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第2話「ドラゴンに安眠を」
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「う、うわぁぁぁ!!」
「ド、ドラゴンだー!」
「みんな逃げろ! 俺は逃げるぞ」
「逃げろって言ったって、道を塞がれているのにどうするのよ」
「ああ……。幸の薄い人生だったわ……」
「こんなことなら、あの子に告白しておけば良かった」
「ベッドの下に隠したアレを処分させてくれ……」
突然のドラゴンとの遭遇で、完全に恐慌状態である。
一部アレな人もいるが。
周囲を切り立った崖に囲まれ、唯一の出口は巨大なドラゴンに塞がれている。
陽の光を反射して赤く輝く鱗は、レッドドラゴンといったところだろうか。
地形は上から見るとちょうどU字型になっていて、追い詰められているという言葉がぴったりだ。
ドラゴンはこの世界の魔物の中でも上位の強さを誇る。
一応ドラゴンの強さにも個体差があるというのは、この場では何の慰めにもならないだろう。
なぜなら、下位竜ですら高ランク冒険者パーティーが数組で当たるべき存在だからだ。
今ここにいるのは三つの冒険者パーティー、どのパーティーも駆け出しの冒険者ばかりだ。
人数にして、十六人。初級者用のクエストを引き受けただけなのに、なぜかこんなことになってしまった。
少数のゴブリンと戦うだけの予定だったのに、なぜかドラゴンと対峙している。
全方位を警戒するより、守りやすいという理由で宿泊地をここにしたのは誰だっただろうか。
たしか参謀気取りのいけすかない眼鏡の提案だった気がするけど、よく考えたら逃げ場を自らなくしたようなもんじゃんね。
いつも火魔法の威力を自慢していたパーティーリーダーの少年は、火魔法を使うことなく腰を抜かしている。
下半身が水魔法を使ってしまったのは、見なかったことにしよう。
しかし、俺は皆が慌てふためく中でも、妙に落ち着いていた。
幼少の頃から、みんなに馬鹿にされ続けた“俺のある魔法”への絶対的な自信。
洗濯に使う生活魔法よりも役に立たないと言われたこともあったっけ。
だけど、俺はそうは思わない。
俺の“睡眠魔法”は最強だ!
なんて言ったって、赤ちゃんの夜泣きをしずめるのに駆り出されたこともあったんだぞ。
「子守歌のネロ」なんて二つ名で囃し立てられたのなんて、もう数えきれないほどだ。
え? 全然最強じゃないって?
まあ見てなって。
俺はドラゴンに向かって一歩を踏み出した。
「お、おいネロ!
お前の魔法なんてドラゴンには効かないぞ!」
参謀眼鏡が俺の名前を呼んで、何か言っている。
確かにドラゴンに睡眠魔法を使ったことはない。
一般的にも“普通”の睡眠魔法は、高い魔法抵抗力を持つドラゴンには効かないとされている。
けど、俺の睡眠魔法はドラゴンにも効くと確信している。
それに君ら、背中が崖につくくらいに後ずさって、そこからどうするのよ。
視線をドラゴンに戻す。
ドラゴンは周囲の木々をなぎ倒しつつ、ゆっくりとこちらに向かっている。
うーん、なぜかドラゴンの機嫌が悪い気がする。
といっても他のドラゴンを見たことはないから比較したわけではないけどさ。
それでもどこか怒っているように見える。
イライラを木々に当たり散らしているように見える。
次の獲物はこちらの冒険者達だというかのように。
今まで事あるごとに俺を馬鹿にしてきたそこの冒険者達を助ける義理はない。
今回だって俺の役目はただの荷物持ちだ。
平均的な腕力しか持たない俺に対して、道中も文句ばかり言ってきたしね。
やれ遅い、やれもっといっぱい持てと。
まあ……、それでも同じ街の連中を見殺しにするのは寝覚めが悪いからね。
睡眠魔法を唯一の武器とする俺にとって、“寝覚めが悪い”というのは最悪だ。
