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第六章
第六章 第一話
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四月二十七日 月曜日
「しょうがないだろ」
高樹が言った。
休み時間、教室での事だ。
俺は相当嫌そうな顔をしていたらしい。
高樹からしたら嫌なのはお互い様だと言いたいだろう。
というか、マムシに剣術を教わったり天狗に空の飛び方を教わったりしなければいけない分、高樹の方が迷惑しているのは間違いない。
何の得にもならない化生退治などやりたくないに決まっている。
それはともかく――。
高樹がクラスメイトから聞いてきた話によると、例の公園でまた神隠しが起きているらしい。
「あれ、間違いなく退治したよな?」
「消えるとこ見たけどな」
「綾さんも退治に失敗したとは言ってなかったけど……」
俺の問いに高樹と秀が答えた。
「仕方ない、とりあえず祖母ちゃんに聞いてみよう」
俺は溜息を吐いた。
「けど、高樹君、すごいね。いつもいつも色んな噂話聞き付けてきて」
秀が感心したように言った。
そう言えばそうだ。
愛想良さそうには見えないのに……。
「何故か女子が報告しに来るんだ」
高樹自身不思議そうに首を傾げた。
理由は分からないが情報が集まってくるのは有難い。
「しかし、ついこの前まで神隠しが起きてた公園を通り抜けようなんてよく考えるな」
俺は呆れた。
「普通は神隠しなんて信じないから」
「そもそも近所の人じゃなければ神隠しの噂も聞かないし」
「入口から出口が見えるからな」
大して広くない公園で目隠しになる大きな樹も生えてないから人がいるかどうかは一目で分かる。
問題は目には見えない化生なのだが、普通の人には見えないし信じてないから「いなくなった」と言われても失踪したか誘拐されたと思うのだろう。
失踪なら自分の意志だし、誘拐の場合、周囲に人がいなければ攫われる心配があるとは思わない。
それで近道として通り抜けに使ってしまうのだ。
「雪桜は絶対入るなよ」
俺は雪桜に言った。
雪桜が素直に頷く。
俺達は化生がいれば〝見える〟から近付かないようにする事も出来るが〝見えない〟雪桜はいても気付かない。
捕まれば見えるようになると言っても、捕まった時は喰われる時なのだ。
放課後、俺達が校門から外に出ると門柱に隠れるようにして女子が立っていた。
「あ、鈴木さんだ。鈴……」
「東!」
高樹が慌てて雪桜を遮ると腕を掴んで引き摺っていく。
俺と秀は顔を見合わせると急いで跡を追った。
「高樹、どうしたんだよ」
「東が鈴木に声を掛けようとしたから。あれ、偶然の振りして青山を待ち伏せしてたんだ」
なるほど……。
雪桜が鈴木と話している間に青山が通り過ぎてしまったら偶然の振りで一緒に帰ろうと声を掛けられなくなる。
「え、鈴木さんって青山君のこと好きだったんだ」
どうやら鈴木と青山は雪桜や高樹と同じD組らしい。
そうか、家が近くなければその手が使えるのか……。
俺と雪桜のように家がすぐ側で毎日一緒に帰っていると偶然の振りは出来ない。
まぁ、そんな事をするまでもなく一緒に登下校してるから必要ないのだが。
中央公園に着くと、祖母ちゃんが待っていた。
「綾さん!」
秀は祖母ちゃんに駆け寄った。
「いいなぁ。私も彼氏欲しいなぁ」
雪桜が、ちらっとこちらを見たように思えたのは気のせいか?
「あいつ見てるとそう思うよな」
高樹がそう言うと、
「高樹君、繊月丸はどう?」
何も知らない雪桜が言った。
冗談でも彼女に立候補するとは言わずに繊月丸を勧めてるって事は雪桜は高樹の事なんとも思ってないと考えていいのか?
