最強猫科のベヒーモス ~モフりたいのに、モフられる~

メイン君

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第一章 モフはモフを呼ぶ

第20話「英雄に憧れて……」

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今話は終始“冒険者ハンズ”の視点です。
次話からシュンの視点に戻ります。

――――――――――――――――――――

<ハンズ視点>

 俺は、今回のオーク殲滅せんめつ作戦に参加して良かったと思った。

 リルさんが参戦していたからだ。

 先日のリルさんの従魔、シュンの活躍はいまだに目に焼き付いている。
 いや……、目で追えなかったという意味では焼き付いていないか……。

 “閃光ブリッツ”のハンズなんて呼ばれ、スピードには自信があったのに……。
 シュンの速度に全く反応できなかった。

 少なからず自信をなくした。

 けど……、俺が一番大きく持った感情はなぜか“憧れ”だった。

 戦闘時の圧倒的なスピード、はたから見ても分かる主人と従魔の信頼関係。
 それを見て俺の頭に浮かんだのは、子供のころに憧れた「英雄バルハルト物語」だ。
 誰でも知ってる、英雄バルハルトとその従魔たちの物語だ。

 俺が冒険者になろうと思ったのも、子供の頃にあのおとぎ話に憧れてのことだった。

 今は四人で、“駆ける者達ケンタウロス”というパーティーを組んでいる。

 少し前にパーティー内でいち早くBランクに上がることができた。
 スピードには多少の自信があったけど、決定力に欠ける俺がランクアップできたのは、間違いなくパーティーメンバーのおかげだ。

 こんな素晴らしいパーティーのリーダーをやらせてもらって、俺は幸せ者だといつも実感している。
 
 これからは俺が率先して成果を上げて、稼げるパーティーにしていきたい。
 それにみんなのランクも上がるようにしていきたい。

 俺はよく見た目のせいか、チャラい奴なんて思われることが多いけど、どちらかというと女性には奥手な方だ。
 パーティー組んだばかりのころは、メンバーのモニカとも照れて上手く話ができなかったくらいだ。
 手が早そう、なんて言われるけど、せいぜい戦いの時に手数が多くそういう意味で速いくらいだろう。


 進軍の途中で、リルさんがいきなり列から離れていった。
 真剣な顔で駆けていく姿に目を奪われた。

 はっと気づいた時に、ついリルさんに呼び掛けてしまった。

 それがまずかった……。

 何があったかと、騎士が駆け寄ってくる。

 ヴァレミー男爵だ。
 歳はまだ二十歳をこえたばかりだが、その剣の実力から討伐軍の副官を任されている男だ。

「何があった?」

 強さはAランク冒険者クラスらしいけど、いけすかない野郎だ。
 冒険者を見下して、自分の下僕かなにかだと思ってるふしさえある。

 冒険者の一人が今の出来事をヴァレミーに報告した。
 一瞬、同じ冒険者なんだから上手くごまかしてくれよと思った。
 ごまかせない雰囲気があったから、しょうがないけどさ。

「はあ? ピクニックじゃねえんだぞ。あのガキどもか、やっぱり使えねえなあ! 団長も甘すぎるんだよ!」

 ヴァレミーの言葉を聞いて、俺は頭に血が上るのを感じた。
 その時、肩にポンと手がおかれた。
 モニカの手で、俺は少し冷静さを取り戻した。

 モニカ、ありがとよ……。

 もう少しで言い返しているところだった。
 あいつは一応貴族だし、もめたらパーティーのみんなにも迷惑をかけるところだった。
 
 俺の英雄が馬鹿にされた気がしたんだ。

 リルさんのほうが……、いやシュンだってヴァレミーよりも強いはずだ!

 俺は彼女たちの強さの一端しか知らないけど、なんとなくそう思った。

 それにしても、リルさんたち何しに行ったんだろう?

 英雄と言えば、困ってる人のところにどこからともなく颯爽さっそうと現れて、まるで当然とでもいうように助けていくものだけど……、まさかね……。






 リルさんが進軍の列に戻ってきた。

 ヴァレミーに戻ってきたことが伝わり、今リルさんが文句を言われているところだ。

「お前……、遊びのつもりなら今すぐ帰れ! いざという時に足を引っ張られたらたまんねえからよ!」

 ヴァレミーがリルさんにいら立ちをぶつけている。
 今の言葉の前にもヴァレミーはグダグダと文句を言っていた。
 
「ごめんなさい……」

 リルさんが肩を落として謝っている。
 リルさんの足元にいるシュンが、ヴァレミーのことを凄くにらんでいる気がする。

「怖くなって逃げ出したかったのか? 街への帰り方が分からず戻ってきたんじゃねえのか?」

 ヴァレミーの野郎そこまで言う必要ないだろ……。

 グレゴリー騎士団長は冒険者は冒険者らしさを生かして動いて欲しいって言ってたはずだ。
 斥候としての動き、臨機応変な挙動、経験に裏打ちされた直感による判断、それを生かせってことだ。

 そう考えたら、リルさんの行動を頭ごなしに否定しちゃいけないだろ!
 理由も聞かずに、言いたい放題言わなくてもよ……。

 憤りを感じたけど、リルさん自身が反論するわけでもないから、俺は大人しくしておくことにした。



 

 討伐軍の進路上にオークの集落らしきものが発見されたらしい。
 騎士たちの采配の元、包囲殲滅せんめつ戦を行うことになった。

 小さな村ほどの大きさの集落を、兵士と冒険者とでグルっと囲む。
 駆ける者達ケンタウロスのメンバーはみな近くに固まっている。
 
 前方には雑に作られたオークの家らしきものが点在している。

 俺たちのすぐ近くに配置されていたリルさんがキョロキョロと周囲を見回している。
 特に後方を気にしているようだ。

 何かあるのか……?