大問題といっていい。
だから、誰かがドラゴンの爪の犠牲になる前に何とかしよう。
「ここは俺に任せてくれ!」
ドラゴンの正面に立つ。
デカいな……。近くにくると一層大きく感じる。
人族の平均的な身長しかない俺の十倍以上の体高だろうか。
陽の光を反射して、深紅に輝くドラゴンの鱗は、まるで宝石のようだ。
いや、下手な宝石よりも美しいだろう。
一度目を取られると魅了されて、目が離せなくなってしまいそうだ。
『クルゥオーン!!』
その時、ドラゴンが咆哮した。
凄まじい音に周囲の空気が震える。まるで音が質量をともなっているかのようだ。
俺が一歩後ずさってしまったのは、しょうがないことだろう。
想像していたのより高い鳴き声だったことで、余計に恐怖をあおられた。
チラリ後ろを見やると、皆ガタガタと震えているか腰を抜かして動けなくなっているかだ。
あまり出し惜しみすることでもないので、早速使わせてもらう。
右手をドラゴンの方に突き出す。手のひらは開いている。
一般的なファイアボールの構えと同じだ。
「おやすみなさい!」
俺はドラゴンに向かって叫んだ。
あいさつをした!!
後方から、何をやってるんだあの馬鹿はという視線を感じる。
何とでも思うがいい。
「あっ、やべっ!?」
俺は猛ダッシュで後ずさる。
俺が今まで居た場所にはドラゴンが倒れこんできた。
倒れこんできたドラゴンは、大きな音を立てそのまま動かなくなる。
そして、ドラゴンは気持ち良さそうに寝息を立て始めた。
体が大きいからか寝息と言えど、結構な大きさだけど。
それにしても、赤く輝いている鱗がとても綺麗だ。
触りたい衝動に駆られるけど、起こすと大変なので、触りたい気持ちをグッと我慢する。
「おやすみなさい、良い睡眠を――――」
ドラゴンがこっちに倒れて来たときには内心焦ったけど、勝者は余裕を見せないとね。
「ド、ドラゴンだー!」
「みんな逃げろ! 俺は逃げるぞ」
「逃げろって言ったって、道を塞がれているのにどうするのよ」
「ああ……。幸の薄い人生だったわ……」
「こんなことなら、あの子に告白しておけば良かった」
「ベッドの下に隠したアレを処分させてくれ……」
突然のドラゴンとの遭遇で、完全に恐慌状態である。
一部アレな人もいるが。
周囲を切り立った崖に囲まれ、唯一の出口は巨大なドラゴンに塞がれている。
陽の光を反射して赤く輝く鱗は、レッドドラゴンといったところだろうか。
地形は上から見るとちょうどU字型になっていて、追い詰められているという言葉がぴったりだ。
ドラゴンはこの世界の魔物の中でも上位の強さを誇る。
一応ドラゴンの強さにも個体差があるというのは、この場では何の慰めにもならないだろう。
なぜなら、下位竜ですら高ランク冒険者パーティーが数組で当たるべき存在だからだ。
今ここにいるのは三つの冒険者パーティー、どのパーティーも駆け出しの冒険者ばかりだ。
人数にして、十六人。初級者用のクエストを引き受けただけなのに、なぜかこんなことになってしまった。
少数のゴブリンと戦うだけの予定だったのに、なぜかドラゴンと対峙している。
全方位を警戒するより、守りやすいという理由で宿泊地をここにしたのは誰だっただろうか。
たしか参謀気取りのいけすかない眼鏡の提案だった気がするけど、よく考えたら逃げ場を自らなくしたようなもんじゃんね。
いつも火魔法の威力を自慢していたパーティーリーダーの少年は、火魔法を使うことなく腰を抜かしている。
下半身が水魔法を使ってしまったのは、見なかったことにしよう。
しかし、俺は皆が慌てふためく中でも、妙に落ち着いていた。
幼少の頃から、みんなに馬鹿にされ続けた“俺のある魔法”への絶対的な自信。
洗濯に使う生活魔法よりも役に立たないと言われたこともあったっけ。
だけど、俺はそうは思わない。
俺の“睡眠魔法”は最強だ!
