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第三章
第三章 第二話
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「雪桜が見た神社ってここだよな」
住宅街の小さな神社はどこも普段人が来ることは滅多にないが、その中でも一際廃れているのがここである。
「仮にも神様が祀ってあるのになんでこんなに寂れてるんだろうな」
小さい神社とはいえ神様に拝めば御利益がありそうなものだが……。
「祀ってないわよ」
祖母ちゃんがあっさり否定した。
「え?」
「元々神様がいたわけじゃないから」
祖母ちゃんはそう言って神社が出来た時の経緯を話してくれた。
昔、近くの村に住んでいる人が仕掛けた罠に鳥が掛かっていた。
それを見た江戸から鰯の干物を売りに来た行商人が罠に掛かった鳥を捕り、代わりに売り物の干物の一部を残していった。
その行商人が去った後、仕掛けた罠を見に来た者が鰯の干物を発見し、
「鳥の罠に鰯の干物があった!」
と近所に触れ回ったため、きっと神様がやったに違いないと考えた地主が神社を建てた。
その後、以前干物を置いた行商人が再びそこを通り掛かり、近くの村の人に新しく神社が出来たわけを訊ねた。
話を聞いた男が、それは自分が鳥を捕って代わりに干物を置いていったのだと話した。
怪異でもなんでもないと判明したため神社は廃れてしまった。
「え……じゃあ、神様はいないのか?」
「人が来ないから化生が住み着く事はあるけど神様はいないわね」
「なら、ここで儀式の跡を探しても無駄なのか……」
俺はうんざりした。
やはり新宿(と中野と渋谷)中の神社行脚をしなければならないのだ。
明治神宮も三キロ圏内なんだぞ……。
あまりの途方のなさに俺が肩を落とした時、
「君達、ちょっと退いてくれる?」
不意に後ろから声を掛けられた。
俺達が振り返ると二十代半ばくらいの女性が立っていた。
白いブラウスに紺のタイトスカートをはいている。
俺達が道を空けると女性が神社に入っていった。
祖母ちゃんから今聞いた話を知らない人は神社だから神様がいるのだろうと考えてお詣りに来ちゃうんだな……。
そんな事を考えながら眺めていると、女性は鞄の中から白い小さな壺を取り出した。
女性の足下に小さな白木の組木がある。
女性が呪文を唱えながら壺の中身――水のような透明な液体――を掛けた。
白木の組木は一瞬青白い炎を上げたかと思うと崩れた。
女性が蓋を閉めて壺を鞄の中に戻す。
「あの……今の、何してたんですか?」
まさかこれが祖母ちゃんの言っていた儀式とやらでは……。
「言っても信じないわよ」
「化生を呼び寄せる儀式、とか」
「知ってるの!?」
女性が驚いたような声を上げた。
「といっても今のは儀式じゃなくて儀式跡の浄化だけど」
「なんで浄化したんですか?」
浄化したなら儀式をしたのはこの女性ではないだろう。
用が済んだから浄化したという可能性もあるが。
「浄化しないと化生が集まってくるでしょ」
「そうですけど、なんでお姉さんがするんですか?」
と言っても他に出来そうな人間に心当たりはないから助かったのだが。
「不肖の弟の尻拭いよ。まったく、こんな事しでかして……」
女性が苛立たしげな表情を浮かべた。
「ホントに不肖の弟だな」
「はた迷惑だよね」
高樹と秀が同調する。
「ちょっと待て。その弟ってのに心当たりがあるぞ」
俺がそう言うと全員の視線が集まった。
「それ、妖奇征討軍って名乗ってるあの二人組じゃないか?」
「妖奇征討軍!? あの子達、まだそんな戯言言ってるの!?」
女性は呆れたように首を振った。
「こんなこと二度としないように、こっぴどく叱ってやらなきゃ」
そう言うと女性は帰っていった。
妖奇征討軍とトラブったときのために連絡先を聞いておけば良かった、と思ったのは女性が姿を消してしまってからだった。
神社からの帰り、四人で早めの昼飯を食べていこうという話になりファーストフード店に入った。
四人で話をしている時、秀がコーヒーのお代わりを買ってくる、と言って席を立った。
「孝司、望、秀の誕生日プレゼント、何にするの?」
秀が席を離れると、祖母ちゃんが声を潜めて訊ねてきた。
「俺、そんなもんやらねーよ」
「薄情ねぇ」
祖母ちゃんが顔を顰める。
「秀だってよこさねえし、お互い様だろ」
「内藤の誕生日が近いのか?」
「ああ」
