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第二章 

第35話「適応するって大事だよね」

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 俺たちは街に戻ることにした。
 
「ねえ、ライミーもうちに来ない? 広いから遠慮しなくて大丈夫だよ!」

 リルがライミーを自宅に誘っている。
 まだ短い付き合いだけど、悪い子じゃないってことはなんとなく分かったからね。

「…………行く。
 …………特に予定ないから」

 そういうわけで、ライミーも一緒に家に帰ることになった。

 ただ……、俺には帰る前にやることがある。

「クルニャン!(ちょっと待ってて!)」

 そう、サンダーバッファローのハンバーグを食べて、スキルを手に入れたのだ。
 スキルは“雷魔法”だった。
 
「クルニャ!(ちょっとみんな川から離れていてね!)」

 使い方はいつものように感覚的に分かる。
 俺は川に向かって雷撃を放った。

 川に雷撃が走り、バチバチっと大きな音がする。
 少しすると、魚が数匹プカーっと浮いて来た。

 うん、いい感じ!
 使い勝手の良さそうなスキルだ。

「シュン、凄いね! また新しいスキルを覚えたんだね!」

 リルは、俺がスキルを見て・・覚えてると思ってる気がする。
 実際は食べて・・・覚えてるわけだけど。
 最近はあまりないけど、以前はわざとダメージを受けて覚えることもあった。
 ダメージを受けて覚えることが最近なかったのは、以前よりは強くなったからかもしれない。

「クルニャン!(リルの美味しいご飯のおかげだよ!)」

 美味しいし、スキルを覚えられるし、リルのご飯は最高だよ!

「…………食べた魔物?」

 お!?

 ライミーは何か気づいたのだろうか。

「クルルゥ(食べた魔物のスキルが手に入るんだよ)」

 ライミーは鋭いし、知識も多そうだから気づいてくれるかもしれない。

「…………魔物のスキル?
 …………??」

 ライミーが首をかしげる。

 もしかしてだけど、気づくどころか……俺の言葉――猫の言葉が理解わかってる?
 態度から全部伝わってるわけではなさそうだけど、ところどころが伝わってる気がする。

 いいことを思いついた!

「クルニャーーン!(ライミーはプニプニしてて可愛いな~! これからも一緒にいたいな~! それと……、全身おっぱい!!)」

 言い切ってから思ったけど、全然いい案じゃなかった!?
 大体本心ではあるんだけど……。

 これで伝わってるかが分かるかも。
 だけど伝わってたらと思うと、ちょっと怖い。

 俺は恐る恐るライミーを見上げる。

「…………シュンのいじわる」

 ライミーは照れた様子で、ほっぺたをふくらませてる。
 少し顔が赤い気もする。

 これ、伝わってるやつだ。
 ど、どこまで伝わったんだ??

「クルナー!(ちがうんです、ちがうんです! 今のは、試してみたというか、本心というか、悪気はないんですぅ~)」

「…………シュンの言葉。
 …………少しだけ分かるよ」

 少しだけだよと、ライミーは言う。

 少しだけでも、言葉が伝わるのはやっぱり嬉しいかもしれない。
 リルとの間では言葉が通じなくても、気持ちが通じ合えてると思っている。

 けど、言葉が伝わるとそれはそれでできることが広がる気がする。
 以前、なんとか言葉を伝えようと、文字を書こうとしたことを思いだす。
 言葉が分かるようには書いた文字が伝わらずがっかりした記憶だ。

「ライミー、いいな~。リルにもシュン語を教えてね」

「…………いいよ」

 リルがライミーの手を取ってお願いしている。

 シュン語って……。
 猫たちには伝わるから、猫語だよ。
 
 これはいよいよ、ライミーにはうちに来てもらわないといけない。

 リルの料理でおもてなしだよ。
 俺や猫たちをいっぱいモフっていいからね。
 ミーナのご飯からは……、俺が身をていして守ろう。

「クルニャー!(家に帰ろう!)」





 俺は毎度のことながら、ズルズルと水牛を引きずって街まで運んでいる。
 気分はあれだね……、家で待ってるたくさんの猫たちのために食料を運ぶ働きアリだよ。

 待ってろよ、みんな!
 腹いっぱい食べさせてやるからな!

 首が少し痛くなってきたよ……。
 早く猫たちを育てて、俺はアーリーリタイアするんだ……。

 雷魔法が手に入ったし、ステータスの確認だ。
 俺は自己鑑定を発動する。

――――――――――
名前:シュン
種族:ファイアドレイク・キャット
レベル:136
体力:211
魔力:227

スキル:「自動翻訳」「自己鑑定」「火無効」
「毒無効」「暗視(強)」「飛行」「風刃」「猛進」「毒弾」
「咆哮」「火魔法」「風魔法」「雷魔法」
「混乱耐性(中)」「精神耐性(弱)」 

称号:「シャスティの加護」「毒ノ主アスタロト」「蠱毒の覇者」
――――――――――

 スキルが増えていくのは、やっぱり嬉しいね。
 これも猫女神シャスティ様の加護のおかげだな。

 「シャスティの加護」――――尋常ならざる適応力を手に入れる。異世界どこでも生きていける。 

 このスキルの説明を見るたびに浮かぶ言葉がある。

 生き残る種とは、最も強いものではない。
 最も知的なものでもない。
 それは、変化に最もよく適応したものである

 俺の場合は自分が生き残るだけではなく、仲間を守りたいのが第一だけど、そのためにも変わっていくことは必要だろう。

 そんなことを改めて思ったりした。





 街に到着した。
 
 ギルドへの報告は後にして、家に帰ってきた。

 リルがAランク冒険者になったためか、街に入るのもとてもスムーズだった。

 門のところで、水牛を運ぶための台車を貸してくれたよ。
 猫が街中で台車を引く姿はシュールだったと思うけど、街の人も段々慣れてきた気がするよ。

 ライミーのことで街に入る時に止められるかなと思ってた。
 スライム娘は今まで街中で見たことがなかったからね。

 驚かれてる感じではあったけど、止められなかった。
 Aランク冒険者の信頼度、はかりしれないな。

 最悪、俺と同じ従魔扱いになるかなと思ってたけど、どうやら獣人と同じ亜人のくくりかもしれないね。
 これは、冒険者登録もできちゃう予感。
 今は仕事で留守にしてるミーナに、あとで聞いてみないとね。

 そういえば、

「クルニャー?(ライミーってどんな種族なの?)」

 ちょっと気になって聞いてみる。

「…………ぞく?
 …………ポヨ族」

 ぽよ族?

「ポヨ族って言うんだ。リルは銀狼族だよ。ポヨ族ってなんだか可愛いね」

「…………ぽよ」

 確かに可愛い響きだ。
 プニプニポヨポヨさせてください、お願いします。



 帰宅して庭でくつろいでいる時のことだった。

 ドサッと音がしたので振り向くと、ライミーが地面に倒れていた。

「クルニャッ!(ライミー!)」

「ライミー! どうしたの!」

 ライミーはとても苦しそうな表情をしていた――。



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