「繊月丸は子供だ」
高樹が答える。
「子供に化けてるだけだろ。高校生にだって化けられるんじゃないか?」
「いや、俺は人間がいい」
高樹のヤツ、まさか雪桜を狙ってるんじゃないだろうな。
早く告白しないと……。
しかし二人きりになるチャンスがない。
何とかして二人だけで出掛けられないだろうか。
祖母ちゃんと合流してファーストフード店に向かおうとした時、
「雨月」
女性の声がした。
振り返ると綺麗な女性が立っていた。
が――。
祖母ちゃんを『雨月』と読んだと言う事は人間ではないのだ。
「お出、どうかした?」
「尾裂がこの辺に来てる。早めに追い払わないと王子稲荷がうるさいわよ」
お出はそう言うと立ち去った。
どこから突っ込めばいいのだろうか……。
俺は思わず考え込んだ。
祖母ちゃんはそれに構わず肩を竦め、
「行きましょ」
と言って俺達を促すと歩き出した。
俺達はいつものファーストフード店に入った。
「さっきのは誰だったんだ?」
「狐よ。昔、真崎明神の近くに住んでたのよ。今はどこにいるのか知らないけど」
「おさきさんって言うのは……」
「尾裂は個別の名前じゃなくて狐の種類。江戸より北に住んでるのは尾裂狐って言う狐が多かったのよ」
尾裂狐というのは玉藻前という狐が退治されて殺生石になった時、その破片から生まれた狐で尾が割れてるから尾裂と言うらしい。
しかし江戸は王子稲荷の支配なので原則として尾裂は入れない。
ただ時々尾裂が侵入してくる事があるらしい。
「どうすんだ?」
「別に」
祖母ちゃんが肩を竦めた。
「どこにいるかも分からないんじゃどうしようもないでしょ」
それもそうだ。
それより今はもっと大きな問題がある。
俺達は公園の神隠しの話をした。
「ああ、あの牛鬼ね」
「この前のは仕留めたんだよな?」
「そうよ」
「じゃあ、その牛鬼って言うのは新しいヤツか?」
「新しいって言うのかしらね。死んだのは江戸の頃だし」
「え……幽霊なのか!?」
幽霊は怖いんだが……。
「しょうがないだろ」
高樹が言った。
休み時間、教室での事だ。
俺は相当嫌そうな顔をしていたらしい。
高樹からしたら嫌なのはお互い様だと言いたいだろう。
というか、マムシに剣術を教わったり天狗に空の飛び方を教わったりしなければいけない分、高樹の方が迷惑しているのは間違いない。
何の得にもならない化生退治などやりたくないに決まっている。
それはともかく――。
高樹がクラスメイトから聞いてきた話によると、例の公園でまた神隠しが起きているらしい。
「あれ、間違いなく退治したよな?」
「消えるとこ見たけどな」
「綾さんも退治に失敗したとは言ってなかったけど……」
俺の問いに高樹と秀が答えた。
「仕方ない、とりあえず祖母ちゃんに聞いてみよう」
俺は溜息を吐いた。
「けど、高樹君、すごいね。いつもいつも色んな噂話聞き付けてきて」
秀が感心したように言った。
そう言えばそうだ。
愛想良さそうには見えないのに……。
「何故か女子が報告しに来るんだ」
高樹自身不思議そうに首を傾げた。
理由は分からないが情報が集まってくるのは有難い。
「しかし、ついこの前まで神隠しが起きてた公園を通り抜けようなんてよく考えるな」
俺は呆れた。
「普通は神隠しなんて信じないから」
「そもそも近所の人じゃなければ神隠しの噂も聞かないし」
「入口から出口が見えるからな」
大して広くない公園で目隠しになる大きな樹も生えてないから人がいるかどうかは一目で分かる。
問題は目には見えない化生なのだが、普通の人には見えないし信じてないから「いなくなった」と言われても失踪したか誘拐されたと思うのだろう。
失踪なら自分の意志だし、誘拐の場合、周囲に人がいなければ攫われる心配があるとは思わない。
それで近道として通り抜けに使ってしまうのだ。