「秀に何あげればいいと思う? 何か欲しいもの言ってなかった?」
「渡さないから知らない。秀に聞いておいてやろうか?」
俺は祖母ちゃんに言った。
「そんなことしたらバレちゃうじゃない」
「大丈夫だ。雪桜への誕生日プレゼントの相談のついでに聞く」
雪桜の誕生日も四月だ。
雪桜の両親の結婚式の当日、四月なのに大雪が降り、満開の桜に雪が積もった。
しかも夜にはすっかり晴れて、雪が積もった桜の木の上に月が見えて雪月花が揃った。
雪桜の両親は「結婚式の日にこんな奇跡が!」と喜んだらしい。
交通機関のダイヤが大幅に乱れて出席予定者の多くが来られず、披露宴が行われたホールは閑散としていたらしいが。
そして翌年の四月に雪桜が生まれたので、結婚式の日の雪と桜にちなんで雪桜と名付けられた。
もちろん、雪桜が産まれた日には雪は降ってない。
いくらなんでも東京で四月に雪が降ることは滅多にない。
「東には誕生日プレゼントするのか? もしかして、お前……」
「雪桜からは貰ってるからだよ。お前も渡しといた方がいいぞ。雪桜は絶対お前の誕生日にもプレゼント用意するから」
「そうなのか」
高樹が考え込んだ。
俺は、祖母ちゃんに、
「それより金持ってるのかよ」
と訊ねた。
「持ってるわよ。ここの支払いだって自分でしてるでしょ」
「金はどうやって工面してんだ?」
「狐なんだから葉っぱだろ」
「なわけないでしょ」
祖母ちゃんが突っ込んだ。
レジに葉っぱが入っていたら騒ぎになるはずだがそれは聞いてない。
「まさか賽銭泥……」
「働いてるのよ! あんた達が学校へ行ってる間に」
十代の少女が昼間に働けるのか聞いてみたら仕事の時は成人の見た目をしているらしい。
そんな話をしているうちに秀が戻ってきた。
深夜、またもや目を覚ましてしまった。
もちろん、女の子の幽霊はミケの側にいた。
ミケは丸くなって寝ている。
俺は布団をかぶって目を瞑った。
般若心経でも習った方がいいのだろうか。
あの女の子は何で俺の前に出てくるんだ?
自慢じゃないがモテたことはないから、俺が弄んで捨てた女の子、なんて可能性は太陽が西から昇るよりあり得ない。
実は密かに俺を想っていながら気持ちを伝えられないまま死んでしまった女の子、と言うのもないだろう。
…………ん?
死んだ女の子?
まさか……。
しかし一番可能性が高い。
確かめる方法は?
……ある。
よし、月曜に確かめてみよう。
住宅街の小さな神社はどこも普段人が来ることは滅多にないが、その中でも一際廃れているのがここである。
「仮にも神様が祀ってあるのになんでこんなに寂れてるんだろうな」
小さい神社とはいえ神様に拝めば御利益がありそうなものだが……。
「祀ってないわよ」
祖母ちゃんがあっさり否定した。
「え?」
「元々神様がいたわけじゃないから」
祖母ちゃんはそう言って神社が出来た時の経緯を話してくれた。
昔、近くの村に住んでいる人が仕掛けた罠に鳥が掛かっていた。
それを見た江戸から鰯の干物を売りに来た行商人が罠に掛かった鳥を捕り、代わりに売り物の干物の一部を残していった。
その行商人が去った後、仕掛けた罠を見に来た者が鰯の干物を発見し、
「鳥の罠に鰯の干物があった!」
と近所に触れ回ったため、きっと神様がやったに違いないと考えた地主が神社を建てた。
その後、以前干物を置いた行商人が再びそこを通り掛かり、近くの村の人に新しく神社が出来たわけを訊ねた。
話を聞いた男が、それは自分が鳥を捕って代わりに干物を置いていったのだと話した。
怪異でもなんでもないと判明したため神社は廃れてしまった。
「え……じゃあ、神様はいないのか?」
「人が来ないから化生が住み着く事はあるけど神様はいないわね」
「なら、ここで儀式の跡を探しても無駄なのか……」
俺はうんざりした。
やはり新宿(と中野と渋谷)中の神社行脚をしなければならないのだ。
明治神宮も三キロ圏内なんだぞ……。
あまりの途方のなさに俺が肩を落とした時、
「君達、ちょっと退いてくれる?」
不意に後ろから声を掛けられた。
俺達が振り返ると二十代半ばくらいの女性が立っていた。
白いブラウスに紺のタイトスカートをはいている。
俺達が道を空けると女性が神社に入っていった。
祖母ちゃんから今聞いた話を知らない人は神社だから神様がいるのだろうと考えてお詣りに来ちゃうんだな……。
そんな事を考えながら眺めていると、女性は鞄の中から白い小さな壺を取り出した。
女性の足下に小さな白木の組木がある。
