揚げ物無双 ~唐揚げを作ったら美少女魔王に感激されて、なぜか魔王の座を譲り渡されてしまった~

メイン君

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第10話「甘さ広がる魔王室(前)」

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《狼っ娘エリナ》

 私の名前は、エリナ。魔王城で働くメイドです。
 今日は朝からお城の窓ガラスを割ってしまいました。

 お掃除中に先日食べた“からあげ”のことを思い出していたら、つい力が入ってしまったのです。
 ビシッと音を立ててガラスにひびが入ったところで、我に返りました。

 近くで一緒に掃除をしていた先輩からは、「エリナ……、ニヤニヤしてて気持ち悪かったよ……、思う存分モフってください、って何のこと?」と言われてしまいました。

 つい口に出してしまっていたようです。
 エリナは、はしたない娘かもしれません。

 窓ガラスを割った罰として、リュシー様からまたお昼抜きの刑を言い渡されてしまいました。
 リュシー様の鬼悪魔おにあくま、冷血美人です。

 そんなわけで手持ち無沙汰な昼休み、厨房を通りかかる狼っ娘がいても何ら不思議はございません。

 厨房をのぞいた瞬間、声をかけられました。
 それは女の子の声でした。

「エリナ?」

 驚いて振り向くと、そこには魔王様……、いや元魔王のローザベル様がいらっしゃいました。
 手には調理器具を持っています。たしかボウルという名前だった気がします。
 ボウルの底には、黒っぽい液体のようなものが見受けられます。

 辺りには甘い匂いが、ふわりと漂っています。
 ローザベル様が料理をしているというのは、ちょっと意外です。

「ローザベル様……、私がここを通ったのはたまたまでして……」

 そうです、たまたまというのが大事です。
 私はそう簡単には食い気に負けたりしないのです。

「そうなの? まあいいわ、エリナ、ちょっと手伝って!」

「は、はい……、私で力になれることがあれば」

 お手伝いするのは全然かまわないのですが、何をするんでしょうか。

「そうそう、エリナも聞いてるでしょ。私はもう魔王じゃないんだから、もっと砕けた感じで接してよ」

 ローザベル様は、以前から私におっしゃっていました。
 他に人がいない時は、気をつかわずに友人のように仲良くしてほしいと……。

 ローザベル様のそういう所は凄く好きですが、恐れ多いのもまた事実でした。

「がんばります……」 

「うーん、まあすぐには無理か。とりあえず、ついてきて」

 そう言ってローザベル様は厨房の奥に向かって行きます。
 私は慌ててその後を追ったのでした。



 ローザベル様はあるものを作るために厨房を使っていたようです。

「イツキを驚かせてあげるんだからっ」

 ローザベル様は、嬉しそうにボウルの中身をシャコシャコとかき混ぜています。
 ローザベル様の話によると、今作っているのはイツキ様への贈り物とのことです。
 ニコニコしながら料理を作るローザベル様は、本当に可愛いです。可愛すぎて、ギュッと抱きしめたくなっちゃいます。

 なんでも、人族の風習に“ばれんたいんでー”というものがあるらしく、お菓子を好きな相手に送るそうです。ローザベル様はお母様が人族なためか、人族のことについても色々詳しいのです。

「つまり、ローザベル様はイツキ様のことが大好きというわけですね」

「えっ!? そ……、そんなこと……?」

 ローザベル様の顔が真っ赤になりました。
 髪の色と合わせて、トマトのように赤いです。
 
 何でしょう、この可愛い女の子は……。
 さっき自分で「好きな相手に送る」って説明してくれたじゃないですか。

「じゃあ、好きではないのですか?」

 ローザベル様が可愛すぎて、ちょっと意地悪しちゃいました。

「そんなことはあったり、なかったり……?」

 目を反らして小さい声でつぶやくローザベル様。
 ほっぺたをツンツンしたくなっちゃいます。

 そんな感じでワイワイ楽しく、ローザベル様の料理を手伝わせていただきました。

「できたっ! エリナ、味見して」

 小さい玉の形をした“ちょこれーと”を使ったお菓子です。
 子供のころ雪合戦をした時の、玉を思い出します。
 色と大きさは違いますが。

「いただきます。…………(はむっ)」 

 ん~♪ 美味しいです。口の中でとろけました。
 優しい甘さの中に、ほんのり苦味があってたまりません。
 独特の風味が、私の鼻も楽しませてくれます。

「……どう?」

「ローザベル様! 最高です! きっとイツキ様もイチコロです!」

「そうかな、そうかな!」

 ローザベル様がとても嬉しそうです。
 ついつい私も嬉しくなってしまいます。
 最高という言葉は私の本心ですよ。
 料理をしている時のローザベル様の可愛らしい姿も、イツキ様に見せたかったくらいです。

 そして、完成したお菓子をイツキ様に持っていくことになったのですが、ローザベル様は心細かったのか、私にも一緒に来て欲しいとおっしゃいました。

 いざ突撃です。
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