【完結】狐と竜の怪異専門探偵事務所~千年前に構った竜の子に現世で再会、溺愛執着されています~

オジカヅキ・オボロ

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「あ、あの……梓玥さん?」
「梓玥でいい」

 呼び捨てはさすがに気が引ける。前世ならともかく、今の瀧はただのヒトだ。

「構わない。……呼んで」

 苦しげに請われて断るのは難しい。結局、思い切って彼の名だけを口にした。

「……梓玥」

 言葉の代わりに、腕の力が強くなる。緩めてくれと言うのもきっと今は無理だろう。変に冷静な頭がそう分析した。
 この腕は、千年もの間、瀧を――瀧耀を探して求めてくれていた腕。自分に同じことができるのかと問えば、大人しく抱きしめられていることしかできそうにない。

「…………」

 梓玥の広い背を、子どもをあやすように撫でた。
 今ヒトである瀧には、千年は気が遠くなるほどの長い年月。神族にもヒトにも一年の長さは同じだろうか。

(あれ……でも竜の寿命って平均で三百年から五百年じゃなかったっけ……?)

 疑問はすぐに口から出た。

「梓玥さ、……梓玥は、普通の竜より長生きなのか?」

 瀧の疑問は、一度綺麗に流された。

「……もしかしたら、次にあなたが生まれた時はすぐ殺されてしまうかもしれない。だから倭国や本国の狐神、竜神に手を回した」
「そ、そんなことできるのか?」
「そうさせないための地位を手に入れている」
「竜王じゃないし後継関係でもない、んだったよな……?」

 それならどうやって。梓玥は体を起こすと、間近で瀧の顔を見つめる。この美しい顔に、瞳に見つめられるのは慣れない。照れが勝る。

「たかが一神族の王というだけでは、他神族や倭国への干渉はしづらい」
「それで、竜神族の跡継ぎとは関係がない立場に? ……天仙とか……?」

 天仙は神族のものでもなれる官職をまとめた言い方だが、ただ神族だからといってほいほいとなれるわけではない。一定以上の学業を修め、厳しい修行を経て仙人、神人となり、初めてスタートラインに立てる。
 何十年も、何百年もかかる道程だ。
 梓玥はこくりと頷く。

「……中天北極紫微ちゅうてんほっきょくしび大帝。倭国では月読つくよみ。どちらも私の今の地位」
「…………」

 思わず黙ってしまったのは、授業で習った覚えがある官職だからだ。
 大陸の三柱。その最高神の下にいる、世界を運営する五御と呼ばれる五柱のうちの一柱が紫微大帝。そして月読は倭国では原初の神の下、実質の最高神である天照大御神、素戔鳴すさのおと並ぶ三貴子と呼ばれる神だ。
 四季と日月星辰、天地人、軍隊、鬼神などを司っているのが紫微大帝、夜の世界を司るのが月読ではなかったか。
 つまり梓玥は大陸、倭国いずれもの最高神の領域にいるということになる。

(大陸と倭国の神を兼任することなんてできるんだ……?)

 前代未聞だ。倭国の、元々の月読はどうしたのだろう。代替わりしたということは、何かあったのか。――ヒトである身には、関係のないことだが。
 それより問題は目の前のことだ。
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