東京の空の下 ~当節猫又余話~

月夜野 すみれ

文字の大きさ
33 / 46
第六章

第六章 第一話

しおりを挟む
四月二十七日 月曜日

「しょうがないだろ」
 高樹が言った。

 休み時間、教室での事だ。
 俺は相当嫌そうな顔をしていたらしい。
 高樹からしたら嫌なのはお互い様だと言いたいだろう。
 というか、マムシに剣術を教わったり天狗に空の飛び方を教わったりしなければいけない分、高樹の方が迷惑しているのは間違いない。
 なんの得にもならない化生退治などやりたくないに決まっている。

 それはともかく――。
 高樹がクラスメイトから聞いてきた話によると、例の公園でまた神隠しが起きているらしい。

「あれ、間違いなく退治したよな?」
「消えるとこ見たけどな」
「綾さんも退治に失敗したとは言ってなかったけど……」
 俺の問いに高樹と秀が答えた。
「仕方ない、とりあえず祖母ちゃんに聞いてみよう」
 俺は溜息をいた。
「けど、高樹君、すごいね。いつもいつも色んな噂話聞き付けてきて」
 秀が感心したように言った。
 そう言えばそうだ。

 愛想良あいそよさそうには見えないのに……。

「何故か女子が報告しに来るんだ」
 高樹自身不思議そうに首を傾げた。
 理由は分からないが情報が集まってくるのは有難い。
「しかし、ついこの前まで神隠しが起きてた公園を通り抜けようなんてよく考えるな」
 俺は呆れた。
「普通は神隠しなんて信じないから」
「そもそも近所の人じゃなければ神隠しの噂も聞かないし」
「入口から出口が見えるからな」

 大して広くない公園で目隠しになる大きな樹も生えてないから人がいるかどうかは一目で分かる。
 問題は目には見えない化生なのだが、普通の人には見えないし信じてないから「いなくなった」と言われても失踪したか誘拐されたと思うのだろう。
 失踪なら自分の意志だし、誘拐の場合、周囲に人がいなければさらわれる心配があるとは思わない。
 それで近道として通り抜けに使ってしまうのだ。

「雪桜は絶対入るなよ」
 俺は雪桜に言った。
 雪桜が素直に頷く。
 俺達は化生がいれば〝見える〟から近付かないようにする事も出来るが〝見えない〟雪桜はいても気付かない。
 捕まれば見えるようになると言っても、捕まった時は喰われる時なのだ。

 放課後、俺達が校門から外に出ると門柱に隠れるようにして女子が立っていた。

「あ、鈴木さんだ。鈴……」
「東!」
 高樹が慌てて雪桜を遮ると腕を掴んで引きっていく。
 俺と秀は顔を見合わせると急いで跡を追った。
「高樹、どうしたんだよ」
「東が鈴木に声を掛けようとしたから。あれ、偶然の振りして青山を待ち伏せしてたんだ」

 なるほど……。

 雪桜が鈴木と話している間に青山が通り過ぎてしまったら偶然の振りで一緒に帰ろうと声を掛けられなくなる。

「え、鈴木さんって青山君のこと好きだったんだ」
 どうやら鈴木と青山は雪桜や高樹と同じD組らしい。

 そうか、家が近くなければその手が使えるのか……。

 俺と雪桜のように家がすぐ側で毎日一緒に帰っていると偶然の振りは出来ない。
 まぁ、そんな事をするまでもなく一緒に登下校してるから必要ないのだが。

 中央公園に着くと、祖母ちゃんが待っていた。

「綾さん!」
 秀は祖母ちゃんに駆け寄った。
「いいなぁ。私も彼氏欲しいなぁ」

 雪桜が、ちらっとこちらを見たように思えたのは気のせいか?

「あいつ見てるとそう思うよな」
 高樹がそう言うと、
「高樹君、繊月丸はどう?」
 何も知らない雪桜が言った。

 冗談でも彼女に立候補するとは言わずに繊月丸を勧めてるって事は雪桜は高樹の事なんとも思ってないと考えていいのか?

「繊月丸は子供だ」
 高樹が答える。
「子供に化けてるだけだろ。高校生にだって化けられるんじゃないか?」
「いや、俺は人間がいい」

 高樹のヤツ、まさか雪桜を狙ってるんじゃないだろうな。
 早く告白しないと……。

 しかし二人きりになるチャンスがない。
 何とかして二人だけで出掛けられないだろうか。

 祖母ちゃんと合流してファーストフード店に向かおうとした時、
「雨月」
 女性の声がした。
 振り返ると綺麗な女性が立っていた。

 が――。
 祖母ちゃんを『雨月』と読んだと言う事は人間ではないのだ。

「おいで、どうかした?」
尾裂おさきがこの辺に来てる。早めに追い払わないと王子稲荷がうるさいわよ」
 お出はそう言うと立ち去った。

 どこから突っ込めばいいのだろうか……。

 俺は思わず考え込んだ。

 祖母ちゃんはそれに構わず肩を竦め、
「行きましょ」
 と言って俺達を促すと歩き出した。

 俺達はいつものファーストフード店に入った。

「さっきのは誰だったんだ?」
「狐よ。昔、真崎明神まさきみょうじんの近くに住んでたのよ。今はどこにいるのか知らないけど」
「おさきさんって言うのは……」
尾裂おさきは個別の名前じゃなくて狐の種類。江戸より北に住んでるのは尾裂狐って言う狐が多かったのよ」
 尾裂狐というのは玉藻前たまものまえという狐が退治されて殺生石せっしょうせきになった時、その破片から生まれた狐で尾が割れてるから尾裂と言うらしい。
 しかし江戸は王子稲荷の支配なので原則として尾裂は入れない。
 ただ時々尾裂が侵入してくる事があるらしい。

「どうすんだ?」
「別に」
 祖母ちゃんが肩をすくめた。
「どこにいるかも分からないんじゃどうしようもないでしょ」
 それもそうだ。
 それより今はもっと大きな問題がある。
 俺達は公園の神隠しの話をした。

「ああ、あの牛鬼ぎゅうきね」
「この前のは仕留しとめたんだよな?」
「そうよ」
「じゃあ、その牛鬼って言うのは新しいヤツか?」
「新しいって言うのかしらね。死んだのは江戸の頃だし」
「え……幽霊なのか!?」

 幽霊は怖いんだが……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

OLサラリーマン

廣瀬純七
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴
ファンタジー
長年レストランの下働きとして働いてきた本宝治洋一(30)は突如として現れた新オーナーの物言いにより、職を失った。 身寄りのない洋一は、飲み仲間の藤本要から「一緒にダンチューバーとして組まないか?」と誘われ、配信チャンネル【ダンジョン美食倶楽部】の料理担当兼荷物持ちを任される。 配信で明るみになる、洋一の隠された技能。 素材こそ低級モンスター、調味料も安物なのにその卓越した技術は見る者を虜にし、出来上がった料理はなんとも空腹感を促した。偶然居合わせた探索者に振る舞ったりしていくうちに【ダンジョン美食倶楽部】の名前は徐々に売れていく。 一方で洋一を追放したレストランは、SSSSランク探索者の轟美玲から「味が落ちた」と一蹴され、徐々に落ちぶれていった。 ※カクヨム様で先行公開中! ※2024年3月21で第一部完!

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

処理中です...