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第六章

第六章 第三話

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 鬼が後ろに倒れ足の爪が高樹かられる。
 鬼に飛び掛かったのは巨大化したミケだった。

「ミケ!」
 ミケが鬼の首にみ付いている。
 人間なら死んでいるところだが鬼にはなんでもないらしくミケを力尽くで引き離すと放り投げた。

 ミケが空中で身体をひねって着地する。
 その瞬間を狙って鬼がミケを蹴り上げる。
 ミケが後ろに飛び退く。
 ぎりぎりのところを鬼の足がかすめる。

 その隙に高樹が鬼に駆け寄って繊月丸を横に払った。
 鬼の片足が斬り落とされる。
 片足になった鬼が倒れた。
 すかさず高樹が鬼の首を斬り落とす。
 安心して気を抜き掛けた瞬間、鬼の首が高樹に飛び掛かった。

「高樹!」
 俺が叫ぶ。
 高樹が咄嗟とっさに自分の前に繊月丸を立てて防ぐ。
 鬼の首が繊月丸に食らい付いた。
 繊月丸は折れたりしていないようだが、鬼の首が噛み砕こうとしているらしい。
 がちがちとやいばを噛んでいる音が聞こえてくる。

「おい! これ、どうしたらいいんだ!」
 高樹が困惑した表情で助けを求めるように祖母ちゃんに声を掛ける。
「孝司の矢で射れば消えるかもしれないけど……」
 祖母ちゃんもどうしたらいか分からないらしい。
 頭のような小さい的となるとすぐ側まで行かないと当てられない。

 万が一首が飛び掛かってきた時に備えて、俺は弓を構えたまま近付いていった。
 弦を引き切った状態で歩くのは容易ではない。
 俺に気付いた鬼の首が宙に舞い上がり、俺に向かってくる。

 俺は矢を放った。
 神泉で清められた矢に貫かれた鬼の頭がちりになって消える。
 矢がそのまま飛んでいく。
 その先を人が通り掛かった。

 マズい!
 このままでは矢が当たってしまう!

 俺が声を上げようとした瞬間、矢が木の葉に変わって舞い落ちる。
 俺は安堵の溜息をいた。

 そういえば矢は木の葉を変えたものだったな……。

「助かっ……」
 ミケに礼を言い掛けた高樹が口をつぐんで辺りを見回した。
 ミケはもう姿を消してしまっていた。
「あれ、学校に出たヤツとそっくりだったね」
 秀が言った。
「溺死した人間が牛鬼になるから」
「この辺に溺れるような場所あるか?」
「淀橋って言う地名はこの近くを流れてた川にかってた橋の名前よ。それに弁天池って大きな池もあったから溺れて死んだ人は大勢いるわよ」
 祖母ちゃんが答える。
 成仏出来なかったものの、ただとどまっていただけの者達が鬼になってしまったようだ。

 妖奇征討軍め……。

「とりあえず早く帰ろうぜ」
 高城の言葉に俺達は解散した。

四月二十八日 火曜日

 朝、登校途中で雪桜と合流した。

「こーちゃん、秀ちゃん、高樹君の予定聞いてる?」

 ぐはっ……。
 朝、開口一番で高樹の話題……。
 そうなのか!?
 やっぱり雪桜は高樹が好きなのか?
 俺の事は眼中にないのか?

「聞いてないよ。高樹君に直接聞いたら?」
 秀が答えた。
 そうだ、雪桜は同じクラスだから予定が知りたいならいつでも聞けるのだ。

 恥ずかしくて口も聞けないくらい好きなのか!?
 今まで普通に喋っていたが、それは皆が一緒だったからなのか!?

 ショックのあまり落ち込んでいると、雪桜が、
「高樹君じゃなくて、秀ちゃん達がいつも通りか知りたいだけだよ」
 と言った。
 雪桜の言葉に俺は安堵の溜息をいた。
 内藤家、東家、大森家はゴールデンウィークには出掛けない。
 だから俺達は毎年三人で遊んでいた。
 秀の家にはゲーム機があるから大抵は秀の家に集まってゲームをしていた。
 だが今年は秀が祖母ちゃんと付き合い始めたからどうするのか確かめたかったようだ。
 そう言えば、秀が祖母ちゃんとデートするって言うなら「秀はデートだから今年は二人で……」と言って雪桜を誘う事が出来るのか。

「秀ちゃんはデートとか行くの?」
 雪桜が俺より先に訊ねた。

 もしかしてこれは俺を誘うための前振りか!?
 そうなのか!?

 俺は期待を込めた視線を雪桜に向けた。

「孝司と雪桜ちゃんが良ければ綾さんと一緒にみんなで孝司の家に遊びに行きたいんだけど」
「そんなのいちいち断る必要あるか?」
 俺達三人はお互いの家の鍵を持ってるくらいしょっちゅう往き来している。
 遊びに行くのにわざわざ構わないかどうか聞いたりした事はない。
「いや、皆で遊ぶからって言えば綾さんも一緒に来てくれるでしょ」
「祖母ちゃんと過ごしたいなら……」
「そうじゃなくて……綾さん、おじさん達の元気な姿、見たいかなって思って」

 あっ……!
 そうか……。

 失踪直後から祖母ちゃんがこの辺をいつもうろうろしていたのは昔から住んでいるからと言うより家族の様子を見るためだ。
 そして俺が秀に彼女として紹介されるまで見た事がなかったのは俺達の前に姿を現さないようにしていたからだ。
 だが、ずっと見守っていたくらいである。
 家族で過ごしているところを見て、言葉を交わしたいかもしれない。
 いつも互いの家に集まって遊んでいる事は様子を見ていたなら知っているだろうから俺の家で遊ぼうと誘うのは不自然ではない。
 まして高樹も来るのなら「毎年の恒例行事」と考えるだろう。

「そういうことなら祖母ちゃんがいいって言えば構わないぜ」
 ゴールデンウィーク中、父さんも母さんも家にいる。
 姉ちゃんは友達と出掛けてしまうかもしれないが泊まり掛けの旅行の話は聞いてないから毎日来ていれば会えるだろう。
 ただ祖母ちゃんがえて姿を見せないようにしていたのだとしたら会いには来たくないかもしれない。
 俺の家は亡くなった元夫の家でもある。

 ……よく考えてみたら祖父ちゃんは秀の彼女の元彼って事か。
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