なんて言ったって、赤ちゃんの夜泣きをしずめるのに駆り出されたこともあったんだぞ。
「子守歌のネロ」なんて二つ名で囃し立てられたのなんて、もう数えきれないほどだ。
え? 全然最強じゃないって?
まあ見てなって。
俺はドラゴンに向かって一歩を踏み出した。
「お、おいネロ!
お前の魔法なんてドラゴンには効かないぞ!」
参謀眼鏡が俺の名前を呼んで、何か言っている。
確かにドラゴンに睡眠魔法を使ったことはない。
一般的にも“普通”の睡眠魔法は、高い魔法抵抗力を持つドラゴンには効かないとされている。
けど、俺の睡眠魔法はドラゴンにも効くと確信している。
それに君ら、背中が崖につくくらいに後ずさって、そこからどうするのよ。
視線をドラゴンに戻す。
ドラゴンは周囲の木々をなぎ倒しつつ、ゆっくりとこちらに向かっている。
うーん、なぜかドラゴンの機嫌が悪い気がする。
といっても他のドラゴンを見たことはないから比較したわけではないけどさ。
それでもどこか怒っているように見える。
イライラを木々に当たり散らしているように見える。
次の獲物はこちらの冒険者達だというかのように。
今まで事あるごとに俺を馬鹿にしてきたそこの冒険者達を助ける義理はない。
今回だって俺の役目はただの荷物持ちだ。
平均的な腕力しか持たない俺に対して、道中も文句ばかり言ってきたしね。
やれ遅い、やれもっといっぱい持てと。
まあ……、それでも同じ街の連中を見殺しにするのは寝覚めが悪いからね。
睡眠魔法を唯一の武器とする俺にとって、“寝覚めが悪い”というのは最悪だ。
大問題といっていい。
だから、誰かがドラゴンの爪の犠牲になる前に何とかしよう。
「ここは俺に任せてくれ!」
ドラゴンの正面に立つ。
デカいな……。近くにくると一層大きく感じる。
人族の平均的な身長しかない俺の十倍以上の体高だろうか。
陽の光を反射して、深紅に輝くドラゴンの鱗は、まるで宝石のようだ。
いや、下手な宝石よりも美しいだろう。
一度目を取られると魅了されて、目が離せなくなってしまいそうだ。
『クルゥオーン!!』
その時、ドラゴンが咆哮した。
凄まじい音に周囲の空気が震える。まるで音が質量をともなっているかのようだ。
俺が一歩後ずさってしまったのは、しょうがないことだろう。
想像していたのより高い鳴き声だったことで、余計に恐怖をあおられた。
チラリ後ろを見やると、皆ガタガタと震えているか腰を抜かして動けなくなっているかだ。
あまり出し惜しみすることでもないので、早速使わせてもらう。
右手をドラゴンの方に突き出す。手のひらは開いている。
一般的なファイアボールの構えと同じだ。
「おやすみなさい!」
俺はドラゴンに向かって叫んだ。
あいさつをした!!
後方から、何をやってるんだあの馬鹿はという視線を感じる。
何とでも思うがいい。
「あっ、やべっ!?」
俺は猛ダッシュで後ずさる。
俺が今まで居た場所にはドラゴンが倒れこんできた。
倒れこんできたドラゴンは、大きな音を立てそのまま動かなくなる。
そして、ドラゴンは気持ち良さそうに寝息を立て始めた。
体が大きいからか寝息と言えど、結構な大きさだけど。
それにしても、赤く輝いている鱗がとても綺麗だ。
触りたい衝動に駆られるけど、起こすと大変なので、触りたい気持ちをグッと我慢する。
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