東京の空の下 ~当節猫又余話~

月夜野 すみれ

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第七章

第七章 第三話

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五月七日 木曜日

 昼休みの次の休み時間、高樹と雪桜が俺達の教室にやってきた。
 午前中の休み時間に高樹が来られなかったのは女子達からゴールデンウィーク中に聞いた噂の報告を次々と受けていたから席を立てなかったかららしい。

「てことは大漁?」
「大豊作だ」
 秀の問いに高樹がげんなりした表情で答えた途端、スマホの着信音が鳴った。
 高樹は一瞬画面に目を落としただけで無視した。

「いいのか? 誰かからの連絡だろ」
 俺が訊ねると高樹がスマホ画面をこちらに向けた。
 メッセージがずらっと表示されている。
 どれも怪奇現象っぽいものを見聞きしたという報告だった。
 俺は画面をスクロールしてみた。

 名前が全部違う……。

 しかも全て女子だ。

「こんなに沢山の女子と連絡先交換してんのか。すごいな」

 色んな意味で……。

「交換したのは全員今日だ」
 高樹が腹立たしげな表情で雪桜を睨んだ。
 俺は訊ねるように雪桜に視線を向けた。
「ゴールデンウィーク中、化生が出てないかずっとやきもきしてたでしょ。だから教えてくれる女子と連絡先交換しておけば休みの日でも情報もらえるんじゃないかと思って」
 雪桜がさわやかな笑顔で答える。

 それはそれで高樹は迷惑だと思うぞ、雪桜。

 雪桜の勧めに従い、うっかり教えに来てくれた女子と連絡先を交換したら、我も我もと次々に女生徒達が押し掛けてきたらしい。
 俺は高城に同情した。

 モテるのはうらやましいが流石さすがにこれは……。

 ひっきりなしに鳴る着信音に高樹がうんざりした表情を浮かべている。
 まぁ可哀想だとは思うが女子がよりどりみどりだと思えば悪い事ばかりではないはずだ。
 それに大勢の女子達が始終気を引こうとしてくるなら雪桜に目を向けている暇はなくなるだろう。
 高樹がモテるならこれくらいのハンデを俺にくれてもいはずだ。
 もっとも、他の女子達に連絡先を教えまくらせたと言う事は雪桜は高樹の気を引きたいと思ってないと考えていいのだろうか。
 高城が好きならライバルを増やすようなことはしないだろう。

 もしかして、雪桜に関しては俺の方がちょっとだけ有利だったりするのか?

「これだけあるとなると、勘違いが相当混ざってそうだよね」
 秀が高樹のスマホ画面をスクロールしながら言った。
 今日、連絡先を交換したばかりという話なのに延々と下に続いている。
 その上で着信音が鳴ってどんどん新しいものが増え続けている。
「全部に目を通した上でホントっぽいのを見付けるだけでも時間が掛かりそうだよね」
 秀の言うとおりだ。
 そもそも俺達は化生退治で食ってるわけではない。
 俺達の本業は学生なのだし、出費がかさむだけで一円にもならない化生退治に時間と小遣いを全振りするわけにはいかないのだ。

 目下の課題は――。

「ネズミ……だよな」
「でも、姿が見えないんじゃネズミって言葉で検索するわけにもいかないんじゃない?」
「ネズミより人が消えたりするものを探した方がいいだろうな」
 そうだとしてもあの長いリストから拾い出すのは相当大変そうだが。
 高樹も同じ事を考えたのだろう。
 深い溜息をいていた。

 放課後、俺達は校門から出たところで白狐の姿を見掛けた。

「白狐――」
 俺は声を掛けようとしてから、雪桜の方を向いて、
「――雪桜、見えてるか?」
 と確認した。
 周りに他の生徒達がいるところで見えないものに話し掛けたりしたら頭がおかしいと思われてしまう。
「姿を見せぬなら人間に化けたりせぬ」
 白狐が言った。

 そう言や頼母も同じこと言ってたな。

 東雲は元々人間と同じ見た目の化生だし、繊月丸は日本刀の形では歩けないから人の姿を取っているのである。
 祖母ちゃんを始めとした他の化生達は基本的に俺達と話をするために人間に化けているのだ。
 だから退治した化生の中に見た目が人間だった者はいない。

「なら誰かに用って事だよな」
 人間の、と声を出さずに付け加えた。
「ここの生徒か? それとも通り掛かっただけか?」
「通りすがりだ。用があるのはそこだからな」
 白狐はそう言って近くの駐車場という名の空き地を指した。
「あそこで怪異が起きているという噂を流しておいたのでな」
 白狐はそれだけ言うと歩き出した。
 俺達は顔を見合わせてから跡を追った。

「怪異が起きてる噂ってなんでそんなこと……」
「おいで尾裂おさきの事を警告しに来たであろう。だが雨月は動きそうにないのでな」

 そうだった……。

 あの時は人喰い鬼が出てたのと被害の話が無かったので忘れていた。
 白狐が駐車場(という名の空き地)の前で立ち止まる。

「お主はそこで待っておれ」
 白狐が雪桜に言った。
 雪桜が歩道で立ち止まると白狐は駐車場に入っていく。
 俺達は白狐に続いた。

「白狐は化生退治をしてくれる化生なんだな」
「いや、儂も本来ならせぬ」
「じゃあ……」
「尾裂を放置しておいて王子の狐が出てきても面倒なのでな」
「王子の狐?」
「人間には王子稲荷おうじいなりの方が通りが良いか」
「王子稲荷ってことは神様か!?」
「神様が出てくるほどの大事なのか!?」
 高城と俺が同時に言った。

「そうではない。だが、この辺りは王子稲荷の支配ゆえ、尾裂が入り込んでる事にい気はせぬだろうし、それで機嫌を損ねたら何が起こるか分からぬでな」
 確かに神社でまつるのはたたりを恐れての事が多い。

 神の怒りともなると災害レベルか……。

 それはちょっと勘弁して欲しい。
 その時、妖奇征討軍の二人がやってくるのが見えた。
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