 騎士団長の合図のもと、俺たちは集落に突撃した。

「おい! この家の中、もぬけの空だぞ!」

 いち早く突っ込んでいった冒険者が叫ぶ。

「そんなはずはない! 生活の気配はあったはずだ。他を探せ!」

 騎士の一人が大声で指示を出している。

 
 結果……、どの家も空だった。

 残すところは集落中央にある大きな集会所のような建物だけだ。

「俺たちの襲撃を察知して、あそこに立てこもってるのかよ」

 そんな呟きが聞こえてきた。

 さあ、攻撃を仕掛けるかという時のことだ。

 ピーっと笛のような音が響きわたった。

 兵も冒険者も、そして騎士たちも何が起こったかとその場で動けないでいる。
 不測の事態の予感に、俺は寒気を感じた。
 パーティーメンバーは三人とも近くにいる。

 リルさんは……、見当たらない。

 一瞬……ほんの一瞬だけ、リルさんが逃げたと思った自分が情けない。

 何が起こってるんだ!

 脳裏によぎったのは、俺たちはオークの罠にまんまとはめられたのではないかということ。
 オークどもを包囲したつもりが、実は俺たちが包囲されてたのではないか……。


 集落のさらに外側から地響きが聞こえてくる。

 この音は……?

 すぐに音の正体が姿を現した。
 全長五メートルくらいある大型の四足獣が目の前に現れた。
 その後方にはオークが数体いる。

 まるでオークに付き従って攻めて来たかのようだ。

「グレートボア!!」

 今、誰かがだいぶ離れたところで、この魔物の名前を叫んだ。

 俺の目の前に現れた巨大な魔物の名前だ。
 ワイルドボアというこいつを小さくしたようなやつはギルドの依頼で何度も倒したことがある。

 しかし今聞こえた声、どうもこの目前の魔物に対して言ったふうではなかった。
 疑問に思い周囲を見回すと、グレートボアは1体ではなかった……。

 視界に入るだけで、5体はいる。
 兵士たちの喧騒の度合いから、間違いなくもっといるだろう。

 その攻撃力、防御力からBランク上位の魔物とされている。
 厚い毛皮は剣が通らず、その下の厚い脂肪は魔法の効果を大きく減じる

 一流の冒険者でも決して一人では戦ってはいけない魔物だ。
 Bランクに上がったばかりの俺には荷が重すぎる。

 突進をまともにくらったら、人なんて簡単にバラバラにされる。
 俺たちはグレートボアの正面に立たないように立ち回る。

 デカい図体のくせにその突進は速い。
 突進の途中で角度を変えてくるのも厄介だ。

 スピード重視の俺だけならなんとか避けていられるけど、魔法使いのモニカにはきついだろう。
 なんとか俺の方に突っ込んでくるように挑発するが、それも続かない。

 グレートボアの突進がモニカにかすった。

 一瞬直撃されたかと思い、息が止まる思いだった。

 だが……。

 かすっただけでも結構なダメージがあったのか、モニカがその場にうずくまる。

「モニカ!」

 俺はグレートボアからかばうようにモニカの前に立った。
 グレートボアはモニカを良い獲物だと思ったのか、こっちに狙いを定めているようだ。

 モニカを抱えてあの突進を避けるのは厳しい……。
 かと言ってあの突進をいなすだけのパワーは俺には無い……。

「ハンズ! 私のことは放っておいて!」

 背中越しにモニカの声が聞こえた。
 
 そんなことできるわけねえだろ……。

 こんな状況で俺は自分の気持ちに気づいてしまった。

 モニカを守りたい――。

 いつも一見冷めた風に見えて、周囲のことをよく見ている優しいモニカ。

 今だって、自分の身の危険よりこっちの心配をする始末だ。

 ああ……、憧れてたバルハルトのような英雄になれないことは俺自身よく分かってる。

 ただ……、モニカにとっての英雄にはなりたかったなあ……。
 いつからだろうな……、そんな気持ちを持つようになったのは。

 こんな時に、気づくなんてな……。

 グレートボアがこっちに向かって突進してくる。
 俺は短剣を構えているけど、こんなものが効くとは思えない。

 グレートボアの突進がゆっくりに感じる。
 思考がゆっくりになっているといった方が分かりやすいだろうか。
 だからと言って、体が速く動かせるわけじゃないから意味はないんだけどな。

 …………ああ。

 グレートボアの野郎……、デカくて怖えーな……。



 

「クルニャーーン!!!」

 場にそぐわない可愛らしい鳴き声が、突然聞こえてきた。

 死ぬ直前だからだろうか。
 幻聴が聞こえたんだと思った。

 俺には可愛らしい鳴き声から、意思というべきものが伝わってきた気がした。

 それこそまた場にそぐわない意思だった。

 それは……。

『デカくて美味しそ~だね!!』
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