東京の空の下 ~当節猫又余話~

月夜野 すみれ

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第七章

第七章 第六話

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 随分長く揉み合っていたように感じた。

「ちょっと、ちょっと、あんた達なにしてんだ」
 声の方を向くと公園の管理事務所の制服を着た男性がいた。
 少し後ろに雪桜がいる。
 どうやら雪桜が呼んできてくれたようだ。

「あ、この人達が焚き火してて……」
 俺はそう言いながら急いで妖奇征討軍から離れた。
「これは化生退治の儀式だ!」
「はあ? 化粧?」
 男性が困惑した様子でもう一人の管理事務所の男性を振り返った。
 もう一人の男性も訳が分からないという表情を浮かべている。
「こいつらが飼ってる化猫を退治するんだ!」
「人を喰う化猫がいるんだ!」
「化猫ぉ?」
 一人が頓狂とんきょうな声を上げ、もう一人が『大丈夫か、こいつら』と言う表情を浮かべて妖奇征討軍を見ている。

 管理事務所の人がもう一人に、
「通報するか?」
 と囁くと、聞かれた方の男性が、
「どっちに?」
 と返答した。
 警察か病院かという意味だろう。

「と、とにかく、公園内での焚き火は禁止なので消して下さい」
「先に化猫を退治してからだ」
 妖奇征討軍の言葉に、
「救急車の方が良さそうだ」
 と男性がもう一人の男性に囁いた。
「とりあえず、火を消して管理事務所に……」
「ダメだ。化猫を退治す……!」
「こら! あんた達!」
 麗花はやってくるなり妖奇征討軍を怒鳴り付けた。

「ね、姉さん!」
「何やってるの! 人様に迷惑掛けるんじゃない!」
「このお二人の保護者の方ですか?」
 管理事務所の人が麗花に声を掛けた。
「姉です」
 麗花は管理事務所の人としばらくやりとりした後、妖奇征討軍を自分のところに呼び付けた。
 妖奇征討軍が焚き火から離れると管理事務所の人達が火を消した。

「二度としないで下さいよ」
 管理事務所の人の言葉に、
「申し訳ありません」
 麗花は頭を下げた。

 管理事務所の人がいなくなってから頭を上げた麗花は鬼のような形相になっていた。
 妖奇征討軍に激怒しているらしい。

 しかし弟のくせにそれに気付かないのか、
「こいつらは化猫をかばってるんだ!」
「人を喰う化猫なんだ!」
 妖奇征討軍は麗花にそう訴えた。

「ミケは人なんか喰わない!」
「現に飼い主一家は全員無事だしな」
 高樹が冷ややかに言った。
「俺はミケに何度も助けられた。前の飼い主もだ」
 小早川の母親も飼い主と言っていいだろう。
「オレも助けてもらった」
「そうだよ。僕もミケが人を助けてるとこ何度も見たよ」
 俺達が口々に言うと麗花が妖奇征討軍を睨み付けた。

「こう言ってるじゃない! さぁ、帰るわよ! ほら、早く!」
「でも!」
「デモもカカシもない! 今後一切この人の猫に手出しする事は禁止! いいわね!」
「化猫は……」
「放っておきなさい! もしホントに人を殺したら、その時は私が何とかします! 迷惑掛けて悪かったわね」
 麗花は俺達に謝ると妖奇征討軍二人を引きずるようにして連れていった。
 安堵の溜息をいた時、腕の中で狸が身動みじろぎした。
 まだ息がある。

「祖母ちゃん、この狸、なんとか助けられないか?」
其奴そやつは儂がよう」
 不意にどこかから現れた年配の男性が近付いてきた。
 俺の困惑した表情を見た男性は、
「儂は近くに住む古狸ふるだぬきじゃ」
 と答えた。

 やはり他にも狸がいたか……。
 祖母ちゃんや白狐キツネが複数いるんだからそりゃ狸もいるよな……。

 俺は古狸に狸を手渡した。

「礼を言うぞ」
 古狸が言った。
「え? 礼を言うのは俺の方……」
「以前、此奴こやつを助けてくれたじゃろ。猫又ミケを止めようとしたのも此奴こやつなりの礼じゃ」
「助かりますか?」
「なに、大したケガではない。気が小さいヤツ故、驚いて気を失っただけじゃ」
 古狸はそういうと狸を連れて去っていった。

妖奇征討軍あいつらこれにりてくれればいんだがな」
 俺は溜息をいた。
「ていうか尾裂を退治したのにまだやってたってことは……」
「あの痛々しさはだったんだね」
 秀が同情した様子で言った。
 自分達の痛さに気付いていない妖奇征討軍に対してなのか、後始末をして回らなければならない麗花に対してなのかは分からないが。

「まだ儀式の効果は残ってるらしいから化生はこれからも出るだろうしな。あいつらの相手までしてらんねぇし」
 高樹もうんざりした表情をしている。

 一番大変な思いしてるの高樹だもんな……。

 俺は高樹に同情した。

 不意に繊月丸が、
「雪桜、気を付けて」
 と言った。
「え、繊月丸ちゃん?」
 雪桜が戸惑った表情を浮かべた。

「秀、雪桜ちゃん、こっちに。孝司、望、来るわよ」
「え……」
 不意に植え込みの中から何かが飛び出してきた。
 雪桜に向かっていく。

 飛び出してきたものと雪桜の間に割って入るように空中に日本刀――繊月丸が現れた。
 何かは繊月丸の刃先をけようとして軌道がれ、雪桜の脇を通り過ぎる。

 高樹が繊月丸を掴むと襲い掛かってきたものに向き直って刀を構えた。
 俺も何かの方を振り返る。

〝何か〟はこの前のネズミだった。

「今、雪桜を狙ったのか!?」
「この前の猫又の時に目を付けられたのね」

 ヤバい……!

 今日は何がなんでも倒さなければ雪桜が殺される。
 だが俺は今、手元に武器がない。
 部活をしているわけでもないのにアーチェリーのケースなど持ち歩くわけにはいかないからだ。
 走っても家まで帰ってアーチェリーを取って戻ってくるとなると十分以上掛かる。
 高樹一人でその間なんとかなるだろうか。

 しかし千年生きた猫又ですらかなわなかったような大ネズミ相手に素手では戦えないどころか高樹の足手纏あしでまといになりかねない。

 取りに戻るしかない……。

 十分間、高樹一人でなんとかして持ちこたえてもらおう。

 死ぬ気で全力疾走すれば……。

たか……」
「孝司」
 高樹に声を掛けようとした俺を祖母ちゃんが遮った。

 振り向くと祖母ちゃんがアーチェリーをこちらにほうったところだった。
 俺がそれを受け止める。
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