Starlit 1996 - 生命の降る惑星 -

月夜野 すみれ

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第四話

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「ケイが押してたパネル見た?」
 ラウルの問いにティアは無言で頷いたらしい。返事は聞こえなかった。

 ケイが押したパネルは五かける五の十五枚に区切られていた。
 パネルには数字や文字などは何も書かれていない。

「ケイは適当に押してるって言ってるけどね、でも十五桁のパネルを十二回適当に押して、それが正解である確率はゼロに近いよ」
 ラウルが言った。

「でも、それならあなたも適当にやってみれば……」
「間違えると殺されるんだ」
「嘘」
 ティアが信じられないというように言った。

「嘘じゃないよ。時々死体が転がってる。あれは適当に押して間違えたから殺されたんだと思うよ」
「誰が殺すの?」
 ティアが訊ねる。
 入口に見張りはいなかった。

「そう言う装置が付いてるんだよ。間違えた人間を殺すような」
「…………」
 ティアは言葉を失ったようだ。

 パネルを押す順番をラウルに教えようと思ったこともある。
 だが意識的に押そうとしても出来なかった。
 十二回というのも横でラウルが数えていたから分かったのだ。

 あとは押してるところをラウルに見ていてもらって順番を覚えてもらう以外に教える手段はない。
 だが間違えたら殺されるのでは覚えたのが正しいのかどうか迂闊うかつに試してみることも出来ない。

 備蓄庫の中を一通り見て回ったケイは、携帯食と水のボトルを三人分取り出してラウルとティアに渡した。

「三十年前のものだけどね。食べても死なないよ。僕らがその証拠」
 ラウルは冗談めかして言った。
「これ何?」
 ティアは緑色の紙に包まれた直方体のものを見下ろしながら訊ねた。

 包み紙を開くと三センチ四方くらいのビスケットのようなものが五つほど入っていた。

「携帯食だよ。一つか二つでお腹いっぱいになるはずだから残りは取っておくといいよ」
 ラウルはそう言って自分の分を食べると、棚からバックパックを取りし毛布と携帯食を入れてティアに渡した。

「あ、着替えも必要なら探してみるといいよ。女性用の服も置いてあるから。僕らとお揃いになっちゃうけどね」
「有難う」
 ティアはそう言うと棚の間を見て回り始めた。

「これからどこへ行くの? どこか当てがあるなら送っていくよ」
 ラウルは棚の間を回っているティアに声をかけた。

 ケイは顔をしかめた。
 ラウルはとことんティアに関わる気らしい。

「ここから少し北へ行ったところに村があるの。そろそろそこが種を植える時期だからそこから始めるわ」
 ティアが答えた。

「仕事ってこの辺でしてるの?」
「主にこの〝ライン〟ね」

〝ライン〟というのは海岸に沿っている緑地帯――シーサイドベルトを指す。
 この大陸は南北に縦長の菱形に近い形をしているから、シーサイドベルトもほぼ南北に走っている。
 この大陸では、赤道から大陸の北端、または南端までを一つのラインと見なすのでラインは四本という事になる。

「南の村から農業のアドバイスをしながら北上していって、一番北の村まで行ったらまた南下してくるの。一カ所に収穫までとどまることもあるけど」
「へぇ」
 ラウルが感心した声で言った。

「ウィリディスの追求がきつくなると別のラインへ移動したり、今回みたいに森の中で植林を手伝ったりするの」
「森の中で植林をするの?」
 ラウルは不思議そうに聞き返したが、ケイにはその経験があった。

 緑地帯と内陸の荒野の間には〝エビルプラント帯〟と呼ばれる有毒な植物の帯がある。
 このエビルプラント帯がシーサイドベルトや川沿いの緑地帯と内陸の境界線になっていた。

 エビルプラントは葉や幹も有毒だし樹液も猛毒だから引っこ抜くことは難しい。
 燃やしても有毒ガスが発生する。
 このエビルプラント帯が人間の内陸へ行くことを阻んでいた。

 しかし、このエビルプラントは普通の植物が発生させるフィトンチッドと言う物質には弱いため普通の植物の近くには生えることが出来ない。

 そのため緑地帯の植物とエビルプラント帯の間にはわずかにあいだがあいている。
 そこに植林をするとエビルプラント帯はその部分だけ内陸側に後退する。

 そうやって少しずつ植林することで緑地帯を広げていくのだ。
 森の面積が広がれば葉から蒸発する水分により雨雲が出来、雨が降れば緑地帯が広がる。
 今のところ雨が降るほど緑地帯が広がっている場所はないようだが。

「へぇ、そうなんだ」
 ティアの説明にラウルは納得したように頷いた。
「緑地帯が広がれば内陸へも行かれるようになるよね」
 ラウルが興奮したように言う。

「そうね」
 ティアが首肯しゅこうする。

 内陸には空港も宇宙港もある。
 もっとも、海には港があるにも関わらず、隣の大陸へすら行かれないことを考えると、空港や宇宙港へ行かれても他の大陸や別の星へ行くことは不可能に近いだろうが。

「じゃあ、ティアの言う村へ行こう。いいよね、ケイ」
 ラウルが言った。

 農繁期の村は人の出入りが激しい。
 隠れるにはいいところだ。
 村人に混じって農作業をしていればミールをやり過ごせるだろうとラウルは考えたようだ。

 確かにその通りなのだ。
 ミールが村を襲うことはまずない。

 襲うときは村人全員を殺すが。
 しかし、そうやって『最後の審判』後、わずかに残った人間を皆殺しにしてしまったらミールの役目も終わる。

 ミールは全ての役目を終えたとき、全員自害することになっている。
 だからと言うわけではないだろうが、ミールはよほどのことがない限り村を襲わない。
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