女性が呪文を唱えながら壺の中身――水のような透明な液体――を掛けた。
白木の組木は一瞬青白い炎を上げたかと思うと崩れた。
女性が蓋を閉めて壺を鞄の中に戻す。
「あの……今の、何してたんですか?」
まさかこれが祖母ちゃんの言っていた儀式とやらでは……。
「言っても信じないわよ」
「化生を呼び寄せる儀式、とか」
「知ってるの!?」
女性が驚いたような声を上げた。
「といっても今のは儀式じゃなくて儀式跡の浄化だけど」
「なんで浄化したんですか?」
浄化したなら儀式をしたのはこの女性ではないだろう。
用が済んだから浄化したという可能性もあるが。
「浄化しないと化生が集まってくるでしょ」
「そうですけど、なんでお姉さんがするんですか?」
と言っても他に出来そうな人間に心当たりはないから助かったのだが。
「不肖の弟の尻拭いよ。まったく、こんな事しでかして……」
女性が苛立たしげな表情を浮かべた。
「ホントに不肖の弟だな」
「はた迷惑だよね」
高樹と秀が同調する。
「ちょっと待て。その弟ってのに心当たりがあるぞ」
俺がそう言うと全員の視線が集まった。
「それ、妖奇征討軍って名乗ってるあの二人組じゃないか?」
「妖奇征討軍!? あの子達、まだそんな戯言言ってるの!?」
女性は呆れたように首を振った。
「こんなこと二度としないように、こっぴどく叱ってやらなきゃ」
そう言うと女性は帰っていった。
妖奇征討軍とトラブったときのために連絡先を聞いておけば良かった、と思ったのは女性が姿を消してしまってからだった。
神社からの帰り、四人で早めの昼飯を食べていこうという話になりファーストフード店に入った。
四人で話をしている時、秀がコーヒーのお代わりを買ってくる、と言って席を立った。
「孝司、望、秀の誕生日プレゼント、何にするの?」
秀が席を離れると、祖母ちゃんが声を潜めて訊ねてきた。
「俺、そんなもんやらねーよ」
「薄情ねぇ」
祖母ちゃんが顔を顰める。
「秀だってよこさねえし、お互い様だろ」
「内藤の誕生日が近いのか?」
「ああ」
「秀に何あげればいいと思う? 何か欲しいもの言ってなかった?」
「渡さないから知らない。秀に聞いておいてやろうか?」
俺は祖母ちゃんに言った。
「そんなことしたらバレちゃうじゃない」
「大丈夫だ。雪桜への誕生日プレゼントの相談のついでに聞く」
雪桜の誕生日も四月だ。
雪桜の両親の結婚式の当日、四月なのに大雪が降り、満開の桜に雪が積もった。
しかも夜にはすっかり晴れて、雪が積もった桜の木の上に月が見えて雪月花が揃った。
雪桜の両親は「結婚式の日にこんな奇跡が!」と喜んだらしい。
交通機関のダイヤが大幅に乱れて出席予定者の多くが来られず、披露宴が行われたホールは閑散としていたらしいが。
そして翌年の四月に雪桜が生まれたので、結婚式の日の雪と桜にちなんで雪桜と名付けられた。
もちろん、雪桜が産まれた日には雪は降ってない。
いくらなんでも東京で四月に雪が降ることは滅多にない。
「東には誕生日プレゼントするのか? もしかして、お前……」
「雪桜からは貰ってるからだよ。お前も渡しといた方がいいぞ。雪桜は絶対お前の誕生日にもプレゼント用意するから」
「そうなのか」
高樹が考え込んだ。
俺は、祖母ちゃんに、
「それより金持ってるのかよ」
と訊ねた。
「持ってるわよ。ここの支払いだって自分でしてるでしょ」
「金はどうやって工面してんだ?」
「狐なんだから葉っぱだろ」
「なわけないでしょ」
祖母ちゃんが突っ込んだ。
レジに葉っぱが入っていたら騒ぎになるはずだがそれは聞いてない。
「まさか賽銭泥……」
「働いてるのよ! あんた達が学校へ行ってる間に」
十代の少女が昼間に働けるのか聞いてみたら仕事の時は成人の見た目をしているらしい。
そんな話をしているうちに秀が戻ってきた。
深夜、またもや目を覚ましてしまった。
もちろん、女の子の幽霊はミケの側にいた。
ミケは丸くなって寝ている。
俺は布団をかぶって目を瞑った。
般若心経でも習った方がいいのだろうか。
あの女の子は何で俺の前に出てくるんだ?
自慢じゃないがモテたことはないから、俺が弄んで捨てた女の子、なんて可能性は太陽が西から昇るよりあり得ない。
実は密かに俺を想っていながら気持ちを伝えられないまま死んでしまった女の子、と言うのもないだろう。
…………ん?
死んだ女の子?
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