人前に出る時は必ず仮面を付けている。 おまけに病弱で無能、醜男と専らの噂だ。 しかしそれは世を忍ぶ仮の姿だった──。 これは仮面の王子とその従者が暗躍する物語。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~

水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。 死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!? 「こんなところで寝られるか!」 極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く! ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。 すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……? 「……貴様、私を堕落させる気か」 (※いいえ、ただ快適に寝たいだけです) 殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。 捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

冷徹勇猛な竜将アルファは純粋無垢な王子オメガに甘えたいのだ! ~だけど殿下は僕に、癒ししか求めてくれないのかな……~

大波小波
BL
 フェリックス・エディン・ラヴィゲールは、ネイトステフ王国の第三王子だ。  端正だが、どこか猛禽類の鋭さを思わせる面立ち。  鋭い長剣を振るう、引き締まった体。  第二性がアルファだからというだけではない、自らを鍛え抜いた武人だった。  彼は『竜将』と呼ばれる称号と共に、内戦に苦しむ隣国へと派遣されていた。  軍閥のクーデターにより内戦の起きた、テミスアーリン王国。  そこでは、国王の第二夫人が亡命の準備を急いでいた。  王は戦闘で命を落とし、彼の正妻である王妃は早々と我が子を連れて逃げている。  仮王として指揮をとる第二夫人の長男は、近隣諸国へ支援を求めて欲しいと、彼女に亡命を勧めた。  仮王の弟である、アルネ・エドゥアルド・クラルは、兄の力になれない歯がゆさを感じていた。  瑞々しい、均整の取れた体。  絹のような栗色の髪に、白い肌。  美しい面立ちだが、茶目っ気も覗くつぶらな瞳。  第二性はオメガだが、彼は利発で優しい少年だった。  そんなアルネは兄から聞いた、隣国の支援部隊を指揮する『竜将』の名を呟く。 「フェリックス・エディン・ラヴィゲール殿下……」  不思議と、勇気が湧いてくる。 「長い、お名前。まるで、呪文みたい」  その名が、恋の呪文となる日が近いことを、アルネはまだ知らなかった。

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

処理中です...