「雪桜は絶対入るなよ」
俺は雪桜に言った。
雪桜が素直に頷く。
俺達は化生がいれば〝見える〟から近付かないようにする事も出来るが〝見えない〟雪桜はいても気付かない。
捕まれば見えるようになると言っても、捕まった時は喰われる時なのだ。
放課後、俺達が校門から外に出ると門柱に隠れるようにして女子が立っていた。
「あ、鈴木さんだ。鈴……」
「東!」
高樹が慌てて雪桜を遮ると腕を掴んで引き摺っていく。
俺と秀は顔を見合わせると急いで跡を追った。
「高樹、どうしたんだよ」
「東が鈴木に声を掛けようとしたから。あれ、偶然の振りして青山を待ち伏せしてたんだ」
なるほど……。
雪桜が鈴木と話している間に青山が通り過ぎてしまったら偶然の振りで一緒に帰ろうと声を掛けられなくなる。
「え、鈴木さんって青山君のこと好きだったんだ」
どうやら鈴木と青山は雪桜や高樹と同じD組らしい。
そうか、家が近くなければその手が使えるのか……。
俺と雪桜のように家がすぐ側で毎日一緒に帰っていると偶然の振りは出来ない。
まぁ、そんな事をするまでもなく一緒に登下校してるから必要ないのだが。
中央公園に着くと、祖母ちゃんが待っていた。
「綾さん!」
秀は祖母ちゃんに駆け寄った。
「いいなぁ。私も彼氏欲しいなぁ」
雪桜が、ちらっとこちらを見たように思えたのは気のせいか?
「あいつ見てるとそう思うよな」
高樹がそう言うと、
「高樹君、繊月丸はどう?」
何も知らない雪桜が言った。
冗談でも彼女に立候補するとは言わずに繊月丸を勧めてるって事は雪桜は高樹の事なんとも思ってないと考えていいのか?
「繊月丸は子供だ」
高樹が答える。
「子供に化けてるだけだろ。高校生にだって化けられるんじゃないか?」
「いや、俺は人間がいい」
高樹のヤツ、まさか雪桜を狙ってるんじゃないだろうな。
早く告白しないと……。
しかし二人きりになるチャンスがない。
何とかして二人だけで出掛けられないだろうか。
祖母ちゃんと合流してファーストフード店に向かおうとした時、
「雨月」
女性の声がした。
振り返ると綺麗な女性が立っていた。
が――。
祖母ちゃんを『雨月』と読んだと言う事は人間ではないのだ。
「お出、どうかした?」
「尾裂がこの辺に来てる。早めに追い払わないと王子稲荷がうるさいわよ」
お出はそう言うと立ち去った。
どこから突っ込めばいいのだろうか……。
俺は思わず考え込んだ。
祖母ちゃんはそれに構わず肩を竦め、
「行きましょ」
と言って俺達を促すと歩き出した。
俺達はいつものファーストフード店に入った。
「さっきのは誰だったんだ?」
「狐よ。昔、真崎明神の近くに住んでたのよ。今はどこにいるのか知らないけど」
「おさきさんって言うのは……」
「尾裂は個別の名前じゃなくて狐の種類。江戸より北に住んでるのは尾裂狐って言う狐が多かったのよ」
尾裂狐というのは玉藻前という狐が退治されて殺生石になった時、その破片から生まれた狐で尾が割れてるから尾裂と言うらしい。
しかし江戸は王子稲荷の支配なので原則として尾裂は入れない。
ただ時々尾裂が侵入してくる事があるらしい。
「どうすんだ?」
「別に」
祖母ちゃんが肩を竦めた。
「どこにいるかも分からないんじゃどうしようもないでしょ」
それもそうだ。
それより今はもっと大きな問題がある。
俺達は公園の神隠しの話をした。
「ああ、あの牛鬼ね」
「この前のは仕留めたんだよな?」
「そうよ」
「じゃあ、その牛鬼って言うのは新しいヤツか?」
「新しいって言うのかしらね。死んだのは江戸の頃だし」
「え……幽霊なのか!?」
幽霊は怖いんだが……。
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